光と影のデュエット   作:楠木 蓮華

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彼女のことを俺は知らない

古来より、身分違いの恋というのは悲しい最後で終わることが多い。心中だったり、引き裂かれて終わったり、無理やり違う人と結婚させられたり、最悪殺されたりもする。

 

そんなリスクがあることをするのは普通じゃない。正直、どうしてそんな危険を冒してまで恋をするのか……俺には理解不明だった。恋なんてものに命までかける意味が本当にあるのだろうか。

 

俺はただでさえそんなことを気にしてられないのだから……そう、気にしてなんていられない。

 

「……はぁ、またか」

 

ここは小学校の男子トイレのとある一室。そこのトイレの便器の中には教科書やノートか突っ込まれている。

 

「いつもの事とはいえ……トイレにぶち込むのはやめてくれると助かるんだけどな……教科書が濡れるじゃねぇか」

 

便器の中に入っている教科書やノートを取り出し、取り敢えず屋上へ持っていく。太陽の光と風に当てればある程度は乾いてくれるだろう。というか、乾いてくれないと勉強が出来ない。ただでさえそんなに成績が良くないのに、これ以上悪くなったら絶望的だ。

 

ここまできたらある程度は察せられるだろうが、俺は……

 

「お〜? 根暗くんが屋上で何してんだよ? ぼっち飯か?」

 

教科書を陽のあたる場所に並べて置いていると、いじめっ子です、と言わんばかりの雰囲気を漂わせている小太りの男が数人の仲間らしい奴らを連れて近づいてきた。

 

「別に……お前には関係ないだろ」

 

「まぁ、そうなんだけどよ〜、オレらこれからここで飯食うんだよ。 だからテメェみたいなトイレ臭いヤツがいると飯がまずくなんだよなぁ」

 

そう小太りの男が言うと、周りの取り巻きがまるで小物のようにギャハハと笑い出す。俺にトイレ臭いと言っている時点で自分達か教科書をトイレにぶち込んだことがバレることには気づいているのか、それとも気づいていないのかはわからないが、とてつもなくうざい。

 

「屋上は広いし……あっちに行って食ってれば関係ないだろ?」

 

「オレらはここで食いてぇの! わかるかばぁか!」

 

馬鹿はお前らだろう。 そうやって心の中で愚痴りながら相手の言葉を聞き流す。こういう奴らの言葉をまともに受け取ったって負担にしかならないんだから。話半分にしているのが一番だ。

 

「おい無視してんじゃねぇよっ!」

 

そんな風にして無視をしていると、大抵こいつは痺れを切らして制服の襟を掴んでくる。これもいつも通り、いつもの流れ。こうしていればすぐに開放される……そしてこの後俺は。

 

「やっちまえっ!」

 

「おぉ!」

 

「がふっ!」

 

集団暴行を受ける……簡単に言えば暴力だ。腹や顔、腰や足。色んな部分を何度も何度も殴られ蹴られる。倒れてもそれは終わらない。痛いと声を出しても終わることがないのは知っている。むしろ奴らを楽しませるだけだ。だから俺はひたすら声を殺して終わるのを待つ。

 

「オラオラッ! やり返してみろよっ!」

 

そんな事するわけないだろ……面倒臭い。

 

「根暗くんは根暗くんだよなぁ。 いいサンドバックになるぜっ!」

 

そりゃあ、ようござんした……人間サンドバックか、そりゃあいいや。

 

「お前はこれからも俺達のサンドバックなる運命なんだよ!」

 

あぁ……そうだな。いつも通り……いつもと同じ。変わらない日常。このイジメも俺の口の中に広がる血の味も……身体中の痛みも。俺の人生……。俺はこのまま……ずっと苛められていくのだろう……。

 

俺は……ずっと……

 

「そこの男子っ! なにしてんのっ!」

 

っ……日常……のはずだった。いつも通りで終わるはずだった。なのに、今日はなにか違った。

 

「げっ!? ひ、光様!?」

 

いつもではありえない声。いつもは聞こえない声。俺の人生の非日常……。

 

「な、なんでもないっすよ〜?」

 

「嘘っ! あんた達がイジメをしてるのは知ってるんだからねっ!」

 

どこかで見たことある黄色の髪を風に揺らしているその少女に……

 

「くっ……き、今日は退散するぞっ!」

 

「は、はぃ〜!」

 

「あ、こら逃げるなぁ! ……もうっ!」

 

俺にとっての非日常の彼女に……

 

「大丈夫? って、大丈夫じゃないよね……立てる?」

 

俺は……

 

「あ……うん」

 

俺は……初めて。

 

「いつっ」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「あ、あぁ……大したことない。 いつものことだか、な」

 

「いつもの事なんだ……」

 

「あぁ……そんなことより……君は?」

 

「えぇ!? し、知らない?」

 

「うん」

 

驚いた顔も可愛いその女の子に……

 

「じゃあ、これで覚えてよねっ!あたしの名前は櫻田光っ! 王族なんだからねっ!」

 

「え……?」

 

「だ〜か〜ら〜っ! 櫻田光なのっ!」

 

今までに抱いたことのない、なんらかの暖かい感情を……初めて抱いてしまった。

 

さて……この感情は一体何なのだろうか……今の俺には、さっぱりわからなかった。

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