ダンジョンに夜天の書があるのは間違ってるだろうか 作:暇人M.MAX
「おや、リインちゃん今日も買い物かい?小さいのにいつも偉いね〜〜」
リインフォースはいつも食材を買ってる八百屋に来ていた。
買い物はいつもリインフォースが担当している。ナハトに頼むと何を買ってくるかたまったもんじゃない。
「いえ、命がかかってるので」
「?」
リインフォースはナハトの家事全般の壊滅的才能のなさを考えながら答える。我母ながら買い物もまともにできないのはどうなんだろうか、とリインフォースは密かに思っていた。
そんなことを知らない八百屋のおばさんはリインフォースを唯一の親であるナハトの手伝いをする良い子と認識しているのであった。
「おっ、リインフォースいるじゃん。どうだ遊びに行こうぜ」
八百屋のおばさんと話してると店の奥からおばさんの息子が出てくる。歳はリインフォースと同じぐらいで今のリインフォースより背は高い。
「こら、あんた今日は店の手伝いするって約束だろ」
おばさんは少年に怒鳴りつける。男の子はそんなこと御構い無しにリインフォースに詰め寄る。
「お誘いのところ悪いが母さんが家で待ってるから、また今度誘ってくれ」
「お、おう。今度な、絶対だぞ」
リインフォースは少年に断りの返事をする。誘ってくれたことに一応は感謝する思いも込めて微笑んで返事をしたリインフォースに少年は照れたように頬を赤くしながら次の約束をする。
「このませ餓鬼はあんたはさっさっと手伝いな。ほらリインちゃんこれいつものだよ」
「イテッ〜、叩くなよこのクソババ」
おばさんは少年の頭を叩くとリインフォースに頼まれてた食材を渡す。少年は叩かれたことに不満をぶつけるがおばさんはそれを聞き流す。
「ありがとうございます。では、自分はこれで」
「また、おいでね」
「約束破るなよ」
リインフォースは食材を貰い用は済んだのでその場を立ち去る。2人はリインフォースを見送る。
少年はリインフォースが去っていった方向暫く見つめ続ける。そんな息子をニヤニヤと見つめる母親。幼い自身の息子がリインフォースにどんな感情を抱いてるのかは息子は気づいていないだろうが、周りから見るに明らかに好意を抱いてるのはまるわかりだ。
「な、何だよ」
少年は母親に見つめられてたことに気づき藪から棒に言う。
「まぁ、頑張りなさいよ」
母親は少年の頭を撫でる。少年は母親が何を言ってるのかわからないような顔をする。
リインフォースはあらかたの必要なものを買い揃え帰路についていた。
「リインフォースじゃないか、1人で買い物か?」
歩いているとこの前出会ったリヴェリアと出くわす。
向こうも何かの買い物中だったらしく袋を抱えていた。
「久しぶりです、リヴェリアさん。食材が底を尽きたので買い出しをして今帰りです」
リインフォースはリヴェリアに挨拶を返す。普段は男口調のぶっきら棒なしゃべりだが目上の人にはちゃんと礼儀正しくする。母親以外は大半は丁寧語で喋るのだが。
「そうか、ナハトは見えないが1人でか?」
「はい、母さんに頼むと変なものも買ってくるし一緒にいると鬱陶しいので」
「そ、そうか」
リヴェリアの疑問にリインフォースは答える。リヴェリアは返ってきた返答に苦笑いを浮かべる。実の娘に鬱陶しいといわれ、買えものさえ満足にできないと思われてる自身の友人が少し哀れに感じてきていた。
「しかし、1人で出歩くことには感心できんな。ここら辺は治安がいいとはいえ、ならず者がいないとは限らないぞ」
リヴェリアはリインフォースが1人のことに心配になってつい叱ってしまう。
「大丈夫ですよ。なるべく人の多い道を通ってますし。変態(ロリコン)の撃退は心得ております」
しかし、リインフォースは笑顔で答える。しかし、その笑顔は清々しいほど爽やかすぎ黒い笑みだ。リヴェリアは一体どうやって撃退するのか怖くて聞けなかった。
「そうだとしてもこれからはナハトと一緒に出かけろ。私もなるべく顔を出すようにするから私を頼るようにしろ」
リヴェリアは目の前のリインフォースがこのままでは変な道に進みそうで逆に心配になってしまった。
「リヴェリアさんと出かけるのはいいですが母さんとは嫌です」
リヴェリアの進言に即答で答える。
今の言葉を聞いたらナハトはどれだけ落ち込むだろうかと内心思ってしまったリヴェリアだった。
リヴェリアはリインフォースを送ることにしリインフォースもそれを了承した。
2人が暫く歩くとリインフォースの家である本屋の前についた。
「・・・だから、そんなものは無いと言ってるでしょ!」
家の前に着くと店内からナハトの怒鳴り声が聞こえてくる。
リインフォースとリヴェリアはそれを聞くと急いで中に入る。
中にはナハトと1人の男性がいた。
男性は小太りで裕福そうな服装をしており趣味の悪い装飾品をつけていた。
「可笑しいですな、確かな情報ではここに魔導書があると聞いたのですが?」
「だからそんなのありませんと言ってるでしょ!」
男性は薄気味悪い笑みを浮かべながらナハトに問う。ナハトはそれを全力で否定する。
「おい、何をしている」
2人の様子を見たリヴェリアが静かに怒鳴りつけるように言う。
「ちっ、奥さんまた今度来ますのでちゃんと魔導書を用意しといてくださいね」
男性はリヴェリアを見ると場が悪そうな顔をし店を後にする。その時、リヴェリアの後ろに隠れてたリインフォースと目が合い気色悪い笑みを浮かべ立ち去っていった。
「ナハト、大丈夫か」
リヴェリアはさっきまでの攻防に疲れたのか椅子に雪崩れ込むように座りだしたナハトに詰め寄る。リインフォースもそれに続くようにナハトに近づく。
「大丈夫よ。少し疲れただけだから」
ナハトは笑顔で答える。
「何があったんだ」
リヴェリアは何もされていなかったことに安堵を覚えさっきの出来事のことを聞き出す。ナハトは仕方ないと思い話すことにした。
「そうか」
一通りの話を聞いたリヴェリアは少し考えるような動作をする。
さっきの男は地方の商人でオラリオでたまに地方の商品を売ったりオラリオの武具などのものを買い取り地方で売っている商会の会長らしい。最近オラリオに来たときたまたまナハトの店に魔導書を置いているという噂を聞きつけ来たらしい、なんでも魔導書を買いたいと言い出してきた。魔導書の価値は計り知れない、足元を見て安値で買いつけるつもりだったのだろう。
「しかし、厄介な奴に目をつけられたな」
リヴェリアはそうで言う。
男の商会は今ではオラリオでも屈指の商会だ。迷宮都市といえで全てが自力でなんとかなるわけでは無い。地方の商人に頼ることも多々あるのだ。
「大丈夫よ。なんとかなるは」
「私も力を貸そう。ロキファミリアの名を出せば向こうも引き下がるだろう」
「そんなことであなたに迷惑はかけられないわ!」
ナハトはリヴェリアの提案を断る。
リヴェリアの所属するロキファミリアはオラリアでも屈指のファミリアだ。向こうもロキファミリアを敵に回すのは得策では無いと考えるだろう。しかし、ナハトはそれを断った、様々な理由はあるがリヴェリアにあまり迷惑をかけたく無いという一番の理由だ。自分にもしものことがあればリインフォースのことはリヴェリアに任せた。しかし、それ以外は迷惑をかけたく無いのだ。
「何を今更!私がどれだけお前に迷惑をかけたと思ってる。それに比べればこれぐらいは「お願い、あなたの立場を考えて」・・・」
リヴェリアは引き下がろうとしなかったがナハトの言葉で押し黙る。
リヴェリアはファミリアの副団長、その立場の者が私情でファミリアの名を使うのは周りの団員に反感を買うことになる。幹部達に話せば許可を貰えるだろうが下っ端達は、それも2年前にいなかった団員達は良く思わないだろう。
古参の団員はナハトに助けられた恩が多々あるが新米達は何も無い。
「それでも、私はお前の力になりたいんだ。・・・姉さん」
リヴェリアは小さな声で最後は自分に言い聞かせるみたいな声で言う。それをナハトはしっかりと聞き取ることができていた。
「ありがとう。あなたにまだ姉として慕われて嬉しいわ。里にいた頃を思い出すわね。でも、ごめんなさい。これはあえて言えば姉としての意地なのよ。妹に頼るなんてあまりしたく無いものね」
「ッ・・・」
ナハトはリヴェリアに微笑みそう言う。リヴェリアはその笑みを見ると歯を食いしばり自分の無力さを思い知らされる。
「リイン、また3人で食事をしたいからちょっと早いけど食事の用意して」
「わかった」
今まで2人の言い合いを見ていたリインフォースにナハトは食事の用意を頼む。リインフォースはそれを了承して買ってきた食材を持って台所に向かう。
「リヴェリア、何もあなたに頼み事をしないと言うわけでは無いのよ。あなたにはリインのことをお願いしたいんだもの」
「それは、お前が死んだ後のことだろう。私は今、お前の力になりたいんだ」
「嬉しいけど、リインのことに全力を注いで欲しいの。今日来てくれたのはちょうど良かったわ。これを渡すわ」
ナハト1つの白の短刀をリヴェリアに渡す。
「魔剣・・・・」
リヴェリアはそれを見てなんなのかをすぐに理解した。
「ええ、それには沈まぬ太陽、白夜が入ってるわ。あの子が暴走してもしばらくは動けるはずよ」
「なぜ、こんな物を渡す。これではお前がまるで」
「もしもの保険よ。それにこれを渡したのは私が暴走した時のためでもあるもの」
その言葉を聞きリヴェリアは目を見開く。その言葉を意味すること。後継者ができた今、ナハトには1つの道ができたこと。それが何を意味するのかを。
「私に、お前を殺せと言うのか」
リヴェリアは小さな声で問う。その声にはどこか怒りが交わっている。
「ええ、私はやっと死ぬことを許された。でも、あまり死にたくは無いわね。今はリインがいるから本当はリインと2人、いえあなたも合わせて3人で幸せに暮らしたいわね」
「なら!こんなもの!」
リヴェリアは手に持った魔剣を地面に叩きつけようとする。しかし、ナハトによってそれは止められる。
ナハトはリヴェリアを見つめ首を振る。それはしてはいけない。目がそうリヴェリアに語りかけている。
しばらくするとリヴェリアは振りかぶった手を下ろし、静かに謝る。
「そうだわ。今度、フィンやガレス、ロキも連れてきて6人で食事をしましょう。リインフォースにも合わせたいし」
「ああ、わかった」
リヴェリアは心を落ち着かせそう答える。
この後、3人は静かで平凡で退屈な幸せな日常を過ごすことになる。
しかし、一刻と日常の崩壊は崩れていくことに誰も気づくことはできなかった。