IS 罪の意識   作:function

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1話 入学

「気安く名前を呼ばないでもらえますこと...」

 

 久しぶりに再開した幼馴染からの返事は、自分に対する嫌悪と拒絶を表していた。

 彼女は俯きながら小さく震えていた。自分にはその顔を窺うことが出来なかった。

 急な眩暈がした。それと同時に彼女に言葉を続けさせてはいけない、そんな危機感を抱いた。

 反射的に出てきた言葉は、先ほど彼女に掛けた第一声と同じで

 

『―――セシリ「オルコット家を捨てた男に話す舌は持っていませんわ!」』

 

 …最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。自分は彼女に返す言葉を、持ち合わせていなかった。

 この数年間、自ら会いに行かず責任から逃げてきた。その結果がこれだ。今更どうして未練たらしく、弁明するようなことが出来ようか。

 彼女からすると、きっと自分は恩を忘れ逃げた薄情者...いや裏切り者なのだろう。

 こんな筈ではなかった、誤解だと思った。しかし納得はせずとも、現状に至る要因が自分にあることは理解していた。

 

「―――用がないなら、これで失礼させていただきますわ」

 

 そう言って、彼女は急ぎ足で立ち去っていく。

 待ってくれ、という言葉は声にならず、彼女へ伸ばした手は空を切った。

 自分はその場に立ち竦み、ただ呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

 インフィニット・ストラトス、通称IS。それは宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。

 従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能故か、現状において宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用されている。

 ISの開発競争はさながら、冷戦時の宇宙開発競争の様だった。

 ここ十年間でISの性能や保有数は、各国の戦力と同値であるとまで考えられるに至った。

 国際社会では長距離弾道ミサイルや、核兵器、原子力潜水艇の保有数以上に、各国の軍事力の要としてISは最重要視されている。

 だがISには重大な欠陥、女性にしか反応せず男性には扱うことの出来ないという特性が有った。

 この変質な特性は、以前の男女の社会のバランスを一変させ、女尊男卑が当たり前とされる時代をもたらした。

 男性は主導者としての立場に就くことが難しくなり、代わりにそのポストには女性が配置された。多くの男性は不満を抱えた。

 その様な社会現状の中、ある一人の男がISを起動させた。彼は織斑一夏という今年で16才になる一人の男子。

 国際的にそのことは大きく取り上げられ、彼の処遇をどうするか話し合いがもたれた。各国の思惑が交差し合い、具体的な研究計画や所属国家が決まる事はなかった。

 だがこれを放置するわけにも行かない。結果として、国際機関であるIS操縦者育成用の特殊高等学校<IS学園>に彼は入学することとなった。

 

 IS学園はIS操縦者を育成する専門学校である為、事実的な女子校である。

 そこに一人だけ男子を入学させるには、彼の精神衛生上良くないという意見があった。とはいえ、IS学園以上の棚上げ策は現状ないのが実状だ。

 対応策としてIS学園側は、以前から検討されていた“非操縦者である男子生徒のIS開発等におけるエンジニア入学枠の整備”を試験的に行うことを提案した。

 しかし、その入学条件は厳しいものだった。

 第一にISに対して人一倍、いや数十倍の知識や技術を所持する“男性”の技術者であること。特例として男子生徒を入学させるのであるから、他の女子生徒以上の知識を要求するのは当然のことだった。

 第二に生徒として入学できること、つまり年齢が16才前後であることが必要とされた。

 ISは女性しか扱えない女尊男卑の風潮が、男性のIS技術習得に対する妨げとなっている。

 その様な環境下でも少数ではあるが、男性でもIS関連の職業に就く者はいた。しかし、それは元々他の技術者としての経験を持っていた上で、IS関連の職業に転職した場合が大半だった。若いうちからISについて勉強を重ね、ISのエンジニアを目指す男の子などそうそういるわけがなかった。

 最後に1,2の条件を満たしたと男子がいたとしても、彼に入学の意思のあるかどうか。

 

 各国は自国から数人の方候補者をリストアップしたが、条件を満たす者は中々見つからなかった。

 

 そして難航する選考の中、英国国籍と日本国籍の両方を所持する一人の男子が英国と日本国の両方から推薦された。

 彼は唯一、入学条件を満たし、試験入学者として選出された。

 

 

 

 

 IS学園は入学式を終え、各クラスにおいて自己紹介が行われていた。

 中でも1年一組のクラスは特別緊張感が漂っていた。

ーーーさて何を話そうか

 名前、日本語表記で火渡。英語ではHiwatari。出身、いや国籍は日本とイギリス。趣味…特筆するものはない。

 殆どが初対面の場で話す文章はそれなりに考える。しかしそんな自分に対し、目の前の男は無計画な人物のようだ。

 

「え…と、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 簡潔極まりない。

 彼にクラスの女生徒全員の視線が刺さっている。初の男子IS操縦者となれば、彼のことを皆知りたいのだろう。

 自分も知りたい、知る必要がある。

 それはIS学園へ入学するにあたり、織斑一夏のパーソナルデータ収集、及び提出を命じられているからだ。

 基本的にIS関連の情報は、すべて公開しなければならない。そして今彼のデータは全世界が欲している、特定の国...日本だけが独占することは許されない。つまりどの国家にも拘束されない、立場が中立な者による彼の情報収集が不可欠だ。

 まさに中立のIS学園が相応しい。なのに何故自分なのか。

 

 織斑一夏の頭に出席簿が振り下ろされ、パァッーーン!という乾いた音響く。不十分な自己紹介とは言えども手厳しい、どうやらクラス担任の教師は体罰主義のようである。

 その後一悶着あり、織斑一夏の"千冬姉"という発言から担任と織斑一夏が兄弟であることが分かった。

 クラス内は元日本代表、そして第一回目のIS世界大会優勝者の織斑千冬が担任であることに対し沸き立っていた。

 

 自分はようやく理由が思い立った。IS学園には織斑一夏の身内がいる、そこから出る情報に正確性は保障され難いか。だから自分が選ばれた。

 国籍は日本とイギリスだが事実的には無所属に近い。データ収集能力の有無に関しても、自分以上に能う者はいなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

「SHRは終わりだ。諸君らには基本知識を半月、その後実習で基本動作も半月で覚えてもらう。いいか、返事を…」

 

 織斑千冬教諭は、続く言葉でスパルタな教育方針を示し、チャイムが鳴ったのもありSHRを終わりにした。

 自己紹介をせずに済んだ、などと思っていると…

 

「一限の時刻だが、一応もう一人の男子にも自己紹介をしておいて貰おう」

 

 思い通りにはいかないものだ。だが文章は頭に起こしてある。

 

「では……くん、ヒワタリ君っ」

 

副担任の山田真耶教諭が自分の名前を呼ぶ。

 

「はい」

 

 静かに返事をする火渡に視線が集まる。体格は織斑一夏とほとんど同じ。眼鏡をかけた黒髪の彼の雰囲気は、凡庸の一言。そして皆の疑問は唯一つ、彼は何者なのか、彼もISが使えるのか。

 

「名前は火渡、国籍は日本とイギリス。特に趣味といったものはありません」

 

 隼人は一瞬、担任の出席簿が光った様な気がした。構わず彼は続ける。

 

「自分にISを操縦することは出来ません。このIS学園には、IS工学におけるエンジニア志望を理由に入学しました」

 

 何故ISに乗れない男子が?

 クラスが騒めいた。だがそれを鎮めるように織斑千冬担任が補足する。

 

「火渡は男子生徒の試験的な入学だ。勿論入学に見合うだけの技術は持っている。IS工学に関してなら、このクラスで右に出る者はいない」

 

 おおっ、という声とともにざわめきが収まっていく。取り敢えずの納得はしてくれたらしい。

 だがIS技術において女が男より下、この事実は今までも色々とトラブルを引き起こしてきた。

 なるべく秘密にしておきたかったな、と彼は思った。

 

「以上です」

 

 自己紹介を終え、席についた。

 

 

 

 

 既に理解済みの内容だ、他のことをする余裕があるな。

 一時間目のIS理論授業を終え、そんな感想を持った。

 既にIS開発に携わっている身からすれば、始業してすぐの授業は聞くに足らない。

 

「確か…ヒワタリで合ってるか?」

 

 前の席の織斑一夏が自分に話しかけてきた。

 

「あっている、君と同じ男子生徒だ。自分の名前は覚えにくいだろう、気にしないでくれ」

 

 織斑一夏は笑いながら手を出してくる。

 握手か、イギリス人のようだ。

 

「お互い珍しい名字だよな、俺は織斑一夏。好きに呼んでくれて構わない。これから宜しくな」

 

 いや、このフレンドリーな握手はアメリカ人だな。

 言葉に応え手を握る。

 

「そうか、宜しく頼む織斑一夏」

 

 その後もたわいのない話をしていたが、途中で織斑一夏はポニーテールの女子生徒に連れて行かれてしまった。

 

 …案外、身が持たないかもしれない。

 織斑一夏が居ず自分一人に集中するクラスの視線は、想像以上に辛いものだった。

 

 

 

 

 2限目に分かったのだが、織斑一夏はどうも勉学が苦手らしい。ISの参考書を電話帳と忘れて捨てたという不始末には、内心笑わされた。

 自分もISの参考書は携帯していない。教科書類はすべてデータ化し、制服内に常備しているハードディスクにコピー済みだ。とはいっても、IS学園の授業は殆ど立体ディスプレイが使われる為、元々教科書を持ってくる必要はないのだが。

 

 IS学園では制服の改造が認められている。国によって文化が違う為だ。

 それをいい事に女子生徒の多くは袖や襟首の部分に、各々のファッションを散りばめている。

 自分の制服は殆ど支給された時のままだ。しかし左碗部にキーボード、制服内部にデバイスやハードディスクが装着できるように調整はしてある。

 

 

 自前のデバイスでニュースを見ていると、鮮やかな金髪の女子生徒が横を通った。まさか…

 

 「ちょっと、よろしくて?」

 

 彼女は予想と違い、織斑一夏に声を掛けていた。

 続けて見下したような態度で、彼に話しかけていく。自分は混濁した心境で話を聞いていた。

 

 「君が誰か知らないし」

 

 幾つか言葉を交わした後の、織斑一夏の一言は彼女の自尊心を傷つけたようだ...

 

 「この私をしらない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生であり、入試主席の私を!?」

 

 セシリアは三限の予鈴がなるまで織斑一夏と喧嘩腰で話していた。

 彼女には彼が入試試験の際に、試験教官を倒したことが納得できなかったようだ。

 織斑一夏がそこまでの腕前だとは予想外だった、自分は彼への印象を改めた。不勉強かつIS適正は低いものだと思っていたが、そうではないらしい。

 だが、それ以上に彼女の態度が気になった。きっとその原因は昨日の事だ。

 自分はもっと早く彼女に謝罪すべきだった。それは十数年前のこと...

 

 

 

  

 

 

 気がついたら炎の中にいた、そこは火事が発生したビルの中。出火原因は不明とされている。

 目の前で人が燃えるのを見た、人が倒れてくる柱に潰されるのを見た。多くの人がそこで苦しみ亡くなっていた。

 どこに出口があるかは分からなかったが、自分は必死に逃げた。そこから助けられたまでの記憶は、よく覚えていない。

 自分は唯一その火事から助かった人間だった。しかし、全身に酷い火傷を負っていた。特に顔は個人を特定できないほどに。

 瀕死の自分に対し、試験的な医療法が試された。新型人工皮膚移植による手術、それに出資し開発をしたのがオルコット財団。

 結果として、自分は助かった。

 

 意識が回復した後、一人の男性が病室に訪れ何が起きたのか説明をしてくれた。

 君はイギリスへ団体の家族旅行をしていて、その際に事故に巻き込まれた。そして家族は死んだと。また急患であった為、現場に残っていた日系人パスポート写真を参考に整形はされたと。

 自分は鏡で己の顔を確認した、そこに写っていたのは昨日と別人の自分だった。

 そもそも、イギリスへ旅行をした覚えがない。自分は生まれて一度も国外に出ず、日本で暮らしていたはずだ。

 その上体格も、旅客リストに載っている名前も西暦も何もかも違う....。そして、事故の前後の記憶を思い浮かべようとすると頭痛が走った。医者はそれをショック性の記憶障害だと言った。

 己の記憶以外が今まで知り得る自分ではないと、他の全てが自分を他人たらしめていた。

 呆然とする中、旅客リストの中から挙げられた名前に対し、自分は別人であると否定出来なかった。

 

 

 医者の話は続いた、2つのどちらかを選んで欲しい。

 同じような境遇の子供たちがいる施設に行くか、それとも私の家にお世話になるか。

 彼は新医療を提供したオルコット財団、その婿養子に当たると聞いた。

 自分はただ、恩を返したいというその気持ちだけで、別人の体でありながらも後者を選んだ。




二次創作ですので、キャラクターの身長や容姿の描写は抜いています。
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