やはり趣味を極めるのは間違っていないはずだ   作:hideo99777

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おまけです。


屋上にて

「三上…」

 

あの糞溜めからやっと抜け出せた俺は、見事なまでに灰色のまま代わり映えしない日々を高田という最高の運転手兼相棒とタッグを組んで過ごしていた。今は昼休みなので誰かの椅子を勝手にパクってパンを頬張りつつ乾いた口内に若干の不快感を催しつも、どうでもいい話題でくだらない事で笑ってこれまた楽しく、青春を痰のように道端に吐き捨てるかのように投げ出して過ごしていた。正直あの時の強烈な反動が俺を襲ったんだろう。清々しいまでのゲス野郎だ。だけどそれか本来の俺だ。

 

そしてパッサパサの口内を自前の麦茶で潤し、より一層下らない話題を提供していると、いつぞやのペギーが喋りかけて来た。

 

すぐに気づいた。奴の表情がいつもと違う。何時もは道化師、それか精神病院に閉じ込められた気違いが涎を垂らしながら笑うヘラヘラした笑みをあのコルクボードに画鋲で貼り付けたような顔だ。だけど今日は違ういつにも増して腐ったコルクボードに取り繕ったお涙頂戴話をする様な胡散臭え表情だ。

 

「何だ」

「話がしたい」

 

俺はあんな便利屋まがいの連中じゃねぇ。女避けのパツキンドリルの糞ビッチとお家でハメまくってな。

ともかく奴の話を聞く義理を人情どころか奴を人として扱う気すら無い俺は面倒くさそうに言った。

 

「自分にしか見えないお友達とお話してな」

 

俺と高田は笑った。

まるでファンタジー映画に出てくるような魔女のような声で。馬鹿らしかった。どうせ下らない話だろうと思っていた。ふと、彼の方に目をやる。

どうやらコイツ本気で話がしたいらしい。

それを感じ取ると、俺達はもっと笑った。コイツは馬鹿だ清々しい程の馬鹿だしクズだ。

 

「時間は取らせない。放課後屋上に来てくれ」

「取ってんじゃねぇかよ。ボケ。普通に家帰らせてくれや」

 

少しばかり不機嫌さを表情と声色に滲み出しながら吐き捨てるかのように言い放った。

 

「待ってるよ」

 

彼は汚らしい笑顔をコルクボードに貼り付け、颯爽と自分の輪の中へと戻った。お山の大将がこのゲス野郎に何の話なんだろうな。何にせよ、その話を聞くつもりもない帰るというのが最高の選択肢だ。

 

 

 

放課後、その次の放課後…と、なんの気なく奴の一方的な口約束を完全に無視したまま一日一日が過ぎた。正直な所、その日一日でその口約束は俺の記憶から完全に消えていた。そのお陰で余計に何かを思案する事無く過ごし続けたため寧ろ気が楽だった。

だけど何についてお話をするかについては嫌に現実味を帯びた予想が立っている。埃に煙、かつてそこにあった地獄に俺はもういないんだ。今更無駄さ。

 

とはいえ、何時までも奴の話を聞いてやないというのは不味いというのは分かって居た。変な噂が立って目立つのも正直俺にとっては避けたい話だ。主義になんか凝り固まっちゃ、ソビエトも地図から消える。ここは一つ話を穏便に済ませられるように話を聞きに行くことにした。何かあったときのために高田と一緒に。

 

 

 

屋上。まだ冬のクソ冷たいうっとうしい風がこれでもかと吹きすさび、俺の体をちょうど屠殺屋が肉を切り出す様に俺の体を切り裂き、初めて人を殺す新兵が銃剣を何度も突き立てるかのように鋭く貫いている。俺は少しだけ舌打ちをしつつネックウォーマーの位置を直すとフラフラ歩きだした。

 

「お前も暇なこったなぁ。こんなクソ寒いってのに」

 

下卑た笑みを浮かべながら奴に歩み寄る。奴はちょうどあの時と同じ辛気臭い吐き気を催すような表情で俺のほうに向きなおって口を開いた。

 

「いや、大丈夫」

「要件なら早くしてくれ。寒いんだよ」

 

俺は両腕をさするしぐさを見せ、早くするように急かした。これで早く終わればいいのだが。

 

「そうだな。まず、君は奉仕部に残るべきだ」

「ほう、何故?」

 

俺は一転して意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「彼らはそれを望んでいる。少なくとも結衣は」

「そうか。なら伝えとけ。お前のあってないようなおつむに付き合うほど俺は頭をおかしくしては居ないと」

 

俺は即答した。奉仕部なんてなかったんだなんて消し去ってしまいたかったが、あの例の生徒会長が絡んでくるおかげで廃部の申請は難しくなっちまった。クソ喰らえだよ。全く。

 

「君がそういう奴だというのは分かって居た。だけど何故そこまで…」

「そういう奴だからだよ。分かってんだろバーカ」

 

侮蔑と呆れがちょうど半分ずつこもった笑みを浮かべ、さっさと立ち去ろうと後ろを向いた。だけど奴は俺の肩をつかんだ。うっとうしいゴキブリ野郎だ。

 

「用は終わったはずだろ」

「終わってない…お前に聞いていないことがある」

「何だ」

 

奴の汚らしいおててを払い除け、迷惑そうな表情を浮かべながら舌打ち交じりに言った。

 

「お前は奉仕部に居場所を与えられたって自覚はあるのか?」

「居場所?んなもん最初からあったわ。最初にあった居場所を壊したのは奴らだろうが」

 

何も分かっちゃいないな。このクソ坊主は。

 

「多分今からでも遅くは無い。あの三人を呼んで面と向かって謝るんだ」

「止してくれ。今あいつらの顔を見ると吐き気がしてくる」

 

今更奴らの顔なんて見てられるか。俺はその一心だった。 

 

「そもそもなんでだよ?なんで俺を連れ戻そうと」

「君が必要で…」

 

「んなこたぁ聞いてない。お前は誰に頼まれたんだ?」

「何のつもりだ?」

「何もしねぇよ。どうせあの三人の中なんだから。もう話すつもりもねぇ」

 

何なら人扱いするつもりもないんだがな。

 

「とにかく、僕は誰にも頼まれちゃいない。これは僕自身の意思だ」

「ほぉ、それは御大層なこった。また何か?お友達を助けたいか?」

 

まあ誰に頼まれたかは正直どうでもいい。どうせ誰だかは予想はつく。

あの二人だ。雪ノ下には過去の贖罪として、由比ヶ浜には薄汚い仮面が剥がれ落ちないように、もしくは今いるグループが壊れないように、だろう。

 

「なぁ、俺を駒に使うの止めてくれないか、過去の贖罪かその薄汚ねぇ仮面が剥がれ落ちないようにするかどっちかは知らんが俺はお前のお膳立てをするわけでもクソまみれのケツを拭う母ちゃんでもねぇんだよ」

「違う!そんなつもりじゃ…」

 

「いいじゃねぇか。手近な女除けとハメハメしときな。相当ユルいぜ。フィストファックだって出来るだろう」

 

また、醜くゆがんだ笑み。最近口が汚くなっているような気がする。

 

「違う…違う…」

「何が違うんだ?過去にやらかしたのはお前自身だ。その罪悪感からくる贖罪に漬け込んだあの女は最低だ!あの貧乳クソビッチめ!」

 

一瞬、妙な既視感を覚える感覚。言葉を持たない固く無機質な壁と俺の背中が悲鳴を上げる。

 

「黙れ!」

 

すると、奴は、腕を振り上げ、汚らしい手が俺の顔面に飛んできた。久しぶりだ。この痛み。だがこんな痛み金魚の屁みたいなもんだ。もちろんやるさ。正当防衛だ。

 

俺は大きく振りかぶると、奴の鼻先目掛けて拳を叩き込んだ。

 

血だ。

情熱的なまでに真っ赤な奴の汚らしい鮮血が俺の拳から離れない。

 

それを見ていたんだろう、高田が飛び出して来て一発奴の腹に蹴りを入れた。奴は勢い良くフェンスに叩き付けられてその場にうずくまった。

 

俺は無言で蹴った。

 

蹴って、踏みつけて、馬乗りになると両方の拳で顔を一心不乱に殴った。拳からも血が出ているだろうが奴の鮮血と混じり出ているかが分かりにくい。ただ、無表情のままで、何の感情すらも抱かずに。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

苛立ちを覚えるほど息苦しい。俺は一旦呼吸を整えると、また殴り始めた。

個人的な恨みがある訳でも無い。本当に恨んでいるならもっと人通りの少ない所でボコボコにする。じゃあ何故俺は今暴力を振るっているのか。

 

答えは簡単、害虫駆除だからだ。

奴の様なゴキブリ野郎が人間様に向かって拳を叩き付けたのだ。そんな害虫は駆除しなくてはならない。つまり俺がやっているのは害虫駆除だ。現に今奴は虫の息だからな。

 

 

 

俺は、別れの挨拶がてらの痰を吐き掛けてゆっくり立ち上がった。

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