では、マルタ島の発端をどうぞ。
1941(昭和16)年12月7日 深夜 ウェーク島近海
夜の闇の黒が海をも染める中、白波を蹴り立て複数の船舶が航行していた。
更にその船舶は大小のサイズや数の違いこそあれど、どれも砲を載せている軍艦である。
しかも、隠密航行らしく、艦橋など中から光が漏れそうな場所の照明は消され、僚艦が立てる白波と識別灯で慎重に航行していた。
そんな中、一際巨大で巨砲の連装砲塔を積んだ戦艦の甲板で1人の青年士官が夜の海を眺めていた。
この青年の名は滝崎正郎(たきざきまさろう)、まだ20代ながらも大佐兼艦隊副官として乗り組んでいた。
「暗い海か…まるで何かに引き摺り込まれそうだな」
暗い海に視線を向ける滝崎に声を掛けたのは上官であり、同期生であり、艦隊司令の松島宮徳正だった。
「まあな…いよいよ、アメリカと開戦となれば…余計にこの闇に吸い込まれそうで怖いよ」
「……準備はした。訓練も、作戦も、戦略も、戦術も、外交も、物資も…出来る限り全ての手を尽くした。どれもこれも、お前の提言のお陰だ。そんなお前がそんな不安な事を言うな」
「歴史は指先程度の事で変わる……僕は転生者だから記憶の形でこれからの歴史を教えれたけれど、その歴史通りにいくかは解らないよ?」
「まあ、既に少し歴史が違うからな…だがな、お前が教えてくれた『歴史』は変える必要がある…いや、変えねばならん。多くの臣民が南方や沖縄、本土、満州で死ぬ情景を、空襲で焼かれ、核の実験動物にされ、極寒の重労働にさらされる未来など見たくは無い! 例え我が身を犠牲にしてでもだ! その第一歩がお前の存在なんだぞ、滝崎」
「……だが、上手くいったとして、間違いなく、歴史は変わる。多分、俺の知識は役に立たなくなるぞ?」
「大丈夫だ。お前の様に頭の回転が利く。その回転が役に立つさ」
「おいおい……さて、そろそろ戻るか、徳子(とくこ)」
「ふん、真の名前で呼ぶな。正義(まさよし)」
そう言って滝崎と松島宮は互いの本当の名前を言って艦内に戻っていった。
………後に日本史・世界史の教科書にも書かれる日米の対決と日本の勝利、アメリカ・ソ連の敗北、第二次大戦の終結……これに寄与する事になる若き2人士官、その2人に付いていく事になる2人の外国人士官と2人に関わった偉人達、艦魂(ふなだま)の物語。
そして……転生したがゆえに歴史と未来を変えようとする若者の軌跡を書いた物語である。
では……その切っ掛けとなる場面から見ていこう。
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