“夜叉姫”斑鳩   作:マルル

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第三十八話 伏魔殿

 大魔闘演武三日目。

 ゲスト席には魔法評議院強行検束部隊大隊長のラハールが招かれている。

 

「あれ、ユキノはんがいまへんな」

 

 斑鳩が剣咬の虎(セイバートゥース)のメンバーを見て首を傾げた。

 五人のメンバーの中にユキノの姿は無く、代わりに別の女性魔導士が入っている。

 

「……カグラが昨日圧勝しちゃうから」

「わ、私のせいか!?」

 

 カグラが珍しく声を裏返して狼狽する。

 

「……冗談は置いといて、新しく入った魔導士はミネルバだね」

 

 青鷺の言葉に斑鳩が頷く。

 

「剣咬の虎、最強の五人の一人どすな」

 

 ミネルバは剣咬の虎が躍進するきっかけとなった、五人の魔導士のうちの一人。これで剣咬の虎には最強の五人がそろったことになる。

 

「……ユキノには悪いけど、これでさらに手強くなったね」

「まあ、そうだな……」

 

 カグラも控えめに同意する。

 

『三日目の競技は伏魔殿(パンデモニウム)。参加人数は各ギルド一名です』

 

 実況席からアナウンスが入る。いよいよ三日目の競技も始まるようだ。

 

「さて、今回のメンバーはどうしましょうか。……あら?」

 

 誰を選出するか相談しようとしたところ、妖精の尻尾Aチームからエルザが迷いなく歩き出していくのが見えた。

 

「エルザはんが行くならうちが行ってもいいどすか?」

「みゃあ、私も行きたい!」

 

 斑鳩とミリアーナが名乗り出る。

 カグラがミリアーナの肩に手を置いた。

 

「お前は昨日出ただろう。ここは斑鳩殿に譲っておけ」

「むう、しょうがないなぁ。でもカグラちゃんはいいの?」

「私も昨日バトルパートで出たからな。お前たちもいいか?」

 

 カグラが青鷺とアラーニャに問いかける。

 

「……別にいいよ」

「私も異論はないね」

 

 青鷺とアラーニャが頷いた。

 

「皆さんありがとうございます。では、行ってきます」

「がんばってねー!」

 

 仲間たちの応援を受け、斑鳩は闘技場の中心へと向かっていく。

 そして、先に待機していたエルザに声をかけた。

 

「ほう、お前が出るのか」

「ええ、うちもそろそろ活躍しまへんと」

「そうか。だが、私とてむざむざ負けるつもりはないぞ」

「それでこそどす」

 

 斑鳩とエルザが話をしていると、また声がかけられた。

 

「これはこれは。見知った顔ぶれがそろっておる」

「む」

「あら」

 

 斑鳩とエルザが声に振り向けば、ジュラが歩み寄ってきていた。

 

「ジュラはんもどすか。これはおもしろくなりそうどすな」

「これで聖十大魔導がそろい踏みか」

「はっはっは。お互い、全力を尽くしましょうぞ」

 

 そして、他のギルドからも続々と参加者が集合し、三日目競技パートの参加者がそろった。

 参加者はそれぞれ次のメンバーである。

 

 

 大鴉の尻尾(レイヴンテイル) オーブラ

 人魚の踵(マーメイドヒール) 斑鳩

 蛇姫の鱗(ラミアスケイル) ジュラ

 剣咬の虎(セイバートゥース) オルガ

 青い天馬(ブルーペガサス) ヒビキ

 四つ首の仔犬(クワトロパピー) ノバーリ

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)A エルザ

 妖精の尻尾B カナ

 

 

 全員がそろったところでマトー君が登場。

 同時に、闘技場中央に邪悪な装飾がされた神殿が現われた。

 邪悪なるモンスターが巣くう神殿、伏魔殿。その巨大さに誰もが驚いて見上げている。

 続けて、マトー君によって競技説明がされていく。

 

「この神殿の中には百体のモンスターがいます。といっても我々が作り出した魔法具現体。観客の皆さんを襲うような事は無いのでご安心を。

 モンスターはD・C・B・A・Sの五段階の戦闘力が設定されています。内訳はSが一体、Aが四体、Bが十五体、Cが三十体、Dが五十体となっています。

 ちなみにDクラスのモンスターがどのくらいの強さを持っているかといいますと……」

 

 マトー君が空中を指さすと、そこに魔水晶映像(ラクリマビジョン)で神殿内の様子が映し出される。そこには一体のモンスターがいた。

 モンスターは石像に体当たりすると、いともたやすく石像を破壊してしまう。

 

「ランクが上がるごとに倍々に戦闘力が上がると思ってください。Sランクのモンスターは聖十大魔導といえど倒せる保証はない強さですカボ」

「む」

「へえ」

 

 その発言に聖十の称号を持つ、ジュラと斑鳩の二人が反応した。

 

「皆さんには順番に戦うモンスターの数を選択してもらいます。これを挑戦権と言います。たとえば三体を選択すると神殿内に三体のモンスターが出現します。

 三体の撃破に成功した場合、その選手のポイントに三点が入り、次の選手は残り九十七体の中から挑戦権を選ぶことになります。これを繰り返し、モンスターの数がゼロ又は皆さんの魔力がゼロとなった時点で競技終了です。

 数取りゲームのようなものですね。一巡したときの状況判断も大切になってきます。

 しかし先ほど申し上げた通りモンスターにはランクがあります。これは挑戦権で一体を選んでも五体を選んでもランダムで出現する仕様になっています」

 

 例えば、五体を選んでもDランクのモンスターが五体出現する場合もあれば、Sランク一体とAランク四体が出現する場合もあるということである。

 そして、モンスターのランクに関係なく撃破したモンスターの数でポイントが入る。

 

「一度、神殿に入ると挑戦を成功させるまで退出はできません」

「神殿内でダウンしたらどうなるんだい?」

「今までの自分の番で獲得した点数はそのままに、その順番での撃破数はゼロとしてリタイアとなります」

 

 以上で伏魔殿の説明が終了する。

 そして、くじ引きで挑戦する順番が決められる。

 

 

 一番、妖精の尻尾A エルザ。

 二番、四つ首の仔犬 ノバーリ

 三番、青い天馬 ヒビキ

 四番、大鴉の尻尾 オーブラ

 五番、剣咬の虎 オルガ

 六番、人魚の踵 斑鳩

 七番、蛇姫の鱗 ジュラ

 八番、妖精の尻尾B カナ

 

 

 エルザは自分が引いたくじを眺めながら呟く。

 

「この競技、くじ運で全ての勝敗がつくと思っていたが」

 

 その呟きを聞いて、マトー君が不思議そうにエルザに話しかける。

 

「くじ運で? い、いや……どうでしょう? 戦う順番よりペース配分と状況判断力の方が大切なゲームですよ」

「いや、これはもはやゲームにならんな」

 

 そして、エルザは堂々と宣言した。

 

「百体全て私が相手する。挑戦権は百だ」

 

 その宣言に会場中が唖然とする。そんな中、妖精の尻尾のメンバーだけが大笑いしていた。

 無理だと引き留めるマトー君の言葉にも構わず、エルザは伏魔殿の中へと入っていく。

 そして、エルザの激闘が始まった。

 強敵に囲まれ、傷つきながらも舞うように多彩な鎧や武具を使いこなして戦い続ける。

 その姿はエルザの異名、妖精女王(ティターニア)をまさしく体現するものだ。

 それを見て斑鳩は称賛と少しの呆れを抱きながら、隣のジュラに話しかけた。

 

「ジュラはんも一番ならこうしてました?」

「いや、ワシは五十一体で止めていただろうな。その時点で優勝は確定する」

「普通はそうどすな」

 

 言って、斑鳩はカナの方をちらりと見た。

 妖精の尻尾Bチームのカナの順番は最後である八番。仮にエルザが五十一体で止めたとすれば、前にジュラと斑鳩がいる以上モンスターはまず残らない。

 であれば、百体全てを倒してしまった方がカナに可能性を残せるのだ。

 

「そのために迷い無くこんな無茶を。本当、エルザはんらしいどす」

 

 そう言う斑鳩の視線の先で、エルザが最後の一体を倒した場面が映し出される。

 エルザが剣を掲げると同時、会場は大歓声で包まれた。

 

「し、信じられません! なんとたった一人で百体のモンスターを全滅させてしまった!! これが七年前、最強と言われていたギルドの真の力なのか!? 妖精の尻尾Aエルザ・スカーレット圧勝! 文句なしの大勝利!!!!」

 

 いつまでも会場の大歓声は鳴り止まない。

 そんな中、妖精の尻尾Aの10P獲得が告げられるのであった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

『えー、協議の結果、残り七チームにも順位をつけないとならないという事になりましたので、いささか味気ないのですが簡単なゲームを用意しました』

 

 闘技場の中心に、とある装置が用意される。

 魔力測定器(マジックパワーファインダー)MPF。この装置に魔力をぶつけると魔力が数値として表示される。その数値が高い順に順位をつけるということになったのだ。

 

「うちはこういう単純なものの方が好きどすな」

 

 挑戦する順番は先ほど引いたくじで決められた順番が引継がれる。

 そして、挑戦が始まる。

 

 

 二番、ノバーリ 124

 三番、ヒビキ 95

 四番、オーブラ 4

 

 

 三人の挑戦を終えたが、数値的には低めである。

 ゲストのラハールによれば数値が350程度あれば強行検束部隊で部隊長を任せることができるとのことである。

 続いて五番手のオルガが登場する。会場は大歓声で包まれ、相変わらず剣咬の虎の人気ぶりが感じられる。

 

「120mm黒雷砲!!」

 

 MPFに表示された数値は3825。暫定一位だったノバーリの三十倍にもおよぶ。

 会場から登場したとき以上の大歓声があがった。

 

「……へえ、やるね」

「ああ。だが、斑鳩殿の方が上だ」

 

 青鷺とカグラの視線の先、斑鳩がMPFに向かっていく。

 

『さあ、それに対する聖十の斑鳩はこの数値を越せるかどうか注目されます!』

 

 斑鳩が腰に差す刀の柄に手をかけた。

 

「無月流・迦楼羅炎!!」

 

 斑鳩が刀を抜き放ち、同時に豪火が立ちのぼる。

 そして、表示された数値は実に8426。オルガのさらに倍以上である。

 

『こ、これはMPF最高記録更新!! やはり聖十の称号は伊達じゃなーい!!』

 

 斑鳩がジュラの方を見やった。

 

「ふふん、どうどす?」

「これは驚いた。ワシも負けてはいられんな」

『続くは同じ聖十の称号を持つジュラ! 斑鳩の記録を超えることはできるのでしょうか!?』

 

 ジュラがMPFに静かに歩み寄る。

 合掌してしばしの瞑想。そして、一気に魔力を解放した。

 

「鳴動富嶽!!」

 

 MPF直下の大地が爆発。MPFはその爆発に飲み込まれ、数値は8544を記録、斑鳩を僅かに上回った。

 

「この勝負はワシの勝ちのようだな」

「むむう……」

 

 斑鳩が唸る。本気で悔しかった。

 

『ジュラが斑鳩の記録をさらに更新!! これが聖十大魔導の実力か!? 格の違いを見せつける!!!』

 

 聖十大魔導二人の実力にさらに沸き立つ会場。盛り上がりはどんどんと高まっていく。

 だが、競技はまだ終わっていない。最後の一人が残っている。

 

『最後の挑戦者は妖精の尻尾Bカナ・アルベローナ。聖十の二人の後ではなんともやりづらいでしょうが、がんばってもらいましょう』

 

 カナは酒瓶を片手に持ち、顔を赤くしている。明らかに酔っ払っていた。

 

「やっと私の出番かい」

 

 カナが上着を脱ぐ。あらわになった右腕にはなんらかの紋章が浮かんでいる。

 

「集え! 妖精に導かれし光の川よ!! 照らせ! 邪なる牙を滅するために!! 妖精の輝き(フェアリーグリッター)!!!!」

 

 極光がMPFを飲み込む。

 光がおさまった後、そこにはMPFの影も残っていない。そして、9999という数字だけが浮かび上がっている。

 会場はそのあまりの衝撃に沈黙に包まれる。

 

『MPFが破壊……。カンストしています。な、なんなんだこのギルドは。競技パート1・2フィニッシュ!! もう誰も妖精の尻尾は止められないのか!!』

「止められないよ! なんたって私たちは妖精の尻尾だからね!!」

 

 カナが高らかに声をあげる。その言葉で会場の沈黙は今日一番の大歓声へと変じた。

 こうして、大きな盛り上がりを見せて三日目の競技パートは終了するのであった。

 そして、観客と同じく唖然としていた斑鳩は何かに気付いてはっとする。

 

「あれ、ということはうちが四位?」

 

 三日目競技パートの最終結果は次の通りである。

 

 

 一位 “妖精の尻尾A”エルザ

 二位 “妖精の尻尾B”カナ

 三位 “蛇姫の鱗” ジュラ

 四位 “人魚の踵” 斑鳩

 五位 “剣咬の虎” オルガ

 六位 “四つ首の仔犬” ノバーリ

 七位 “青い天馬” ヒビキ

 八位 “大鴉の尻尾” オーブラ

 

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「うう、すみまへん……。不甲斐ない結果で」

 

 競技終了後、席に戻った斑鳩は落ち込んでいた。

 

「斑鳩殿の強さは魔力量だけで測れるようなものではありませんから」

「そうそう。それに数値はオルガと倍以上違ったんだから凄いよー」

「そうだね。斑鳩で四位なら誰が出てもダメだったさ」

 

 ギルドのメンバーたちが口々に慰める。

 

「……でも、神刀の力を解放すればカンストはいけたんじゃない?」

 

 青鷺はそう言って、斑鳩の腰にある刀に目をやった。

 その言葉に斑鳩はふるふると首を横に振った。

 

「あくまで大魔闘演武はお祭り。制御しきれていない力を使って良いような場所ではありまへんから」

「……まあ、そうだけど」

 

 青鷺は斑鳩の言葉を聞いても少し不満そうだった。

 

「まったく、お前という奴は」

 

 カグラが笑みを浮かべて青鷺の頭をがしがしと撫でる。

 

「……やめてよ。私もう子供じゃないんだけど」

 

 そうこうしているうちに、バトルパート開始のアナウンスがなる。

 

「あ、第一試合は私だ。それじゃあ行ってくるね!」

 

 そう言ってミリアーナは闘技場に向かっていく。それを見て斑鳩もいつまでも落ち込んではいられないと応援の言葉をかけるのだった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 第一試合は“人魚の踵”ミリアーナ vs “四つ首の仔犬”セムス。

 この試合は危なげなくミリアーナが勝利。あっさりと10Pを獲得するのだった。

 

「元気最強?」

 

 ミリアーナは縛り上げたセムスの上で、不敵に笑みを浮かべる。

 

 

 第二試合は“剣咬の虎”ルーファス vs “青い天馬”イヴ。

 イヴの雪の魔法に、ルーファスは記憶造形(メモリーメイク)で炎の魔法を造形して対抗する。イヴも健闘したが、イヴの魔法がルーファスに届くことはなく、ルーファスの勝利で幕を閉じた。

 

 

 第三試合は“妖精の尻尾B”ラクサス vs “大鴉の尻尾”アレクセイ。

 この試合は一日目に行われたルーシィとフレアの戦いの件もあるため、不正が無いか斑鳩たちも警戒していた。

 そして、心配していた通りのことが起きる。

 

「カグラはんたちは今、試合がどうなっているように見えますか?」

「ラクサスがアレクセイに一方的にやられているように見えますが……。まさか、やつらまた何かを?」

 

 カグラの問いに斑鳩は頷く。

 

「うちには今、闘技場の中心で相対している二人の姿が見えます。まだ、戦いは始まってもいまへん」

 

 おそらく大鴉の尻尾は会場全体に幻覚魔法をかけているのだ。

 斑鳩は天之水分(あめのみくまり)羽衣(はごろも)の力で干渉系魔法が一切効かないため、真実の姿を見ることが出来ている。

 

「そうですか。ならば、止めますか?」

「いえ、幻覚魔法が禁止されているわけではありまへん。実際、ラクサスはんがアレクセイはんを倒してしまえば幻覚は解けて勝敗は明らかになりますから、なんの問題はないでしょう。しかし……」

 

 斑鳩がその視線を険しくする。

 視線の先、アレクセイの後方から大鴉の尻尾の他のメンバーが姿を現した。さらに、アレクセイが仮面を取ると、ギルドマスターであるイワンの顔があらわになる。

 五対一での戦闘、ギルドマスターの参戦は立派なルール違反である。

 流石にこれは見過ごせないと斑鳩は刀を抜いた。

 斑鳩の剣気に、闘技場の中心にいたラクサスや大鴉の尻尾のメンバーたちも気がついた。これは、引き下がって正々堂々と戦うのならば一度だけは見逃すという警告であったのだが、これに反応したのは大鴉の尻尾ではなくラクサスであった。

 

「手出しはいらねえ! 部外者は引っ込んでろ!!」

「んな!?」

 

 思わぬ言葉に斑鳩の気勢がそがれる。

 大鴉の尻尾がそんなラクサスを嘲笑うが、当の本人はどこふく風だ。

 その後も少し会話がなされた後、ラクサスと大鴉の尻尾で戦いが始まる。

 

「これは……」

 

 その戦いを見て斑鳩は驚いた。

 五対一にもかかわらず、大鴉の尻尾はラクサスに手も足も出ない。あっと言う間に五人を片付けると、幻覚が崩れ去り、真実の姿があらわになる。

 これにより、大鴉の尻尾の不正が発覚。失格となると同時に、今後三年間の大会出場権を剥奪されたのだった。

 

「この強さ、エルザはん以上。聖十大魔導級かもしれまへんな」

「それほどですか……」

 

 斑鳩の呟きを聞いて、カグラを始めとする他のメンバーも驚きに目を見はる。

 なにはともあれ、第三試合はラクサスの勝利で幕を閉じるのだった。

 

 

 第四試合は“妖精の尻尾A”ウェンディ vs “蛇姫の鱗”シェリア。

 天空の滅竜魔導士と滅神魔導士の戦いは熾烈を極めた。

 その可愛らしい見た目に反するように、意地と意地がぶつかり合う。結局、制限時間を迎えても決着はつかず、この試合は引き分けとなる。

 

 

 これで、大魔闘演武三日目が終了。

 

 

 一位 人魚の踵 37P

 二位 剣咬の虎 31P

 二位 蛇姫の鱗 31P

 四位 妖精の尻尾B 30P

 五位 妖精の尻尾A 27P

 六位 青い天馬 18P

 七位 四つ首の仔犬 14P

 失格 大鴉の尻尾

 

 

 ついに人魚の踵が一位に躍り出る。その下で剣咬の虎と蛇姫の鱗が並び、妖精の尻尾が猛追する。青い天馬と四つ首の仔犬は少し差をつけられてしまう形となった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「カグラ、お客さん」

「私にか?」

 

 夜、カグラは宿で体を休めていると、来客だとアラーニャに呼ばれた。

 宿の玄関に行ってみると、そこにはユキノがいた。

 

「こんばんは」

 

 ユキノがぺこりと頭を下げる。カグラもそれに返礼した。

 

「そなたであったか。てっきり来るとすれば昨日のうちかと思っていたが」

「すみません。昨日の夜はいろいろとあったもので……」

 

 ユキノが苦笑する。

 

「とりあえず上がっていけ。宿の談話室にでも行こう」

 

 カグラに促され、二人は宿の中へと入っていく。そして、談話室に誰もいないことを確認して席に腰をおろした。

 

「それで、話があるのだろう。何が聞きたいのだ」

「えっと、そうですね……」

 

 ユキノは考え込むが、何から聞けばいいのか考えが纏まらないのであろう。なかなか口を開けないでいた。

 見かねてカグラが先に口を開く。

 

「分かった。そなたが聞きたいであろうことを一から説明していこう」

「も、申し訳ありません……」

 

 ユキノが恐縮して身を縮める。

 

「そうかしこまらなくてよい。ただ、そなたが期待しているような回答はできないとあらかじめ伝えておこう」

「そう、ですか……」

 

 ユキノが沈鬱に顔を伏せた。

 カグラは胸が痛むのを感じたが、つとめて表情には出さなかった。そして、あらかじめ用意していた言い訳を並べ始める。

 

「闘技場でも言ったが私は七年前、八年の時を経て兄と再会した。その兄の話によれば、攫われた後は楽園の塔建設のための奴隷として強制労働させられていたという」

「楽園の塔ですか。聞き覚えがあります」

「ああ、七年前のエーテリオン投下は評議院の再編を引き起こしたりと大ニュースになっていたからな。だが、今回は楽園の塔に関しては一旦置いておこう。その時、兄たちのような奴隷は複数人ごとに牢に入れられて共同で生活していた。その時、兄と同じ牢にいた少女がソラノ・アグリアという少女だったという」

「本当ですか!?」

 

 もちろん嘘である。カグラの兄であるシモンとユキノの姉であるソラノに接点などない。

 騙していることに心を痛めつつ、カグラは本当だと頷いた。

 

「随分と世話になったようだ。そしてある日、奴隷による反乱が起きた。その反乱は見事に成功し妄信者たちの集団を駆逐することに成功した。その後、ジェラールによって楽園の塔は再び支配されるのだが、それも一旦置いておこう。兄とそなたの姉はこの時点で楽園の塔からの脱出に成功したのだ」

「脱出……」

「ああ。だが、脱出した後で兄とそなたの姉ははぐれてしまったらしく、それからの足取りはつかめていないらしい」

「そうだったのですか……。それで、私を知って」

「ああ、その綺麗な白い髪とアグリアという姓。名前もユキノとソラノで似通っている。偶然と考えにくい。おそらく血縁者、姉妹といったところだと思ってな」

「なるほど、そうだったのですか」

 

 納得したと、ユキノは頷いた。

 

「久しぶりにお姉様の話を聞けて嬉しかったです。ありがとうございました」

「いや、大した情報も無くすまない。ただ、そなたの姉も生きている可能性は高い。諦めずにいて欲しい」

 

 そのカグラの言葉にユキノは笑みを浮かべる。無理矢理浮かべた、ぎこちのない笑顔だった。

 

「もう、いなくなって十五年以上経つんですよ。私もこれまで必死に探してきたのに、楽園の塔を脱出したうえで見つからないのであればそれは……」

「…………そんなことはない。信じ続ければ必ず見つかるはずだ」

 

 ユキノはゆっくりと、悲しそうに首を横に振った。

 カグラはもう全て喋ってしまいたい衝動に駆られる。言うべきか言わないべきか迷って口ごもっていると、ユキノがカグラに気を遣わせていると思ったのか慌てて口を開いた。

 

「そこまで心配して頂かなくても大丈夫ですよ。それに、お話を聞いて決心もつきましたし」

「決心?」

 

 カグラが訝しげに問い返すと、ユキノは少し躊躇した後で話し始める。

 

「実は、私は王国軍に入ろうと思っているのです」

「なんだと?」

 

 思いがけない言葉にカグラは目を丸くする。

 

「ギルドはどうしたのだ。まさか、辞めるのか?」

「はい」

 

 ユキノは頷いた。流石に、辞めさせられたなどとはカグラには言えなかった。

 

「なぜ突然……」

「詳しくは言えないのですが、王国軍の偉い方が私の力が必要だと言ってくださったもので」

「王国軍がそなたを必要としている?」

 

 ユキノの言葉が、カグラには妙に引っかかる。

 

「失礼なことを言うようで悪いが、そなたの力とは星霊魔導士としての力のことか?」

 

 その問いにユキノは目をまたたかせた。

 

「な、なぜそれをご存じなのですか」

 

 カグラの頬を冷や汗が伝う。

 

(なぜこの時期に星霊魔導師を。まさか、王国はエクリプスの扉を開こうとしているのか!?)

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 ジェラールは手紙に目を通している。

 手紙はつい先ほど、影狼によって運ばれてきたカグラからの手紙である。

 

「ウルティア、メルディ。これを読んでみてくれ」

「なになに……? って、これは!」

 

 ウルティアがジェラールの方を見やる。

 その問いかけるような視線にジェラールは頷いた。

 

「昨日のエルザからの報告もある。エルザはおそらく思い過ごしだろうといっていたが、間違いないだろう。王国は、姫は、エクリプスを開こうとしている」

 

 その言葉に、ウルティアとメルディが息をのむ。

 そして、ジェラールはひとつ決断した。

 

「一旦、冥府の門(タルタロス)の捜索は中止。エリックたちを呼び寄せよう。こちらの方が先決だ」

「わかったわ」

 

 ジェラールの言葉に二人は頷いた。早速、ウルティアがエリックたちに連絡をとろうと試みる。

 ジェラールは遠くに佇む華灯宮を眺めやった。

 

(ヒスイ姫はむやみに約束を反故にするような方ではないと思えた。一体、何が起こっているというのだ)

 

 考えを巡らせていると、ジェラールの肩が叩かれる。

 振り返るとメルディがいた。メルディはおずおずと小さな声で話しかける。

 

「ねえ、ソラノはどうするの?」

「ああ……」

 

 メルディの視線を追うと、そこには大魔闘演武にもうユキノが出ないことを知ってそうそうに不貞寝したソラノの姿があった。

 

「どうもなにも言わないわけにはいかないだろう。ただ、ユキノのことは気をつけて伝えないと暴走しかねんな……」

「だよね」

 

 そう言って、二人は深々と溜息をつくのであった。


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