身長:238cm
体重:232kg
属性力:ヒロイン属性
聖の五界の幹部が次々と敗れた事で、奏の世界にやってきた新たな幹部エレメリアン。 神の一剣と正反対の真っ黒なローブを愛用している。 自らの属性力であるヒロインについては王道のツンデレをはじめとした性格や、容姿、境遇まで全てを理解すると豪語する。実力は不明ながらも、ヒロインを理解するために恐ろしい特技を持っていると言われるが……。
メインルームよりもさらに奥にある研究室からようやくフレーヌが出てきた。
フレーヌは「休んで下さい」って言ってたけど、フレーヌだけに働かせて私は家でゴロゴロ……なんて事できるわけがない。
メインルームの椅子に座る私を見て少し驚いた表情を見せた後、フレーヌがこちらへ歩いてきたので私も椅子から立ち上がる。
「バラバラになっていたので手こずりましたが、フロストバンカーの修理完了ですっ!」
「うん、ありがと」
テイルギアをフレーヌから受け取り、右手着けるとすぐに透明化して見えなくなった。
多少の傷などは自動で修復されちゃうみたいだけど、流石にバラバラにされてしまったらそうもいかないらしい。
私達からしてみれば自動で直るっていうのも凄い事なんだけどさ。
「それとマキシマムバイザーについても調べました」
フレーヌはタブレットを操作すると、画面にマキシマムバイザーが表示される。
「手を尽くしましたが属性力を制御する事は不可能ですね。使用する時はその事を念頭に置いてください」
「うん、わかった」
私が気をつけて使えばいい。 マキシマムバイザーを使いこなす条件はたったそれだけというわけだ。
「それともう一つ聞いてほしい事があります」
フレーヌが続けて操作すると、マキシマムバイザーが表示されていた横にもう一つ同じような装甲が表示された。
似ているけど、後から表示されたコレはマキシマムバイザーじゃなくて……エヴォルブバイザー?
「私が解析した限りではマキシマムバイザーとエヴォルブバイザーの構造の違いが全くわからなかったんです」
「え、どういう事?」
「私がマキシマムバイザーを作ろうとしても、エヴォルブバイザーになってしまうんです。 つまりマキシマムバイザーの量産、及び修復はできないんです」
フレーヌにすらできないなんて……カエデはバイザーにどんな事をしたんだろう。
「あれ、修理が出来ないって事はひょっとして……」
「ええ……。 バイザーが壊れたら最後、強化形態のマキシマムチェインには変身できないと考えてください」
思わずテイルブレスに視線を落とす。
この中に入っているバイザーが壊れるような事があれば……フレーヌが言った通りになるのだろう。
「エレメリアンにバイザーを狙われないよう気をつけてください」
「うん……!」
バイザーは聖の五界との闘いで、もっといえばその先の闘いでも絶対に必要になるものだ。
フレーヌの技術で基礎が作られ、カエデの力で完成されたこのマキシマムバイザーは絶対に守らなければいけない。
「奏さん、今日は大晦日ですよ!」
テイルブレスに触れ、強い決意をしたところでフレーヌがテンション高く飛び跳ねた。
そう、今日は十二月三十一日、つまりは大晦日。
一年の締めくくりというわけだけど、今年は間違いなく今までよりも濃密な一年だった。
まず異世界からちっちゃな科学者が来て、変態の怪物が来て、それを倒すために変身して……みんなと一緒に試練を乗り越えて来た。
私より濃密な一年を過ごしている人がいるとすれば異世界のツインテール戦士ぐらいしかいないだろう。
新年は気持ちよく、と行きたいとこだけどテイルホワイトはまだ続くだろうし本格的に受験勉強もしていかないといけないし……気持ちよく年明けを迎えられそうにはないなぁ。
「見てください奏さん、これを!」
そう言ってフレーヌがモニター近くのボタンを押すと床が抜け、門松がせり上がってきた。
見事な門松だけど周りが近未来的すぎるからこの場にあるのは凄い不自然だ。
嬉しそうに門松を弄るフレーヌを見るとそんな考えも吹き飛んじゃうけどね。
「ねえ、本当に私の家来ないの?」
どうせなら一緒に年越しをと思って何回も誘っているけどフレーヌは━━━
「私に気を使わなくて大丈夫ですっ! 年明けくらいは家族水入らずの時間を過ごしてください!」
ずーっとこの調子だ。
勿論志乃もフレーヌの事を誘ったらしいけど私と同じように断られてしまったらしい。
黒羽は居場所がわからないし、基地に一人でいるよりかは誰かの家にいたほうが……とは思うけど人によりけりなのかなぁ。
だけどやっぱ、このままフレーヌを一人ぼっちにするのは気が引ける。
「ねえ、フレーヌ。一緒に初詣行こうよ」
私と志乃とフレーヌで。 ……嵐はサッカー部の連中と行くだろうし連絡はしなくていいや。
フレーヌの反応を伺うと、先程までとは違いキョトンとした顔をしていた。
「はつもうで? それは何ですか?」
なんか最近スマホに入っている音声みたいな反応だな。
「え、年明けてから初めて神社とかに行く事だけど……フレーヌの世界じゃ無かったの?」
確かフレーヌは世界が違っても日本人みたいなもんだと言っていたし、知ってるものかと思っていた。
「うーん、私が知らなかっただけでしょうか……」
顎に手を当て考えるポーズを披露するフレーヌ。
ゴツい大人がやると探偵みたいな雰囲気が出るけど背の小さなフレーヌがやるとその真似事みたいに見えて微笑ましくなる。
「それじゃフレーヌは初初詣だね」
「初初詣……!」
軽い気持ちで言ったんだけどフレーヌはやけに気に入ったようだ。
「初初詣はいつ行くのでしょうか? それまでに色々と準備をしたいのです!!」
「もちろん今夜、年が明けてからソッコー行くよ!」
やっぱりこういうのは早ければ早いほどいい筈。 善は急げ、思い立ったが吉日、好機逸すべからず、だよ!
「急いては事を仕損じる……エレメリアンに対して焦って行動すると命取りになるわよ」
私の心を読んだのか、狙ったかのようなタイミングで黒羽がメインルームへと入ってきた。
ていうか今はエレメリアンとは関係ないんじゃ……?
「ま、私も行くわ。 初詣といえば人がたくさん来るだろうしね」
黒羽が持っている手提げ袋に色紙がたくさん入っている……売るつもりだ。
絶対にやらせないけど、テイルシャドウで初詣に行ったら参拝客どころか宮司や巫女さんまで逃げ出してしまいそうだ。
そんな私の不安をよそに、いつのまにか黒羽は色紙をテーブルに置き、一枚一枚サインを書き始めていた。……なにやらブツブツと言いながら。
「年明けのテンションで財布の紐は緩む筈だし、一枚二千円……いえ五千円でいけるわね」
やめたほうがいいと思うよ、ガチで……。
◇
「ほんっとに……空気読めないね、あんたらは!」
今の率直な思いを、目の前にいる二体のエレメリアンへとぶつけた。
エレメリアンはクリスマスだろうと大晦日だろうと関係なく出撃してくるけど……そういう休みがないのかな。 侵略者に休みの概念があるなんて話も聞いたことはないが。
私を不機嫌にさせる二体の内、一体はセドナギルディとの闘いの翌日に現れたガルダギルディだ。
実はあの時から毎日出撃してくるエレメリアンにくっついて来てるが、ガルダギルディは闘わずに一体が倒されるとそのままゲートへ消える事が最近のパターンになっている。
なんか目的があるんだろうけど……やっぱりモヤモヤしてしょうがない。
それ以外にも、エンジェルギルディがあれ以来全く現れないのもモヤモヤの一つだった。
「そろそろ決着をつけましょうよ、ガルダギルディ」
苛立ちながらシャドウはノクスアッシュとジャックエッジを手に持つ。
「俺は闘う気はない。お前達のヒロイン度を調べに来てるだけなのだからな」
シャドウが一方的に火花を散らせるなか、ガルダギルディの隣にいたエレメリアンがようやく動きだす。
「ツインテールの戦士よ、此度は私が相手です」
くたびれたおっさんの声で、丁寧に前へと出てくるエレメリアン。
魚っぽくないし、このエレメリアンも聖の五界の隊員に違いないだろう。
「私はエントギルディ。気高くワイルドな属性、探検帽属性(サファリハット)を持つものです」
ははーん、だからこんなジャングルの中に現れたってわけか。 ……まあ残念ながらジャングルの奥深く過ぎて周りに人の気配が全くしないんだけど。
テイルギアがなかったら蒸し暑くてしょうがないだろうなあ。
それしても……見た目で判断するなとは言うけど、エントギルディはヒョロヒョロしてなんか弱そう。
声も相まって中年のおっさんにしか見えなくなってきた。
「ええ、私は本来戦闘に赴く事はあまりありません。ですので、できればお手柔らかに属性力を頂ければなと思いまして……」
なんか言うことまで中年のサラリーマンっぽいような。
お父さんも仕事中はこんな感じなのかなあ。……とりあえずそれは置いとくとして、どんなに丁寧にお願いされても属性力をあげるわけにはいかない。
「ホワイト、今日こそガルダギルディと闘うわよ」
シャドウはアンリミテッドブラを装備し、アンリミテッドチェインとなる。
頷く代わりに腰に付いているマキシマムバイザーへと手を伸ばした。
「あの装備は……」
シャドウの進化装備では反応しなかったガルダギルディが私のバイザーを見て表情を変えた。
もしかして知らなかったのかな。
だったら見せてあげる、私の最高の変身を!
「マキシマムバイザー!!」
テイルブレスへジョイントし、発動手順を踏むと体中の装甲が一新されていく。
「この形態は……!」
マキシマムチェインへとチェインエヴォルブした時、初めてガルダギルディは表情を崩した。
すぐさま私はアバランチクローユニバースを装備し、エントギルディ向かって疾駆する。
「ひええ……!!」
クローを振るいエントギルティを空中へ吹き飛ばしすと、跳び上がりながらクローを脚へと装備させた。
「クライマックスドラーーイブッ!!」
「ノルマ達成できなかったあああああああ!」
渾身の蹴撃を受けたエントギルディは間も無く爆散し、探検帽属性の属性玉を手に入れる。
最後まで中年のサラリーマンみたいな奴だった……。
脚からクロー外しながら、ガルダギルディの前へと着地した。
それを見てガルダギルディは振り返り、ゲートを作り出す。
また闘わないで帰るつもりだろうけどそうはいかない。
「なに……!」
入ろうとしたところでゲートは散り散りになって消え、その場にシャドウが現れた。
「言ったはずよ。 そろそろ決着をつけましょうってね」
ジャックエッジを突きつけながらシャドウは睨みつける。
『ガルダギルディがなんらかの目的を持って動いている事は明らかです。 できるだけここで倒せればいいのですが……実力が全くわからないので充分注意してください』
「気をつける」と返事しようとしたその時、目の前にいたガルダギルディは……シャドウによって吹っ飛ばされていた。
あれ、何があったの!?
「隙だらけだったから攻撃しただけよ」
斧を肩に担ぎながらこちらに歩いてきたシャドウは冷静に話した。
吹っ飛ばされたガルダギルディはようやく立ち上がると自信満々に胸を張り腕を組んだ。
一発で吹っ飛ばされたくせにやたら態度がでかい……!?
「ふん、クール系のヒロインは負けヒロインとなる事が多い。 そのうえ暴力が付いてくるようでは、テイルシャドウに勝ち目はな━━」
「黙りなさい」
今度はドロップキックを浴びて、再びガルダギルディはゴロゴロと地面を転がっていく。
まさかこいつ、口だけのエレメリアン……?
てかシャドウも容赦ない。
「偉そうな事言うもんだから余程の実力かと思ったら……てんで期待はずれね」
期待はずれと言いながらも嬉しそうな顔をしてるのは何故だろう。
今シャドウがしてる表情は普段とのギャップでかなり可愛くみえる。だが、正義の味方が怪物をボコボコにして笑顔になる様は側から見たらかなり怖い。
これは私の出る幕は無いとマキシマムバイザーを取り外し、通常形態へと戻った。 このままだと闘わずに限界を迎えちゃうからね。
「何を勘違いしている」
一分近く経った頃、ガルダギルディが木の間から現れた。
その体の周りにはユラユラと闘気のようなものを立ち昇らせている。
もしかしてイライラしてる……のかな。
「ヒロインの愛情を受け止めない主人公はいないだろう? それがいくら負けヒロインだとしてもな」
主人公って、まさかガルダギルディは自分が主人公だと思ってるのか……?
それと今のガルダギルディの言い分から考えるに、わざとシャドウの攻撃を受けていたという事だろうか。
ただの痩せ我慢だと思いたい……だけど。
『黒羽さんによる強烈な攻撃を二回受けてもダメージを受けている様子がありません。口だけだと思わない方がいいですね』
フレーヌの言う通りだ。
ガルダギルディは体に埃さえつけず、最初と同じように腕を組んで仁王立ちしている。
私もたくさんのエレメリアンと闘ってきたからわかるんだ。 ガルダギルディは強がっているわけじゃなく、本当にダメージを負っていない……!
フレーヌからの通信が聞こえたであろうシャドウはも、先程よりも警戒を強めている。
「なるほどね……私も随分舐められたものだわ。 それにさっきから、私が負けヒロインですって? ……ふん、言ってくれるわね」
まずい、シャドウがなんか負けそうなフラグを!?
これは一人で闘わせるのは危険だ!
「シャドウ、私も闘う」
「……ええ」
少し不服そうにしながらもシャドウしっかりと頷いてくれた。
再びマキシマムチェインへとなり、少しはガルダギルディも焦りを見せるかと思ったがそんな事はなかった。
さっきは私のチェインエヴォルブで表情を変えていたが今度は冷静なままだ。
「俺はヒロインが不幸になるのを望んではいない。できれば全てハーレムエンドが望ましいと、そう思ってきたのだ。例え一対多だとしても俺は全ての
シャドウの事を負けヒロインだなんだ言ってたくせによくわからない信念を持っているようだ。
なら、私達二人の想いを受け取ってもらわないとね!
「オーラピラー!」
マキシマムバイザーを介して放たれた強力なオーラピラーがガルダギルディを見事に捉え、その場で拘束する。
「一気に決めるわよ、ホワイト。ブレイク!」
「レリ━━━━ズッ!!」
クローは脚へと装備され、斧は光の刃を出現させ、それぞれ仁王立ちするガルダギルディへと迫る。
しかし━━━━
「うぇ!?」
ギリギリまで引きつけたところで、ガルダギルディは最小限の動きで必殺技を避けていた。
勢いがついていた為、すぐに止まることができずに私はシャドウと一緒に地面をコロコロと転がる。
受け止めるとか言ってたくせに……避けた!?
いやいや、そうじゃない……オーラピラーが破られた!?
「強引な
や、やばい……何を言ってるのか全然わかんないんだけど……。
ここまで意味不明な言い回しをするエレメリアンは初めてだ。 そう考えると唐突に体が震えだした。
「お前達が俺に放つ必殺技は決して当たる事はない。 これこそ俺が極めた極意、''
ナーガ……!
見た感じただ避けてるだけに見えるけど本当に必殺技が当たらないなら厄介な事だ。 そもそも必殺技が避けられるのだから、本気になったら普通の攻撃すら避けてしまう可能性だってある。
焦る私とは対照的に、シャドウは至って冷静で笑みさえ浮かべている。
何か考えがあるのかな。
「だったら避けきれないほど攻撃し続ければいいじゃない」
まあ、それしかないよね。
凄い脳筋キャラの考えっぽいけどそれ以外に方法も思いつかないし、やるしかないだろう。
連続で必殺技を出すのは中々ない事だけど、ガルダギルディを倒すためにはこれしかない。
しかし、私達が再びブレイレリーズしようかとしたところでフレーヌから通信が入る。
『いけません! 必殺技の連続使用はテイルギア装着者に大きな負担がかかります。耐えることができてもエネルギー切れで意識を失ってしまうかもしれません!』
「でも他に方法が……」
『……奏さんと黒羽さんのコンビネーションでガルダギルディを追い込み、必殺技を出してください』
私とシャドウでコンビネーションか……。
思えばシャドウと一緒に一体のエレメリアンを相手にしたのは数えるほどしかなかったっけ。その中でも、息を合わせたコンビネーションで倒した事となると数はさらに減って一回か二回程度になる。
ぶっつけ本番のような形だけど、フレーヌの言う通りやるしかないか。
「じゃあなんとか二人で……っていないし!」
横にいたシャドウはいつのまにかガルダギルディへと迫り、斧を振るっていた。
しかし、先程と同じくガルダギルディはシャドウの攻撃を全て受けるもダメージを負っている様子はない。
「……シャドウったら。ん?なんか手が痺れて……!」
その瞬間、強烈な痛みが全身を駆け抜ける。
「っああああああ!!」
『奏さん!』
マキシマムバイザーによって追加された装甲が激しく放電し、耐えきれずに自分の体を抱えながら膝をついた。
『バイザーを外してください!』
外したいのは山々だけど、バイザーまで手を伸ばす事ができない……!
『奏さん!! 私が今そちらに向かって』
その時、痛みにもがく私の腕を誰かが掴み……力づくでバイザーを取り外してくれた。
ノーマルチェインへと戻り、顔を上げるとそこにはシャドウの姿があった。
「はぁ……はぁ……ありがと……」
「次からは気をつけなさいよ」
まじまじと眺めてから、シャドウはバイザーを差し出してきた。
それを受け取り、腰へと装着すると私は立ち上がった。
マキシマムチェインへと変身していた時間は十分にも満たないくらいだけど……それだけの時間であんな事になってしまうなんて。
幸いにもノーマルチェインへと戻ればすぐに痛みは消えるみたいだ。
「どうやらベストコンディションではないようだ。 本気のヒロインを見れないのなら留まる理由もない、またな」
極彩色のゲートを作り出すとガルダギルディはその中へと消えていった。
もしかして私を心配してくれた、とか……じゃないよね。
最近はシャークギルディだとか貧乳イカや巨乳怪物だとか武士道に熱いエレメリアンにばっか当たってたから変なとこで勘ぐってしまう。
ま、今はガルダギルディの攻略法が見つからないしどんな理由でも撤退してくれたのは有り難かったかな。
まもなくフレーヌにより、基地への転送が開始されると視界は白くなっていった。
◇
「やばいです。 激ヤバです」
基地に帰って開口一番。 フレーヌは顎に手を当て深刻な顔でそう言った。
私と黒羽はほぼ同時に変身解除してから、メインルームのいつもの席へとつく。
しかしこうして三人着席しても、誰も口を開かない。
私は椅子の背もたれに深く身体を沈めて、嘆息した。
こんな時に志乃や嵐がいてくれたら、なんか元気のくれる言葉をかけてくれるんだろうけどな。
気が利かない私はそういう言葉が思いつかない。
……いや、なんとか明るい雰囲気にしなければ!
「一年の締めくくりにこんな重い空気になっちゃうなんてねー、あはは……」
変わらず静まるメインルーム。
これは……言うことを間違えたな、完全に。
私がやらかしてしまったせいで明らかにさっきより重い空気になっている。
このまま暗い気持ちで新年を迎えるなんて来年はいったいどうなってしまうんだろう。
沈鬱な空気に包まれるメインルームだが、フレーヌがその空気を払拭したいと思ったらしく話しだす。
「ガルダギルディは今までのエレメリアンにない特異性を持っています。ですがこうしているだけでは何も始まりません! さ、作戦会議しましょうっ!」
床からホワイトボードがせり上がってくる。 フレーヌが面をバンッと叩くとクルリと一回転して''作戦会議''と書かれた面が現れた。
この仕掛けが必要なものかどうかは取り敢えず……フレーヌありがとうっ!
心の中でのお礼に答えるかのようにフレーヌは赤ペンのキャップを外してボードに書かれた''作戦会議''の文字をデコっていく。 結局デコりすぎて作戦会議に必要な事は裏面に書く羽目になってしまった。
「今回の闘いでガルダギルディのデータは取ることができましたが……これでは足りません」
真剣な顔になって、ガルダギルディの絵を描いていくフレーヌ。 バカにするつもりじゃないけど意外とうまい絵だ。
「私たちが攻撃を仕掛けてナーガっていう技を使うのはわかったけど、向こうから攻撃はしてこなかったものね」
そういえば、確かに殴りかかろうともしてこなかった。
攻撃や必殺技が効かないから単に舐められていたのか、それとも何か他に理由が……?
その後も対ガルダギルディの作戦会議は続くもこれといった作戦が出ないままどんどん時間は過ぎていった。
立っているのが疲れたのかフレーヌは自分の椅子へと座り、クルクルとペンを回している。
「私ももう十五歳になるんですねー……」
ボソッと小さな声での独り言。 それを聞いた私は違和感を覚え、すぐにフレーヌへ話しかけた。
「十五歳ってフレーヌこの前誕生日会したじゃん。 ほら、十二月の二十一日にさ」
そう、フレーヌの誕生日がその日だと聞かされセドナギルディと闘う前にしっかりと十五歳のお祝いをしていた。 フレーヌが誕生日会のお礼と言って開いたら直径三千メートルにもなる花火を打ち上げようとしたのは全力で止めたけど、ちょっと見てみたかった。
そんなわけでフレーヌは既に十五歳のはずだけど。
「すいません、つい癖で」
「癖?」
「はい。 実は私の居た世界では私の世界では誕生日という習慣は昔に廃止されてしまったらしくて、みんな平等に一年の始まりに一歳カウントを増やしていたんです」
フレーヌの世界じゃそんな習慣があったんだ。
国によって違う事もあるんだし、ましてや異世界ともなると私たちの文化と違うことがあっても驚く事じゃないかも。
「ただこの世界に来て誕生日というものを知り、私も欲しくなったんです。 私の世界でも自分だけの記念日を作っていた人は居ましたし、どうせなら皆さんよりもお姉さんになりたくて十二月二十一日を自分の誕生日にさせてもらいました」
ちょっとだけ背伸びをしたいっていうのがなんともフレーヌらしくて微笑ましいなあ。
「それとは別に十二月二十一日ってなんかいいなって思ったんですよね。一二二一っていう並びがなんかこう中央に向かっていく感じがするというか、なんかいいんですよっ!」
それは独特な感じがする。
「黒羽さんも誕生日決めてはどうです? 例えば奏さんと一緒で二月十八日とか」
そういえば黒羽も誕生日がない……というか厳密に言えばオルトロスギルディの中で黒羽が意思を持った日が誕生日って事だろうけど、そんなん覚えてないよね。
それにしても私と誕生日を同じにしようとするなんてフレーヌはわかってる。二月十八日ほど私っぽい誕生日はないし、なんか特別感がある。
「それは無理ね。 二月十八日は一年で一番嫌いな日だもの」
ここまで言われると流石にショックだ。
全国の二月十八日生まれの人に謝って!
「どうしてその日が嫌いなんですか?」
「フレーヌ、考えてみなさい。 二月十八日ってツインテール嫌って読めるから」
酷すぎる理由だ……。
こじつけにもほどがある!
そんな理由で一年で一番嫌いな日にされてしまうなんて……やっぱり謝って!
「だから私は二月二日にするわ。 ツインテールって感じの誕生日よ」
なんかそれもだいぶ無理矢理な理由に感じるけど……。
ていうか自分の誕生日馬鹿にされたショックで、出かかってた考えが吹き飛んでしまった。
……まあ、いっか。
今日は大晦日だし、今日一回出てきてるわけだし同じ日に出撃してくる事なんてないだろう。
基地に帰ってきた時よりかは晴れた気分で新年を迎えられそうだ。
◇
薄暗い廊下に、重い足音が響いていく。
ガルダギルディはテイルホワイトたちと一戦交えた後、そのまま大ホールへと向かい到着した。
出迎えたのは聖の五界の隊長であるエンジェルギルディだ。
「おかえりなさいまし。今日も私の部下を見捨てて帰ってきたんですの?」
「お前に部下などいないだろう。 いるのは自分の思うがままに動く駒……いや、人形かもしれないな」
ガルダギルディはかつてシャークギルディが座っていた席へと腰を下ろしながら答える。
「俺とて俺以外の戦士には興味がない。 俺があの二人に勝つために好きにやらせてもらう……そう言ったはずだ」
そう言ってガルダギルディはメモ帳を取り出しエンジェルギルディへと放る。 しかしエンジェルギルディはキャッチする事なく、メモ帳は床に落ちてしまった。
舌打ちしながらガルダギルディは拾い上げ、放らずにエンジェルギルディに丁寧に手渡す。
「なんですの、これは?」
「俺は観察は怠らないのだ」
深く語らないガルダギルディに問うのはやめ、エンジェルギルディはメモ帳を開いてみる。
その中には見慣れないツインテール戦士の名前が書いてあり、さらにページを飛ばしていくとテイルホワイトの名前を見つけた。
「テイルホワイト、身長160cm前後体重45kg前後、B79W56H80、追記中途半端な胸を持つ……」
エンジェルギルディが読み上げるのを聴きながらガルダギルディは胸を張りウンウンと頷く。
ある程度読んだところでエンジェルギルディはメモ帳を閉じた。
「これは……ストーカーノートですの?」
「違う」
「ですが身長体重が曖昧ですのにスリーサイズだけ正確なのは気持ち悪いと思うのですけれど……やはりストーカーノートですわよね?」
「違う」
ガルダギルディは乱暴にメモ帳を奪い取ると、翼の中へとしまい込む。
「ヒロインのスペックを覚えるのは当然のことだろう」
「同胞ながらなかなかの気持ち悪さですわね」
限りなく控え目に言っても、という言葉を後から付け足してエンジェルギルディはガルダギルディから距離をとっていく。
「俺にかかれば映像越しに見ただけでも性格とスリーサイズ程度なら即座に見破ることができる。画面の向こうに居るヒロインを見続けた事によって得た俺の特技よ」
エレメリアンではありながら仮にも女性であるエンジェルギルディに自ら調べ上げたヒロインのスペックノートを公開する根性は、認めざるを得なかった。
しかも、今の説明でさらに相手がドン引きしている事にも全く気にしていない。
「映像だけでパットを入れているかどうかもわかる事ができていた。 しかし、この俺がいくら見てもわからない少女が現れたのだ! 」
悔しい思いからか、怒りからか声を荒げテーブルに拳を打ちつけた。
ガルダギルディの座る席から一番遠い壁に寄りかかるエンジェルギルディはその様子を見て深く息を吐く。
スマホを取り出し、その少女を画面に表示させるガルダギルディ。
「テイルブルー……奴だけは胸のサイズがわからんのだ……! いや、正確にはわかるがそのサイズを俺自身が認めずに手心を加え大きくしてしまう。 どうすればいい!?」
画面に映るテイルブルーの胸を指差して、エンジェルギルディに答えを求める。
「いや、知りませんわよ」
冷たく冷静に、機械のように、無感情に興味なさげに即答するとエンジェルギルディは大ホールから姿を消した。
ヘルハウンドギルディがまだ生きていたら花丸を与えていたであろうジト目を残して。
◇
うわー、人いっぱいだ。
時刻は午前の三時、私と志乃とフレーヌ、そして黒羽は約束通り近所の神社へ初詣に来ていた。 あ、フレーヌは初初詣ね。
こんな時間に高校生がーっていうのはまあ見逃してほしいなっ。 一応フレーヌは十五歳でもう成人してるし保護者って事でセーフだよ、セーフ!
だけどまあ、大きい神社だとこんな時間でもやっぱり人多いんだなあ。
人混みにのまれないよう鳥居をくぐって、境内へと入る私たち。
「志乃さん、志乃さん! 初初詣とは一体何をすればいいんでしょう!?」
興奮気味のフレーヌは志乃のコートを引っ張る。 うん、なんか可愛い。
「えーっと、初詣っていうくらいだしまずはお参りかなぁ。ほら、紐持ってガランガラン鳴らして新年の無事を祈るの」
「ガランガラン!?」
「あとはおみくじ引いたり、絵馬にお願い事を書いたり、甘酒飲んだりかなっ!」
「おみくじに絵馬に甘酒……! なんと甘美な響きでしょうか!」
興奮するフレーヌとは対照的に、私の隣にいる黒羽はご機嫌斜めらしい。……理由はわかってるけど。
「ほら、黒羽もお参り行こうよ」
「これだけ人がいたならかなりの稼ぎになったはずなのに……ガッカリね」
迷惑だからと色紙を取り上げてからここに着くまでずっとこの状態だ。
正直とり上げなくても売れるとは思えなかったけど、やっぱり宮司や巫女さんまで逃げられたら困るのでとり上げる事にした。
「まったく……なんで私が貴重なお金を神社なんかへ捧げないといけないわけ? そもそもお金を貰わないとやる気出してくれないなんて神様なんてろくな奴じゃないわね」
それでも充分だけどそれ以上は色々な反発を招く事になるからやめておこう。
その後も志乃とフレーヌの弾んだ声と、黒羽の愚痴を聞きながら列に並んでいると何十分か経ったところでようやく回ってきた。
「ほい、黒羽。この五十円玉を静かに投げてね」
私は黒羽に、志乃はフレーヌにそれぞれ五円玉を渡してまずは異世界出身の二人からだ。
二人ともお賽銭を投げ入れた後、フレーヌは激しく、黒羽は普通に鈴を鳴らす。
「ここは神社だから再拝二拍手一拝、つまり二回拍手して一回深々とお礼して、その間にお願いしてね」
普段はアホの子っぽいのに実は博識な志乃に教えられながら、二人ともお参りを済ませた。
どんなお願い事をしたかはわからないけど、神様は見てくれるはずだよね。
私と志乃も二人に続いて早々に済ませると、その二人を引き連れておみくじを売っている所へとやってきた。
先程と同じようにおみくじの手順を教えると、角柱から出てきた棒を受付にいる巫女さんに交換してもらう。
みんなそれぞれもらったみくじ箋を開けていく。
「大吉だー!」
「私は吉ですが、これはいいほうでしょうか?」
「……」
志乃は大吉、フレーヌは吉そして黒羽はチラッと覗いてみると中吉だったらしい。
ふっふっふ、これは私が大凶を引いてしまうという流れに違いないね。 三人の中に大凶を引いていないのは、ある意味私が一番おいしい展開になるためかもしれない。
勢いよく私はおみくじを開き、引っ張り出した。
「うわー、大きょ……あれ?」
引っ張り出した紙を見てみると、予想していた大凶という文字はどこにも書かれていなかった。 それどころか大吉も中吉も凶すらも書かれていない。
書かれているのは''みぶん''という見慣れない文字だ。
え、何だろうこのおみくじ……。
「ああ、これは未分ですね。 吉と凶の変わりが激しいって事ですよ」
頭の上にハテナマークを浮かべていた私へ、受付にいた巫女さんが丁寧に説明してくれた。
へー、未だ分からずねえ。 なんともいえない気持ちになるなあ、これ。
「吉になるか凶になるか。 全てはあなた次第って感じですね」
「なるほど」
補足までしてくれた巫女さんは別の巫女さんに呼ばれると私に手を振り店の裏へと歩いていった。
アルティメギルとの闘いもそんな感じだし、もしかしたら今の私にはこれ以上ないほど、このおみくじはあってるのかもしれない。
これは結ばないで取っておこうかな。
この初詣で買うつもりの御守りと一緒に持っとけば吉になる確率が高くなる気がするしね。
「奏、御守り買いに行こうよー!」
「今行くー!」
おみくじをポケットへしまった同時に志乃に呼ばれてみんなの元へ駆け出す。
アルティメギルとの闘いはもうしばらく続く事になりそうだけど……絶対に去年よりもいい年にしよう。
だから━━━━
「━━━━今年も一年よろしくね」
話の中でようやく新年が明けました。
実は年内にエンジェルギルディとの決戦を書こうと思っていたのですが、色々と書きたい事が増えていき結局それは叶いませんでした。
あんまり話数が増えるのもどうかと思いながらも、セドナギルディとの闘いで四話も使ってしまうあたり計画性がありません。
それと最近、奏の誕生日と唯乃の誕生日が被っている事に気がつきました。今更変更するのも気が引けるのでどうかこのままでお願いします。