黒羽の願いが奇跡を起こし、シャドウがたった一度きりの変身を遂げた形態。 体の中心から左右が非対称のシルエットとなっており、片方がテイルギア、片方がオルトロスギルディの鎧となっている。 ホワイトが発動させたエレメーラフュージョンよりも活動時間は長かった。 黒羽やフレーヌ、オルトロスギルディにフェンリルギルディといった四人の思いを詰めた形態である。
武器:ジャックエッジ(太刀)
必殺技:アルカイッククライシス
ホワイトやシャドウが激闘を繰り広げているのと同時刻、志乃と孝喜を含めた奏のクラス全体でブリズベンの劇場へと足を運んでいた。
この劇場ではテイルホワイトのミュージカルが大きく話題となっており、観光客が必ず寄っていくスポットとして人気を博している。
話題のミュージカルが上映されているにも関わらず、志乃は目を伏せがちであまり楽しんでいる様子はなかった。
「ごめん、私ちょっと……」
「大丈夫?」
「うん……」
隣に座っていた彩に心配されながら、志乃は一人ホールの扉を開け人気のない廊下で壁によりかかる。
スマホをチェックすると、既にエンジェルギルディが予告した時間から約四十分経過していた。
「心配なのか」
小さく息をつく志乃へ、同じ扉から出てきた孝喜が声をかけてきた。
「当たり前だよ。今も奏たちが闘ってるって思ったら……私だけ修学旅行なんて楽しめないって」
孝喜は無言で頷き、志乃の隣へ並ぶと同じように壁に寄りかかり制服のポケットからスマホを取りだした。
ネットで闘いの中継しているところはないかと調べるも山奥での闘いのため、当然カメラなどは入っておらず、どこも中継はしていないかった。
「世界で次々とツインテール属性が消えちまってる。あのクソ天使が言ってたことはどうやらマジみたいだな」
「え、じゃあまさか……奏たちは……!?」
「大丈夫だと思うぜ。クソ天使は十分ごとに奪ってくみたいなこと言ってたし、伊志嶺たちが闘っていてもツインテール属性は奪われてるだろうから」
スマホ見ながら淡々と答える孝喜を見て、少しだけ志乃は落ち着きを取り戻す。
「それにあの性格悪いエレメリアンなら、自分が勝ったことをすぐ全人類に伝えるだろ。 あのでっかいモニターでな」
「うん……」
孝喜はネットの記事でツインテール属性が奪われた都市を目にする。 ゴールドコースト、バリ島、東京湾アクアライン近くの都市、自分が住んでいる町の隣町。エレメリアンが過去に出現した地域から属性力は奪われている事に気づいた。
(俺も何か手伝いてえよ!)
表に出してはいないが、実際は孝喜も志乃と同様武器を持ってエレメリアンと闘えないことに激しく怒り、悩んでいた。
スマホを持つ手に力が入り、ハードケースから亀裂の入った音がなる。
その音で我にかえった孝喜は亀裂の入った箇所を確認してため息をつくと元のポケットへとスマホを戻した。
「そういえば、伊志嶺がいない理由はナベちゃんになんて説明したんだ?」
「ナベ先生のことナベちゃんって言うのよしなよ」
「お前だってほぼあだ名だろそれ」
「はいはい。奏はこの国に親戚がいて体調不良だからそこで休ませてもらってます、て」
「その理由でよく信じて納得するな。放任主義過ぎやしないか俺らの学校……」
「ふふっ」
何気ない話題で、志乃が少しだけ笑う。その様子を見た孝喜も安心した様子で、壁から離れるとホールの入り口へと歩きはじめた。しかし、途中でその歩みは止まる。
「今の俺たちに出来る事は伊志嶺たちが勝つことを信じることだろ。そうすりゃあいつらが戻ってきた時に笑顔で迎えられるからな」
そう言うと、再び背を向けて孝喜は歩きはじめる。
「振られたくせにカッコいいこと言っちゃって」
「おいまて、何故知ってる!?」
クールに立ち去ろうとしていた孝喜だが、志乃の独り言を聞くと焦った表情で駆け寄ってきた。
「私がいつから奏と親友やってるか知ってる? 顔見れば一発! それじゃ、私戻るねー」
リンクブレスを着けている右手を振り、志乃はホールの扉を開けて中へと入っていった。
一人残された孝喜は小さくため息を吐くと、志乃と同じリンクブレスを見つめる。
「頼んだぜ、奏」
◇
エンジェルギルディの攻撃の前に、私はだんだんと防戦一方となっていった。
虚を突くような高速でエンジェルギルディは私の眼前へと急迫し、細腕からは考えられないほどの力で拳を、脚では華麗な回し蹴りを繰り出してくる。
強化形態でいられるおかげで、多少の痛みはあれどもここまでなんとか致命傷を浴びずに済んできていたが、
「……っ!?」
右腕が痺れはじめ、徐々にそれが私の体全体へと広がっていく。 限界を迎えている合図だ。
それと同時に、この痺れは残酷な通告でもある。
マキシマムバイザーから放出される属性力に私の身体が耐えられなくなった時、はじめに右腕の痺れがはじまる。 それはつまり、これが今の私の限界。
強化形態になった直後よりも私はかなり強くなっているはずなのに、エンジェルギルディには届いていない。 この痺れはそのような残酷な通告に他ならないのだ。
拳を苦し紛れに突き出した後、私は大きくバックステップするとバイザーを素早く元の状態へと戻す。
ノーマルチェインへと戻った私を見て、エンジェルギルディは口角をあげる。
「限界のようですわね。 情けないですわ……情けないですわ! 仲間とやらを信じ、強化を仲間に託した結果が今ですの?」
再びフォースリボンを叩き、ノーマルなアバランチクローを両手に装備する。
「仲間とやらを信じていた無様な貴女に対してワタクシはこの通り。残念でしたわね、テイルホワイト」
「あんた、お嬢様属性だけでなくドS属性も持ってるんじゃないの?」
「ウフフッ……否定はしませんわ」
ドSが相手ならドMで露出狂のテイルイエローなら相性がバッチリなんだけどな。 ……エロい意味ではない。
私はテイルブレスにジョイントされているバイザーを一瞥する。
限界を迎えた後のマキシマムチェインへの再変身は、十分ほどのインターバルが必要になる。 これから十分間、なんとか耐え凌ぐことができれば……!
今は耐える時間、なんとか耐えてもう一度マキシマムチェインに!
「はああああああ!!」
地面を蹴り砕き、エンジェルギルディへ疾駆し二つのクローを目一杯振り下ろす。
エンジェルギルディはレーヴァテインを顕現させると、クローと交錯させ周囲に衝撃波と火花が舞い散った。
「なるほど、お強い」
そう、確かにマキシマムチェインほどの力はでなくとも……私は以前よりも強くなった。
エンジェルギルディが杖を使って攻撃を受けたのはあえてだろう。 なら私は、それを利用して少しでも攻撃を当てる!
豪雪を身体に纏わせ、私はもう一度エンジェルギルディの周りを切迫し奴が目を離したその瞬間、クロー射出した。
「……?」
射出したクローは杖へと当たり、大きく弧を描いて飛ばされていく。
今しかないと、私は悟る。
力強く踏み込み、エンジェルギルディの眼前へ跳躍すると勢いを殺さずに飛び膝蹴りを繰り出す。
「っ!?」
初めて焦った表情を見せたが、すんでのところで交わされてしまった。
「あえて武器を捨て、今までにいない闘い方でワタクシを翻弄しようとしているようですけれど……無駄ですわね」
エンジェルギルディは裂帛の気合いと共に後ろ蹴りを披露する。
私はすぐにクローを両手に再装備すると、なんとか力任せにそれを弾き返す。
たった今考えたばかりの行動でさえエンジェルギルディは予測し、対応してしまうなんて……どうすればいい。
いや、どこかに必ず攻略法はあるはず……!
「このままでは属性力を奪うのに時間がかかり過ぎてしまいますわね。 ウフフ……ペースを早めて見ましょうか」
「エ、エンジェルギルディーッ!!」
何処までも邪悪なエレメリアンだ……!
攻撃を仕掛けていくうちに、通常形態でありながら自分の属性力が高まっていくのをなんとなく感じていた。
テイルギアの力は使用者の感情に大きく左右されることは以前フレーヌから聞いていたことだ。もしかしたら、今の私は初めてテイルギアを使いこなしていると言ってもいいかもしれない。
しかしいくら属性力が高まろうとも、マキシマムチェインには遠く及ばない。
「楽しいですわ、楽しいですわ!」
マキシマムチェインを圧倒したエンジェルギルディと対等に闘えているように見えても実際はそうじゃない。
明らかに今のエンジェルギルディは、手を抜いて闘っているのだ。
「前から気になってはいたけど、あんたの目的はなんなの? あんたを見てるとただ属性力を奪うってだけじゃないようにも見えるんですけど」
クローが押さえつけられたところで、私は前から胸に抱いていた疑問をぶつけた。
「ワタクシたちは首領様のためにツインテール属性を集め続ける。 それ以外に理由が要りまして?」
「言いたくないってわけ。 どうせセドナギルディみたいにくっだらない野心でもあるのかと思ったけど」
「……お喋りが過ぎますわね」
露骨に不機嫌になったエンジェルギルディを見ると、首領のために行動している……というのは本当のことみたいだ。
そうなると新たに疑問が生まれてくる。
「首領のためにツインテール属性を集めるっていうなら自分の部下……」
「お黙りなさい!」
突然の激昂とともに、エンジェルギルディは左脚を使って体の真横へ蹴りを入れてくる。
手を抜かずの本気の蹴りを受け、脇腹に強烈な痛みが走った。
なるほど……さっき不機嫌になったのは組織のために動く自分に疑いをかけられたからではなく、首領の名前が出たから。
もしかしたら隙を作れるチャンスかもしれないと、エンジェルギルディへ再度問いかけることにする。
「あんたが闘う理由……首領が関係してるみたいね。なに、組織のボスと喧嘩でもしたのかな?」
地面を歩くエンジェルギルディの足が深々と埋まっていく。 どうやらかなり怒っているらしい。
いつ強烈な蹴りがこないか警戒していたものの、なぜかエンジェルギルディは途中で歩みを止めその場に立ち尽くす。
やがて、小さな声で話しはじめた。
「ワタクシは……首領様に用済みと言われたも同じですわ」
「用済み?」
「ええ、部隊の隊長を降り他の部隊への編入……すなわちワタクシは見切りをつけられたも同然ですの」
それを言われたタイミングは……もしかしたらガルダギルディと戦う前あたりだろうか。あの時に初めて私たちとまともに闘い、最終闘体へと進化したわけだし。
「ワタクシは証明してみせますわ。 貴女たちの属性力を奪うことで! そしてその後には究極のツインテール! そうすれば首領様もワタクシを無視できないでしょう」
初めて本音をぶつけられ、軽く震えた。
エンジェルギルディの行動は焦っていたから起こしたものだったのか。
だが、同情はできない。 私はテイルホワイトとしてこの世界で一番のツインテール属性を持つ者として、アルティメギルから属性力を守る役割がある。
そろそろいい時間だろう。 私はブレスにジョイントされたままのバイザーへと手を伸ばし━━━━
「━━━━もう一度強化形態へ変身さえできればなどと……思ってはいませんわよね?」
「なっ!?」
邪悪に笑ったエンジェルギルディが体に纏っていた羽衣のような布が、まるで意思を持ったかのように伸び私を拘束する。やはり、読まれていたのか……!
「果たしてその暇があるのかどうか、見せていただきますわ」
エンジェルギルディが指を鳴らすと、再び無数の魔法陣が現れる。
まずい……! 強化形態ほどの防御力もなく、ましてや拘束されているせいでまともに防御できないこの状態でエリシオンを浴びてしまったら……!
なんとか羽衣から抜け出せないかと抵抗するが、まるでビクともしない。 頭のヴェールのように、この羽衣も剛鉄のような硬さだ……!
「もしかしたら貴女の本来の姿を見られるかもしれませんわね」
エンジェルギルディの言葉を皮切りに、一番遠くの魔法陣が砕け三発ほどの光線が私めがけて飛来する。
私は顔を背け、ダメージを覚悟したが……光線が弾ける音が聞こえたのみで私はまったくの無傷だ。
「遅くなって……悪かったわね」
聞き覚えのある声で、私が正面を向くと……そこにはテイルギアのあちこちを放電させているテイルシャドウが立っていた。
「シャドウ!」
今のシャドウはまさに満身創痍。ノクスアッシュを杖代わりになんとか立っていられる状態に見えた。
「あらあらまあまあ……何ですの、そのお姿は。アルティロイドは全て倒しきったようですけれど、その状態でワタクシを相手にするおつもりで?」
「私は全てのエレメリアンを倒す。そしてツインテールを守る。 私という存在が生まれた時からずっとこの胸に誓ってきた事よ」
シャドウが自分の小さな胸に手を当て、目を瞑る。
「気に入りませんわね」
険しい表情浮かべたエンジェルギルディへ、シャドウが突貫する。
だが強化形態ではない上に体中ボロボロのシャドウの攻撃だ。いつもより速さも足りないせいか攻撃は一つも当たらず、振り下ろした斧は素手で掴まれてしまった。 そして、力を入れるといとも簡単に粉々に砕け散ってしまう。
「この……!」
苦し紛れに繰り出した左のパンチも簡単に受け止められ、そのまま後方へと投げ飛ばされる。
立ち上がるシャドウを尻目にして、私と向かい合った状態のエンジェルギルディは肩を震わせて笑いはじめた。
「おーっほっほっほ!! 最高ですわ……最高ですわ! これが貴女の仲間とやらですの!? 傑作ですわ、傑作ですわ!」
後ろからの不意をついたつもりの攻撃も、エンジェルギルディは軽くいなして軸足を地面にめり込ませると強烈な回し蹴りを披露した。
「っああああ!?」
「シャドウー!!」
咄嗟に顔を庇うように添えた左腕の装甲が回し蹴りによって激しく放電、まもなく爆発してしまう。
「エンジェルギルディ━━━━ッ!!」
倒れこむシャドウへと近づくエンジェルギルディを静止させようと試みるもまったく意味がない。
首元の装甲のフォトンサークルを掴みあげ、無理矢理立たせたエンジェルギルディは邪悪に満ちた笑みを浮かべた。
「さてさて、もういいですわよね。 残った
シャドウを放り投げ、地面を滑らせると両手を大きく広げるエンジェルギルディ。
「黒羽さん!」
「……あら?」
今まさにエリシオンが発動しようかというタイミングでなんとフレーヌがシャドウへと駆け寄ってきた。
いつのまにか、ここに来ていたらしい。
「あれほど止めたのに……!」
少しだけシャドウと会話した後、フレーヌはシャドウとエンジェルギルディの間に悠然と立ち塞がる。
「これはまたお可愛い方が現れましたわね。しかし属性力は微々たるもの……まるで価値はありませんわね」
エンジェルギルディは人差し指を顎に当てると、特に何の感情も込めずに言い放つ。フレーヌにはまったく興味を示していないらしい。
「邪魔ですわよ、お嬢さん。巻き込まれたくなければ早いうちに消える事をお勧めするのですけれど」
「私は……!」
「フレーヌ逃げて!」
一向に動こうとしないフレーヌに向かって叫ぶも、やはり逃げる素振りはまるで見せない。
その様子を見ていたエンジェルギルディは大きな溜息をつきながら呆れたように顔を天に向けた。
「カウントダウンをはじめますわ。ワタクシも長く続けるつもりは微塵もありませんの。十、九、八……」
カウントダウンが始まるとほぼ同時に、残っていたエリシオンに加えてさらに多くの魔法陣が出現していく。
一つの魔法陣から三、四つの光線が放たれる事を考えると……今出現している魔法陣から全て光線が発射されればこの辺りの地形が変わってしまうかもしれない。
テイルギアで守られている私たちでさえ、強烈な痛みを感じる光線が一つでもフレーヌに当たれば命の問題になってくる……!
「フレーヌ、シャドウを連れて逃げて!」
「私は、奏さん一人だけ見捨てることはできません! 私にはその責任があります!」
こうしている間にも、エンジェルギルディのカウントダウンは続き徐々に周りの魔法陣がひび割れはじめた。
このままじゃまずい……! どうにか、どうにかこの場を切り抜けられる方法は!? フレーヌと黒羽を何とか守る方法は……!
「……何故逃げないのかわかりませんわね。ワタクシたちが感じられない感情があるとでも?」
その時、私の頭にある考えが浮かぶ。
この場にいる''フレーヌとシャドウ''を助けられる行動、それは……。
「ゼロ、残念ですが仕方ありませんわね」
その瞬間、全ての魔法陣が砕け散り無数の光線が大地に降りそそぐ。
山一つを消し去ってしまうような量のエリシオンは雨のように一直線に地面へと向かっていく。しかし、地面へと着弾するすんでのところで、一つ、また一つの光線と次々に重力に逆らうように軌道を変えていく。
「これは……! 貴女、いつのまに!?」
エンジェルギルディが目にしたのは、羽衣から抜け出しその場で吹雪の竜巻を身に纏った私の姿だった。
「ホワイトアウトドライブ……。ホワイトは周囲の敵を引きつける必殺技を使って、エリシオンを吸い込んでいるんだわ」
「そんな、そんな事をすれば奏さんは……!」
私自身、竜巻の中心にいるため外でどんな会話が行われているかはわからない。 だがフレーヌが私の身を案じてくれているのはなんとなくわかった。
こうするしかない。 こうしなければフレーヌも黒羽も救えない……!
「はあああああああああ!!」
さらに回転を早め、未だに降りそそぐエリシオンを自分の周りへと引き寄せていく。
「ワタクシが制御できないなんて……すごい力ですわね」
やがて全てのエリシオンが、私の起こした竜巻の中に封じ込められる。
吹雪を伴った竜巻は、ほぼエリシオンで埋め尽くされ中にいる私でも眩しさを感じ片目を開けて確認するのがやっとだ。
これでフレーヌもシャドウも大丈夫。あとはこの光線を処理すればいい。外に出すと同じことだから、この竜巻の中で!
「奏さん……ダメ! 奏さああああああああん!!」
フレーヌと目が合い、フレーヌの叫びが聞こえた。でも、ごめんね。 今みんなを守るには……これしか思い浮かばない。
「みんな……」
その時、視界の隅で吸い込んだ一つの光線が爆発する。 それを皮切りにして、周りにあった無数の光線が一斉に爆裂し私も巻き込まれていく。
私の闘いは━━━━終わった。
◇
初めて見る建物に、初めて見る景色。
オレンジ色の艶やかな髪色をした少女は、目の前に広がる景色に感動し、言葉を失っていた。
人々が活気に溢れ、たくさんの属性力が芽吹く世界に……フレーヌは立っていた。
「道行く人がみんな元気。羨ましいな……」
適当な場所へワンボックスカー然とした世界間航空機を駐車し、この世界の探索をはじめるフレーヌ。
彼女が降り立った場所は、この国の首都であり多くの若者が行き交う街の中心部だった。
男女のカップルが多い中、一回り小さい少女が一人でいる光景は願わずとも目立ってしまい、道行く人にジロジロと見られている。
「人は多いけど……これといってずば抜けたものは感じられないなぁ」
体温計のような機械を取り出し、周囲にかざしてみるが何も反応はない。
場所を変える。 人通りの多いメインストリートや、広場などをフレーヌは重点的に回っていった。
(もう少し……探してみるかな)
しかし、その後も粘ったものの、何の成果も得られないフレーヌはガッカリしながらフレーヌスターへと戻ろうとしたが、
「あー!何してるの!? それは私のなんだから持っていかないで!」
今まさに、世界間航空機であるフレーヌスターがレッカー移動されている最中であった。
運転していたガタイのいい男がレッカー車から降りてくると、すぐにそちらへとフレーヌは駆け出した。
「何時間も勝手に止めやがったのはお前だろ! お前のせいでこっちは迷惑してんだ!」
「何言ってんの? ここは公道であって駐車禁止のスペースでもないはずでしょ!」
駐車禁止ではないにしても何時間も停めているのは確かに迷惑な他ないが、この世界に来たばかりのフレーヌはまだ常識を知っていなかった。
「うるせえガキだな。てかほんとにお前の車かよ、どう見ても免許持てなさそうな小娘じゃねえか」
ガタイのいい男は身長が小さいフレーヌに疑問を抱く。
確かにフレーヌの歳は十四歳。 この国では車の免許取得の年齢を満たしておらず、疑うのは当然のことだった。
顔を膨らませ、抗議するもなかなかレッカー車からフレーヌスターを取り外してもらえずフレーヌは最後の手段に出る。
スマホ大の大きさの機械を取り出し、ガタイのいい男を写すと、
「
「あ?」
「あなた凄い
「な、なぜそれを……!?」
他人の持つ一番の属性力を検知してしまう恐ろしい道具で、フレーヌは一気に形成逆転した。
「私の車を返してくれないと、あの人通りの多いところであなたの写真をばら撒きながらマザコンだと叫んで……」
「わかった、わかった! 返してやるから勘弁してくれ」
低レベルな闘いの末、フレーヌは自分の車を取り戻すことに成功した。
「チッ、敬語も使えないガキのくせによぉ……」
「何か言った?」
撮った写真をチラ見せすると、ガタイのいい男は再び舌打ちしてレッカー車を運転して去っていった。
「敬語……」
念のため男に向けて体温計のような機械をかざしてみるが、当然の如く反応はなかった。 反応が出たらそれはそれでフレーヌも困ってしまうのだが。
車に乗り込み次の行き先を設定し、走り出そうとしたそのとき助手席に放っていた機械が赤く光っていることに気がつく。
「すごい強い属性力……! まさか、近くに!?」
再び車から降り、反応が示すよう人が多い広場へと向かう。
待ち合わせする人々でごった返している広場で、手に持つ機械一つで確かな反応の元を探すフレーヌ。
「あ……」
そして、遂に見つけた。
周りの人と同じく待ち合わせでもしているのか、反応の元の人物はスマホをいじりながらその場に立ち止まっている。
赤い光を放っていた機械の中心に、特徴的なエンブレムが浮かび上がった。
世界を救う、最強の属性力であるツインテール属性。
そんな属性力をこの世界で最も強く持つ人物を見つけ、安堵の表情を浮かべるフレーヌだがそれは瞬時に驚愕の表情へと変わっていく。
「ツインテールじゃない……!?」
最強のツインテール属性を持つ少女はツインテールにしておらず、肩下までの黒髪をストレートに下ろしているだけだった。
髪型の属性力を持つ者は、その髪型を維持してこそ極めることができると思っていたフレーヌは想定外のことに感動すら覚える。
(とりあえずあの人に話しかけて、これを渡せば)
薄手のコートのポケットから、銀色に輝く腕輪を取り出し握りしめる。
「おっまたせー!」
意を決して話しかけようと近づいたフレーヌだったが、待ち合わせ相手らしき少女が現れると何も話しかけずに素通りしてしまった。
(うう……渡しづらい)
ガタイのいい男には強く出れたものの、世界一のツインテール属性を持つ少女を前にするとさしものフレーヌも緊張してしまう。
世界一のツインテール属性を持つ少女は三つ編みの少女とともに、街の中心部へ歩いて行ってしまった。
「はあ……」
意気消沈し、車へと戻ったフレーヌは今後の計画を考える。
第一に、ツインテール属性を持つ少女が何処の誰かを調べはじめる。 複数の小型移動式監視カメラを飛ばし、少女の足取りを追った。
第二に、敵の脅威を凌ぐべく前線基地の設計を計画する。少女の身元が分かり次第、最適かつ近場への建設を予定した。
フレーヌはこの日から一週間もの間、少女の周りを調べあげ、園葉高校と言う学校に通う学生であることや、家の住所や家族構成。 そして、伊志嶺奏という名前を突き止めた。
「ストーカーじゃないストーカーじゃない」
自分に言い聞かせるように呟きながら、フレーヌはその後も奏という少女の周りを調べると同時に基地の建設をはじめた。
さらにその一週間後。フレーヌは、奏の町のレトロな喫茶店''パターバット''で、苦いコーヒーを飲んでいた。
(えっと……敬語で、ブレスを使ってください! こんな感じかな)
心の中で銀色の腕輪を渡す練習をしていると、あまりお客がいない喫茶店のドアが開き景気のいいベル店内に鳴り響いた。
「それでねー」
「はいはい、座ってから話してね」
「っ!?」
ただのお客ならフレーヌは気にしないが、耳に入った声は間違いなく奏のものだった。
店内に入ってきた奏と友達の志乃は二言ほど言葉を交わした後、フレーヌのテーブル席から一つ挟んで同じく後ろのテーブル席へと腰掛ける。
ブレスを渡すチャンスだと感じたフレーヌは腕輪を握りしめ立ち上がろうとするも、動けない。
あと一歩の勇気が出ずに、コーヒーをちびちび飲みながら時間だけが過ぎていく。
(あれだけのツインテール属性を持ってるなら断られる事もないだろうし……今日じゃなくてもいいかな)
自分に言い訳しながらレシートを持って席を立とうとしたそのとき、聞こえてきた言葉にフレーヌは自分の耳を疑う。
「ごめん今のところは無理。 それに私もうツインテールなんて嫌……」
思わず体が動いていた。
世界一のツインテール属性を持つ少女が、そんな言葉を口にするはずがないと信じて彼女たちのテーブルの前へと移動する。
「そんなことを、言わないでください!!」
これが、初めてフレーヌが奏と目を見て話した瞬間だった。
この日から、フレーヌと奏と志乃。後に孝喜と黒羽も加わり属性力を狙うアルティメギルとの闘いが始まった。
奏と黒羽の戦闘のナビゲーターとしての役割で数多の幹部エレメリアンを倒してきた。
そして、遂にこの世界を狙う最後の部隊の隊長であるエンジェルギルディとの最終決戦に挑んだ。 戦闘力の差こそ狭まったように見え、攻防につぐ攻防を展開した。
しかし、自分の身勝手な行動で彼女に気を使わせてしまった。あの時、喫茶店でフレーヌと出会った少女はテイルホワイトの変身が解けると、普通の高校生の伊志嶺奏の姿となって地面へと倒れ込んでしまった。
「か、奏さん……」
あまりのショックに脱力し、フレーヌはその場に座り込む。
「あらあら、変身が解けてしまうほどのダメージを受けたようですわね。ワタクシの
エンジェルギルディは
「今ので最後ですわ。テイルホワイトが初めて現れたビクトリースクエアという建物とその周辺の属性力、これにて全ていただきましたわ」
テイルホワイトが現れ、アルティメギルから守ってきた地の属性力が全て奪われた。
フレーヌは涙を浮かべ、地面へ拳を叩きつける。
「仲間を信じた結果、仲間のために傷つき敗北するなんて。 とても残念な結果ですわね」
手向けと言わんばかりに、エンジェルギルディはあえて属性力奪取のための光輪を出現させる。
「この世界の残りの属性力はツインテールの戦士から直接奪い取った後、ゆっくりと頂きますわ」
「やめて……やめてえええええ!!」
フレーヌの思い虚しく、奏に標準を合わせるとエンジェルギルディは躊躇なく射出する。
叫びながらもフレーヌは激しく後悔した。
奏にあっていなければ。奏にテイルブレスを託していなければ。自分がこの世界に来なければ。あの時、喫茶店で奏の言葉を遮っていなければ。
最悪の事態は、免れたかもしれないのに。
いよいよ大詰めです……!