すずかお嬢様のお風呂事情   作:酒呑

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すずかお嬢様のお風呂事情 そのさん

 ――おっぱい。

 

 青年は己が視界にくっきりと鮮明に映る女性達のおっぱいをそれはもう凝視していた。

 

 ――あぁ、おっぱいだ。

 

 視線を左へと動かせば茶の短髪の女性の平均よりやや小さめのおっぱいが。

 そこから右に少し動かせば隣の女性よりもやや明るいライトブラウンの長髪をストレートにしている女性の大きさ、美しさ共に非常にハイレベルなおっぱいが。

 

 青年は更に視界を右へと動かす。

 

 途中、湯に濡れて非常に艶めかしい雰囲気を醸し出している紫紺の長髪の女性のおっぱいが目に入ったが、青年はそれを『なんだ何時もの奴か』と小さく舌打ちをしながら華麗にさらりと流して視線を動かし続ける。

 視線の先、紫紺の女性の右横には色合いこそ違う物の、見る物の目を奪う美しい金の長髪を湛えた二名の女性がいた。片方の女性は非常に大きく、絶大な包容力を秘めた柔らかそうなおっぱいを。もう片方はこの女性人の中で一番小さな……しかしながら確かに青年の目を惹きつける魅力を持った小さなおっぱいをその胸に装備している。

 

 ――桃源郷は此処にあった。海鳴の全男児が望む理想郷は存在し得たのだ。あぁ、素晴らしきこの五対のおっぱい達よ。

 

 などと青年が無駄に壮大な台詞回しで脳内で叫んでいると、対面している女性達が動きを見せた。

 余りの事に呆然とした様な、今の今まで理解が追いついていない様な、そんなきょとんとした表情を浮かべていた彼女達がまずその表情を朱に染め上げた。次いで、先程まで全員が何一つ隠す事無く、それこそ前述した通りの様々な素晴らしいおっぱいや下腹部にあるデリケートなバミューダトライアングル、その内のアンダーな髪の毛や神秘の裂け目すら隠さずに惜しげも無く解放していたその美しい光景を、足や腕で素早く隠し、更に湯船に肩までしっかりと入る事でより隠そうとした。

 ちなみにその際も腕に抑えられ行き場を失ったおっぱいが形を変えるその姿も素晴らしい物だ、湯の玉が表面をなぞるふともももまた素晴らしいなどと雑念だらけな事を想いながら青年はその様子を眺めていた。

 

 五名の女性達の内の四人、青年が見慣れていないおっぱいを持つ美女たちがその様な行動を見せる中、ただ一人落ち着き払っている者がいた。

 浴槽の縁に腰掛け、おっぱいやお尻などを隠す事もせず、ただ脚だけを湯に入れたまま果てしなく深く昏い、決して人間が触れてはいけない類の深淵を瞳に湛えながら青年を見つめる女性。

 彼女の名は、月村すずか。この理想郷を構成する一員であり、同時に女性の入浴中の理想郷(おふろ)へと入り込んで来たこの闖入者……青年の幼馴染でもある。

 

 青年が眼前のおっぱい達を存分に堪能していたその時、ぱしゃり、と小さな水音がなった。彼女が浴槽の縁に手をかけてゆるりと、しかし育ちの良さを感じさせる所作で美しく立ち上がったからだ。小さな音だったが、女性だけの秘密の花園に男性が突如乱入すると言う珍事が起きてしまったこの場には静寂だけが流れており、その音は青年の耳へと届いた。

 

 音に反応し、青年はつい視線をそちらへと向けてしまう。そして、その視線の先で音の発生源であり、毛先や指先から湯の雫をぽたりぽたりと垂らしながら無表情で今もこちらを睨めつける女性と瞳が合ってしまったが故に、瞬時に理想郷へと旅立っていた意識を現実へと引き戻された。

 

 ――アレは、拙い。

 

 ぞわり、と全身の皮膚が恐怖で粟立つ。

 過去の記憶と経験が警鐘を鳴らす。

 本能がこの場から逃げろと叫びだす。

 

 ――あの目は、拙い。

 

 事実、月村すずかがこの様な瞳を浮かべる事は滅多に無い。

 それこそ幼馴染たる青年が彼女と過ごして来た約二十年の月日の中でも、三本の指で数えられる程しか記憶になかった。ちなみに以前彼女がこの様な瞳を浮かべたのは、金欠の青年が無断で彼女の魅惑の三角巾(おぱんつ)(使用済み、未洗濯)を一枚学校の男児達に売り払ったと言う事実が明るみに出た時である。価格は七万と三千二百五円だった。

 

 話が逸れたので本題に戻そう。

 彼女がこの様な瞳を浮かべる時は、往々にして青年に人誅が下る。

 前回の時で言えばまず最初に全力の張り手が青年の頬に飛んだ。その絶大な威力によって青年が空中を華麗に何回転も舞った後、多大なダメージで地面にダウンしている所に追撃の爪先での前蹴り……見事なフォームでのサッカーキックで黄金に輝く一対のボールを蹴り上げられ、青年は泡を吹いて失神。鍛えられた筋肉が無ければ生命を生み出す球体はしめやかに爆発四散していてもおかしくは無かったそうだ。

 

 そんな過去の経験から、青年は今この場から何としてでも逃げ遂せなければならないと瞬時に判断する。そして、青年が無事にこの場から逃げる為には、まずは状況を確認しなければならない。その後、最適解を導き出して動く必要があった。

 

 命の危機からか、青年は状況確認を素早く済ませる。その際、透明な湯の中にてライトブラウンの長髪の女性のデリケートゾーンが整えられている事を目敏く見つけてちょっとテンションが上がっていたりもした。この間、僅か一秒にも満たない刹那の早業である。()に恐ろしきは男の本能であった。

 

 さて、そんな欲望丸出しの青年が導き出した最適解。その行動は。

 

「こりゃまた失礼しました……」

 

 普通に軽く謝りながら数歩後退り、最後の最後まで美女たちの裸を楽しみながら何事も無かったかの様にバスルームと脱衣所を隔ててくれるスライド式のドアを閉める事だった。

 

 直後、四名の女性の黄色の悲鳴と地の底から響いて来たかの様なくぐもった怒りの声がドア越しに青年の耳に届いたのだった。

 

 

 

――――――――――――――

 すずかお嬢様のお風呂事情

――――――――――――――

 

 

 

 全力の殺意(チョップ)逆鱗(のどもと)に突き立ててやろうか。

 

 そんな事を考えながら私達の女子会に闖入してきた幼馴染へと近寄ろうと腰掛けていた浴槽の縁から立ち上がると、あれだけなのはちゃん達のおっぱいやふとももをガン見していた幼馴染がまるで何も無かったと言わんばかりの対応でそっとドアを閉めた。日頃から我が家の誇るメイドさんによる手入れが行き届いているスライドドアは今も音も無く滑らかにすっと脱衣所とお風呂を隔てる。今はその高級感とでも言うべき物が鬱陶しく感じられた。

 

 最後の最後まで私達の裸(視線的には多分アリサちゃんの小さなおっぱいだと思う)を堪能した幼馴染がドアの後ろへと消えると、私は皆には聞こえない程度に小さく舌打ちをして再び浴槽の縁に腰掛ける。そして私と目が合うなり死に直面したかの様な顔で素早く撤退していった幼馴染に後でどんなお仕置きをするか考えようとした所で、お風呂場の空気に震えが走った。

 

「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 

 震えの正体は、私以外の皆の悲鳴だった。

 そうだよなぁ、これが一般的な女の子の反応だよなぁ……なんてしみじみと思いながらとりあえず耳を両手で塞ぎ、聞こえてくる音量を抑えて悲鳴が鳴り終るのを待ってから私は親友達の様子を窺った。

 

 アリサちゃんは顔を真っ赤に染め上げ、両手で自分の身体を抱く様に自らのおっぱいを隠し、眦を吊り上げながら私の幼馴染に怒りを露にし。

 はやてちゃんは叫んで少し落ち着いたのか、貧相なもんを見せてもうたかなぁ、と頬を赤らめたまま小声でぼやきつつ自分の胸を揉んで溜息を吐き。

 なのはちゃんは既に切り替えたのか、まだ若干赤い頬をぽりぽりと掻きながらにゃはは、と苦笑を浮かべていた。

 

 おちん○んなんて見たのお父さんとお兄ちゃん以外で始めてだよ、と言いながら笑うなのはちゃんにアリサちゃんとはやてちゃんが賛同していたが、日頃からしょっちゅう幼馴染のポークビッツを見ている私は言葉を曖昧に濁しながらとりあえずノーコメントを貫いておく。お嬢様は不用意な発言はしないのだ。

 

 そんなやり取りをしている途中、はたと何かが足りていないことに気が付いた。

 そう、先程からフェイトちゃんの姿が何処にも見えないのだ。個人的にはこの面子の中でなら一番顔を赤くして慌てふためいていそうなイメージがあるんだけど。

 彼女は一体何処へ? そう思ってぐるりと周囲を確認すると、たったの数秒程で無事にフェイトちゃんを見つけることが出来た。

 

 何を隠そう、フェイトちゃんは真っ赤な顔でお湯の中に水没して体育座りしていた。なるほど、見つからない訳である。どうしてそうなった。

 いや、本当にどうしてそうなった。そこは女の子らしく皆の様な反応をするべきところなのではないのか。

 

 分からない。なにもかもが分からないが……まぁ多分大丈夫だろう。魔法使えるし。

 そう判断した私は未だにお湯の中に綺麗な金髪を揺蕩わせながら口からぽこぽこと空気を吐きつつ(とてもかわいい)水没しているフェイトちゃんから視線を外し、幼馴染が消えていったドアの方に改めて目を向けながら徐に手を二度程叩いた。

 

「お呼びですか、お嬢様」

「ノエル。私達のお風呂を覗いた粗末な御子息をぶら提げた不埒な男の子(そちんやろう)を縛りあげてきて」

「かしこまりました」

 

 数秒ほどで天井から颯爽と現れた己の女中をさらりと刺客として送り出し、私は未だに男性の珍宝の事についてあれこれと話している三人(アリサちゃん、なのはちゃん、はやてちゃんの三名)に適当な相槌を打ちながら十数分程前までの平穏だった女子会へとを思いを馳せるのであった。

 

 □ □ □

 

「そんな感じであたしと、あと一応すずかも未だに彼氏いないけど、そっちの方はどう? 職場とか周りにかっこいい男の人とか良い感じの男の人とかいないわけ?」

「私は一応じゃなくて普通に彼氏いないよ、アリサちゃん。アレはただの幼馴染だから」

「あーはいはい、そうね。で、どうなのよそっちの三人は」

「そうやなぁ。いないって事はないんやけどな。ただちぃと……年齢差がなぁ。なのはちゃんはどうなん?」

「うーん、教導隊も基本的には熟練の職員さん達だからねぇ。やっぱり親子くらい歳が離れてると中々……。それに、今は(ヴィヴィオ)もいるしね」

 

 ……嫌な事件だったね。失った乙女パワーが、まだ見つかってないんだろう?

 一部の単語にどきりと内心で反応したが、そんなくだらない事を考える事で平静を保ちつつ親友達と女五人で楽しく姦しく、そして騒がしくお風呂を楽しむ。

 皆で入浴してから既に凡そ二十分程。その間の話題は近況から世間話まであちらこちらへと凄い勢いで飛び回り、今は各人の恋愛模様の話へと変わっていた。所謂コイバナと言うヤツである。

 

 自分で言うのもなんだが、美女美少女と十二分に呼べるであろう私達五人が全員彼氏出来た事すらないって言う状況は中々に海鳴市及びミッドチルダの男性に対する損失なのではないだろうか。単純に私達個人個人の目に適ってないというだけかも知れないが。頑張れ未来の私達のだんな様達。

 

 足先でぱしゃぱしゃとお湯を弄びながら、我ながらくだらない事を考えているなと一人微笑む。その間に話はフェイトちゃんの恋愛事情へとシフトしていたが、フェイトちゃんは私も捜査であちこちへ飛び回るからそういう人はいないかなぁ、と言っていた。

 

 ……その時だった。

 全員彼氏いないのか。そう安心してまだまだ私達の春は遠いね、なんて話をしていた私やアリサちゃん、はやてちゃんを絶望のどん底へと叩き落す爆弾発言がなのはちゃんの口から投下されたのは。

 

「え? フェイトちゃんって彼氏いるでしょ?」

「ふぇ?」

 

 私の心に甚大なダメージが発生したのは言うまでもなかった。

 

「そっ! そそ、そんな事、ないよぉ? い、一体! 何を言ってるのかな! なのは!」

 

 そしてフェイトちゃんは取り繕おうとしたのだろうが、とても露骨だった。

 こんなにも慌てていては暗に自分彼氏いますと言っている様な物だ。自慢か。

 内心で毒づきつつも目を丸くしながら驚いていると、アリサちゃんとはやてちゃんは獲物を見つけたと言わんばかりのあくどい表情を浮かべながらフェイトちゃんへとにじり寄っていた。爆弾発言を投げ込んできた人物の方を向いて必死に弁明しようとしていたフェイトちゃんは当然ながら音もなく静かに這い寄ってくるその二人に気付く事が出来ず、簡単に背中を許してしまう事になった。

 

「違うんだよ!? 彼とはただ一緒に捜査してるだけで――へっ?」

 

 その無防備な背中にアリサちゃんが羽交い絞めを掛けて拘束し、しっかりと極まっていることを近くで確認したはやてちゃんがフェイトちゃんの正面へと回った。

 はやてちゃんは両腕をまるで手術前の外科医の様に自分の胸の前に掲げ、指先をどこかいやらしくうねうねさせながら微笑み、フェイトちゃんに顔を近づける。

 

 その光景を見て、この後何時もの様にはやてちゃんがおっぱいを揉むんだろうなぁと予想しつつ私はその光景を無言で眺める。別に止める必要性も感じられないし、はやてちゃんがおっぱいを揉むのも今更だろう。

 

「ほーう」

「ほほーう」

「あ、あの……どうしたの? アリサ、はやて、離してくれると嬉し……ひゃっ!?」

 

 精神的なダメージが回復してきた私がのほほんとしながらはやてちゃんの凶行を眺めていると、案の定フェイトちゃんのおっぱいへと手を伸ばしていた。暴れるフェイトちゃんをアリサちゃんが抑え、はやてちゃんは思う存分フェイトちゃんの大きなおっぱいを揉む。絶妙なコンビネーションである。小さい者同士、波長が合うのだろうか。

 

「この乳か! この乳で捕まえたんか!」

「アンタは良いわよね! あたし達みたいにおっぱい小さくなくて!」

 

 そんな若干失礼な事を考えながら眺めていると、なのはちゃんがそそくさと私の近くへと避難して来た。にゃはは、と昔と変わらない満面の笑顔を浮かべながらはやてちゃんはアレが無ければ今頃彼氏くらい出来てそうだよねぇ、なんてキツイ事をさらりと言ってのけた。

 確かにその意見には同意するのだけれど、なにもそんなに良い笑顔で言わなくても良いんじゃあないだろうかとも同時に思う私であった。

 

 □ □ □

 

「うおぉぉぉぉ!?」

 

 ……幼馴染が乱入してくる前から既に平穏ではなかったのではないだろうか。

 少し前の出来事の回想に耽っていると、私の前に何か大きなものが落ちて来たことが切欠となり現実へと引き戻された。盛大に跳ねたお湯が顔にかかって鬱陶しかったが、回想するに当たって目を閉じていた為に然したる問題ではなかったのが救いか。

 

 何が落ちてきたのか何となく察しは付いているものの、一応確認する為に目を開けて視線をお湯の方へと向ける。目を開けた時に視界の端の方で今度はちゃんと前を隠しながら四人で固まっていた為、やはりそういうことなのだろう。そこにいたのは――

 

「死ぬぅ! 風呂場で溺れ死ぬぅ! いや待てよ、高町とバニングスの残り湯……!? んごぼぉっ!?」

 

 ――変態的な言動が一瞬聞こえた為、条件反射的な速度で無意識の内に後頭部を足で抑えてしまった。

 

 いや、流石に筋肉を鍛えている私の幼馴染と言えどもこれは死ぬな、なんて思いながらすぐに抑えていた足をどかし、浮かんできた人物を確認する。そこにいたのは案の定というかなんと言うか、やはり彼だった。尤も、四肢を背面で縛られ、更に目隠しまで付けられた状態ではあったが。

 

 いや、うん。確かに縛り上げておいてくれとは命じたけれども。

 だからと言って風呂場に投げ込んでくれとは一言も言っていない筈だ。

 

 またアレで悪戯好きのノエルの悪癖でも出たんだろうか、なんて足元でじたばたと溺れない様に奮闘する幼馴染を眺めながらぼんやりと考える。とりあえず湯面にうつ伏せになっている幼馴染が溺れない様左足のつま先で仰向けにひっくり返しておいた。その際、この足はすずかか、なんて言っていたのが聞こえて来たが何故分かるのだろうか。

 あ、いや、分かるかも知れない。この間月村邸(うち)でノエルとファリンも含めて一緒にお酒呑んでた時に王様ゲームの罰ゲームで足舐められたし。(舐めさせたわけではない。ここは非常に重要である)

 

 閑話休題。そんなことはどうでもいいのだ。

 

 私がひっくり返したことによって体勢が安定し、呼吸する事が可能となった幼馴染は縛られていると言うのに何故かあまり気に留めず、どこか慣れた様子でぷかぷかとお湯に浮かんでいる。

 斯く言う私も異性が全裸で縛られていると言うのに(とは言っても腰にタオルは巻いている。ノエルの最後の良心だろう)こんなにも悠々閑々と構えながら彼のことを観察しているのでお互い様といえばお互い様である。

 

 正直なところ、今更な話ではあるのだ。月村邸(うち)にお姉ちゃんが住んでいた頃、私も彼も何回か縛られたこと自体はあるし。落ちてきた時はうつ伏せで着水したから慌てていただけだろう。

 

 幼馴染がすっかり落ち着いた頃を見計らい、私は彼に声をかけた。

 

「お仕置きは後で考えるとして……。ねぇ、覗き魔さん」

「はい、何でしょうかすずかお嬢様」

「誰のおっぱいが一番だった?」

「いやお前それをこの場で聞くの? アホなの? ねぇアホなの? 俺見えてないけどその辺にまだいるでしょ?」

「まぁまぁ。そう言わずに」

 

 つれない返事を返してくる幼馴染の椰子の木をつま先で何度かつっつきながら答えを待つ。離れたところでなのはちゃん達がひそひそと話をし始めたが今は気にしないでおく事にする。

 

「おい馬……! やめろぉ! 人のジョニーを虐めるなジョニーを! ……お?」

「あ」

「「「「え?」」」」

 

 

 

 不慮の事故だった。

 

 はらり、と彼の視界を塞いでいた筈の目隠しが外れてしまった。

 その結果、私の親友達は再び彼に全裸を晒すことになった。先程は入り口と浴槽と言う若干離れた距離で全裸を見られたのでまだ良かったのだが、今回は同じ浴槽の中と言う至近と言っても過言ではない距離だ。幼馴染の視界には先程よりも数段鮮明なおっぱいが映し出されていること間違いなしである

 次の瞬間、諸々――そう、それはもう諸々な物がモロ出し状態となっていた彼女達が再び黄色い悲鳴を上げるのであった。

 

 あぁ、やっぱり今日も我が家のお風呂事情は騒がしい。

 私は一体何時になったら落ち着いてお風呂に入れるのだろうか。

 

 ■ ■ ■

 

「ったく、散々な目に遭ったわ」

「一番恥ずかしいのは私だよぉ! 皆して私の後ろに隠れるんだもん!」

「まぁまぁ。それだけ私達はなのはちゃんの事を頼りにしてるって事やで?」

「…………」

「納得いかないよっ!」

 

 月村邸の脱衣所にて。

 月村すずかの親友達ことアリサ・バニングス、高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、八神はやての四名は顔をほんのりと朱に染めながら会話をしながらタオルで身体を拭いていた。その表情の赤さには入浴したことによる血行促進効果以外の要因も多分に含まれていたが、異性に自分の全裸を見られたのだ。成人を迎えたとは言えどまだ二十歳の女性。その反応もむべなるかなと言った所であった。

 

 全員が身体を拭き終わり、それから下着の着用を済ませるまでのほんの僅かな間、彼女達の間に沈黙が流れる。

 その沈黙を打ち破り、言葉を発したのはアリサ・バニングスだった。彼女は少し落ち着いた色合いのブラウンの服に袖を通しながら口を開く。

 

「……ねぇ。すずかってさ、アレで『付き合ってない』とか『ただの幼馴染だよ』とか何時も言ってるんだけど、どう思う?」

「そらまぁ……なぁ?」

「あー、うん……ねぇ?」

「でしょ!? 何なのよアイツ等! さっさとくっつけってーのよ! 何であたしが『今日も風呂で遭遇したんだけどどうしたら良いかな』とか相談されなきゃいけないのよ! 知らないわよそんなん! こちとら男の影があった事すら無いわよ!」

 

 がるるる、と言う擬音が付きそうな程犬歯を剥き出しにしながら激しい剣幕で怒るアリサを宥めつつ残りの三人はそれぞれの服に身を通して行く。先程から上の空で行動しているフェイトを除き、アリサとなのは、はやての三人は概ね同じ意見ではあった。

 事実、異性とあれ程まで気軽に接することなどこの場にいる彼女達には不可能であった。ボディタッチは……まぁ、必要性があれば彼女達にも出来なくはないが、男性の御立派様をあぁも気軽に、それも足で突っつくことなど以ての外である。

 

 その後もあれやこれやと親友の恋愛事情に対して三人で話しながら着替えを進めていたのだが、その間も浴場から時々聞こえてくる「やめろ、お前のビンタは死ぬ」「この前は大丈夫だったから」などと言う乳繰り合い――本人達は否定するだろうが――が耳に入り、最終的にそれぞれの口から漏れ出たのは溜息だった。

 

 そして、彼女達は私も頑張って彼氏作ろう、と決意するのであった。




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