「京ー、あんた着付け出来る?」
「いきなりなにさ。出来ないけど」
8月某日、乙女の質問に疑問を持ちながら答える。夏休みも残りわずかとなり、プールへ行ったりして終らせきれなかった残っている課題を片付けていた京は、全て済ませて彼のベッドでスマホを弄っている義姉の方へ顔を向ける。
「ほら、月末に夏祭りあるからさ」
「そうなんだ。義母さんは出来ないのか?」
「出来るよ?私も出来るし」
これまでもそうしていたのだろう、あっさりと言ってのける彼女に京は溜め息を吐く。
「俺が出来たら俺にさせるつもりだったのか……?」
「いや、単に気になっただけ。さすがにそこまではしないよ」
「どの口が言うのか……」
「でさ、あんたも行くでしょ?」
「まあ、予定ないし」
そもそもこちらに越してきて初めてなので夏祭りがあることなど彼は知らなかったのである。それを聞いた乙女は満足そうに頷いて、
「じゃあ決まりね。当日は他の子と約束しないように。浦風や戸村でもね」
「解った(なんでその2人なんだろ?)」
ベッドから起き上がると机にあるマジックを取り、カレンダーに「義姉さんと夏祭り」と書き込み、そのまま京に抱き着いて頭を撫でてくるので、京は溜め息を吐いて課題の手を止める。表情は呆れているが、癖毛はパタパタと動いているので、この手のスキンシップが若干癖になりつつあるようだ。
「義姉さん、暑い……」
「そんなこと言って、嬉しいくせに」
「はーなーれーろー……!」
抵抗するもいつも通り失敗に終り、ベッドまで引きずられてしまい昼寝の抱き枕役を強要させられてしまう。諦めた京は、手を伸ばしてエアコンの電源を入れる。
「おやすみー」
「出来れば離してほしいけど……」
「それは無理な相談だね」
少しして寝始める乙女からは結局抜け出せれず、京もそのまま寝てしまう。
そして、夏祭り当日。
京は背中に『祀』と書かれたTシャツ姿で、乙女は白い梅の花が描かれた赤い浴衣で祭り会場を歩いている。
「京って何か得意なのある?」
「あー?まあ、射的くらいなら」
「ふーん。じゃあ、見せてもらおうかな」
そう言って乙女は京の手を引っ張り、射的屋まで連れて行く。ここの景品は小さいものは箱入りのキャラメルから大きいものはくまのぬいぐるみまで様々だ。
「おっちゃん、一回分お願い」
「らっしゃい。やるなら一回300円だよ」
「はいよー」
300円払って銃と6発のコルク弾をもらい、内一発を詰めて残りを右手に持つ。
「なに狙うの?」
「んー、適当に落とせそうなのをっと」
そう言ってる間にもキャラメルを撃ち倒し、次弾を装填しもう一つのキャラメルに狙いを定めてそれも撃ち倒す。それで乙女と他の客数人から感嘆の声が上がるが京は気にせず、残り4発すべてをクマのぬいぐるみに使い、全弾命中したものの少し揺れる程度で倒すまでには至らなかった。続行するという選択もあったが京は選ばず、乙女と共に射的を後にする。ちなみに京が狙ったクマはその後、樹によって撃ち倒されたらしい。
「やっぱ4発じゃ無理か」
「ま、残念だったね。ん、あれって」
「あ、栢嶋くん。やっほー」
ぶらぶら歩いていると、笹の描かれた白い浴衣姿の明音が声をかけてくる。彼女は金魚すくいをやっていたようだが、戦果は良くなかったのか、1匹だけ持っていた。
「珍しいね、こういうとこで知り合いに会うのって。栢嶋くんは、先輩と?」
「まあ、うん。そっちは1人か?」
「ううん、あと戸村さんも一緒だよ。今はたこ焼きを買いに行ってるの。栢嶋くんは私服なんだ」
「京の丈に合う浴衣なくてね。着せたかったなー」
「まあいいじゃんか」
「ああいたいた。櫻井さーん」
そこへ、私服姿の美知留が合流する。右手にはたこ焼きのパックが2つ、左手にはリンゴ飴、そして斜め掛けにしたヒーロー物のお面と、かなり満喫しているようだ。その姿を見た瞬間、京は乙女の陰に隠れるようにして彼女の手を引く。
「あれ、京ちゃんに乙女先輩じゃないですか」
「義姉さん、そろそろ行こっか」
「え、いいの……?」
「ちょっと京ちゃーん!最近あたしの扱い酷くない!?」
「おうっ」
逃げる京を逃がすまいと襟首を掴む。そのまま手を伸ばして腕を首に回してしっかりと確保する。
「せっかくだし、先輩達も一緒に回りませんか?」
「私は構わないけど」
「ほら、乙女先輩もこう言ってるんだしさー」
「絞まってる絞まってる。離してやんな」
「げほっ、ごほっ……」
絞められた首をさすりながらせき込んだ後、乙女の陰から警戒心剥き出しで美知留を威嚇するも、絞められている間背中に当たっていた義姉よりも柔らかかった胸に目が行ってしまい慌てて視線を逸らす。
結局2人とはそこで別れて、京はわたあめを、乙女はリンゴ飴をそれぞれ買って食べ歩く。乙女はこのことをSNSに上げ美味しそうにリンゴ飴をかじっているが、京は少し怒ったような表情だ。
「まだ怒ってんの?」
「だってあのおっちゃん、俺の事中学生って…………」
その理由は、わたあめ屋の店主に身長のことから中学生と間違われたからだ。京の身長は150を少し超えた程度で、170近くはある乙女と並ぶとどうしても幼く見えてしまうのだろう。普段学校でも、典子といれば1年生に間違われたこともあった。
「そういう子供っぽいとこがあるのも問題かもね」
「お子様言うな……」
「そこまで言ってない。お、ほら京。花火上がったよ」
乙女の指差す先の空で大小色とりどりの花火が次々と上がっていく。
「おー……!」
まるで初めて見たかのように喜び、癖毛もパタパタと動く。それを見て乙女は、そういうとこも子供っぽいんだよと思いながらも口には出さず、そばで一緒に花火を見上げ続ける。
そして花火が終る頃、眠くなった京は乙女にもたれかかり、彼女は起こさないように背負って帰路に着いた。
ども、恐縮です。青葉―――じゃなくてクロウズです。まだ生きてます。
今回は夏祭りでのお話でした。4月に書く話じゃないとか、そんな突っ込みは受け付けておりませんのであしからず。
それではこの辺で。はいはい。艦隊出ますよー。