……誰かが俺をつけている気がする。
そう感じたのは、夕方の空の下の、住宅街でのことだった。
今日は高校生活始まって……と言っても、まだ数か月程度しか経っていないのだが、初めて友達を置いて1人で帰っていた。
理由としては、いい加減1人の時間を確保したかったからだ。
だが、それが仇になるとは夢にも思わなかった。
ちらっと空を見るふりをして、後ろを見てみる。
俺をつけてる誰かさんは、上から下まで黒い服を着ている男の人でした。
どわわわわあああああああああああっ!?
盛大に鳥肌が立った……!
男なのに誰かにつけられるとか、アッチ系の人か誘拐犯くらいしか思いつかない……って、どっちもどっちだなオイ! 危険しかねぇじゃねえか!
……だが、もしかしたら考えすぎなのかもしれない。
そうだ、きっとそうなんだ。
後ろで不気味な笑い声が聞こえるのも気のせいなんだ、うんうん!
若干顔を青ざめさせながら、俺は曲がり角を曲がった、その時。
左目の端で見えてしまった。
男が、こちらに向かって物凄い速度で走ってきているその姿を!
「どわああああああああああっ!? 誰か、誰かああああああっ!」
恐怖が背中を押すように、俺は走り出した。
なりふり構わず叫びながら。
待って待ってこっちくんな怖いやめろどっか行けマジですいませんなんもしてないけどマジすんませんだからこっち来ないでああああああああああああっ!
恐怖で頭が単純な言葉を並べ始める。
まともな思考なんて、できるわけがなかった。
少しずつ、少しずつ男との距離が縮まっていく。
それに比例するように、俺の体力も無くなっていく。
やがて、
距離は詰められ、
俺が最後に見たものは……
――黒い男の、狂ったような笑みが張り付けられた顔と、振り上げられた黒い腕だった。
……痛い。
意識が覚醒して一番最初に感じたのは、痛みだった。
頭がズキズキする。
手を触れてみると、軽く盛り上がりを感じる。
どうやら、たんこぶができてしまっているようだ。
痛みの原因を確認した俺は、目を開けて体を起こした。
目を開けたら、知らない場所だった。
「……はい?」
俺が倒れていたのは、どうやらどこかの部屋のようだ。
だが、暗くて部屋なのかどうかが、よく分からない。
俺が立っている床には、じゅうたんのようなものが敷かれており、じっと見てみると、分かりづらいが何かが書かれている……気がする。
……それより、ここは何処なのだろうか?
それと同時に、表現しがたい恐怖……突然の出来事に対する緊張かもしれないが、それがまた俺を襲う。
ポーカーフェイスの練習はしていたからか、表情には出てない……と思いたい。
中学生の頃にあこがれて練習したことが役立つ日が……役立ってない気はするが、とにかくそんな日が来るとは思わなかった。
そんな感じにいろいろと考えたり、気分を紛らわす為に適当に動いたり(壁に顔をぶつけてしまった。どうやら結構狭いようだ)していると、部屋に光が入ってきた。
光が入ってくる場所に立っていたのは、豪華な装飾品を体のいたるところに付けている、年老いた男性だった。
というかおっさんだった。
「お前が、カケル=ソラカネだな?」
「は、はぁ、そうですが」
自然に敬語が出た……それくらいの威厳を持っているようだ、このおっさんは。
……「おっさん」と思ってるくせに威厳を感じるとは。
矛盾してんじゃねえか……。
「そなたは大層混乱しておるじゃろう。だから、説明をしよう」
「はぁ……そいつはありがたいことで」
……何だか、ファンタジーものでよくある王様みたいな人だなぁ。
今日ってハロウィンだっけ?
「じゃが、こんなところで説明するのも気がめいるじゃろう。場所を変えようではないか。ついてきてほしい」
「はぁ、いいですよ」
おっさんが背を向けて、光に向かって歩いていく。
俺は、その背中を追いかけた。
……さっきから最初に「はぁ」って付けてばっかだなおい。