私、ツインテール戦士になります。   作:阿部いりまさ

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世界間航行機・フレーヌスター

フレーヌがテイルギアのデータと共に残っていたデータから作り上げた世界間を移動するための船。 市販されているワンボックスカーと変わらない見た目であり、公道を走行する事も当然可能。 世界間を航行場合は側面から主翼が展開される。 トランクに小型のカタパルトが設置されており、瞬時に基地へと移動する事が可能。 奏の世界の基地ができてからはその倉庫に保管され、埃をかぶっている。




FILE.70 テイルホワイトの覚悟

 三学期がスタートしてから二週間ほど経ち、普段ならいつもの学校生活真っ只中という感じになるが私たち二年生はそうはならない。

 二月の初旬に行われる修学旅行が近づき、態度に出す人はもちろん、態度に出さない人でさえ少しワクワクしているのがわかる。

 そういう私は態度に出るほうで、赤の他人に「修学旅行楽しみだね」と声を掛けられてもおかしくないくらい浮かれている。

 

「旅行中はテイルホワイト戦記は録画しとかないとな」

「一応オーストラリアでもテイルホワイトの番組はあるみたいだぜ」

「マジで!? 自由行動の時間ホテルでテレビ見とくか!」

 

 うん、この辺はいつも通りだね。

 最初は照れくさいし、やめて欲しかったけど今ではだいぶ慣れてきた。……だからと言ってどんどん言っていいというわけではないが。

 ただ、流行り物はいつか過ぎ去っていくもので、テイルホワイトについてのテレビの報道も最初に比べて大分抑えめになってきた。

 特番を組まれることはあるにはあるけど酷かった時は二十六時間テレビにサブリミナル的にテイルホワイトが映り込んでいたことがあったっけ……。

 活動中でもこうだからテイルホワイトがいなくなったら割とすぐに忘れ去られていくのかなあ。

 流れ行く雲を見ながら呆けていると、スマホがブルブル震えだす。

 

「!?」

 

 フレーヌアプリが起動して、ロック画面に通知が表示されていた。

 通知を見て私は直ぐに鞄を掴み、学校の地下にいるフレーヌの元へと向かった。

 

 

 フレーヌからガルダギルディが出現したとの連絡を受け、私は直ぐにカタパルトへと入った。

 周囲の光が晴れていくと、周りはほとんど海だ。

 

「ここってアクアラインにあるパーキングエリアだったけど……なんでガルダギルディはこんなとこに?」

『えー、ネットの情報を見てみるとどうやらこの時間、そちらの施設で特撮ヒーローの撮影を行っているようです』

 

 特撮ヒーローがこんなところでねえ。随分とお金をかけてるみたいだ。

 

「絶対ではないけど、特撮にはヒロインもいるしそれ目当ての襲撃でしょうね」

 

 いつのまにかいるシャドウに驚きつつ、そういうものかと納得する。

 とりあえず私とシャドウで一階と思われる部分を探索すると、テレビのカメラやらマイクやらがあるおかげですぐに見つける事ができた。

 半円の巨大なモニュメントを背にしてガルダギルディが仁王立ちし、その正面に撮影クルーが陣取り睨み合いしている。

 

「そのヒロイン、なかなか良い。 やはり特撮は王道のヒロイン像をメインに据えてくれる故、チェックは欠かせんな」

 

 一人で勝手に納得して頷くガルダギルディを見て、特撮のヒーローが一歩前へ出る。

 

「悪いがこの話の怪人は既に決まっている。 お引き取り願いたい!」

「それは残念な話だ。 俺の方が横にいるそいつよりも遥かにキャラが立ち悪役に相応しいと思うのだがな」

 

 一瞬でヒロインの性格を正確に看破する特撮の怪人か……いや、キャラが濃すぎるって。

 

「悪いが帰れんな。撮影の邪魔はしたくないが俺には俺の目的がある」

「く、俺がやるしかないのか……!」

 

 ジリジリとヒーローは距離を詰めると、撮影用だろうか。 なかなかカッコいい大剣をガルダギルディ目掛けて振るいはじめた。

 当然ガルダギルディにダメージが入っている様子はないが、ヒーローの勇気ある姿を見て横に突っ立っていた怪人も小型の剣を振り回しはじめる。

 まさかここでヒーローと怪人が共闘する展開は視聴者は予想していなかっただろう。

 

「すげえ闘いだ! おい、カメラを回せ!!」

 

 サングラスをかけた男の人がカメラマンに指示すると、カメラを持ってガルダギルディへと近づいていく。

 まさか本当にこれを放送する気じゃ……。

 

「うおおおおお! ドライバーキックゥゥッ!!」

 

 なんかヒーローもやたらと乗り気になってきている。

 エレメリアンが一般人相手に攻撃を仕掛けることはあまりないけど、ずっと見てるのもまずいだろうしそろそろ止めないと。

 

「ガルダギルディ、本当に今日で決着をつけるわよ」

 

 ガルダギルディがヒーローと怪人を引き離したところで二人同時に跳躍し、目の前に着地する。

 

「テイルシャドウが……カメラを止めろ! ギャラを請求されるぞー!!」

 

 先ほどまで熱心にガルダギルディを撮っていたカメラマンも、必死に音声を拾おうとしてたマイクさんも、果ては正義のために戦っていたヒーローまでもが逃げ出していく。

 こんな扱いをされても全くへこまないシャドウは凄いと思う。

 

「来たな、ヒロイン」

 

 紅い双眸を輝かせ、こちらを凝視するガルダギルディ。 はっきりいって少しキモい。

 

「今日はガルダギルディだけみたいだけど、とうとう決着をつける気になったみたいね」

 

 どうもシャドウがガルダギルディに対して風当たりが強いのは負けヒロインと言われたかららしい。

 周りから避けられてるのは気にしないくせに変なとこは気にするのね。

 

「確かに俺は闘うつもりできたが……俺だけではない」

 

 意味深な事を言うガルダギルディの後ろから、忌まわしき天使が姿を現わす。

 

『エンジェルギルディ……!』

 

 思わず生唾を飲む私たちとは違い、エンジェルギルディは至って冷静に腰から垂れる布を持ち上げた。

 

「実は、早急に貴方達の属性力を奪わなければいけなくなりまして……。 私としてはもう少し楽しみたかったのですけれど、残念ですわ」

 

 随分と自信があるみたいだ。

 確かにエンジェルギルディの強さが別格なのは前にあった時に感じた……だけど、今の私達はあの頃よりも強くなっているはずだ。

 確証は持てないけど、二人とも最初からチェインエヴォルブして集中的に攻撃すれば勝てる確率は高いかもしれない。

 だが、それができるのは二対一の場合だ。

 私とシャドウ、エンジェルギルディとガルダギルディという二対二の状況でその方法をとれるはずがない。

 

「考え事をしているのか?」

「え!?」

 

 自分の背後からガルダギルディの声が聞こえて慌てて振り返り、大きく後ずさる。

 全く油断はしていなかったのに……いつの間に後ろに!?

 とりあえず一か八かやってみるしかない。

 エンジェルギルディと距離のある今なら二人掛かりで一気にいけるっ!

 

「シャドウ、とりあえず二人でガルダギルディを……あれ」

 

 既にシャドウは私とは大きく距離をとり、エンジェルギルディへと向かっていた。

 なんか前にも同じような事があったような……。

 諦めた私はとりあえず目の前の敵に集中する。

 シャドウの加勢に行ったほうがいいとは思うが、ガルダギルディが簡単に行かせてくれるとも思えなかった。

 そのガルダギルディは腕を組み、余裕綽々だ。

 

「ヒロインの心情を考察するのも重要な事だ」

 

 忘れかけてたけどガルダギルディは鋭い観察眼の持ち主だったっけ。

 ま、今の考えをガルダギルディに読まれたところでそれは無駄になってしまったわけだけども。

 

「お前が今考えていたのは……''なぜ私は中途半端な胸なんだろう、もっと胸が欲しい''だな」

「な……んなわけないでしょ━━━━っ!!」

「ぐおっ!?」

 

 怒りにまかせ、突き出した拳はガルダギルディの胸部へとたまたま当たると、奴は苦悶の声をあげた。

 ……あれ、苦悶の声って?

 

「攻撃が……効いた!?」

 

 自分の拳を見た後に、再びガルダギルディへ目を向けると痛みに耐えきれないのか蹲っている。

 いやいや、確かに強く殴ったかもしれないけどそこまでなるの……?

 今まで何回もフルパワーで攻撃してたけど……とりあえず続けてみるか。

 アバランチクローを両腕に装備し、ガルダギルディへ突貫する。

 

「はああっ!」

 

 ガルダギルディの眼前へと迫ったところで、後ろに回り込み頭の上からクローを振り下ろす。

 全く避ける気も防御する気もない無防備な頭へ振り下ろされたクローは鈍い金属音を響かせ、ガルダギルディに直撃した。

 自分の感覚的にはさっきのパンチよりも明らかに強く、重く腕を振った……しかし━━━━

 

「━━━ヒロインの攻撃(アプローチ)は受け止めると、以前に言ったはずだが」

 

 今度は全く効いていない。

 なぜだろう……もしかして不意打ち的な物は普通にダメージが入るとかそういう事だろうか。

 なら今度はそれを試してみるか。

 

「あー! エンジェルギルディがー!?」

 

 ガルダギルディの後ろ、シャドウとエンジェルギルディが闘っている所を指差すと腕を組んだまま奴は振り返る。

 

「せいはー!!」

 

 その瞬間、前にダメージを入れた胸部へと思いっきりクローを叩き込む。

 

「なんの真似だ」

「あれ……」

 

 おかしい、不意打ちでも全く効いている様子がない。

 不意打ちではないとすると、何故攻撃が効いたのかとことんわからなくなってきた。

 クローを肩へスライドさせ、顎に指を当てて考える私を見たのか、ガルダギルディは再び腕を組む。

 

「やはり自らの胸について悩んでいるのではないか。 ああ、そうだ……お前たちヒロインは表面上は平静を装っていても、心の奥底では巨乳への憧れを持っているのだ」

 

 なんか巨乳属性みたいな事を言いはじめたぞ。

 しかしまあ、イライラさせてくれる。

 私は巨乳になんか憧れていないし、胸は形が大事だと思ってるし、今の大きさに誇りを持っている。

 なのにこのエレメリアンは勝手な想像でペチャクチャ喋って……!

 

「姿は違えど如何なるヒロインもその思いを秘めているのは必至。 お前もそうだろう、テイルホワイト。 俺には……わかる!」

「わかってないじゃないのおぉぉぉっ!!」

「ぐはあ!?」

 

 怒りによって繰り出された拳は、今度はガルダギルディの顔面にヒットしゴロゴロと転がっていった。

 

「バカな……!」

 

 フラフラと立ち上がり、信じられないといった表情をするガルダギルディ。

 あれ、また攻撃が効いた……。

 まさか怒りながら攻撃すればいいって事……なのか?

 

『いえ、怒りによるものなら黒羽さんと闘った時にもダメージを負っているはずです』

 

 フレーヌからの通信で私の考えは否定された。

 確かに、シャドウは負けヒロインと馬鹿にされた恨みでガルダギルディに何度も攻撃を仕掛けていた。

 その時には、苦しがる素振りを見せていなかった。

 しかし、怒りではないとしたらなんで今は攻撃が効いたのだろうか。

 

『……試したい事があります。 聞いてくれますか、奏さん』

 

 ガルダギルディを倒せる可能性があるのなら、聞かないわけにはいかないだろう。

 そして、フレーヌから与えられた言葉を聞いて、一瞬だけ自分の耳を疑った。

 

「え……それ叫ぶの? 私が!?」

『はい、お願いします』

 

 冗談かとも思ったが、提案したフレーヌの声は低く真剣そのものだと悟る。

 めちゃくちゃ気がすすまないけど……しょうがないか。

 

「ガルダギルディ! 私はね……」

 

 今日はテレビ局が来るのに時間がかかる場所で良かったと内心思いつつ、ありったけの声量で叫ぶ。

 

「わ、私は………中途半端な胸に誇り持っているの━━━━ッ!!」

 

 恥を捨てて叫んだ言葉は、フロア中に響き渡り、やがてガルダギルディへと届く。

 

「なんだと!?」

 

 驚きのあまりに頭を抱えるガルダギルディを気にせず、続けてフレーヌからのアドバイスを叫ぶ。

 

「これ以上大きな胸なんていらないんだから━━━━━━━ッ!!」

『今です、奏さん! 今こそ攻撃を!』

 

 腰の装甲から属性力を噴射し、一瞬で近づくと渾身の右ストレートをガルダギルディの身体へと叩き込む。

 

「ぐああああああっ!?」

 

 為す術なく被弾し、地面を転がると半円のモニュメントを破壊するガルダギルディ。

 

「まさかガルダギルディを……さすがですわね」

 

 シャドウから間合いを取ったエンジェルギルディもこの事態に驚愕を隠せず、思わず私を賞賛していた。 シャドウも目を丸くして瓦礫の下敷きになったガルダギルディに注目する。

 

『やはりそうです。 ガルダギルディを倒す鍵はズバリ''ヒロインらしからぬ言動''です!』

 

 基地でドヤ顔するフレーヌが頭の中に浮かんでくる。

 

『ガルダギルディはヒロインは胸を欲している者と言っていました。 なら中途半端な胸を持つテイルホワイトも巨乳を望んでいるはず、ヒロインとして当然だとガルダギルディは考えていたんです』

 

 気になる発言があるが、ここは黙ってフレーヌの説明に耳を傾けよう。

 

『しかし奏さんは本気で今の中途半端な胸でいいと考えていたため、ガルダギルディの中でヒロイン像が崩れてしまったんです。ヒロイン像が崩れた攻撃(アプローチ)はただの攻撃となりガルダギルディにダメージを与える事ができたのです』

「ちょうど良いサイズ、ね。 それと私が叫んだ意味はなんかあったの?」

『ガルダギルディに意識させるためです。 奏さんは自分の思うヒロインではないと、ツンデレですらなく本気で胸を欲しがっていない、というふうに』

 

 ここでようやく、ガルダギルディは瓦礫の中から起き上がると腕を組むのをやめ、灼熱の翼を展開させた。

 どうやら本気モードみたいだ……!

 

『さあ、奏さん。ヒロインじゃないと知らしめるためにどんどん思いの丈をガルダギルディへぶつけてください!』

 

 それしか方法がないのなら……もう、覚悟決めよう。

 

「ただデカイ胸よりも、私ぐらいの大きさがいいに決まってるでしょ━━━━━━━っ!!」

 

 魂の叫びとともに疾駆し、間合いを詰める。

 

「嘘をつくな! ヒロインならば巨乳を求めるのは息をするかの如く、当然の事の筈だ!」

 

 思い込みが激しく柔軟に対応できないようじゃ、全てのヒロインを愛せるわけがないだろう。

 翼から放たれた炎を自らの両腕に纏わせ、私を迎え撃つ。

 極寒と灼熱がぶつかり合い、辺りを凍らせ燃やしていく。

 こうしてガルダギルディが応戦しているという事は、今行なっている私の攻撃は奴にダメージを与えられる筈。

 あと、もう一押しだ。

 

「胸がデカイと邪魔でしょうが━━━━ッ!!」

 

 両腕を弾いたところで、ガルダギルディの眼前でクローを発射させ一旦距離をとる。

 怯んでいる隙に、私は素早く腰にあるマキシマムバイザーへと手を伸ばす。

 何分持つかわからないけど幹部エレメリアンを倒すのに、このバイザーは必要不可欠なものだ。

 反動が怖くて、エレメリアンと闘えるわけがない!

 

「マキシマムバイザー!」

 

 テイルブレスへバイザーをジョイントすると、間も無くマキシマムチェインへのチェインエヴォルブが完了した。

 本当に本当の、決着をつける時だ。

 

 

 テイルホワイトがチェインエヴォルブしたその頃、テイルシャドウとエンジェルギルディは睨み合いを続けていた。

 少しだけ拳を交わしたが、どちらも本気を出していないのは承知でピリピリとした空気が辺りに漂う。

 

「急に隊長自らが出撃してくるなんて、どうやら何かあったみたいね」

「……」

 

 相手が冷静さを失う事になれば、俄然シャドウは有利になると感じカマをかけた。 しかし、エンジェルギルディは黙ったままで思惑の外れたシャドウはどんどん続ける。

 

「どうせ首領に急かされたんでしょ。ま、当然よね。四幹部が崩れ、ガルダギルディがやってきても属性力を奪えずにいるんだもの」

 

 少しだけ表情が変わったのを見逃さず、煽り続けるシャドウ。

 

「そのガルダギルディもホワイトの攻撃を受けてしまったようだし、どうやら私たちはアルティメギルの歴史を塗り替える事になりそうだわ」

 

 煽りに煽られたエンジェルギルディはとうとう右手にお嬢様の弓を顕現させる。

 目映く輝く金色の弓だが、周囲の海に反射しこれまで以上に輝きを増しているように見えた。

 

「随分とよくお喋りするようになりましたわね。首領様の間で会った時は怯えている様子でしたのに」

「あなたとお喋りするくらいは、自分に自信が持てるようになった……てことよ」

 

 自らの部下が残してくれたアンリミテッドブラを胸に被せると、シャドウはアンリミテッドチェインへと変身完了した。 そしてすぐにノクスアッシュトリリオンを手に持つ。

 部下のフェンリルギルディの仇、そしてなにより自分自身の仇を討つ。

 その時がやってきたと実感するシャドウは晴れやかな表情をしていた。

 

「私は……私とホワイトはエレメリアンを倒すたびに強くなってきた。でもそれは決して自分たちだけの力じゃない……後ろで支えてくれる頼もしい仲間がいたから。アルティメギルにいた頃にはこんな思い、感じた事なかったわ」

「仲間がいたから……? 強さ美しさは自分自身で上げていくものではありませんの。私にはそんなもの必要ありませんわ……。 仲間を求めるなど……人間特有の弱者の思考にすぎませんわ!」

 

 お嬢様の弓から光の矢が放たれ、シャドウへと迫る。

 

「違うわ」

 

 迫り来る高速の矢を華麗に避けてみせたシャドウは、エンジェルギルディに向かって斧を振る。

 弓で斧を食い止めると周囲に鈍い音と衝撃波が響き渡る。

 

「作戦とはいえ、アルティメギルに属していた私を受け入れてくれた仲間がいたから……私は強くなる事ができた。人間のいいところよ、仲間を持って互いに高め合うことは!」

「戯言を……!」

 

 力で押し切られ、エンジェルギルディは後退りながらも光の矢を連続して放っていく。

 光にも勝らないスピードで、流星群のように幾千本もの矢がシャドウを襲った。 まもなくシャドウが立っていたところに矢が突き刺さっていくとアスファルトが砕け、辺りに煙が立ち込める。

 弓を構えたまま、エンジェルギルディはシャドウが出てくるのを待つ。 しかし、煙の中から現れたのはシャドウではなかった。

 

「くうっ!?」

 

 煙を切り裂いて現れた斧はエンジェルギルディの持っていた弓を粉々にすると、残骸と一緒に海へと消えていった。

 

「はああああああああああ!!」

 

 続いてシャドウ本人が煙の中から現れ、無防備だったエンジェルギルディの身体へ渾身の左ストレートを叩き込んだ。

 シャドウの仲間への想いがこもったパンチをもろに受けたエンジェルギルディはその場に倒れ込む。

 

「実力差は……圧倒的だったはず……何故です……の……!?」

 

 悔しそうに歯噛みし、拳を叩きつける。

 

「あなたの言う弱者の思考のおかげで……仲間を持ったおかげで私は強くなった。 さっきも、言ったはずよ」

 

 この世界を救うため、シャドウはかつての武器であるジャックエッジを左手に持ち振り上げる。

 

「これで、この世界は救われた」

 

 微かに震えていた漆黒の剣が今、振り下ろされる。

 

 

「好きな男なんているわけないでしょうが━━━━ッ!!」

 

 突き出されたクローユニバースが、ガルダギルディの身体を捉えて傷をつける。

 こうしてずっと叫んでいる事なんてなんて今まであっただろうか。

 フレーヌのおかげでガルダギルディと闘えているわけだけど、本当にこれずっと叫んでる必要はあるの!?

 大声で叫んでいるせいで体力の消費も凄まじく、既に私は肩で息している状態だ。

 

「貴様の攻撃(アプローチ)……いや攻撃はかなり効く。ここまでまともに闘うのは久しぶりのことだ……!」

 

 ガルダギルディは翼を展開し、そこから火球を放つ。

 一つ一つ、なるべく被害が少ないよう海へと打ち返すと私は疾駆し、相手の懐へと入った。

 

「私は実は料理ができないんだから━━━━ッ!!」

「ぐおおっ!!」

 

 クローユニバースを一閃し、ガルダギルディを吹き飛ばす。

 ここまでずっと叫んでいるけど……レパートリーがなくなってきた。

 

『今のなんてただの意外性を持ったカミングアウトですもんね。 でも攻撃が効いていると言う事はガルダギルディのヒロインには料理が出来ることが条件のようです』

 

 私だって目玉焼きくらいは作れるけどね。 全く料理ができないわけではないよ。

 ガルダギルディは翼をマント状に戻すと、両腕を顔の前で交差させ、なにやら気合を込め始めた。

 

「ふうううん……はああああっ!!」

 

 紅い双眸が一層強く光り、私を捉える。

 

「思い出せ、テイルホワイト! 貴様はヒロインなのだ」

「違うって」

「思い出せ! 貴様はバストは79ウエストは56ヒップは80のヒロインなのだ!」

「なんでそんな事を知ってんの!? あと大声で言うなっ!!」

 

 割と最新のサイズを当てるとか一体どこで見たんだこの変態は!

 いやー、しかし……周りに野次馬はいないし、基地にもフレーヌだけだしでなんとか助かった。

 

『ついさっき志乃さんと嵐さんも基地にきましたけどね』

「いやあああああああ!!」

 

 くうう……何故私がこんな辱めを受けなければいけないんだ……。

 頭を抱えしゃがみこんでいると、遠くから満足気なガルダギルディの声が聞こえてくる。

 

「いい反応だ……俺の眼はやはり間違っていなかった。それと、俺がスリーサイズを何故わかったかだが……見るだけでわかるのだ」

「キモッ!!」

 

 こんな変態要素を隠し持っていたとは、油断していた。

 身体のサイズを測るとか…今までにない気持ち悪さがある。

 

『奏さん! 胸が大きくならなくていいと言う本音をもう一度、奴にぶつけて下さい! 私はバスト79でいいのよって!!』

「それどんなプレイ!?」

 

 今までだってめちゃくちゃ恥ずかしかったのに、そんな事したら三日間は寝込んでしまうかもしれない。

 フレーヌには悪いけど、私にもプライドが……羞恥心がある。

 今まで通りのやり方でダメージは与える事が出来ていたのならそちらを優先するべきだ。

 

『よく聞いてください、奏さん』

 

 何を叫ぼうかと考えていたが、それはいつになく真剣な声音のフレーヌに止められる。

 

『今まで自分のバストサイズを叫びながら攻撃していたヒロインはいましたか!? いないですよね!? 前代未聞すぎてガルダギルディに致命的なダメージを与える事が出来るはずですっ!』

 

 本当にそうなのか。

 ただ、めちゃくちゃな話のはずなのに妙に納得させられるのはなんなんだろう。

 

『さあ、奏さん。 叫んでください、バスト79の』

「あー! わかったわかった、わかったよ!!」

 

 このままやるやらないを繰り返していてもしょうがない。

 なんかガルダギルディも空気を読んで待ってくれてるみたいだし……かなり気は進まないけど、やるか……。

 ガルダギルディへと向き直り、大きく深呼吸する。

 

「ほう、覚悟は決まったか?」

 

 おそらく''ヒロインになる覚悟は決まったか''と言いたいんだろうけど、残念ながら真逆だ。 ガルダギルディの思う事とは真逆の事を言う……!

 

「ええ、私はね……」

 

 歩き出しはゆっくりだが、徐々に早歩き、そして最後は走ってガルダギルディへと近づいていく。

 

「私は!」

 

 距離が縮まったところで、右腕のクローユニバースを大きく振りかぶる。 それにつられて、ガルダギルディも灼熱の拳で迎え撃つ体勢にはいった。

 今ここ私の究極に恥ずかしい一撃を━━━━

 

「━━━━私はバスト79で満足なんだからあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 魂の咆哮とともに繰り出された一撃は、ガルダギルディの身体へと叩き込まれ、奴は大きく吹き飛ばされる。

 

「なんだとおぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 驚愕しながら宙を舞うガルダギルディ。

 

『今です、奏さん! 必殺技をお願いします!』

 

 考える間もなく私はクローユニバースを両手から外す。

 

「ブレイクレリ━━━━ズ!!」

 

 ヤケクソ気味に叫びながらも、しっかりと一つとなってくれたクローユニバースへいつもより数倍の力で蹴り込み脚へと装備させた。

 それと同時に、腕が痺れはじめる。 これ以上マキシマムチェインでいるとまたあの時のように……!

 

「自分の属性力なんだから……言う事、聞いて!」

 

 自らの腕を抑えて全身に痺れが広がる中、腰の装甲から属性力が放たれ、体に光を纏うとそのままガルダギルディへと蹴撃が迫る。

 

「クライマックスウゥゥゥゥッ! ドラ━━━━━━イブッ!!」

 

 ガルダギルディは胸の前で腕を交差させる。 おそらくナーガとやらを発動する気だろうが、そうさせない。

 ナーガという極意も相手がヒロインである事前提の技のはず、だったら先程までと同じようにすればいい。

 ツインテールの戦士である私が……最高に似つかわしくない事を叫んでやる!

 

「ガルダギルディ! 私は、ツインテールが大っっ嫌いだあぁぁぁぁぁ!!」

「何!?」

 

 今まで何回も口にしてきたけど、ガルダギルディ相手だと正に高相性の言葉だ。

 最初に会った時にガルダギルディは言った。''微ツンデレ''だと。しかし、この叫びはツンデレでもなんでもない。正真正銘の''本音''なのだ。

 私の叫びに呼応するかのように、必殺技は勢いと速さを増していくと、ついにはナーガを発動させる事なくガルダギルディを貫いた。

 着地すると同時にマキシマムチェインは解除され、ガルダギルディよりも先に地面に膝をつけた。

 

「フフ……負けはしたものの、俺はお前をヒロインと疑わんぞ」

 

 全身から放電が始まり、ついにガルダギルディは仰向けに倒れこむ。

 

「魂の叫びを聞き、重い一撃を食らってきたが……ある一発だけは重くなかったのだ……」

「え?」

 

 予想外の言葉に思わず変な声を上げた。

 全て本音をぶつけてきた筈だが……何か嘘を言っていたのだろうか。

 

「ちょっと、重くなかった攻撃って何?」

 

 私の質問にガルダギルディは答えずに、ただニヤつく。 消滅寸前なのに、正直キモいからやめてほしい。

 

「自分で見つけるんだな。恋愛属性(ラブ)を持つ戦士、テイルホワイトよ!」

 

 その言葉を最後にガルダギルディは爆散し、その場には属性玉が残された。

 拾い上げたところで基地でフレーヌがブツブツ言っているのが聞こえてきた。

 

『ラブ……まさか!』

 

 ラブか……。

 恋する乙女なんて、中学で卒業しちゃったんだよね。

 結局ガルダギルディは教えてくれるどころかラブとかいう、意味深な事を言い残しただけだし……なんだったんだ……。

 答えを求めて手にしているヒロインの属性玉を見つめるが、当然何も聞こえてこない。

 

「って……まだ終わってなかったよね」

 

 シャドウがエンジェルギルディの方へと視線を向けると、どうやら既に決着はついているようだ。

 以前はかなりの力の差を感じたが、色々な闘いを経て私達は確かに強くなったんだと実感する。

 

 これでようやく、闘いが終わる━━━━

 




俺、ツインテールになります。 の次巻の発売が待ち遠しいですね!
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