2011年9月15日 京都市内の一角
『危険な原子力発電を止めろ〜』
「「「「止めろ〜」」」」
自らが通う大学への通学中、京都市内の道路で東日本大震災以来『活発な』活動をしている反原発団体のデモ行進を青年……滝崎正義は白けた目で見ていた。
(止めるのは構わないが…その後をちゃんと考えてる……訳ないか)
電気を含めたエネルギー問題は国の命脈に繋がる一大問題であり、国と国民の運命を左右する話だ。
それを『危ないから』と言う単純な話で止めれる訳がないし、その影響と対策、代替手段を出さなければ始まらない話なのだ。
(歴史は繰り返す、か……アメリカの禁油の様にエネルギーを失えば日本は滅ぶ……歴史をしっかり教えないから、再びあの悲劇を繰り返すとも知らないバカが騒ぐのか)
未だにデモ行進を続ける一団に呆れた視線を送りながら滝崎は自らが通う大学への歩みを進める。
滝崎は大学で日本の近現代史を専攻、日米外交を主軸に卒論を書くつもりで色々と調べていた。
(『日本が中国を侵略をしたからボコボコにされて負けた』か……そんな単純な話じゃあない。そもそも、そこに政治・軍事・地勢学と言った事項も無い。そこを説明しないで軍事行動を全て侵略と説明するなんて…自分の無知を語っている様なものだ)
小学生の頃から『如何にして日本の被害を抑えて戦争を終わらせればよいか?』を考えていた滝崎は大学に入るまで独自に調べ尽くしていた。
故にあの集団に似た主張を掲げる輩を嫌っていた。
「……未来か…過去か…変えれるなら、どっちも変えたいな」
そう呟き、大学に向かう最後の小さな交差点を通った時、さっき滝崎の横を通り過ぎた少女に向かってトラックが向かって来た。
「危ない!!」
慌てて少女を押し退ける……が、次の瞬間、自分自身がそのトラックにぶつかり、飛ばされた。
(……マジかよ…ここで人生終了……仕方…ないか)
そう思った瞬間、意識が暗転した。
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「………ぅぅぅ……うぅ、ここは……病院…か?」
再び意識を取り戻した時、滝崎は見慣れぬ天井を見て呟いた。
「ん…おぉ、気が付いたか!?」
医者と思われる白衣を来た男が滝崎が意識を回復したのに気付いて近付いて来た。
「は、はい……えっと…ここはどこの病院ですか?」
「ん、ここは舞鶴の海軍病院だ。いや〜、海に転落して1週間も意識が戻らないのだから、此方はヒヤヒヤしたよ」
「……………え?」
医者からの言葉に滝崎は固まった。
舞鶴、海軍病院、海に転落、1週間……この4つのキーワードが引っ掛かっていた。
(京都市内に居た筈なのに、京都府の舞鶴だと? しかも、自衛隊ではなく海軍病院? 更に道路でトラックに当たって飛ばされた筈が海に転落? 1週間は…有り得なくはないが…どうなっているんだ?)
疑問に対し急速に意識がはっきりし、回転が上がる。
そして、ベッドのネームを見て滝崎は内心で驚いた。
(滝崎『正郎(まさろう)』!? お爺ちゃんの名前だぞ!?)
自分の祖父である名前のベッドに自分が眠っていた……これが示す答えは限られる。
「………すみません、今は何年ですか?」
「……大丈夫かね? まさか、転落で記憶を失ったのか?」
「え、あ、えぇ、なんか、頭の中がボヤーとしてて…」
「そうか…今は1935年…皇紀2595年4月12日だ」
「…あぁ、そうか、確かに1週間ですね」
そう呟きつつも、滝崎は内心衝撃を受けていた。
何故なら、自らが生きていた筈の70年も前の年代を言われたからだ。
その日の夜……病室
(1935年なら昭和10年か…1945年、昭和20年の敗戦の10年前だ)
そう考えながら滝崎は天井を眺めていた。
(何がどうなってるかはわからないが、ここが大戦前の日本である事は間違いない……となると、間違いなく、あの敗戦が再びきてしまう)
寝返りをうち、寝る体勢に入る滝崎。
(……まだ情報が少ない。下手な判断はダメだ。だけど……このままでいいのか?)
そんな自問自答を繰り返しながら、滝崎は眠りについた。
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