栢嶋乙女の朝は早い。毎朝弁当を作るからだ。長い髪をポニーテールにして、焼き上がった卵焼きその他を弁当箱に盛り付けていく。
「んー、よし。京ー、そろそろ起きなよー」
『ほりゅう』の刺繍が縫い付けられた自作エプロンを外し、まだ寝ているであろう義弟を起こしに2階に上がる。
部屋の前に立ち、耳を澄ませてみるも中から音は聞こえず、ノックをしても返事はない。仕方なしにドアを開けて中に入ると、案の定義弟の京は気持ち良さそうに眠っていた。
「はぁ……。京、起きなよー」
「ん………義姉さん……?」
「そ、京の好きな義姉さんだよ」
「んー……」
寝顔をじっくり見ていたい気持ちもあったが、時間も時間なので写真を撮るだけにしてから揺すって起こす。
目を覚ました京はそれでも寝ぼけているようで、のそのそと起き上がり、乙女に抱き着く。
「ん……朝からスキンシップは嬉しいけど、時間押してるし顔洗ってきな」
「んー……」
乙女は京をはがして洗面所に向かわせ、自分も部屋に戻って制服に着替える。
「それじゃあ京、また放課後にね」
「うん」
2年生のフロアで別れた後は3年生のフロアに行き、自身のクラスである3-Aに入り授業の準備をしてクラスメイトと話し込む。
「はよーっす」
「おはよう、今日もご機嫌ね」
「京とスキンシップしてきたからね」
「ああ、そう……程々にね?」
「気が向いたらね」
クラスメイトの一人が呆れた声で言うも、乙女はそう言って笑う。そうこう話しているうちに授業の開始を告げるチャイムが鳴るとともに教師が入ってきたので、自席に戻り授業を受ける。しかし、授業を受けながらも乙女は京のことを考えていた。
(京は授業ちゃんと受けてるかなー。1時間目は体育だって言ってたけど、どこだろ)
「じゃあここの問題を……栢嶋さーん、黒板の方見てくれないかしらー?栢嶋さーん」
(背低くてもあの犬耳は………お、いた。楽しそうだなぁ……)
「栢嶋さーん……仕方ないか、火野君、この問題解いてね」
「俺かよ……」
結局この時間、乙女は授業そっちのけで京をずっと見ていた。
「昼だー」
「今日は弟くんのとこに行かないの?」
京のクラスへ行かずに弁当を広げる乙女にあやめが訊ねる。
「今日は友達と一緒に食べるって言っててね。ちょっと寂しいよ」
「解るわぁ~。霞黒くんも今日は男どもと食べるって言っていないのよ~……」
「うわ、急に湧いてくるなよ」
「あなた達は少し距離を置きなさいよ」
頬をかきながら話す乙女に同意しながらにゅっとエレナが現れては乙女に引っ付いて悲しそうに愚痴る。乙女はそんな彼女を鬱陶しそうに引きはがし、その様子を眺めているあやめは苦笑しながら机を合わせる。その後3人で昼食を摂っていると、乙女が疑問を口にする。
「そういえば、火野って男友達いるの?」
「そりゃあいるでしょ」
「んー、桐崎くんとかだと思うけど、どうして?」
「いや、普段あんたとばっかだし、実はぼっちなんじゃないかって」
「「あー」」
納得したあやめとエレナ。特にエレナは四六時中一緒にいると言っていいものなので、納得せざるを得なかった。
「そういう弟くんは?なんか、女の子といるとこばかり見るけど」
「モテモテなのかしらねぇ?」
「京は男女問わず友達いるよ。転校生パワーってやつだね」
「て、転校生パワー?」
謎の単語に苦笑しかなかった。
その後も乙女とエレナが、京が霞黒がと愚痴をこぼしたり惚気たりし、あやめはそれに相槌を打つ形で昼休みを過ごしていった。
その放課後。
「それじゃあ、私と霞黒くんはこの辺でー」
「歩きにくいからそんなくっつくな」
「じゃあね、バカップル共」
先に帰る2人と別れた後、乙女も帰るため京のいる2-Cに向かう。彼女は一応日本文化研究会に所属しているのだが、幽霊部員なので普段は行っていない。しかし京のクラスメイトを誘った手前全く行かないのも悪いのか、最近はよく顔を出しているようだ。
「京ー、帰るよー」
「おっと。京よ、迎えが来たようじゃぞ」
「んー……」
教室に入り近付いてくる乙女に気付いたすずめが声をかけると、先程まで寝ていたであろう京が体を起こす。そしてそのまま、
「義姉さんだー……」
「おっとと」
乙女に抱き着く。どうやら寝起きでまだ寝ぼけているらしい。
「これ、京」
「ああ、いいのいいの。いつものことだから」
「いつも何しとるんじゃぬしらは……?」
すずめの疑問に乙女は笑うだけで答えず、起こさないように一度はがしてから京を背負いなおす。
「じゃあ浦風、私達はこれで帰るから」
「たまには部活に顔出して欲しいんじゃが」
「気が向いたらね。京がいない時とか」
「いっそ京も勧誘すればええじゃろ」
「…………それだ」
今気付いた、と言いたげなはっとした顔に、何故今までそう思わなかったのかと、すずめは思ったが声に出さないことにした。
それでも今日は帰ることを選び、部活勧誘は家ですることに。
「そっかぁ、京も誘えば良かったんだ。あんまり部活らしいことしてないし、ありかな」
「くぅ……すぅ…………」
(それにしても吐息がくすぐったい、変な気分になりそう……って、私は変態か)
背負っているため寝息が耳や首筋にかかり、その度に背筋が震えてしまう。京はそんな義姉の様子などつゆ知らず、呑気に子供のような寝顔を晒している。残念ながら乙女からはどんな寝顔かは見れないが。結局京は家に着くまで起きず、その間乙女は京の寝息と寝言で悶々し続けたという。
クロウズです。生きてます。
最近就活に明け暮れてたためなかなか更新できませんでした。それでも死なない限り最後まで頑張りますのでどうぞよしなに。カメラと棒付きアメとの方もちゃんと更新します。
前回は京メインだったので今回は乙女義姉さんメインにしました。次回は、小ネタとか番外編を作るかもしれません。
今日はこの辺で。兵装の手入れをしてきますね。