私、ツインテール戦士になります。   作:阿部いりまさ

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エンジェルギルディ(お嬢様の花嫁衣裳(ウェディング・セラフィム)
身長:189cm
体重:266kg
属性力:お嬢様属性(レディー)

聖の五界(セイン・トノフ・イールド)の隊長、エンジェルギルディが四幹部の属性玉を取り込んだ事で到達した最終闘体。 戦闘力はもちろん上がっているが、性格もやや高飛車になっており、覚醒した自分の力に絶対の自信を持つ。 敵をも魅了する美しい姿とは裏腹、戦闘スタイルは狡猾で残忍。

武器:禁戒なるお嬢様の純潔(レーヴァテイン)
必殺技:お嬢様の聖水(エリシオン)


FILE.75 佳境の修学旅行(ラブ)

 無事にジャックギルディとフロストギルディを倒す事ができた私と黒羽。

 だが黒羽は属性玉を回収して早々に『修学旅行を楽しみなさい』とだけ言い残して、フレーヌ基地へと帰ってしまった。 折角だから少しくらい一緒にいても良かったと思うんだけどな……。

 フレーヌからは今回のお礼と、希望のお土産を伝えられるとそそくさと通信を切られてしまった。

 私も闘うとは言ったものの、やはり二人はなるべく修学旅行の邪魔をしないように動いてくれている感じだろうか。

 二人が邪魔なんて事は全然ないんだけどな。

 

「順番そろそろだよ、奏」

「え、あ……ほんとだー!」

 

 隣の彩に声をかけられ我にかえる。

 先ほどの事を考えていた私だけど、今は自然公園の中にあるコアラと記念写真を撮るための列に並んでいたところだ。

 結構な時間待っていた気がするけど考え事をしてたらあっという間だね。

 

「か、可愛い……!」

 

 昔から夢見ていたコアラとの触れ合いが遂に……!

 飼育員の方に抱き方を教えてもらい、慎重に抱き上げる。

 あ……これ、凄い……ふわふわしてて、やばっ……! ぎゅーっとしがみついてくるのも凄い可愛いし……あーもうっ、可愛いなもうっ!

 

「そんなにか、お前」

 

 ……折角コアラとの触れ合いを楽しんでいたのに、嵐の声で一気に現実に引き戻された気がする。

 てかずっと見られたと思うと、なんか……恥ずかしい。

 

「わ、悪い? 可愛いから仕方ないでしょ」

 

 悪くはねえけど、と嵐は話して何故か私の隣に並んできた。

 

「え、どしたの?」

「写真撮るなら隣並ぶだろ、普通」

「いやいや、さっきまで私の隣は彩だったでしょ」

 

 彩はポニーテールにしてるけど、そのせいでポニーテールバカの嵐になってしまったなんて事はないでしょ。

 

「奏がいつまで経ってもコアラ愛でてて、写真撮ろうとしないから鍵崎と一緒に他のコアラと写真撮ってたぞ」

「そんなに長い時間可愛がってたかな……。あと奏って呼ばないで」

 

 まったく……奏やら孝喜やら言い合う関係はとっくに終わってるっていうのに、何回も言ってるのになんでわからないのかな。

 嵐に疑問を抱きつつ、なんとなくの流れで結局一緒に写真を撮る事になった。

 嵐とのツーショットはごめんだけど、コアラと一緒に撮れたし結果はプラスかな、うんうん!

 名残惜しいが、コアラをそーっと飼育員の方へと返し、最後に手を振って私と嵐はみんなのいる場所へと歩く。

 私たちが到着すると彩がパンフレットを開いて話しはじめた。

 

「この後どうしよっか。 コアラ以外にも動物はいるみたいだけど」

 

 班長の彩がみんなの意見を聞き、

 

「カンガルーとリアルファイトとかどうよ」

 

 長身の真部がアホな事を提案して、

 

「展望デッキのあるスカイポイントとかどうかな」

 

 メガネの武川がそれを無視して話し、

 

「俺は別になんでも」

 

 アホの嵐は興味なさげで、

 

「奏はどう?」

 

 癒しの志乃は私に振ってくる。

 そうなると私はみんなから注目を浴びて……。

 

「えっと……ホテルに帰る時間考えるとそこまで遠くに行けないから三十分くらいで行けるドリーム世界とかムービー世界が良い、かな」

 

 コアラを抱っこするという目的を果たした今、私が行きたいと思うのはこの二つになる。

 少しだけ行くのに時間はかかるけど、まだ午後一時だしどっちかは、或いは何処かに寄ったとしても充分に楽しめるだろう。

 どっちかというと、気になるのは……やっぱドリーム世界のフリーフォールかな。

 

「それじゃあ……まずドリーム世界で遊んで、暗くなってきたらスカイポイントに移動しよっか。 夜景も綺麗みたいだから」

 

 具体的に行きたいところを希望した私とメガネの武川の意見が彩に通り、早速出発する。

 フリーフォールか、楽しみすぎる。

 

 

 それから交通機関を使ってものの数十分程度で、私たちがいた自然公園からドリーム世界へと到着した。

 私は大きな入り口を見て目を輝かせたが、中に入ると一気にテンションがだだ下がっていく。

 私は確かにドリーム世界行きを希望したし、ここは確かにドリーム世界で間違いないなのだが……。

 

「どうしてこんなにツインテールまみれなの!?」

 

 園内には散見するテイルホワイトのイラスト。

 これだけならまだ驚きはしない。 だってこの十ヶ月間、日本でも同じ状況だったのだから。しかし、日本とは明らかに違う事がある。 

 

「うおー、シャドウのパネルもあるな。 黒羽が聞いたら喜ぶだろうし、撮っておいてやるか」

 

 もちろん班のみんなもそれに気づいて嵐は早速スマホで撮影した。

 シャドウの写真……日本ではある企業が写真を使ったところ、シャドウ自身が膨大な使用料をせびった為、それ以来はその企業含め他の企業も写真を使う事はなくなったという経緯がある。

 日本の企業の被害を知ってのことか、知らずのことかは不明だが、ここまで堂々とシャドウの写真を使うなんて……ここの責任者は肝が据わっている。

 だが、驚くべきはこれだけじゃない。

 

「おい武川! テイルレッドたん関連のお土産がめちゃくちゃあるぞ!」

「本当だ! しかもこれはオーストラリア限定の記念品だよ」

 

 なんと、僅かな期間しか闘っていなかったにも関わらずテイルレッドのグッズが所狭しとお土産ショップに並んでいた。

 うーん、このお土産の豊富さや男子たちの反応を見る限り、やはりテイルレッド人気は凄い。

 ただ、見た感じアトラクションの列よりも、お土産に並ぶ列の方が長いのは遊園地として如何なものか。

 ま、逆に言えばスッとアトラクションに乗れるのは時間に限りのある私たちにとってはとてもありがたいことだ。  

 

「これだけ集中してればフリーフォールあっという間に乗れちゃうかもね」

 

 隣にいる彩に対して言ったつもりだったけど、帰ってきた声は想定していたよりも低い声だった。

 

「あいつらみんなテイルレッドのとこ行ってるぞ」

「なんで嵐が……」

 

 いつのまにか隣にいた嵐。

 これではさっきのコアラの時とまったく同じじゃないか。

 このままずっと立ったままみんなを待つのも疲れるし、嵐がずっと隣にいるのもアレだし、取り敢えず近くのベンチに座って待つ事する。

 ベンチから見ても、やはりお土産の列は長い。みんなが戻ってくるまでまだまだ時間がかかりそうだ。

 スマホもないのでボーッと列を眺めていると、横から缶ジュースが差し出された。

 

「あ、ありがと」

「おう」

 

 暇な私を気遣って、嵐は近くの自販機で買ってきてくれたらしい。

 暑い日なので水分補給は必須なのだけど、この缶ジュース……どこのメーカーのなんていう飲料水なのか気になる。

 まったく見たことのないジュースを飲みつつ、お土産屋に並ぶ金髪の人の数を数えていると先に飲み終わったらしい嵐が口を開いた。

 

「俺さ、昨日の海で彩に告られたんだ」

「いきなりぶっ込んできたね」

 

 めちゃくちゃ自然になんて事を言ってるんだ、この男は。

 結構デリケートな話だけど、これ私が聞いてよかったのだろうか。

 

「可愛いし、人気だし、嵐には勿体無いけど良かったね」

 

 なんとなくだけど彩が嵐の事を好きなのはわかってはいた。だから、なるべく私は嵐と二人にならないようにしていたつもりだけど。

 それにしても、彩も修学旅行先で告るなんてなかなか思い切った事するなー。

 

「良かったし、告られんの久しぶりですげー嬉しかったよ」 

 

 私は嵐の自慢を聞かされているのか……?

 久しぶりというのは私が告った時の事だろうか。 思い出したくないのでなるべく言わないでほしいんですけど。

 

「断っちまったけどな」

「ふーん」

「あんま驚いてないのな」

 

 彩の告白が成功してるなら、嵐が今こうやって私と話してるはずないからね。

 確信するほどではなかったけれど、彩に告られた事を私に言ったその時にまあ……察してしまった。

 

「……」

 

 嵐がなんかそわそわしている。

 おおかた告白を断った理由を聞かれたいとかそんなんだろうけど、私はそんな誘いには乗ったりしない。

 志乃たちはともかく、嵐の恋バナなどホントに心底どーでも良いのだ!

 話したいなら自分から話しなさい、っての。 それなら聞いてあげなくもないんだから。 

 

「あ、奏いたー!」

「お帰り、志乃。あんまり買わなかったんだね」

 

 嵐は結局そわそわしたまま何も言わず、少ししたら志乃を先頭にみんなが戻ってきた。

 志乃の事だからさぞいっぱいテイルグッズを買ったのかと思いきや、持っているのは小さな小袋一つだけだ。

 他のみんなも志乃と同様、小さな小袋一つずつ持っている。

 

「客が多すぎて一人一品だって言われてな」

「しかも大体売れ切れちゃってて、小さなストラップしか買えなかったよ」

 

 真部と武川により説明がはいり、めちゃくちゃ納得した。 ここまで納得できる理由が他にあろうか。

 

「奏と嵐君の分も買おうと思ったんだけど……一つって言われちゃったから、これ!」

 

 そう言って彩が小袋から取り出したのはホワイト、シャドウ、レッドのセットで売られているキーホルダーだった。

 彩はすぐに包装を開けると、私と嵐に「好きなのどーぞ!」と差し出してきた。

 こんなに優しくて可愛いのに……嵐が振る理由がわからない。 一番わからないのはなぜ嵐に惚れてしまったのか、という事だが。 これは昔の私にも言える事なんだけど。

 

「じゃあ、シャドウのを……」

 

 おそらく彩が要らないであろうシャドウのキーホルダーを手に持つ。

 だが、この選択は間違いなのだ。

 

「俺は、ホワイトの貰うかな」

「え!? ダ、ダメ! 私がホワイトね! 嵐はシャドウで我慢しといて!」

 

 ただのキーホルダーとはいえ、嵐に持たれるのはなんかアレなのでシャドウのキーホルダーを押しつけてホワイトを保護する。

 

「えー……」

 

 明らかに不満そうな嵐。 そんな顔してると、後で黒羽に怒られるからね。

 レッドのキーホルダーは無事に彩の手元に残り、わざわざ私たちの分まで用意してくれた彩にお礼を言った。 

 

「ありがとね、彩。気を使ってもらっちゃって」

「うんうん、いーの! あ、当然だけどお金はいらないからね」

 

 わかってはいたけどホントにいい娘だ……。

 他人への気遣いは完璧、性格も裏表がなくていい、告白して振られた相手にも変わらずの対応……こんないい娘の告白を断る男はどうかしている。ねえ、嵐?

 それにしても、このキーホルダーなかなか良くできている。

 テイルホワイトの装甲の一つ一つが細かく描かれ、ツインテールにはしっかりとメッシュがはいり、可愛くデフォルメされながら誰が見てもテイルホワイトだとわかるように作られている。

 残りはエンジェルギルディのみだとすると、私はあと何回このテイルホワイトになるのだろうか。

 近く行われるであろう最後の闘い……これまで以上に壮絶になるに違いない。

 

「奏?」

「え、あ……ごめんごめん」

 

 いつの間にかみんなベンチから離れていたようで、彩が残された私を呼びにきてくれたみたいだ。

 いけない、いけない。

 今は一生に一度の楽しい楽しい修学旅行の真っ最中なんだ。 あまり考え込むのはやめたほうがいいよね。

 彩に「何でもない」と言いつつ、二人でみんなの元へ早足で向かっていった。

 

 

 奏たちの自由行動班から後方五十メートル。

 お土産屋の列に隠れて、様子を伺っている二人の影があった。

 一人は幼く、もう一人は奏と同じか少し大きい背丈をしている。

 幼い影は目深にハンチング帽を被り、赤縁のメガネ、白いブラウスに涼しげな水色のミニ丈キュロットスカートを履いたフレーヌ。

 もう一人は命とも言えるツインテールは当然で、大きいサングラスと黒のパーカー、とデニムパンツを着用している黒羽だった。

 フレーヌの『奏さんたちの修学旅行を守ろう作戦』の一環として、こうして奏たちを尾行している。

 

「嵐さんの野郎、やたらと奏さんに近づいているような気がしませんか!?」

「そうかしら……」

 

 この尾行はあくまで、フレーヌの『奏さんたちの修学旅行を守ろう作戦』の一環である。

 

「……」

 

 乗り気で尾行するフレーヌに対して、黒羽は明らかに元気がなかった。 

「あの、黒羽さん……どうかしましたか?」

 

 滅多に見せる事のない気力のない黒羽を見て、フレーヌはメガネをとり問いかける。

 黒羽は今までエレメリアンに苦戦しようが、自分の事がメディアで酷く報道されようが、まったく気にせずにしてきた。

 黒羽がここまで気を落とすのはオルトロスギルディが敗れた事や、部下のフェンリルギルディが敗れた事など、自分の仲間に関する事ばかり。

 フレーヌは大層に心配したのだが、  

 

「テイルシャドウのグッズ……あまり売れてないのよ」

「え、今さらですか!?」

 

 とはいえ、黒羽が世間帯を気にするのは初めてな事かもしれない、とフレーヌが考える中、黒羽は列に並んでいる人たちに近づいていく。

 

「あー、テイルシャドウはいいわね。なんだって黒のツインテールですもの。白や赤よりも現実味があっていいわねー」

「や、ややめてください! ここは日本語通じませんのでやめてください!」

 

 ダイレクトマーケティングでシャドウを売り込もうとするが、案の定列に並んでる人たちは黒羽の言葉を聞いて頭にクエスチョンマークを浮かべている。

 ただ、なんとなく意味が伝わった人もいたようで苦笑いを浮かべている者もいた。

 

「やめなさい、フレーヌ。 この遊園地はシャドウグッズの売り上げ五十パーセントを私に寄越すと言っているのよ! 絶対に売ってやるんだから!」

「いつの間にそんな悪魔的契約を!?」

 

 しかし、一見無茶な契約かと思いきやそうではない。

 そもそもこのドリーム世界はシャドウのグッズの売り上げなどまったく期待しておらず、事実それは皆無に等しかった。

 黒羽に売り上げを提供する代わりに、写真などの使用許可を得ていたドリーム世界の支配人はとても賢かったのだ。

 ただ、悪魔は知恵が働くものである。 

 

「ん、これはシャドウとホワイトとレッドでセットなのね。……これもシャドウのグッズとしてカウントされるわよね。 それにこのストラップ……ノクスアッシュそっくりね。 これもシャドウグッズとして取り扱うわ」

 

 店頭に並んだセットのグッズを見て閃いた黒羽は、フレーヌに貰ったスマホでどこかと電話をしはじめた。

 リアルタイム翻訳機能が搭載されたスマホでどこと話しているのか、フレーヌはあまり考えないようにして奏たちの尾行に戻る。

 メガネをかけ直したフレーヌはあくまで『奏さんたちの修学旅行を守ろう作戦』の一環として、再び監視をはじめたのだった。

 

 

 ドリーム世界を満喫し、現在の時刻は午後六時半。

 私たちはドリーム世界を離れ、街を見渡せる展望フロアがあるスカイポイントは移動していた。

 今の時間は丁度日の入りの時間であり、西に沈む夕日が眼下に広がる街を包み込み幻想的な光景を生み出していた。

 このスカイポイント。朝から昼にかけては目の前に広がる大海原や、反対側に回ればオーストラリアの雄大な山々を堪能できる。

 今の時間……夕方にはこの通り素敵な夕日を見るとともに、少し待って日が落ちて夜になれば今度は夜景も楽しめるという贅沢な観光地だ。

 私たちは門限があるのであまり長居はできないものの、ホテルまではそう遠くないので夜景も見ることができるかもしれない。

 街を照らす夕日を見て、不思議な気持ちになってきた。

 なんか……この夕日、懐かしく感じる。

 中学生の頃……私が嵐に告白して、付き合う事になった時もこのような夕焼け空が広がっていたっけ。

 今となっては恥ずべき黒歴史だけど、当時の私は告白するのに凄いドキドキして……嵐にOKをもらった時は凄い嬉しかったんだよね。 ……今は恥ずべき黒歴史だけどっ! 

 

「奏、ちょっといい?」

「彩?」

 

 彩に呼ばれ、みんなから離れる。

 このタイミングで彩に呼ばれるってのいうのは……もしかして嵐に告ったこと関連だろうか。

 ある程度みんなから離れたところで彩は立ち止まり、私の方へ振り返る。

 そしてゆっくりと、口を開いた。

 

「実は、言っとかないといけないことがあって……」

「えっと、うん」

 

 ここで私が「嵐に告ったこと?」なんて言えるはずもなく、彩の口からその言葉が出てくるのを待つ。

 彩は何度か深呼吸した後、ようやく口を開いた。

 

「私……嵐くんに振られちゃった!」

「へ、ほへえー」

 

 想像していたよりも明るく言われたので、なんだかおかしな返事になってしまった。

 振られたことをここまで嬉々として言う女の子も珍しい……ていうか私は初めて見た。

 

「ふーん、奏の反応から察するに。……ひょっとして嵐くん、私が告ったこと奏に言ったでしょ?」

 

 さすが彩、鋭い。

 それでも彩からは嵐が告ったことをバラした事に対して不快感を感じない。 そういうのはあんまり気にしないタイプだろうか。

 

「奏は、私が嵐くんに告ったことに対して何かこう……思うことない?」

「え、別に」

「そ、そう……。 あれー?」

 

 そりゃ彩の告白を断る嵐はどうかとは思うけど、思うことと言ったらそれくらいで他には特に……。

 

「えっと……奏が特に何も思うことないなら話が進まないっていうか……」

 

 彩がモジモジして言葉に詰まっていると、館内放送で夜の七時になったとフロア全体に伝えられた。

 まずい。ホテルまで近いとはいえ、そろそろ帰らないと門限に間に合わなくなってしまう。 

 

「話はホテルで聞くから、とりあえず帰ろ」

 

 真面目な彩にしては珍しくこの場から離れようとしないので手を取り、エレベーター方面へと向かう。きっとみんな待っているはずだし、急がなければ。

 

「えっと!私は先に行くから海が見える方のフロアに急いで向かって!」

「え?」

 

 切羽詰まった様子で彩は言うと私の手を振り払って先にエレベーターの方へ駆けていく。

 だが彩はすぐに立ち止まり私の方へ向き直るととてもいい笑顔をして大声をあげた。

 

「これは私のお節介! ちゃんと答えてあげてね!!」

 

 そう言うと彩は踵を返し、再びエレベーターへと駆けて行った。

 ……時間が危ういけど、彩に言われたことだし、何かあるんだろう。

 

 

 無視するわけにもいかず、時間がアレなのでなるべく早く片付けようと海の見える展望フロアへと来ると、雑踏の中よく見知った人影を発見した。

 ボーッと海を見て突っ立っているその人物に近づき、トントンと肩を人差し指で叩く。

 

「何してんのこんなとこで。 時間ヤバイし早く帰るよ、嵐」

「え、伊志嶺!?」

 

 かなり驚いた反応を見せるあたり、私がここに来るとは思っていなかったのだろう。

 まさか、私は彩に嵐のお迎えを頼まれてしまったのだろうか。

 

「彩の言ってたことってこういう事かよ……!」

 

 頭を掻きながらボソボソと何か言っているけど、一々それが何かを聞いている暇はない。

 取り敢えず嵐の袖を引っ張りエレベーターへと向かおうとしたところ、それは当の嵐によって制止された。 

 

「待ってくれ。 今を逃したら、この夜景はもう二度と見られないかもしれないからな」

 

 時間がないのに……というか考えは眼下に広がる夜景を見て吹き飛ばされる。

 摩天楼の光、地面を走る車の明かり、街に沿うように真っ暗な海……全てが幻想的だった。

 ま、まあ……この建物のエレベーターは速いし、ホテルは徒歩で十分もかからないし、あと五分くらいは平気かなっ!

 

「へえー、嵐なかなかいい趣味してるね」

「へへ、まあな!」

 

 素直に感心したし、今はドヤ顔しても許してあげよう。

 それから何十秒か、移り変わる夜景を楽しんでいると、

 

「い、伊志嶺」

 

 横から何か緊張したような声で嵐が話しかけてきた。

 特に返事もせずに、私は次の言葉を待つ。

 

「彩からの告白を断った理由なんだが……」

 

 そういえばドリーム世界で言いたそうにしていたっけ。

 私から聞くのはごめんだけど、嵐が話したいなら聞いてやってもいい。

 

「俺って取り敢えず付き合うとかできないタイプなんだよ。好きじゃないやつとは付き合えない性格でさ……。 そりゃ付き合ったら好きなるかもしれない、とかは思うけど……俺って不器用だからよ」

「ま、なんとなく……本当になんとなくわかる気がする」

 

 私だって好きでもない男子から告白されたところで付き合う気なんてさらさらないわけだし。 

 

「じゃあ彩を振ったのは彩を恋愛対象として見れないから、てことね」

 

 今の説明を聞いて少し納得した。

 ぼちぼち時間だしそろそろ帰る……。

 

「━━━━いや、違う」

「え?」

「あ、いや……違くはねえんだが、俺が彩を振った大きな理由はだな……」

 

 ここまで来て女々しく嵐はモジモジしはじめる。

 そして先ほどの彩のように大きく深呼吸を何回かすると、嵐は体ごとをこちらへ向き直った。

 

「━━━━既に俺には好きな女がいたからなんだ」

「へ、へえー……」

 

 え? そんなこと私にいう必要ある? 私はなんの関係もない第三者のはずでは!?

 あれ、でもこの感覚……覚えがある。

 昔、私が中学生の頃にした感覚と似た……この感覚……!

 ん!? もしかして、嵐は……まさか……!?

 

「俺が好きな女ってのはな……!」

 

 こんなロマンチックなところで顔真っ赤にして言う事なんて……もうアレしかない。

 私を見据える嵐の目を、私も見ると、視線が交差して私の顔の温度が上がっていく。

 そして嵐は、

 

「俺はお」

『御機嫌よう!! 人間の皆さん!!』

 

 突然静かな館内BGMが忌々しい天使の声へと変わり、嵐が言いかけた事は一部を除いてかき消えた。 

 

「エンジェルギルディ!?」

 

 咄嗟に窓の外へ目をやると、最終闘体のエンジェルギルディが大写しとなったスクリーンがゴールドコーストの空に浮かんでいた。

 

『皆さん方が崇拝するツインテールの戦士たちにより、なんとワタクシの部隊はワタクシだけになってしまいましたの』

「あんの野郎……!!」

 

 完全にキレている嵐が空に浮かぶスクリーンに向かってメンチを切っている。

 エンジェルギルディはもちろんそんなことは知らずに、演説を続けていた。

 

『素晴らしいご健闘ですわ。 ですからこうして、ワタクシが最後の侵攻の予告をして差し上げますわ』

 

 最後の侵攻……エンジェルギルディは次にこの世界に来た時、闘いを終わらせるつもりなのか!

 

『そうですわねぇ。ツインテールの戦士にも準備と心構えが必要でしょうから……二日後にしましょう。つまり、今から四十八時間後ですわ』

 

 四十八時間って、明後日!? 心構えとか言っておきながら、明後日とか結構急に感じるんですけど!

 ていうか明後日はまずい! まだ私たち修学旅行の途中だし!

 

『これは絶対ですわ。四十八時間後、ツインテールの戦士が現れようが現れなかろうがワタクシはこの世界の属性力を十分ごとに頂いていきますわ。 こうすれば、絶対に現れてくれると思いますので』

 なんて下衆。天使やら花嫁衣裳やら華やかなイメージを散りばめているくせに……!

 修学旅行中なのは非常に惜しいけど、世界の属性力と天秤にかけたら……重要なのはどちらか明白だ。

 

『ワタクシが降りる場所はお楽しみに。 それでは今から四十七時間五十四分後、楽しみにしといてくださいまし』 

 

 そう言い残し、スクリーンは砂嵐になるとやがて空に溶けていくように消えていった。

 まさかエンジェルギルディから最終決戦の日を指定してくるなんて、意外だった。

 こうしちゃいられない。 早くホテルに戻ってスマホでフレーヌとやり取りしないと!

 

「あ、おい!」

 

 エレベーターに向かって駆け出したところで嵐に呼び止められる。

 

「ん?」

「えっと……」

 

 ああ……。

 雰囲気もあるのだろうし、再び言おうとしてもなかなか言えないっていうのは……わからなくもない。

 だから、フォローしといてあげる。

 

「嵐が言おうとした事が何かくらい、わかってるよ」

 

 私は鈍感じゃない。

 あんな雰囲気で、あんな顔真っ赤にして何を言おうとしたかなんて言わなくても察してる。

 目の前の嵐の、顔赤くして目線を泳がせてる反応を見て、そうと思わない女の子がいる?って話。

 

「だからさ、嵐」

 

 顔をあげた両手の人差し指を交差して見せる。

 

「修学旅行の雰囲気でそういうことを実行するうちは、ごめんなさい!」

「な、なああああああああ!?」 

 

 顎が外れるのではないかと思うくらい口を開けて驚きガッカリする嵐と、おそらく弾けんばかりの笑顔をしている私。

 あそこまでじゃないけど、私も中学で嵐に告ってOKもらった時は口を開けて驚いてたなあ。

 

「ほら、のんびりしてたら置いてくよ」

「え、あ……はい……」

 

 ホントに嵐は時々女々しくなるな。

 男なら新しい恋に生きろ!ってんだ。

 気合いを入れてあげよう。

 

「は!?」

 

 トボトボ歩く嵐の手を掴み、エレベーターへと駆ける。

 その時、不意にガルダギルディが今際の際に残した言葉が頭に浮かんできた。

 

『恋愛属性(ラブ)を持つ戦士、テイルホワイトよ!』

 

 まさか修学旅行中に気付かされるなんてね。

 顔はまだ熱く、ほのかに赤くなっているであろう私を薄暗い照明が隠してくれていた。




皆さん、どうも阿部いりまさです。
この話で奏と孝喜にやっと進展?がありました。
そしてエンジェルギルディの宣戦布告……話は修学旅行の終わりとともに……。

次回は早いうちに投稿できたらと思います!
それでは、ありがとうございました。
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