シャークギルディとの最終決戦を約束した十二月の二十五日まで残り一日、気づけば決戦の前日になっていた。
今思えば、なんで私はわざわざクリスマスの日に約束してしまったんだろう……。 ま、まあ恋人とかいるわけじゃないし別に良いんだけどね。
それにしても……なんか自分から普通の女子高生生活を手放しているような気がしてならないなぁ。
ちなみにシャークギルディと約束した日から今日までエレメリアンはしっかりと出撃してきている。
見た目や名前、そして実力的に聖の五界のエレメリアンで間違いないだろうけど、元のシャークギルディ部隊のエレメリアンが出てこないのはシャークギルディが抑制しているのかもしれない。……ってフレーヌが言ってた。
そして今、そのフレーヌに呼び出され私は基地へと到着したところ。
毎度お馴染みの演出……かと思えばついこの前まで無かったサンタクロースやトナカイの演出が追加され、少し関心しながら螺旋状の階段を降りていく。
基地へ到着し、中央のモニタールームに入るとそこには志乃、フレーヌ、嵐、黒羽、紅音……といつものメンバーが既に集結していた。 しかし、一つ不可解な事があった。
「あ、奏ーっ!」
私に気づいて志乃は真っ先に手を大きく振った。 そんなに大きく振らなくてもわかるんだけど……一応、私も小さく手を振り返しておく。
定位置に座り、一呼吸置いたところで私は紅音に……テイルレッドに視線を向けた。
「で、何で変身してるの?」
「ここんところエレメリアンよく出てくるだろ? その度に変身してるよりこの方が早く行けるからさ」
私の質問にテイルレッドは慣れたようにスラスラと回答した。 たぶん私以外からも同じ質問があっただろうから何回も言ってるんだろうな。
ただ変身するには一秒もかからないはずだけどそれすら惜しんでエレメリアンを倒そうとするなんてさすがツインテールバカだ。
テイルレッドになっている理由はわかったけど椅子に座ると装甲が当たって痛そうだよ。
「いいですか、奏さん。 今日はとってもビッグなお話があるんですから!」
「ビッグな話?」
呼び出しの通信が入った時やたらテンション高かったから暗い話では無いとは思ってはいたけど。
「ええ! 大抵こういう時はいい知らせと悪い知らせがあるのですが……なんと今日はいい知らせしかありません!」
そういうもんなのかな。
全くわからないのはもしかして私が知らなさすぎるだけなのか。
意気揚々とフレーヌが手元にあるキーボードをカシャカシャ音を立てて操作し、テイルギアの各種装甲の解説が載っているページを開いた。
クルリと椅子を回転させこちらを向いたフレーヌは胸を張って話しはじめた。
「実はこの前に奏さんがシャークギルディと闘っている時、黒羽さんにお願いした事があるんです」
人差し指を立ててウインクするフレーヌは年相応にかわいい。 きっと私がやっても不釣り合いで終わってしまうだろうな。……そんなことよりお願いって一体何のことだろう。
「ゴブリンギルディを倒した時、フレーヌから私にノクスアッシュと進化装備のアンリミテッドブラをしばらく預からせてほしいって連絡が入ったのよ」
「ノクスアッシュとアンリミテッドブラ?」
「ええ」
そういえば、最近黒羽はアンリミテッドチェインになってなかったしノクスアッシュを使って闘って無かった……気がする。 いや、よく覚えてる……素手でエレメリアンをボコボコにしていた。
こうして私達三人が話している間、残った三人が横で何やらスイーツの話題で盛り上がり始めている。 あんた達は一体何しに来たわけ……あ、紅音はここに住んでるんだよね。
「ノクスアッシュは別の用途ですが……アンリミテッドブラは奏さんの力になれるかと思い預からせて頂きました」
私の力になってくれるのはかなり有り難いけどアンリミテッドブラじゃ私にはきつくて着けるのは無理だと思うけど……。 なんかこの言い回しだと嫌味に聞こえるかも。
「アンリミテッドブラはテイルギアを進化させる装備です。 その装備を解析し、研究する事によって奏さん専用の進化装備を作ろうと考えました!」
「え、私の!?」
「はい。 そしてそれは既に完成しています!」
「ええええ!?」
いくらなんでも展開が早す……仕事が早すぎて全くついていけいない。
混乱する私を置いて黒羽はもちろん先程までスイーツ談義をしていた三人も大きなモニターへ視線を向ける。
「それが、此れです!!」
フレーヌが今までより強くエンターキーを押し画面に表示されたのは……なんだろうこれは。
テイルギアよりも少し大きい腕輪の上に平たいカバーのような物が付いている。
とりあえずブラじゃないのは安心したけどこれだけではイマイチピンとこない。
「おおー!」
「カッコイイー!」
本当にわかっているのかという感想を述べる嵐と志乃。
黒羽も特に唖然としていないし、紅音に至ってはこの場で一番関心している。
「これこそ奏さん専用に私と黒羽さんが開発したスーパーな進化装備。 その名も''エヴォルブバイザー''です!」
そして一番ノリノリなフレーヌがこの装備の名前を宣言すると私達の前にあったテーブルが沈んでいき、下から新しいテーブルがせり上がって来た。
その上にはフレーヌが私に作ってくれた装備、エヴォルブバイザーがしっかりと置かれている。
勿論この場にいるフレーヌ以外の全員が間近でエヴォルブバイザーを見に行く。
モニターの画面じゃわからなかったけど、色は白ではなく完全なるシルバーだ。 シルバー一色のせいか妙に機械じみているように見える。
「さあ奏さん、右手を出してください」
言われるがままフレーヌに右手を出すとテイルブレスが可視化された。
「使い方はこのエヴォルブバイザーをテイルブレスの上へジョイントし、奏さんの体のほうへつまり二の腕側へ引くだけです」
フレーヌが見本として装着から変形までやってくれた。
なるほど、この腕輪みたいな部分はテイルブレスに合わせるためのものだったわけね。 腕の上で変形させる前の大きさはそこまででもないけど、変形させたら肘に届くか届かないかくらいの大きさとなっている。
「でも何も起こらないぞ?」
「紅音さん何を言ってるんですか。 ほら、まだ絶縁シートを抜いてませんので何も起こらないのは当たり前ですよ」
「絶縁シート!?」
なんだろうこのおもちゃ映えしそうなギミックは……。
そういえば、フレーヌが黒羽との開発とか言ってたような言ってなかったような。
「これは売れるわ……!」
横で黒羽が小さくガッツポーズしている。 とうとうシャドウだけじゃなくホワイトの売り上げまで持っていくつもりなのかこの娘は!?
「これは私達からのクリスマスプレゼントですよ」
絶縁シートというものを抜きながらフレーヌは優しい声音で話しかけて来た。
今日はまだイブだけど、ここまで嬉しいものはそうそうないかな。
「ありがとう。 二人がくれたこの装甲、大事に使うからね」
私がお礼を言うと、テイルブレスに付いていたエヴォルブバイザーが突然消えていく。
「普段はテイルギアの装備としてインプットされますので変身すればしっかりと腰にセットされてるのでご安心を」
なるほど、荷物を増やさない優しい配慮だ。
「……ほんとは属性玉変換機構を断念して急遽作ったものですが」
ボソッと何かを呟いたフレーヌが今度はオホンと咳払いし、紅音のほうへ体を向ける。
「そして良い知らせ二つ目です。 紅音さんが元の世界に帰るための手がかりを発見しました!」
「俺の?」
「はい。 先程言った通り、アンリミテッドブラを預からせて頂いたのは奏さんの強化のためですが、ノクスアッシュを預からせて頂いたのは紅音さんを元の世界に帰れるようにするためなんですよ」
紅音が帰るためとはいえ、なんでそれでノクスアッシュを預かる事になるんだろう。
そう思ったのは私だけではなく、フレーヌと黒羽以外の全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
フレーヌはまたモニターに向き直り、カシャカシャ操作すると、この前紅音とウンディーネギルディが対決した日の映像が流れ始める。
紅音と話した後、ウンディーネギルディは自分の背後に極彩色のゲートを出現させるも直ぐにノクスアッシュが飛んできて会話は強制終了してしまった。
「この時ウンディーネギルディは紅音さんの世界に通じていると言ってゲートを出現させました。 そして、ノクスアッシュはそのゲートに触れた、つまり……」
「そのゲートの成分がノクスアッシュにくっついてる!」
「志乃さん大正解です!」
やったー!と両手を上げて喜ぶ志乃。
フレーヌにかかればゲートの成分から紅音の世界を特定できるって事らしい。
「一応異世界移動のための小型ポッドはあるんですけど、それだけでは足りません。帰るにはノクスアッシュから取れた成分だけじゃなく、紅音さんを異世界へと飛ばした原因の復活したエレメリアンを倒さない事には……」
直ぐに帰れる訳じゃないとわかってガッカリしているだろう、そう思って紅音の方へ視線を向けるがそんな様子は全く無く。
「そんなに急がなくて大丈夫だよ。 頑張りすぎるとフレーヌにも負担になっちまうだろうし。 近くに奏がシャークギルディと闘うなら、どうせまたウンディーネギルディが邪魔しに来るだろ? 俺も二人の勝負の邪魔はさせないぜ」
明るい顔でそう言ってくれた。
ツインテール第一主義の中にも他人を気遣う事の出来るテイルレッドが癖のあるツインテイルズのリーダーになれたのは自然なことだったのかな。
◇
シャークギルディ部隊の艦にドッキングされた聖の五界専用の艦の中にある小部屋で一人、ウンディーネギルディは笑みを浮かべていた。
「なるほど、なるほど♪ どーやら戦女神はかなり焦ってる様子……」
先日テイルレッドにつけられた傷を撫でながらタブレットを弄る。
「戦女神が動くならマーメイドギルディは必ずそれを利用するはずだし、そこが狙い目かなー」
タブレットを机の中にしまうと、ウンディーネギルディが手にしたのはゴッドブレス。 しかしそのゴッドブレスは黒ではなく禍々しい紫色に輝いている。
「しっかし戦女神が焦るほどって……。どんだけ強くなっちゃってんの、ツインテイルズは」
ツインテイルズの世界に侵攻している部隊に紛れ込ませた聖の五界のエレメリアンから送られてきた資料を、隅々までウンディーネギルディはチェックしていく。
映像ではなく紙で送られてきた資料にはこれまでのツインテイルズの形態に加え、つい最近までに手にした強化形態もしっかりと記録されていた。
「ふーん……。 インフィニティにアブソリュートにエターナル……そしてアルティメットね。 オルトロスギルディの影もアンリミテッドとかいうのになってるし、人間側ばっかり強くなるのはフェアじゃないわよねえ」
紙を放り投げ、笑みを浮かべるとそのまま部屋の外へ出るウンディーネギルディ。
すると外には聖の五界の隊長が居た。
「ん、隊長どうかしたの? 私の部屋に来るなんて珍しいですね」
腕を組んで壁に寄りかかっていたエンジェルギルディはウンディーネギルディの持っている紫色のゴッドブレスを一瞥すると息を吐く。
「この前は随分と、苦戦したようですわね」
「まあ、油断してただけですよ」
エンジェルギルディから隠すようにゴッドブレスをしまい込む。
「張り切るのはよろしいのですが、自らも大事にしてくださいませ。 聖の五界の四大精霊もあなたしか残っていないのですから」
優しい声音で話すエンジェルギルディだが、心配されたウンディーネギルディは逆に低い声で答える。
「……ほんとにそう思ってます?」
その一瞬、空気が、時間が止まったように感じた。
「隊長って、ほんとは私がテイルホワイトらに負けるの期待してません?」
隊長への疑念をぶつけるウンディーネギルディだが、その足は少し震えている。
「まさか、部下を心配するのは当たり前の事ではありま━━━━」
「━━━━最終闘体なるために、必要ですよね?」
「……何の事ですの?」
「私達四幹部の属性玉があれば、隊長は最終闘体になれますよね」
ウンディーネギルディは疑問ではなく確信として淡々と呟く。 しかし、足の震えは収まっていない。
対照的にエンジェルギルディは柔らかな笑みを浮かべる。
「確かに、私の最終闘体に不可欠ですが……考えすぎですわ。 私達、聖の五界は大切な''仲間''ではありませんか」
「……心にも無い事言っちゃって」
笑みを崩さないエンジェルギルディに小さく発せられた声が届いているのかいないのか、確認する前にウンディーネギルディは彼女を避け暗い廊下を歩き出す。
だがすぐに歩みを止め、互いに背中を向けたままウンディーネギルディは呟く。
「私は隊長の思い通りにはならないから、そのつもりで」
再びヒール音を廊下に響かせながらウンディーネギルディはシャークギルディ部隊の艦へと向かい始めた。
残されたエンジェルギルディはしばらくした後に振り返ると先ほどの柔らかい笑みとはかけ離れた冷たい笑みを浮かべる。
「ええ、頑張ってください」
背中の翼を展開し周囲に白い羽の幻影を撒き散らすと彼女は姿を消し、暗い廊下には静寂だけが残った。
◇
今はまさに決戦前夜と言うべき時間だ。
午後八時、一度解散したが私はこの時間に再びフレーヌ基地へと訪れていた。
明日はかなり大きな闘いになるだろうし、それに備えて今のうちにリラックスしておきたい。 そう考えた私は昼間に集まった時にフレーヌに予約を取り付けた。
それは、この基地にある大浴場の!
この基地に備えつけられた大浴場は浴室の壁全体がモニターになっていて好きな景色を眺めながら広い湯船に浸かる事ができる。とフレーヌに聞いて一度入ってみたいと思ってたの!
階段を降りて中央のモニタールームに行くとフレーヌがモニターの電源を落としているところだった。
「やっほ、借りに来たよー!」
「ええ、どうぞ。 浴室はここより三回下のフロアにあります。私はこれからラボに行くので電気はちゃんと消してくださいね」
「はーい。……ところで、無いとは思うけど脱衣所とか浴場に監視カメラとか無いよね?」
このモニタールームに行くまで何度も目にした監視カメラ……防犯上つけるのは勿論だけど流石に浴場につけられてたらね。
「私をなんだと思ってるんですか!? プライバシーの侵害に関わることはしませんよ。 よって大浴場のある階層には一切カメラをつけていません!」
「おっけ!」
サムズアップすると私はモニタールームから飛び出し、すぐさまエレベーターへと乗り込んだ。
「あ、そういえばさっき紅音さんもお風呂入ると言ってたような……。まあ、二人でも充分の広さですし大丈夫ですかね」
エレベーターの扉が閉まる直前、フレーヌが何か呟いていた気がしたが完全に気分が上がっていた私は聞き逃してしまった。
三回下のフロアに到着し扉が開いた瞬間、私は即ダッシュし脱衣所へと向かった。
フレーヌは信用しているけど一応脱衣所を見回すと……うん、確かにカメラは無い。
カメラが無い事がわかり、安心して脱衣籠を引き出し、服を脱いで入れていく。 ていうか脱衣籠って……まるで銭湯みたいだ。 ……基地は未来的なのにこの辺はやたらと現代的な造りになっている。 大浴場に入るためのドアも磨りガラスの引き戸だし。 ていうか現代よりもっと古いね、これ。
タオルを手に持ち、大浴場に向かうところで一つの脱衣籠に衣類が入っているのが目に入った。
「お、男物の制服!? ……って紅音が着てた奴じゃん」
どうやら紅音が先に来て大浴場の中に居るみたいだ。
一応普段着も買ってあげたけどまさかの男物制服が一番着心地いいのかなあ。
それとも男装趣味があるとか……まさかね。
そうだ、紅音は私が入ってくる事知らないだろうし、いきなり入って脅かしてみよう。 今まで見た事無い反応見れるかもしれないし!
私は意気揚々と取手に手をかけ、思い切り扉を開けた。
「私も入るよー紅音!!」
━━━━湯気が立ち込める中、私の視界に入ってきたのは裸の紅音……じゃなくて裸の男だった。
「………」
「………」
互いに無言のまま取り敢えず私は一礼しそのまま引き戸を閉める。
引き戸を背に、何秒間か私は考える。
あれ?
アレ?
え?
何秒かしてようやく今、私の考えがまとまった。
「え!? なんで!? なんで男が!? 変態!? 痴漢!?覗き!?」
すぐさまバスタオルを体に巻きつけ引き戸から離れ屈み込むと引き戸が勢いよく開かれた。
「違う! 誤解だ!」
「いやあああああああああああ!! 来ないで、変態!!」
再び変態は大浴場に入り互いに姿が見えなくなる。
「ご、ごめん! でも違うんだ、俺が紅音なんだ!!」
「何言ってんの!? やばいくらい頭が相当お粗末じゃん!」
変態もレベルが上がりすぎるとここまできてしまうもの、今知った事だ。
「本当だよ、ほら!」
変態が大浴場で何かをすると辺り一面眩い閃光に包まれる。
「テイルレッドに変身してたのは、紅音だったろ?」
さっきの変態よりも高い声が私の耳に届く。
引き戸へ目をやると、そこには変態ではなくテイルレッドが立っている。 ……気持ち視線を私から逸らしながら。
「テイルレッド……え、どういう事?」
立ち上がり、本当にテイルレッドかどうかを確認する。
「うわーっ! タオルズレるから、隠して!」
「え、いや━━━━━━━━━━━━っ!!」
同じ女の子になって少し油断してしまった。
◇
流石にお風呂に入る気分じゃ無くなった私は取り敢えず、テイルレッドと一緒に紅音が使っている部屋にお邪魔していた。……勿論ちゃんと服を着て。
レッドが胸の前にブレス持ってくると変身が解除され、紅音よりも更に身長が伸びた知らない男の人がそこにはいる。
「えっと……紅音?」
「あ、ああ……」
これは、気まずい……!
流石の私でも、いや全人類がそうだろうけど突然女の子が男の子になった時ってどう接したらいいか全然わかんない。
気まずく思わずいろんなところへ視線をやっていると紅音が着ていた制服が彼にピッタリとサイズが合っている事に気づいた。
「まさか、その……君が本当の姿って事?」
「ああ、俺は……観束総二。 見ての通り男だ」
ヤバイ、紅音が男だったのなら着てた制服の謎も男のような言動も全て納得いってしまう。
もしかして女の子のふりして私達に近づいてた!? でもそうなら今男の子に戻る必要はないしそんな事ないか。
少し沈黙が続いたが、今度は観束君が破る。
「実は今日の朝、記憶が戻ったのと同時に男に戻ってたんだ」
どうやらマジの事らしく、観束君の目は真剣だ。
「じゃあ昼間変身してたのって」
「男に戻った事と記憶が戻った事は勿論言うつもりだったけど、タイミングが掴めなくて」
そりゃ言いにくいだろう、自分は男ですなんて。
正直私達全員が紅音を……観束君を女の子だと思い込んで接してきた。 志乃は結構過度なスキンシップしてたし……私だって下着一緒に買いに行ったんだし……。
うん、これは言わない方がいいね。
この事を観束君に言うと渋々ながら承諾を得た。
「それにしてもテイルレッドが男の子なんてね……ん?」
ここで私の頭にある人物が浮かんできた。
「まさかテイルブルーも男の子だったりするの?」
「いや、テイルブルーは俺の幼馴染で女の子だよ」
「そ、そっか……ん!?」
なんか今背筋にすごい冷たいものが走ったような…。
その後しばらく、テイルブルーについて観束君から色々と聞くことができた。
普段の生活の事や、二人の関係、ツインテイルズとしての活動などなど。 だけどここまで聞いてテイルブルー以外の名前が全く出てこない。
他のメンバーもどんな人なのか知りたくなり質問してみる。
「ツインテイルズはレッドとブルーの二人と仮面ツインテールだけだよ」
「え、イエローとかブラックとかは?」
「? いないよ」
まさか、他のツインテイルズがいないってどういう事? 彼女らがいない世界からきたレッドっていう事なのかな。
うーん、と考えていると観束君の制服が冬用の厚さじゃない事を思い出した。
ここまで察しが良すぎるのも考えものだ。
まさか、まさか観束君は……過去から時空を超えてやってきたんじゃ……。
だんだんとピースがはまってきた。
「ねえ、観束君。 仮面ツインテールっていうのも教えてくれる?」
「仮面ツインテールは俺たちにテイルギアを託してくれた、トゥアールという子が人前に出る時に使う名前なんだ」
トゥアール……。
私と観束君で同じテイルギアを使って闘っているという事は間違いなく、そのトゥアールさんがテイルギアの開発者、そしてツインテール戦士!
とても貴重な事を知る事が出来た。
あらかた観束君側の事情を知る事ができたが、気づけば話がどんどんシフトしていく。
「観束君十五歳なの? 歳下なんだ」
「あ、すいません。 さっきまで俺も奏……さんの年齢知らなくてタメ口で」
「じゃあ歳下なんだし、私も君の事総二って呼ぶからさ。 今さらだから総二も呼び捨てでいいし、タメ口でいいよ」
フレーヌに続いて今度は弟ができたような気分だ。
うん、よくよく見てみると結構可愛い顔してるし。
ここで私は先程の大浴場の事を思い出す。
「あの、さっきはごめん。 私から入ってったのに大声あげちゃって……」
しかも色々と罵倒してしまった気がするし。
「奏が謝る事じゃないって、俺の方こそごめん」
ツインテールバカって事以外はすごくまともな人みたい。
だけど、まだだ。まだ女として重要な事が残っているのだ。
「えっと、もしかして……見たりした……の?」
恥ずかしさのあまり顔を直視できない。
当たり前だけど男の子の前で丸裸になるなんて、一度も経験した事がない私にとってこれは死活問題だ。
うわ、顔熱い。 絶対今顔真っ赤になってるよ……。
チラチラと総二の方を見てみると彼も照れているのかあちこち視線を泳がせている。
「……いや、湯気で見えなかったから大丈夫だ!」
迷った挙句にその答えじゃ見たって言ってるようなもんですけど!?
ダメだ、これ以上ここにいると私は恥ずかしさで爆発してしまう……帰ろう!
「そそそそれじゃ私帰るから! また明日ね!」
「あ、ああ! 明日は頑張ろうぜ!」
急いで立ち上がり、総二となるべく顔を合わせないように急いでドアへ駆け部屋の外へ飛び出る。
(あー、まだ心臓がドキドキしてる……)
大きく深呼吸していると横からフレーヌが歩いてきた。
「あ、奏さん探しましたよ。 私も意外と早く終わったんでお二人と一緒に入ろうかと思ったら居ないし、電気は点けっぱなしですし……で、ここで何してるんですか?」
ヤッバイ。
今、フレーヌが部屋の中に入るとまたさっきと同じ事の繰り返しだ。 ここはなんとしてでも阻止しないと。
「電気の事はごめんね。さ、早く上戻ろ!」
「え、紅音さんに用があるんじゃ? おそらく部屋にいると思いますが……」
「こんな時間だしアポ無しでいきなり行くのはまずいでしょ!?」
ああ、なんか疲れてきた。
フレーヌなら事情をすぐにわかってくれるかもしれないしもう言っちゃってもいいだろうか……。
「アポって……。ふふん、私は既に紅音さんと何回も背中を流しあった仲ですからね。どんな時間でも私はウェルカムなんです」
あ、これダメだ。
フレーヌはまだこっちの世界でいえば中学生だ。
そんな年代の時に見ず知らずに裸を見せてたなんて知ったらフレーヌは多分恥ずかしさのあまりに基地の自爆ボタンを押しかねない……!
絶対ダメだ、今は部屋に入れちゃ。
「紅音さーん」
「あ」
いつのまにか私の横をすり抜けたフレーヌはそのままの速さでドアが開くボタンを押すと勢いよく開かれる。
終わった……。
「お、おう。 どうかしたのか?」
私が絶望する中、フレーヌに返答したのは総二の声ではなく高い女性の、女の子の、テイルレッドの声だった。
どうやら部屋の外の状況を察して変身してくれていたらしい。
「私は特にありませんが、奏さんが何か用があるみたいですよ?」
「いやいやいやいや! 特にないから、バイバイおやすみ!」
テイルレッドになっているとはいえ、流石にまだ顔を合わせることはできないよ!
「どうしたんでしょうか」
「さ、さあー……」
エレベーターに向かって走っている中、後ろから二人の話し声が聞こえた。
◇
街中がクリスマス一色になっても、私がいるこの場にその気配は全く感じられない。
私がいる場所はかつて採掘場として使われていた場所らしく周りは岩で囲まれている。
これから起こるであろう激しい闘いをする場としてはまさにうってつけの場所ってわけだ。
そよ風が辺りを吹き抜ける中、目の前で仁王立ちしているシャークギルディが静かに口を開いた。
「この日を待っていた。 これ以上長引かせぬ。今度こそ決着をつけさせてもらうぞ、テイルホワイトよ」
シャークギルディの腕に新たな武器、トライデントが握られた。
「わざわざ日を改めたのだ。何か我を驚かせるような進化をしたのではないか?」
「へえ、よくわかってるじゃん」
シャークギルディの期待に応えるべく、私は昨日フレーヌからもらったばかりのエヴォルブバイザーを手に取る。
「それが新たな力か……!」
シャークギルディは律儀に待ってくれるらしく、攻撃を仕掛けてくる気配がない。 エレメリアンはこういう融通の利くタイプが多いから助かる。
『いいですか、奏さん。 バイザーをブレスにセットして引くんですよ?』
「わかってるって」
勿論昨日フレーヌが言っていた絶縁シートとやらも抜いてあるし、準備は万端だ。
教えてもらった通り、エヴォルブバイザーをテイルブレスの上にセット……そして私は手前に勢いよく引いた。
『叫びなさい、ホワイト! チェンジエヴォルブ!!』
「チェ、チェンジエヴォルブ……」
黒羽の言うワードはおそらくバイザーをおもちゃとして出すときの大人の事情的なものだろう。
「……」
あれ?バイザーをセットしたし、発動条件通り動かしたのになんの変化もない。
もしかして勝手に私が黒羽のように装甲が変化するものだと思っていただけで他は変わらないのかな。
バイザーをいろんな角度で見た後、改めて体の装甲を確認するがやっぱりなんの変化もない。
「ねえ、フレーヌ。 これで大丈夫なの?」
フレーヌはすぐには答えず幾ばくかの間を置いてから話し始めた。
『実験は成功していたはずです。 何度もデータを確認し、微調整を重ねできたはずなのに……』
フレーヌが狼狽えているって事はやっぱりこれは……
『エヴォルブバイザーが起動していない……!?』
フレーヌの震える声が通信機越しにクリアーに聞こえてきた。
決戦は近いです。