おっさんについていき、やがて広い部屋に入ったところでおっさんが止まった。
天井はそれなり高く、床はごつごつした岩を無理矢理つめたかのような感じで、狂ってもここには寝そべりたくないと思える。
そんl床の上には、何だか陣のようなものが書かれていた。
……何だ、これは?
「えっと……これ、何ですか?」
俺は、陣のようなものを指差しながらおっさんに質問した。
「あぁ……これはじゃのう……」
おっさんは、背中を向けたまま答えを返す。
「勇者を召喚するための魔方陣じゃ」
「……勇者?」
勇者とか、まるでファンタジーだな……って、召喚? 魔方陣?
待てよ、そんなものは現実にはない。
そんなものがあるのならば、とんでもない一大事だぞ……!?
「お、おいおい、ちょっと待てよ、これは夢か……?」
驚いて、考えてることが口に出る。
「残念ながら、夢ではない」
おっさんの言葉が、思考の退路を塞ぐ。
「ここは、そなたにとっての異世界じゃ。」
「はっ……!?」
夢、じゃ、ない?
じゃあ、俺は、創作物でよくある、異世界トリップをしてしまった、のかっ!?!?
現実?
今まで願ってきたことが?
「い、いやったああああああああああああああっ!!」
思わず拳をグッと握り、ガッツポーズをした。
拳には、今まで入れたこともないくらいの力が入った。
「そう……伝承では、ほとんどの者が興奮したようじゃな。だが、そなたはも」
「そこまでです、王様」
突然、何処かから男の声が聞こえてきた。
次の瞬間、いつの間にか鎧で覆われた人が、おっさんの隣に現れた。
俺はビックリしすぎて声も出ず、ただ腰が抜けて尻餅をついた。
「アルバ……」
どうやら、その鎧の人はアルバという名前らしい。
「これ以上は、話したら辛いだけです」
「しかし……」
「結末を知られたら、こやつはきっと暴れます。そうなれば、儀式の成功率が……」
「……」
アルバとおっさんが会話をする。
する度に、おっさんの顔はどんどん悲しそうになっていく。
……何だか、不穏な気配がしてきたぞ。
そして、暫くしておっさんがこちらを見て、一言。
ただ、その一言は、最後まで聞き取れなかった。
「ソラカネ殿、本当にすまな――」
ぶしゃあっ!
何かが弾けるような音がした。
それと同時に、腹の感覚が消え失せる。
痛みを除いて。
「う……うああああああああああああああああああああっ!?!?」
何が、起こっ、たっ!?
あまりの痛みにバランスが取れず、仰向けに倒れてしまう。
頭をうったような気がするが、それを越える痛みが腹を襲っている。
震える首を傾け、腹を見ると……直径5cmくらいの穴が開いていた。
そりゃ、痛い、わ、どあ、ほ。
力が抜けていく……。
それと同時に、寒さが体を襲い始めた。
あぁ……死ぬのかな。
漠然と、俺は死を感じていた。
この怪我で生き残れる、わけがない。
「本……す……」
誰かの声が聞こえてくるような気がする。
ただし、正確に聞き取れない。
……これが、死ぬって言うことなのかな。
何もわからず、死ぬのかな。
わけが全くわからないのに、死ぬのかな。
……嫌だ、死にたくない。
しにたくないしにたくない。
しにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイ。
だが、現実は無情だ。
俺の視覚は、死を表すかのように闇に染まっていき、そして――