世界の狭間に浮かぶアルティメギルの秘密基地。
その中で一つの覚悟を決めた戦士が薄暗く長い廊下を一人で歩いていた。
二メートル以上の白い体躯。
背に生えている強靭な背びれ。
自身の顔の前に生える鋭利な牙。
一人歩を進めるシャークギルディの前にオルトロスギルディが立ちはだかる。
「行くのか? 自身の部下に……また何も言わずに」
廊下の壁にもたれかかり目を瞑りながら問うオルトロスギルディはこれからシャークギルディが言う事をわかっているようにも見えた。
「オルトロスギルディ様、我はもう隊長などではありませぬ。 我には隊長の資格などなかったのです」
「……」
相変わらずオルトロスギルディは目を瞑ったままだ。
「隊長としてではなく、アルティメギルの一隊員としてテイルホワイトに挑み、奴の属性力を奪ってきましょう!」
「そうか、俺も楽しみにして待っている。 必ずテイルホワイトの属性力を頂いてこい」
「御意」
シャークギルディが自分の前を横切るとようやく目を開けオルトロスギルディはシャークギルディと反対の方向へと歩き出した。
「帰ってきたら……メロゲイマ・アニトュラーに再挑戦だな。 俺は、続きが読みたい」
「ッ!?」
いつもよりも随分と高い声で厳しい宣告をするオルトロスギルディにシャークギルディは何かを気づいたような素振りを見せた。
去っていくオルトロスギルディに対し、深くお辞儀し再びシャークギルディは歩を進め出した。
テイルホワイトを倒すための道を、ようやく歩き始めたのだった。
オルトロスギルディが廊下の角を曲がると一体のエレメリアンと出くわした。
銀色の毛並みに、鋭く尖った耳と口からはみ出た真白い牙は狩人を彷彿とさせる。
かつて光が灯っていたような鋭い瞳は濁り、影を落としてしまっていた。
「よろしいのですか? 私めの力が必要とあらばすぐにでもシャークギルディの援護へと」
「フェンリルギルディよ。 お前は自分の立場をわかっているのか?」
フェンリルギルディと呼ばれたそのエレメリアンはいずこからか、女性の下着を取り出した。 肌触り滑らかシルクの煌めきが彼の銀色の体毛に調和し、映える。
「あなたに助けていただき、私はあなたオルトロスギルディ様へ忠誠を誓いました。 もう幹部の座など欲してはおりません、しかし……」
「しかし、なんだ」
「体操服属性(ブルマ)や学校水着属性(スクールスイム)が正しく、下着属性(アンダーウェア)が邪という風潮を無くそうと努力するのは変わりません」
全ての属性が仲間内で認められるものではない。 同じエレメリアンにあって、外道の誹りまでなくとも、眉をひそめられるものも少なくない。
「もっとも私と違い、全てのエレメリアンが崇拝するツインテール属性のあなたではわからぬことでしょうが……」
己が手にしていたシルクの下着をオルトロスギルディに手渡しオルトロスギルディの鑑へと戻っていった。
「……俺にはわからん……か」
すっかり野心を失い、自分の属性のための戦士となったフェンリルギルディ。 シャークギルディの復讐に騒々しくなる鑑の中、その足音は誰よりも孤独だった。
◇
夏休みも半分が過ぎ、今はもう八月の半ば。
残り少ない夏休みを満喫したいと考え、修了式からずっと待ち焦がれてきたところに私はいる。
そこは━━━━━━
「「うみ━━━━━━っ!!!」」
私の左右にいた志乃とフレーヌが砂浜を駆け抜け海にヘッドスライディングで入っていった。
大きなしぶきが太陽に照らされキラキラと光る様は今が真夏だとしつこいぐらいに私に教えてくれる。
しぶきだけでなく海ではしゃぐ志乃とフレーヌそして………クラスの面々……。
そう、クラスのRINEのグループで海へ行こうということになり今に至る。
ちなみにイマジンチャフを使っているのでクラスの人たちは全くフレーヌに違和感を抱いていない。 さすが便利だ、イマジンチャフ。
「お前は泳がないのか?」
「また話しかけてきてるし」
ビーチパラソルの下のシートに腰掛けていると嵐が話しかけてきた。 嵐も私のクラスメート、ここにいても不思議じゃないけど最近なんで話しかけてくるんだろう。
もしかしたら私の話しかけてくるなオーラが消えかかってるのかもしれない。
「いや、この前久しぶりに話しかけたら前と変わんなくて安心してさ」
「無視したのに話しかけてくるんだもん」
「ほら、やっぱり変わらないな」
私を指差してニカッと笑う嵐をみるとまたイライラしてくる。
私は嵐を無視して海へと視線を向けた。
クラスメート達何十人かに混ざって志乃とフレーヌが楽しそうにボールで遊んでいる。
む、志乃の胸が揺れた……。
志乃の胸を直視できなくなり今度は海の手前にある砂浜に視線を向ける。
小さな子供が砂のお城を作ったり、カップルの彼女が彼氏を砂に埋めたりと様々な遊びをしている。
改めてみると綺麗な世界だ。
もし属性力を奪われ尽くしたらこの光景も無くなっていっちゃうのだろうか。
絶対にそんなことはさせない。この美しい私の世界をアルティメギルなんかに侵略させない。
アルティメギルからこの世界を守った時にまたこの海へと来て思いっきり遊ぶことにしよう。 それまでは海に入るのはお預けかな。
「じゃね」
「え、どこ行くんだ?」
「その辺ブラブラ」
案外この街は有名なリゾート地であることもあり街中を水着のまま歩いている人も珍しくないとぢゃらんで読んだ。 ……でも恥ずかしいから上にうすいパーカー、下にはスカートを履いておく。
日帰りだし海以外にも目に焼き付けておきたいのだ。
そんな想いを嘲笑うかとのように、私のリゾート散策は砂浜を出たところで早くも終わってしまった。
「貧乳もいない、テイルホワイトもいない! ここは一体どうなっているんだ!!!」
ずっと先にある砂浜の上のステージにのり一体のエレメリアンがなんとも言い難い言葉を発し、なにやら怒っている。
私に休息させないという意思表示か、本当に空気を読まない奴らだ。
『エレメリアンです! ……遊ぶのに夢中でアラームに気がつくのが遅れました……』
私がエレメリアンに気づいたのとほぼ同時に右腕にテイルブレスが現れフレーヌから通信が入った。
まあ、あれだけ楽しそうに遊んでたからね。
『あれは!?』
フレーヌがそのエレメリアンを見て驚きの声を上げた。
私も気になりジーっと見ていると何処かで見たようなエレメリアンだ。
そうだ、私が初めて見た、空に浮かんでいたモニターに映っていたエレメリアンだ。 ということは、隊長というのはあいつだ。
「とうとう隊長のお出ましね。 さっさと倒してこの世界からエレメリアンを無くしてやろっ」
建物の陰に隠れ現れたテイルブレスを胸の前で構え、変身コードを口にする。
「テイルオン!!」
眩い閃光とともに私はテイルホワイトへと変身が完了した。
すぐに、隊長のエレメリアンのいるステージへとひとっ飛びして着地する。
「私をお呼び?」
「ふ、ようやく現れたかテイルホワイトよ」
白く三メートルはあろうかという体躯に鋭利な牙の数々。 隊長なだけあって威圧感は半端ない。
「やはり生で見てもお前は貧乳ではない……しかし巨乳なわけでもなく……か。 なんと中途半端な乳だ!」
いきなり失礼な隊長だ。
隊長は変態度も隊長クラスというわけだ。
いつもなら聞き流すところだが、私は胸に関してはそれなりに自信を持っている。全国の女子高生の平均と同じくらいだぞ!
「うるさいわね! 大きくもなく小さくもないサイズが一番人気なんだから!!」
「笑止! ツインテールには貧乳というのが世の摂理。 お前のような中途半端なものがいるから巨乳などを崇拝するものが現れるのだ!」
「関係ないし……」
「そんなお前に勝つために、オルカギルディの仇のため……我は厳しい修行をしてきたのだ。 我はシャークギルディ!さあ、テイルホワイトの属性力、頂くぞ!!」
「やっと敵っぽくなってきた」
シャークギルディが背ビレのような部分に手をかけ抜き取る。
両手で持ち構えている剣は剣先がわずかに曲がったシャムシールのようだ。
「アバランチクロー!!」
フォースリボンに触れアバランチクローを両手に装備し、シャークギルディと対峙した。
「シャークギルディ部隊の隊長ではなく戦士として、参るぞ!!」
私とシャークギルディが同時に駆け出しステージがこわれお互いの刃が火花を散らす。
硬化の金属音が火花より遅れて宙を舞い、いつしか火花は稲妻のように肥大化し、周囲に轟く。
ステージのあったところはもはや何も残っておらず危険を感じた野次馬たちは次々と逃げていった。
壮絶な金属同士の打ち合いはオルカギルディの時と同じく私とシャークギルディを中心にして激しい突風を生み出している。
「お前は、オルカギルディどころかクラーケギルディ様をも超えているのだな!」
「私がクラーケギルディを!?」
「そうだ! そして我も激しい修行の末、クラーケギルディ様を……いや、先生を超えたのだ━━━━━━ッ!!」
両手で振り落としてきた剣を両手のクローでなんとか防ぎそのまま鍔迫り合いのような状態へ持ち込んだ。
単純な力ではシャークギルディの方が上だ。
この体勢も相当しんどいし、持ってあと数十秒、それを過ぎたら……アウトだ。
なら、
「エレメリンク━━━━━━ッ!!」
〈三つ編み(トライブライド)〉
テイルブレスから閃光が走り、衝撃波でシャークギルディと距離をとることに成功した。
テイルホワイト・トライブライドは遠距離特化型の形態、距離をとればこちらが断然有利となる。
「これが噂の三つ編みか!!」
シャークギルディももちろんそのことはわかっているだろう。
距離を詰められる前にフロストバンカーで終わらせる!
「フロストバンカー!」
右腕にフロストバンカーを装備すると同時にいくつもの光線を発射する。
無数の光線が流星群のようにシャークギルディへと向かって一直線に向かっていく。
「ぐあああああ!!!」
「……あれ?」
なんと発射した光線が全てシャークギルディに命中し、大ダメージを受けたであろうシャークギルディはその場に倒れてしまった。
『どうかしましたか?』
「いや、思ったよりも…」
弱い。 思ったよりも弱いと思った。
隊長の幹部エレメリアンで私を倒すためにクラーケギルディをも超えてきたと豪語していただけに苦戦は必至だと思ったのだが、なんなく決着がついてしまったらしい。
言っちゃなんだが少し拍子抜けしてしまった。
とりあえずシャークギルディに言おうと思っていたことを話す。
「シャークギルディ、もしあんた達アルティメギルがこの世界から撤退すると約束するのなら私はこれ以上は闘わないわ。 どうする?」
隊長が出てきたら必ず聞こうと思っていた。 無駄とわかっていても、一応確認の為シャークギルディに問いかける。
もちろん、フレーヌにも志乃にもこのことは話してある。
「先程も言った通り我はもう隊長ではない。 もう我にそんな権限などないのだ。 ふ、仮に我が隊長のままであってもその考えには賛同できんがな」
「じゃあ、今の隊長は誰なの?」
念のためフロストバンカーをシャークギルディに構えながら質問した。
少しでもアルティメギルの内部事情を知っておけば必ず今後の闘いに役立つからだ。 ただ、教えてくれるとは限らないが。
「そうやすやすと我らの事を教えるわけがなかろう、それに……」
シャークギルディはフラフラと立ち上がりシャムシール型の剣を背ビレに戻す。
「我はまだ負けていないぞ━━━━━━━━━━ッ!!!」
ハッタリだと思ったがその考えは目の前のシャークギルディを見てすぐに吹き飛んで行った。
シャークギルディを中心に暴風が吹き荒れ、砂を巻き上げる。
白い体がだんだんと青黒く変色していき、三メートル近くあった体躯も禍々しく、さらに巨大化した。
「……我が壮絶な修行の果てに手に入れた最終闘体!!もはやシャークギルディではない、メガロドギルディと呼んで貰おうか……!!!」
自らの顔の前にあるさらに大きくなった牙を一本引き抜くと牙は形を変え先が巨大な槍へと変化した。
「さあ、ここからが本番だ。 この力で、今度こそお前の属性力を頂くぞ!!!」
メガロドギルディを中心に吹き荒れる暴風は止む事はないまま、第二ラウンドが始まる。
どうも皆さん、阿部いりまさです。
ようやく隊長であったシャークギルディとの闘いが始まりました。
もちろん最終闘体のメガロドギルディのイメージはメガロドンから来ています。
感想、質問等どんどんお寄せください。
それでは。