私、ツインテール戦士になります。   作:阿部いりまさ

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リアルミーティア
年齢:17歳
身長:166cm
体重:51kg

異世界でアルティメギルと戦っていたツインテールの戦士。エモーショナルステッキにより変身する。ステッキは状況に応じて変形させることができ「スラッシュモード」「シュートモード」「ヒットモード」「フライングモード」への変形が確認されている。また、それぞれの武器の練度は非常に高い。



ADDITIONAL FILE.3 禁断のツインテール宣戦

 リアルミーティアは逃してしまったが、結果的に属性力は奪われなかったのは不幸中の幸いだろうか。それもリアルミーティアの気まぐれ……によるものなんだけど。

 スタジアムの騒ぎから逃げるように私とリアルは転移装置を使って自宅前へと移動。誰かに見つかる前に、リアルを連れて中へと入る。

 ちょうど親が旅行で家をあけていて助かった。いきなり家に連れてきたらまた説明がめんどくさいからね。

 

「ここがテイルホワイトの家……。プライベートの空間……」

 

 リビングに入るなり、目を閉じてリアルは言う。いきなりどうしたの、ねえ。

 

「なんか言い方が気持ち悪い。それと私は伊志嶺奏。テイルホワイトってのは変身したときだけだから」

「ああ、さすがに普段からテイルホワイトとは名乗ってないよね」

 

 私がソファーへ座るよう案内すると、リアルはニッコリ笑ってから深く腰掛けた。

 少しだけ腰を浮かせたり沈ませたりして、感触を楽しんでいる。まさかソファーのない世界から来たというわけではないだろうけど……。

 

「この世界のソファーは固いんだね」

「まああんまり高くないだろうけど……別に格安って値段でもないよ、きっと」

「ふふ、科学力じゃ私の世界の圧勝みたいだね」

「そこ張り合うとこ?」

 

 ソファー前のローテーブルにお茶を出し、私はリアルの向かい側に座る。

 お茶を一口飲んで「おいし」と呟くと、またも興味深そうにリビングを見回す。この世界とリアルのいた世界では家の内装にそんな違いがあるのだろうか。そう疑問に思ったが、そもそもこの世界でも日本と外国とではだいぶ違うことに気づいた。

 

「それで、話してくれるの? リアルの世界のことと、リアルミーティアのこととか」

 

 私はただ一緒にお茶をするために、リアルを家にあげたわけではない。

 リアルミーティアとの決着はまだついていない。彼女は諦めていなかった。近いうちに必ずもう一度、私とこの世界のツインテール属性を奪うために行動をはじめるだろう。

 リアルミーティアの事情を知るのは姉であるリアルだけ。彼女から話を聞けば、次に戦うときに役に立つことがあるかもしれないのだ。

 

「もちろん言いたくないことは、言わなくても構わないから」

 

 お茶を全て飲み干してから、リアルは神妙な面持ちで口を開く。

 

「妹が言っていた通りだよ。私の世界は数ヶ月前、エレメリアンによって属性力を奪われてしまったんだ。私たち以外の全て、ね」

「リアルたちは無事だったんだ」

「ええ、妹に守られたおかげでなんとか属性力を奪われずに済んだんだよ」

 

 身内の属性力は奪われまいと、必死に抵抗したのだろうか。

 だけど、リアルミーティアは姉に対して容赦なく攻撃を仕掛けていた。いったい彼女に何があったというんだろう。

 

「ツインテール属性が高いとして戦士に選ばれた妹をサポートするのが私の役目だった。アルティメギルがわざと流出させた技術でエモーショナルステッキを開発したのはこの私だよ」

「じゃあやっぱり、リアルミーティアの''リアル''って」

「私のことだよ。妹は『姉さんのおかげで私は戦えるんです。私たちは二人で一人の戦士です』ってよく言ってくれていた」

「それならなおさら、彼女がああなったのはどうして……」

 

 リアルは唇をかみ、膝に置いた手を震わせている。

 

「ツインテール属性が、世界の属性力が戻らなかったからだよ」

「え?」

「テイルレッドという戦士がアルティメギルの首領を倒して……アルティメギルが壊滅すれば、世界に属性力が戻ると信じてた。だけど……私の世界は灰色のまま。なんの色もない、属性力の輝きのない世界のままだった」

「それで、彼女は変わってしまった……」

 

 リアルは小さく頷く。

 そういえば、前に私は教えてもらったことがある。人から離れた属性力がその人と繋がっていられるのはおおよそ二十四時間くらいだと。

 そのことを知らなければ、アルティメギルの首領を倒せば属性力が戻ってくると考えるのは自然なことだろう。

 ただ、リアルたちは信じていたのにそうならなかった。

 信じていたものが裏切られたときの絶望は計り知れない。それこそ世界から属性力を奪われたときと同じか以上に、彼女たちは……。

 その結果が、リアルミーティアの暴走というわけか。

 原因はわかった。ただそれ以外にも、私には気になることがある。

 

「人から属性力を集めたところで、他の人に属性力を移すなんてことできるの? そもそもなんでリアルミーティアはあの輪っかを使うことができるんだろう」

「さあ……。そればっかりは私もわからないよ。ただ、あの娘がまったく根拠のないことをするとは思えないんだよね」

「人間から人間へ属性力の移し替え、か……」

 

 そんなこと本当に可能なんだろうか。

 でもリアルの言う通り、できもしないのに大好きなツインテールを奪うなんて考えにくい。そうなると、見方によって彼女はエレメリアンと同じようになってしまうだろう。今もだいぶギリギリではあるけど。

 重苦しい空気にリビングが包まれた、その時。

 ピンポーン。

 インターホンの音がリビングに響いた。

 こんな時間に誰だろう。両親が帰ってくるのは一週間後だし、最近通販で服を買った記憶もない。

 

「お客さん?」

「さあ……」

 

 もしかしたら回覧板か何かを回しにきたのかもしれない。

 ポストに入れておいてもらうのも手だけど、居留守を使うのもなんだか気分が悪いし出ないわけには行かないか。なるべく近所の人から悪いイメージは持たれたくないしね。

 玄関に向かい、二重の錠を解除して扉を開けると――

 

「――うえええええん! かなで無事でよがったよおおおお!」

「志乃⁉︎」

 

 志乃は大号泣しながら玄関に飛び込んでくると、そのまま私に抱きつきなおも泣き続ける。

 志乃の大きい胸が体に当たっている。本人にその気はないのはわかっているけど、なんだか嫌味に感じるからとりあえず離れてほしい。いやいや、私は自分の胸の大きさがちょうどいいって思ってはいるんだけどね!

 

「えっと、もしかして私は邪魔だったりするかな?」

 

 泣きじゃくる志乃をあやしているとリアルがリビングから顔をひょっこり出してそう言う。冗談を言っているつもりなら真顔じゃなくて少しはニヤついててほしいんだけど。

 

「いや、そういうのはいいから」

「なんだい。ノリが悪いね」

 

 とりあえず志乃を落ち着かせ、リアルと同じようにリビングに案内する。

 ようやく泣き止んだ志乃にもお茶を出し、手短に今日のことをザッと説明した。

 

「私が双子の姉のリアルだよ。よろしくね、シノ」

「うん、こちらこそ! 私は奏がテイルホワイトだってことを知ってる親友なの。それにね、これ!」

 

 志乃が得意げになって見せたのは、テイルブレスによく似ている……しかしカラーリングの違う黒い腕輪。

 私がテイルホワイトになったとき、三つ編みの形態になるために必要とする要素の一つ、リンクブレスだ。

 

「ま、まさか! シノ、君もツインテールの戦士……!」

「えっへへー!」

 

 鼻の穴を広げてドヤ顔をする志乃。

 決して間違っているとはいえないけど、どうもリアルの言うツインテールの戦士と志乃は違うと思うんだよなあ。

 志乃はまったく訂正する気がなさそうなので、横から口を出しておく。

 

「志乃も私と一緒に戦ってくれてたの。戦ってるときに私が三つ編みになったでしょ? あれは志乃が強い三つ編み属性を持ってるからできることなの。エレメリンクって言うんだけど」

「ああ、あれはびっくりしたよ! 三つ編み以外にもポニーテールにもなってたよね。もしかしてあれも……」

「そ! 三つ編みは私、ポニーテールは嵐っていうもう一人の人がリンクブレスを使ってテイルホワイトとエレメリンクしてるの」

「そ、そんなことができるんだね」

 

 改めて聞かされて、やはりリアルは驚いている。

 リアルミーティアも、私と戦ってきたエレメリアンもツインテールの戦士が髪型を変えているのにはすごいビックリしていたし、やはりあまりないことなんだろうな。

 

「そのブレスはいつも腕にはめているの?」

「んーん。腕につけるのはほんとに久しぶりだよ」

「え、じゃあ今日はどうしてシノも、もう一人のアラシもエレメリンクが必要だとわかったの?」

「だって、テイルホワイトが現れたーってすごいニュースになってたから。ね、奏!」

 

 満面の笑みで振り返りこちらを見る志乃に私は笑いかえす。

 リアルはまだいまいちわかっていないらしく、私と志乃の顔を交互に見ていた。

 

「テイルホワイトが戦ってるなら、すぐ手伝えるようにするのは当然だから。ニュースを見た瞬間すぐにブレスをはめて準備してたの。たぶん嵐もね」

「……なるほど、ね。互いが互いを信じているから、シノはブレスをはめて準備していたし、カナデは疑うことなくエレメリンクを使用したってわけか」

 

 そう、私は志乃も嵐のことも信じていたから。

 二人がリンクブレスを持ち歩いていることは前々から知っていたし、テイルホワイトが戦っていることが二人に伝わりさえすれば……エレメリンクは可能だと確信していたのだ。

 結果的にエレメリンクのおかげで、とりあえずはリアルミーティアに勝利することができたし、二人には感謝しかない。

 

「すごいよ、君たちは……心が繋がっている。それ比べて、私たちは……」

 

 リアルは俯き、弱々しくそう言った。

 人の考えは自由だし、リアルがそう言うなら間違いないかもしれないけど……私はそう思わない。

 

「それは違うよ、リアル」

「え?」

「エモーショナルステッキってリアルが開発したんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

「私からしたらすごい厄介な武器だった。剣だったり銃だったりハンマーだったり……それを扱うリアルミーティアはもっと。でさ、武器を使いこなすにはやっぱり信頼がないとダメだと思う。状況に応じて的確にステッキを変形させての戦いはステッキを信用しているからこそできるものでしょ。それはつまり、開発者のリアルを信じてるってことじゃダメかな」

「……!」

 

 ただの詭弁かもしれない。

 だけど、姉と妹の心が繋がっていないなんてそんなことあるはずない。

 リアルミーティアは今、殻に篭っているだけだ。その殻を私たちが破ることさえできれば、姉妹はわかりあえるはずだ。

 リアルミーティアは絶対に私が止める。

 彼女自身のためにも、そして姉であるリアルのためにも。

 

「ん、ラインだ。嵐から? んーと『大会の反省会で行けそうにない。悪い』だって」

 

 いや、別に来て欲しいとは思ってないけど……なんだか雰囲気に水を差された気分だ。

 スマホを確認すると、まったく気がつかなかったけど私にも嵐からラインが来ていた。既読にならなかったから志乃に送ったのだろうか。

 そういえば、今日はサッカーの試合でわざわざ東京にまで応援に行っていたのだった。そのまま今回の騒動に巻き込まれてしまって……なんだか久しぶりに疲れたな。

 

「とりあえず、今日のところはリアルミーティアは大人しくしててくれるのかな」

「テイルホワイトとの戦いでエモーショナルステッキはかなり損傷したはずだし、おそらく何日かは動けないと思うよ」

「そっか。でもできれば彼女が動き出したら早くに駆けつけたいけど、あの基地が使えれば……」

「基地? テイルホワイトの基地?」

 

 ああ、そういえばまだ話していなかったっけ。

 私はリアルに、テイルホワイトが活動していた頃に使っていた基地のことを話した。テイルギアを開発した少女が作ったこと、ハイテクな設備が揃っていること、半年前に封鎖してしまったこと。

 もしも今でも使えるのならばとても心強いのだけど……。

 

「使えるよ」

「へ?」

 

 黙っていた志乃が、当然のようにそう言ったので思わず変な声が出てしまった。信じられず何度か志乃に確認すると、どうやら本当に使えるらしい。

 まさか……最後の日、私と志乃と嵐とで基地が封鎖されたのはしっかりと確認したはずなのに。

 

「実は言ってなかったけどこのリモコンね、カバーがついててその下にもう一つボタンがあるの」

 

 基地を封鎖したあのリモコンをリュックから取り出して、志乃は大きなボタンのすぐ下をスライドさせると、もう一つボタンが現れた。

 封鎖するときに志乃が持っていたのをチラッと見ただけだったので全然知らなかった。

 もしものことを考え、あらかじめあの娘が準備しておいてくれたんだ。本当に……年下なのに頼りがいのある天才科学者だ。

 基地が復活するのなら話は早い。

 私たち三人は互いの顔を見て頷く。

 

「行こう、私たちの基地へ」

「どこにあるの? まさかここの地下?」

 

 私と志乃はかぶりを振る。

 とても惜しいけど違う。

 私たちがテイルホワイトとしてエレメリアンと戦い、その全てを支えてくれた前線基地の場所は――

 

「私たちの高校、園葉高校の地下!」

 

 

 夜の町を歩き、私たちは園葉高校へ到着した。

 まだ夜の八時なのでお巡りさんによる補導の心配ないが、問題はここからだった。

 夏休みとはいえ、この時間なら巡回している教師か警備員がいるだろう。校舎に入ること自体は容易いことだけど、もし見つかってしまったら大目玉を食らう。

 

「こういうのやってみたかったー! なんかドキドキするねっ!」

 

 志乃はやたらと楽観的だ。

 閉まっている校門を乗り越え、私たちはとりあえず職員玄関へと向かう。夏休みの今、たとえ部活があったとしても昇降口は閉じており、校舎内に入れるのは職員玄関のみだとクラスメイトから聞いていた。

 職員玄関前へと着き、中を覗き込んでみるも人の気配は感じない。

 これはチャンスだ。ドアノブを捻り、開けようとするも……びくともしなかった。

 

「開いてるわけないか……」

「テイルホワイトになってガラスを割るのは?」

 

 ちょっとちょっと、リアルったらとんでもないことを言い出しましたよ。

 

「いやいや、ガッツリ犯罪だからそれ」

「奏、私たち夜の学校に侵入しようとしてる時点で……」

 

 いや、確かにそうだけども!

 さすがに学校のガラスを割るっていうのはかなり抵抗がある。小学校だか中学校だか忘れたけど、いたずらでガラスが割られてかなりの大騒ぎになったことあるし。

 そもそもガラスを割るなんてことしたら警備会社が飛んできそうだ。

 それ以外に校舎に入るためのルートはあるだろうかと悩んでいると。

 ライン。

 志乃のスマホから聞こえた。ラインの通知だ。

 

「あ、よしよし。二人とも、こっちだよ」

 

 スマホを見てグッと拳を握った志乃は、上機嫌で後者の脇を走っていく。私とリアルは顔を見合わせてから、志乃を追いかけた。

 数十メートル走ったところで志乃は立ち止まり、こちらへ振り返る。

 

「ここ、サッカー部顧問の桜川先生が担任してる三年五組の教室。えーっとここの端っこの窓が、開いた!」

 

 志乃はスマホを見てから、教室の端についた窓をスライドさせてすんなりと開けてみせた。

 サッカー部の顧問が担任の教室……ってことは。

 

「嵐に頼んでたんだ」

「そ! サッカー部は人数が多くて部室じゃ収まりきらないから、反省会してるならどうせここだって思ったの。だから来る前に嵐にお願いしておいた」

「ナイス読み、志乃」

 

 嵐にも一応、心の中で感謝しておく。

 こんなこと言ってはあれだけど、今日サッカー部が負けなければこうして校舎に入ることはできなかったので、負けてくれてよかったか。

 三人とも校舎内に入り、一応靴を脱ぐ。

 入ってきた窓の鍵を閉めて教室から出ると、巡回の人が近くにいないことを確認し、見つからないように部室棟へと向かった。

 私たちの基地はこの高校の地下にあり、一フロアの広さはもちろん、それが何層にもなっており非常に広大なものとなっている。

 エレメリアンを感知して素早く出撃するためのメインルームやトレーニングルーム、メンテナンスルームや大浴場まで備え付けられた至れり尽くせりな基地だ。

 ただそんな広大な基地でも地上から入るための入り口は一箇所しかなかった。その場所は今でもよく覚えている。

 園葉高校の部室棟一階、一番奥の空き教室。

 唯一、私たちとその基地を繋いでくれる架け橋だ。

 

「……ここに来るのも久しぶりだね」

 

 件の教室の前に立ち、志乃は呟く。

 高校生となって部活に所属することのなかった私たちは、基地を封鎖した後ここに来る用事などあるはずもなく、私と志乃はここに来るのはあのとき以来となる。

 教室についたプレートに目をやる。そこには可愛らしくポップな字体で『奇術部』と書かれていた。

 奇術部……ということはマジックかな。

 名前に聞き覚えがないし、去年までここは空き教室だったので今年度に新しくできた部活だろう。

 

「シノ、ここも鍵ついてるみたいだよ?」

「んーん、実はここ開けっ放しなの。私の二歳下の幼馴染が奇術部作ったんだけど、鍵かけるのめんどくさくて開けたままなんだって」

「学校側把握してんのかな」

「うーん、してないと思う! 顧問が定年間近のおじいちゃんだからね」

 

 なんかいい加減だなあ。

 志乃の言う通り、空き教室……ではなく奇術部部室は鍵が掛かっておらず、なんてことなく目的地へと到着した。

 部室を見回して思ったのは、半年前と比べてだいぶ綺麗になったことだ。部室として使ってるので当然だけど、埃っぽくないし積み上げられていた大量の椅子と机も無くなっている。

 奇術部の部室となっていると知って何か面白いものが置いてあるかと期待もしたけど、特に興味がそそられるようなものはなかった。大きな鍵つきの棚があるのでマジックのタネはその中だろうか。

 

「じゃあ、さっそく行こっか!」

 

 志乃がボタンを取り出す。

 私とリアルが頷くと、志乃は大仰にボタンを掲げて決めゼリフを放つ。

 

「ポチッと、なっ!」

 

 その瞬間、床の一部が一瞬光ったかと思うと、その一部がスライドして地下への階段が現れた。

 志乃に促されてとりあえず私が一番に、その後にリアル、志乃と続いて螺旋状の階段を降りていく。何ヶ月も封鎖されていたはずなのに、階段に埃がまったくないのは私の知らない科学力の賜物だろう。

 おおよそ二階ほど降りたあたりで、私たちは懐かしい景色を見た。

 自動でついた照明のおかげでこのフロアの全貌がはっきりとわかる。

 近未来的な秘密基地というコンセプトで作り上げました、という説明が似合いすぎる内装はイメージ通りだ。壁と床は白と銀で統一され、壁にはときどき光のラインが走っている。SF映画に出てくる宇宙船の内装、といえば伝わりやすいだろうか。

 メインルームの中央に設置されたテーブルと、クッションのついた椅子が五脚。その奥にあるエレメリアンを感知して映像を映し出すモニター。

 まったく同じだ、何も変わっていない。

 油断していると涙が出てきそうになる。

 

「こ、この材質はいったい……⁉︎」

 

 無言で基地を眺める私と志乃とは対照的に、リアルは驚きつつも高いテンションで壁や床をペタペタと触っていた。

 私たちはまっすぐと、リアルは右へ左へフラフラしながらモニターの前に立つ。そして、モニター下のキーボードにあるパソコンの電源ボタンと同じマークのボタンを押すと――

 

『ええっとこれでいいですかね。それじゃあ黒羽さん、私がスタートって言ったら録画開始してください!』

 

 なんと、いきなりモニターに映し出されたのは私のテイルギアとこの基地を作った……あの少女だった。

 

「フレーヌ……」

「この少女が……この基地とテイルホワイトのテイルギアを作りあげたのか⁉︎」

 

 志乃が小さくその名を呟き、リアルは驚きのあまり頭を抱えていたが、私は黙ってモニターを注視する。

 

『もう撮ってるわ』

『ええ⁉︎ ダメですよ! これそのまま基地に記録されるんですよ⁉︎』

『そもそもこんなアナログな残し方する必要あるのかしら』

『この世界の科学力を考えると、いきなり私のホログラムが出てきてしまってはパニックに陥ってしまう可能性がありますから。こうしてビデオレターのように残しておくのが有効です』

 

 カメラを持って撮っているのは黒羽で間違いないみたいだ。そういえば初めにフレーヌは黒羽のことを呼んでいたっけ。

 しかし、フレーヌ。さすがに私たちもホログラムが出てきたら驚きはするけど、パニックにまではならないと思うよ。

 

『えー、おほん。久しぶりですね、皆さん。この映像を見ているということは私がこの世界を去った後、何かの事情がありこの基地を再起動しなければならない状況になってしまったのでしょう』

『これが言いたかったのね』

『黒羽さん静かに!』

 

 微妙にグダグダだけど、フレーヌの言っていることは間違ってない。

 その後何回か黒羽と言葉を交わし、フレーヌは再びカメラ目線に戻って続きを話しはじめる。

 

『この基地はいかなる外敵からの攻撃や核による攻撃も無効です。安心して過ごしてください。それと空間跳躍カタパルトなどの設備は、私が出発する前に簡単に操作できるようにしておいたので誰でも使えますよ』

 

 旅に出る前にそんなことしてくれていたのか。

 直接言ってくれれば使い方もその場でフレーヌに教えてもらえるし、よかったのではないかと多少なりとも思うけど。

 

『大事なことなら直接言ったほうがいいんじゃない?』

『それでは味がありませんから。私たちがいなくなった後に皆さんがこの記録を見て、はじめてこの基地の設備を使いこなすほうがドラマチックじゃないですか?』

『そういうものかしら』

 

 ときどき入る黒羽のツッコミで、なんだか漫才を見ているような気がしてくる。

 最初は感動していた私と志乃だけど、いつのまにかモニターに映るフレーヌを見て苦笑いを浮かべていた。

 その後もフレーヌは黒羽のツッコミを流しつつ、基地に関することを淡々と説明していった。

 

『これで最後になりますが……』

 

 どうやらビデオレターも終わりに近づいているらしい。

 最後はどんな掛け合いを見せてくれるのだろうと思っていたが、どうやらそうではないらしい。フレーヌの表情は先ほどまでと違う、真剣そのものだ。

 

『皆さんの世界が大変なのに、私がそちらを留守にしてしまって大変申し訳ありません。ですが、私は心配してません。そちらに世界を救ったスーパーヒロインがいることを私は知っていますから! 奏さんと志乃さんと嵐さんなら、絶対に大丈夫だと私は信じてます。私たちもアルティメギルを倒せるよう頑張るので……ですのでどうか、皆さんも頑張ってください』

 

 フレーヌからの激励を最後に映像は終わった。

 モニターは一度暗転し、再びついたときにはフレーヌの姿ではなく、ツインテール属性のエンブレムが表示されていた。

 私も志乃も、リアルも口を開こうとしない。

 まったく……途中までおふざけというか、笑って見れていたのに最後にそういうのはずるい。

 

「フレーヌがそう言ってくれているなら、私は頑張るよ」

 

 右手のテイルギアを可視化させ、私はグッと拳を握った。

 志乃とリアルも深く首肯する。

 さて、まずはフレーヌが言っていた通りに設定していろいろと準備しておかなければ。

 志乃とリアルにも手伝ってもらいながら空間跳躍カタパルト、衛星による外の映像やテレビ映像の取り込みなどこのモニターを使ってできる設定をあらかたこなしていく。

 しかし、一つだけどう設定していいかわからないものがある。エレメリアン出現を示すアラートがそれだ。

 今回の相手は人間であってエレメリアンではない、人に対して有効なのかわからないのだ。

 

「これってツインテールの戦士でも反応してくれるのかな」

「大丈夫よ」

 

 私が心配していたことを聞いてそう答えた。しかし言ったのは志乃ではない、ならばリアルか。いや、リアルでもない。

 私たち三人は声の聞こえた方、このメインルームと廊下を繋ぐ出入り口のドアへ視線を向ける。

 

「ツインテールの戦士は変身するためにツインテール属性を高めるのよ。エレメリアンと一緒よ。そのアラートは属性力の高まりを探するわけだから、問題ないわ」

 

 そこには――出入り口に寄りかかりながら、私たちの心配を払拭する言葉を続けて話す、赤い瞳と黒く輝くツインテールが健在の凛とした女性。

 

「く、黒羽⁉︎」

 

 フレーヌと共に異世界へと旅立った少女、速水黒羽の姿がそこにあった。

 気づけば私の横にいたはずの志乃が真っ先に黒羽に駆け寄り、泣きじゃくりながら抱きついていた。

 

「ど、どうしてここに……ていうかこの世界に?」

 

 志乃ほどじゃないけど、私も動揺を隠せない。

 先ほどの映像で黒羽はカメラマン役だったので、動いている彼女を見るのは本当に久しぶりだ。

 黒羽は今もなお泣いている志乃の頭を撫でながらこちらへ視線を向け、口を開いた。

 

「この世界と近い座標の異世界にいたから、少し寄ってみようと思ったのよ。驚いたわ。別のフロアにいたら、誰かが基地に入ってきた知らせが届いたんだから」

「あ、黒羽が基地に居ることができたってことは……基地の封鎖っていうのは入り口を封鎖するだけだったんだ」

「当たり前よ。この基地が全て消え失せたらこの上にある学校、全部地面に埋まるわ」

 

 ああ、そう考えたらたしかにそうだった。以前フレーヌから基地を消滅させるボタンを聞いていたことを思い出す。

 フレーヌ……フレーヌといえば、黒羽と一緒に異世界へと旅立っていったはずだ。もしかしたら彼女もこの基地にいるかもしれない。

 そんな期待を込めて、私は訊く。

 

「ねえ、黒羽。フレーヌは一緒じゃないの?」

「……悪いわね。実は今、フレーヌと別行動なのよ」

「もしかして喧嘩⁉︎ ダメだよ、黒羽!」

 

 いつのまにか泣き止んでいた志乃が、黒羽の腰に腕を回したまま顔をあげて言った。

 

「違うわよ。さっき言った座標の似てる世界でフレーヌは故郷を守った戦士の手がかりを見つけたらしいわ。しばらく離れられないっていうから、私は暇つぶしに来てみたのよ」

「ふう、喧嘩じゃなくてよかったー。でもフレーヌにも会いたかったね」

「あら、志乃は私じゃ不満かしら?」

「そんなことないよっ!」

 

 なるほど、フレーヌは自分の世界を守ろうとしたツインテールの戦士を追っていた。おそらく総二が言っていたトゥアールさんのことだろう。その手がかりがあったってことは……黒羽たちがいたのは総二たちの世界だろうか。

 フレーヌに会えないのは残念だけど、トゥアールさんにお礼がしたいと言っていたし……それならしょうがないか。

 

「あの……取り込み中いいかな?」

「あ、ごめんごめん」

 

 すっかり蚊帳の外となってしまっていたリアルがおずおずと小さく手をあげる。

 黒羽の登場にびっくりしていてリアルへの配慮が足りなかった……とても申し訳ない。とりあえずは互いの紹介からだろう。

 

「黒羽、この娘は事情があって異世界からきたリアル」

「あら、そうなの」

 

 特に表情を変えることなく、リアルを見る黒羽。

 視線が髪型に向いている気がする。ツインテールにできるかどうかの見定めをしているのだろうか。

 

「リアル、この娘は速水黒羽。私と一緒にテイルシャドウとして世界守るために戦ってくれたツインテールの戦士」

「ツインテールの戦士……⁉︎ カナデだけじゃなく、もう一人いたの⁉︎」

「あれ、知らなかったの?」

 

 私がツインテールの戦士であることやテイルホワイトのことを知っていたので、てっきりテイルシャドウのことも知っているものだと。

 

「私が君のことを知ったのはこの世界にある媒体だよ。テイルシャドウなんて一文字も無かったからね!」

「そうだったかしら」

 

 ああ、黒羽が自分を載せるならギャランティーを払わせることをしつこく言ってたから多分それで……。いつのまにか歴史から抹消されていたなんて、まったく気がつかなった。

 志乃がスマホに残していたテイルシャドウの画像を見せると、リアルは興味津々にそれを見つめた。さすがに志乃には請求しないよね。

 

「思い出話も悪くないけれど、そちらのリアルがこの世界に来た事情っていうのと、この基地が必要になった理由……聞かせてもらえるのかしら」

「うん。むしろ私からお願いしたいくらい。黒羽、聞いてくれる?」

「ええ、話しなさい」

 

 私とリアル、ときどき志乃は今日のことを詳しく黒羽へ伝えた。

 異世界のツインテール戦士、リアルミーティアのこと。彼女がツインテール属性を狙っていること。私がテイルホワイトになって戦ったこと。リアルが彼女の姉であること。そして、リアルミーティアはまだこの世界にいていつまた戦うことになるかわからないこと。

 さすがに冷静な黒羽も、ツインテールの戦士がツインテール属性を奪いに来たことを告げると悲痛の表情を浮かべていた。

 

「なるほどね。さっきのアラートの話はそういうことね」

「うん。なんとか一度は勝てたと思うけど、リアルミーティアが次にどんな手を使ってくるかわからないから。もしよければ黒羽にも……」

「ええ、私もこの世界のツインテールを守る戦士よ。断る理由なんかないわ」

「黒羽、ありがとう……!」

 

 黒羽の実力は一度戦ったことのある私がよく知ってる。彼女が味方としていてくれれば、リアルミーティアに勝てる可能性はさらにあがる。

 あとは次にリアルミーティアが行動をはじめる前に、何か作戦を練っておこう。

 

「ふわあ……あ、ごめんっ」

 

 志乃が大きなあくびをする。

 スマホを見ると、いつの間にかそろそろ日付が変わりそうな時間になっていた。こんな時間じゃ眠くなるのは当たり前だしあくびもするだろう。現に私も、今はだいぶ眠たい。

 

「いいわよ、あなたたち三人は寝てなさい。大丈夫だと思うけど、私が起きてモニター見とくわ」

「え、でも黒羽も寝たほうが」

「ちょっと私ね、異世界から来たばっかで時差ボケしてるのよ。それに三人とも……特に奏、あなたは疲れてるでしょ? メディカルルームにベッドとソファーがいくつかあるから、そこでしっかり体を休めなさい」

「クロハ、なら私と交代にしよう。君にばかり負担をかけるのは忍びないからね。元はといえば私が無理いって君たちに協力してもらってるんだから」

「そう? じゃあお願いするわ」

「というわけで、二人はゆっくり休んでてよ」

 

 黒羽とリアルがそこまで言うなら、甘えさせてもらおうかな。

 二人にお礼をいいつつ、私と志乃はメディカルルームへと向かう。すっかり存在を忘れていたが、そこのベッドには黒羽と女の子の体になっていた総二が寝ていたベッドがあったっけ。

 

「……ねえ、なんだか私とあなた似ている気がするんだけど気のせいかしら?」

「私とクロハが? うーん、ツインテールの戦士に似てるって言われるのは光栄だけど……顔立ちは全然違うよ?」

「容姿のことじゃなくて……。いえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」

 

 二人だけだと会話が続くか微妙に心配していたけど、どうやらその心配もなさそうだ。

 私は安心してメディカルルームに入ると、そのまま深々のベッドに体を預けて目を瞑る。

 うん、大丈夫。私には支えてくれるみんながいる。みんなで絶対に、リアルのためにもリアルミーティアを止めて目を覚ませるんだ。

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