「ここが影君の家か〜……って、あたしの家の近くじゃん!」
「へ? そうだったのか?」
光と共に下校し、ついに俺の家に着いたわけだが……どうやら光の家は俺の家の近くらしい。物心つく頃から家に住んでいたけど、今まで一度も会ってなかったな……。それよりも、王族と俺の家が近くにあるなんて、また変な話だな。
「うんっ、すぐそこの道をまっすぐ行ったらあるからねっ」
「ここらって確かただの住宅街だろ? なのにどうして王族がすんでるんだ? 普通、城とかに住むんじゃ」
そういうと、光は両腕を組みながらう〜ん、と少し唸ると、口を開いた。
「パパの言いつけ……みたいなものなんだけど、国民と一緒に過ごすことで、国民の気持ちもよくわかるかも……みたいな感じだと思うっ!」
「思うって……」
「あたしはそういう面倒臭いことは考えないんだよ〜」
「胸を張って言うことではないと思うが……」
本当に、胸を張って言うことではない。だが、光の考えもきっと、当たらずも遠からずって感じだろう。現国王も、やっぱり子供達のために色々考えてるんだな。
「そんじゃまぁ、ここまでありがとな……もう家に着いたし、また明日な」
「うんっ、それじゃあまた……」
「ん……?」
片手を挙げたまま止まる光。どうしたのだろうか、フリーズでもしたのか、処理落ちか? でも片手を挙げただけだろ? 流石にそれで処理落ちとかポンコツすぎるだろ……まぁ、冗談だが。
「影君の家にパパとママはいるの?」
「へ? いや、父さんも母さんももう他界してるし、時々おばさんが来てくれるくらいで、基本は一人暮らし……あ……」
この時、こんなことを言わなければよかったとすぐに思った。自分の家のことをベラベラ話すというのは避けたいという思いもあったし、なにより……
「いないんだね……」
「え、えっと……」
今の状態できっとこんなことを言ったら……
「あたしと同い年で一人暮らしなんだよね……」
「そ、そうだな……」
たぶん……というか、間違いなく……
「ちょっと来てっ!」
「うぉ!? ちょ、引っ張るなって! 俺は怪我人だぞっ! おい、話を聞けぇぇぇ!」
無理やりなにかされるに決まってる。はぁ、一体どこに連れてかれることやら……少し先が思いやられながらも、手を引かれて行くという体験と、予想以上に柔らかくて暖かい手に、俺は動揺を隠しきれなかった。
☆
「とうちゃ〜くっ!」
「ぜぇはぁ……ちょ、ちょっとタンマ……深呼吸するから」
「も〜だらしないなぁ」
「いきなり引っ張られながら連れてこられた俺になんの落ち度があると!?」
「男の子なんだから、もっと鍛えないとね〜」
「何様だおい……で、ここはなんだ?」
連れてこられたところはとある一軒家だった。普通……よりも少し大きいくらいだが、別に変なところはどこにもないただの家だった。そんな家に王族である光が一体何のようなのだろうか。
「なんだって……あたしの家だよ?」
「え……」
「え……?」
聞き間違いかもしれないので、もう一度聞くことにした。
「ここどこ?」
「だ〜からっ! あたしの家だってば!」
「マジか……」
「うん、マジだよっ」
愕然とするのも当たり前だろう。確かに人間とはいえ、神ではないとはいえ、王族なのだ。この国で一番偉い人間が、まさかこんなにも普通な家に住んでいようとは……確かに聞いていたとはいえ、半信半疑だったが……本当だったとは。じゃあ、あの城は既に象徴とか、なにかのイベントに使われるのみになっているということなのだろうか……なんつうか、マリーアントワネットの時代の人が聞いたら卒倒しそうだな。
「取り敢えず入ろ〜? お腹減ったしっ!」
「いやいやいや、その前になんで俺ここに連れてこられたんだよ」
「だってパパとママいないんでしょ? だったら一緒にご飯食べようよっ!」
「は……?」
なにを言い出すかと思えば、一緒にご飯を食べる? 俺が……王族と一緒に? 席を並べて……一体何を言っているのか。
「ちょ、ちょっと待てよ……俺達今日会ったばかりだろ? なのにどうしてそこまでしてくれるんだよ……」
保険室に連れていかれた時からの疑問。下校している時も感じだ違和感。そして今も感じている不信感。どうして出会った数時間の人間にここまで出来るのか……俺達は所詮他人だ。もしあのイジメの場に居合わせたとしても、無視していればよかったんだ。
無視したって誰も責めないのだから、誰も怒ったりなんてしないのだから。
なのにどうしてわざわざ、そんな面倒なことをするのか……。
「う〜ん」
彼女は腕を組んで考える。太陽も沈みかけ、暗くなり始めている空を見上げながら、可愛い唸り声を上げる光。そう思っていると、俺の方に顔を戻してにこっと笑いながら答えた。
「あたしがしたいからっ、ただそれだけだよっ!」
「は?」
光はそう答えた後、俺の反応も気にせずにドアの方まで駆け寄っていった。
本当にわからない。俺はこの櫻田光という人物に、疑問を持つことしか出来なかった。結局納得は出来なかったものの。もう聞いてもきっと同じ答えしか帰ってこないだろうと悟り諦めることにした。
……自分がしたいから?
こんな面倒なことをわざわざ?
何の得にもならないのに?
そんな疑問が次々と浮かび上がるのを感じながら、俺はただ彼女の後ろ姿を見ていることしか出来なかった。