ランス異伝《ゼス激闘編》   作:さすらいの陰陽師

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第一部 第一章

 部屋の外で鳥が鳴いている。

「……」

 スズメのような可愛らしい声ではない。カッコウのようなよく響く大声だ。

「……」

 しかも近い。寝室の窓のすぐそばで鳴いているのではないかと思うほどだ。目覚まし時計とためを張るほどの騒音が昨夜の4Pで疲れているランスの耳に入り鼓膜を打ち鳴らす。時間は朝五時だ。どちらかといえば神経が図太い方のランスもこれではたまらない。じきにいらいらが頂点に達し、ベッドから飛び起きて喚き散らす。

「うるさいわあああ!! このクソ鳥があああ!! 焼き鳥にして食ってやる!!」

 ランスはどたどたと大股で床を踏み鳴らしながら窓に近づき、桟に手をかけた。

「やめるでござるよランス。その鳥はナマズ鳥といって、苦くて不味いでござる」

 一体いつ寝ているのか、気付いたら床でストレッチ運動をしていた鈴女がそう言った。

「じゃかあしゃあ!! それなら食わねえから命だけ置いてけ!!」

 ランスは窓をぶん投げるように開け、外の木の枝に向けてランスアタックを放った。

 その時、ランスに激しく振り下ろされたカオスがびっくりして飛び起きた。

「なんじゃ! 何が起きたんじゃ!」

 鈴女が前屈運動をしながらカオスを見て笑顔で言った。

「あ、カオス。おはようでござる。ランスが外の鳥にランスアタックを放ったのでござるよ」

「はあ?」

 カオスがまだ状況が掴めないといった様子で唖然として言った。

「ぜえぜえ……。五月蝿いクソ鳥め……、見たか俺様の力を……」

 カオスが外を見ると、小さな鳥が地面に落っこちて死んでいた。

「ぜえぜえ……。俺様は疲れた、もう一度寝るぞ……」

「ういうい。静かになったので、ゆっくり休むといいでござるよ」

 鈴女が明るい声でランスに言った。カオスは剣ながらに目を丸くして、ランスを見ていた。

「お……、お前まさか、あれにランスアタック打ったの? 魔人を殺せるランスアタックをあれに……? ありえんじゃろ……?」

「ぐーぐー」

 すでにランスは寝てしまっていた。しばらくして……。

「……」

 また鳥の声が聞こえてきた。先程、ランスに怒髪天を衝かせたばかりのあの声が、再びランスの耳に入ってくる。

「……」

「……」

「……うがあああああ!!!!」

「殺す!! 殺してやる!! 全滅させる!!」

 ランスは窓を開けて外に向かってカオスをぶんぶん振り回しているが、一向にランスアタックは出ない。その様子を楽しそうに眺めながら鈴女が言った。

「落ち着くでござるよ。ランスアタックはすごく体力を消耗するから一日に一回しか打てぬでござるよ。ここは鈴女に任せてランスは安心して寝るでござる」

 ランスは振り返って鈴女を見た。

「そ……、そうか? よし分かった。俺様は寝る……」

「任せるでござるよ」

 笑顔でそう言うと、鈴女はドアを開けて外に出ていった。

 部屋に残ったのは、ランスとシイルと、蘭、そしてカオスだけになった。シィルはさすがにもう慣れっこなのか、この大騒ぎにも全く動じず、気持ちよさそうに寝息をかいている。蘭は布団にくるまったままこの騒ぎを白い目で静観していた。

「……想像以上の馬鹿だわ……。あんた……」

「あ? 何か言ったか?」

「なんでもない」

 蘭はそう言うと、寝返りをしてランスと反対の方を向いて寝てしまった。

「さて……、どうするか……」

 ランスは困った顔で頭をかいた。鈴女はああ言ったものの、興奮しすぎてしまって、もう眠気も覚めてしまった。

(茶でも飲むか……)

 ランスはそう思い立って、部屋の外に出た。部屋から出ると、ほころびた木の廊下があって、階段を下るとロビーと食堂があった。その食堂ではいつでも湯を沸かして茶が飲めるようになっていた。

(ふう……落ち着くぜ)

 ランスは一服しながら思考を巡らした。

(昨夜は久しぶりに宿に泊まったからな。ちょっと張り切りすぎちまった……)

 ランス一行は宿に泊まっていた。道中、道なき道を進むため、どうしても野宿になることが多くなってしまうが、昨日はたまたま通り道に宿があったため、ここに泊まることにした。金なら尾張を出る時に香姫に持たしてもらった金貨がたんまりとある。セックスも長いことご無沙汰だったため、大喜びでチェックインしたランスだったが……。

(まさか三人同時に求めてくるとはな……。さすがの俺様もフラフラになっちまったぜ……)

 それにしても……。

(JAPANに来るまではシィル一人だった供が二人も増えるとはな……。リアは何て言うかな……)

「……っと」

(そうだ……、リーザスには行かないんだったな。これからゼスに向かうんだ。なぜかって……?)

「お、ランス。寝てなかったでござるか? せっかく鈴女が鳥を全部追い払ってきたのに」

 玄関のドアを開けて、鈴女が中に入ってきた。

「あ……、ああ。うむ、俺様もモーニングティーとかいう高級な嗜みを身に付けてしまったのでな。朝一番でこれを飲まないと、朝が来た気がせんのだ」

(……鳥相手に激高しすぎて寝れんとか、恥ずかしくて言えんぞ)

「今の時間はアーリー・モーニングティーでござるよ。モーニングティーは朝食を食べてから昼食を食べるまでにするものでござる」

「ほ……、ほう、いや、アーリー・モーニングと言っていなかったかね?」

「言ってなかったでござるよ」

「ふむ、まあ、そんなことはいいのだ(こいつ一般的な知識は全く無いのに、なんでこんな雑学的なことには詳しいんだ?)」

「鈴女もお茶を飲むでござる」

 鈴女はそう言って、コップを取り、お茶を注いだ。

「ランスと二人きりで飲むお茶はうまいでござるな。にんにん」

「お……、おう、そうか」

 鈴女のことだから本当に感じたことをそのまま言っているのだろう。シィルのように少女趣味から来るわざとらしさが無い。だからこそ、ランスはこんな何気ない一言にどぎまぎしてしまうのである。かと言って、シィルが悪いというわけではない。彼女には彼女の良さがある。蘭は蘭で、普段は意地を張っているが、甘えてくると結構可愛いところがある……。

「今日でやっと天満橋を渡るのでござるな」

「ああ、そうだな」

「楽しみでござる……。初めての大陸……。ここも行って、あそこも行って……。夢は尽きぬでござるなあ」

「そうか……? どこも人間が必死で生活してるだけで、そんなに変わらんぞ?」

「ランスがそんな人間が出来たようなことを言うとは、意外でござるなあ」

「おっと、いや、違うところはあるな。女が違う。目の色とか肌の色とか、体つきとか、何もかもが違う」

「……やっぱりランスはランスでござるなあ」

 鈴女が呆れたような顔をして言った。

 ドタドタドタドタ……。

 二階の方で急がしい足音が聞こえた。見れば蘭が階段の手すりからこちらに呼びかけていた。

「ランス、こっちはもう着替え終わったよ。そろそろご飯食べて出発する?」

 そうだな……。

 

 宿を出てしばらく歩くと、赤い欄干の大きな橋が見えてきた。天満橋だ。第二級神アマテラスが架けたと云われるこの橋は、世界で唯一の大陸とJAPANを結ぶ交通の要所になっている。ありがたい橋だが、あまりにも大きすぎて、ランスたち一流の冒険者でも、渡るのに丸一日かかってしまう。

 JAPAN最強のくのいちの鈴女や、冒険慣れしているシィルと違って、蘭は体力的にかなりきついはずだ。道中は彼女に合わせて進んでいかなければならない。

「大丈夫か、蘭。少し休むか?」

 蘭はハァハァと息を切らせながら、なんとか付いて来ている。

「大丈夫よ、これくらい。意外と優しいのね」

 蘭は、ランスを見て少し嬉しそうな顔をした。

「フン、俺様は女の子には優しいのだ」

 ランスは腕を組んで威張って言った。

(ぐすん……、私にはそんな心配してくれたことないのに……)

 シィルは少し涙ぐんだ。

「ところでランス。私、大陸って初めてなの。どんなところなの?」

 蘭は一度話しかけてくれたランスを離すまいと、タイミングよく質問を投げかけた。ランスはこの質問に、顎を撫でながらしばらく宙を見て考え込んだ。

「そうだな……、広いな」

「何よそれ。そんなの当たり前じゃない」

 蘭はその答えに不満そうだが、存外そんなことはない。こうして話している間はランスを独り占め出来るのだから。

「それと、面白い奴が沢山いるな」

「えっ、ランスが面白いと思う人なんて女の子以外にいるの?」

 蘭は次々と矢継ぎ早に質問を投げかける。会話を終わらせたくない。こうしているだけで、胸がドキドキして幸せなのだ。

「おう。まずリックだろ? ガンジーのおっさんだろ? あと誰だ……女の子ばっかりだな。バレス……? なんか違うな」

 ランスは実は二人しか言っていない。しかし、蘭の頭の中には、大勢の素晴らしいランスの友人たちの姿が浮かんできて、それだけでウキウキしてしまう。ランスは女好きでどうしようもない奴だが、男らしくて魅力があって、なぜだか、ランスの友人たちはみんな素敵な人に違いないと思えてしまう。それだけ心の深層ではランスを信頼しているのかもしれない。

「ねえ、私、ランスの友達に会ってみたいな」

 いつの間にか蘭の疲れは吹っ飛んでしまっていた。呼吸もすっかり安定していた。それに気付いた時、恥ずかしすぎてランスの顔が見れなくなった。

「おう、これから会いに行くぞ。がはは。俺も大陸は久しぶりだ。蘭や鈴女みたいな可愛い女の子と一緒に帰ってこれて最高だ。がはははは!!」

 

(ひ~ん、また私が入ってない……)

 シィルが悲哀になった。

(やった、私の名前が先に出た!)

 蘭が有頂天になった。

(にんにん)

 鈴女の心がちょっと傷付いた。

 

 尤も、ランスからしてみれば、たまたまその時蘭と話していたから蘭の名前が先に出たというだけのことであろうが、蘭にとってはそれだけのことで、幸せを感じるのには十分なことだった。

「ほら、もうすぐ大陸に着くぞ」

「えっ!? もう!?」

 時間にして20時間ぐらいにはなるだろうか。それだけの時間をぶっ通しで歩き続けた。それにも関わらず、蘭が全く疲れを感じていなかったのは、ランスがずっと話し相手をしてくれたからである。

(ランスも疲れてるはずなのに……)

 しかし、ランスは平気を装っているのか、全く疲れを見せない。

(なんか、ランスって実はすごく優しいのかも……)

 なぜだか、早雲のことを思い出した。恋人として付き合っていたにも関わらず、相思相愛だったにも関わらず、いつも仕事のことばかりを気にして、全然構ってくれなかった。それなのに、たまに会った時にはすごく気にしてるような素振りばかりを見せてその実、他のことばかり気にして、全然私のことなんて気にしてない。それに比べて、ランスは正反対で、いつも女の子のことばかり考えているようで、実は困っている人を助けたり、悪い奴をやっつけたり。今だって私のことなんて全然気にしてない素振りで、実はすっごく気にしてくれてる。なんか、ランスが女の子にモテるの、分かる気がするな。

 実際のところは、ランスが女の子のことばかり考えているのは「ふり」ではなく、事実なのだが、蘭にはもはやそんなことは見えていない。

 「私の初めての人はランス」。最近、このことを考えると、不思議な幸福感を覚えるようになった。最初はすごく嫌だったのに。初めての人は早雲が良いと思ってた。でも今は、ランスがいい。

「おお~! でっかいビル群が見えてきたぞ! あれがポルトガルだ。大陸に帰ってきたぜ」

 ランスの声に反応して、蘭と鈴女は目を輝かせてその高層建築群を見る。JAPANでは考えられないような、発展した街並み、進歩した文明がそこにはあった。往来にはキラキラと着飾った人達が溢れて、宝石やら洋服やらアクセサリーの屋台に群がっている。その客たちを逃がすまいと、売り子たちが次々と可愛いもの、美しいものを客たちの手に渡していく。まず手に渡して、試させてから商談を仕掛けるのだ。そうするとお客は少なからず自分の手に入ったものが奪い取られるように錯覚する。こうするとよく売れるんだ。とランスが言った。

「へえ、あんたよく知ってるのね」

 蘭は素直に感心した。

「まあ、この国を治めてるやつとはちょっとした知り合いでな。商売のことはそいつに色々聞いたんだ。俺様は客と話してるとムカついちまうから商才は無いがな」

「ランスって……、すごいね……」

 蘭はぽつりと呟いた。

「あ? 何か言ったか?」

「ううん……。ね、私たちって今日はここに泊まるんでしょ? じゃあ、後で買い物付き合ってくれない? 私、大陸での買い物の仕方って全然知らないから」

 蘭は無意識の内に両手を胸の前に組んで、お願いするような形になった。ランスは威勢良く笑って言った。

「がはは! いいぞ。お前たちも毎日同じ服ばっかりじゃ居心地悪いだろうからな。服を買ってやる。とびきりエロい服をな」

「えー」

 3人の女の子たちは一様にランスを嫌な顔で見た。

 

 というわけで、ポルトガルの大きな洋服屋に来たランス一行。ドアを開けて店に入ると、店の女の子が「いらっしゃいませ」と挨拶をした。

「がははは! 君はなかなか可愛いな。俺のものにならんか?」

 ランスが女の子を見ながらそう言った。

「あははは……、ありがとうございまーす」

 そう言って、女の子は苦笑いをした。(何この客? 頭おかしいのかしら。その割には沢山の女の子を連れてるけど)

「きゃー、これかわいいー!」

 シィルが水色のツヤツヤしたワンピースを手にとって言った。

「おっ、それシィルに似合いそうでござるな」

「大陸の服ってなんか形がおかしいわね。着慣れないわ……」

 皆、思い思いに買い物を楽しんでいる……ように見えた。

「がははは! シィル、お前にはこの白いエプロンを買ってやる。フリフリのエプロンだ。裸でこれを着るのだ。お前はこれから裸エプロンで冒険だ!」

 店内にランスの大声が響き渡った。

「ラ……、ランス様……、それは……」

 シィルは顔を真っ赤にしながらランスの口を押さえた。

「むぐむぐ……」

 蘭と鈴女は顔を見合わせた。

「シィルちゃんも大変ね。ランスにああやっておもちゃみたいに遊ばれて」

「にんにん。そうでござるな。でもお似合いのコンビでござるよ」

「ぶはぁっ!」

 ランスが暴れてシィルの手を振りほどいた。

「おい鈴女! お前にはこのバニーガールの衣装を買ってやる! きっと似合うぞ。お前はこれからこれで冒険だ。 蘭、お前にはこの胸元までスリットが入ったエロいチャイナドレスを買ってやる。今日からこれを着て外を歩け! がははは!」

 店内が静まり返り、皆ランスたち一行に注目した。

「はあ……、なんか頭が痛くなってきたわ」

 蘭がおでこを指で抑えてそう言った。ランスがさらに続ける。

「おい、お前たち! ズボンは禁止だぞ。履くものはミニスカート限定だ。戦闘中にパンチラが見えんからな!」

「あ……、あんた戦闘中にそんなの見てたの!?」

 蘭が顔を真っ赤にしながらランスに怒った。

「なんだ? 見ちゃ悪いのか?」

「べ……、別に見たきゃ見ればいいけど、戦闘中に見るもんじゃないでしょ」

「がはは、俺様は戦闘中だろうが精力びんびんだ!」

 ランスは両手を腰に添えて胸を張って笑った。

「ねえ、やっぱりランスを置いて3人で買い物に行こっか」

「それはいい考えでござるな」

「わーい、女の子だけでお買い物。嬉しいな」

「ダメだダメだ! ほら、お前たち早くこの服を着ろ。俺様が持ってきてやったぞ」

 ランスがさっき言った衣装を手に持って来た。だが、女の子たちは既に外に出て行ってしまっていた。

「うがー! 俺様に無断で出て行ってしまうとは何事だ! 逃がさん!」

 ランスも外に出ようとしたその時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ、あんたランスやないか。JAPANから戻って来たんか!」

「ん?」

 ランスが振り向くと、そこには巫女のような衣装を着た女。コパンドンがいた。

 

「なんや、ランス、戻ってたんやったらウチに一報ぐらいくれればええやんか」

 ランスとコパンドンは店を出てすぐのカフェで向かい合ってお茶を飲んでいた。

「さっき天満橋を渡って帰ってきたばかりだ」

「そか、ならすごい偶然やったな」

 ランスは目の前に置かれた茶を啜った。そしてコパンドンを見た。以前より華やかになった感じだ。

「それより、お前はなんでこんな所にいたんだ? 商売が忙しいんじゃないのか?」

 それを聞いて、コパンドンはクスリと笑った。

「これも仕事のうちやよ。ウチ去年ポルトガルを買うたから、この国はもうウチのもんなんやよ」

「そうか、そりゃあ大変だな」

 ランスは興味なさそうにそう言った。コパンドンもその反応を予想していたようで、すぐに話題を変えてきた。

「ところで、シィルちゃんと一緒にいたあの娘たちは?」

「ああ、JAPANから連れて来たんだ」

「さよか。可愛い娘たちやったな。大切にしてるんやろ?」

「どうかな……」

 ランスは静かにそう言った。珍しく寡言な様子のランスを見て、コパンドンは微笑んだ。

「大事にしてる。分かるわ。だって、ウチとこうして話してても全然誘って来んしな」

 ランスは痛いところを突かれたような慌てた顔をした。

「フン。寝不足と、天満橋を渡ってきて疲れてるだけだ」

「さよか。なら、ウチ戻るわ。大事な仕事残してきてん」

「おう、またな」

「ランスはあの娘たちのことが気になるみたいやしな。ほな、また」 

 コパンドンはそう言って、手を振って出て行ってしまった。

「フン……」

 

 女の子たち3人は服飾の市場に来ていた。露店や屋台があちこちに立ち並び、商売を競っている。通りには人々が溢れている。雑踏の中に、売り子たちの大声が響く、賑やかな所だ。

「わあ、これ可愛い」

 蘭が金髪の若い美男子の売り子から手渡された金のアクセサリーを見てそう言った。

「蘭殿によく似合っているでござるよ。にんにん」

 お客のグループの誰かにこういうことを言わせれば、もう勝ったようなものだ。売り子は心の中でガッツポーズをした。

「でもこの金は本物でござるか? ちょっと触らせるでござる」

 鈴女はそう言って、そのアクセサリーを指先で触ったり、目を近づけて覗き込んだりした。

「ふむ、偽物でござるな。偽物はいらないでござる」

「えっ、お客さん、よく分かりますね」

 売り子は驚いてそう言った。

「金の真贋を見分けるのはくのいちなら一番最初の方にやる訓練でござる」

「へえ、今度僕にも教えてくださいよ」

 本当にたくましい売り子たちである。

「きゃあ、これも可愛い~」

 蘭が、今度は綿で出来た紺色のワンピースを手に取ってそう言った。

「自由に試着して下さいね」

 さっきとは別の女性の売り子がそう言った。

「はーい」

 蘭は試着室の中に入って行った。

「ランスがいないと買い物が捗るでござるな。にんにん」

 鈴女がシィルに言う。

「女の子同士でお買い物なんて、本当久しぶりです」

 シィルもランスからしばらく解放されて、存分に羽を伸ばしている。

 

 3人が宿に戻ってきた時には、もう夜になっていた。

「ただいまー。ランス、いる?」

 蘭たちがそう言いながら部屋に入ってきた。ランスはベッドに横になって尻を掻きながら魔法ビジョンを見ている。

「おう、遅かったな。待ちくたびれちまったぜ」

「ごめんね。買い物が楽しくって、遅くなっちゃった」

 ランスは立ち上がって魔法ビジョンを切った。

「よし、飯だ。飯にするぞ。俺様はお腹がペコペコだ」

「うん。それで、何を食べるの?」

「へんでろぱだ」

「えっ?」

 蘭はキョトンとしている。

「だから、へんでろぱだ。へんでろぱ」

「何? へ……?」

「そうか。蘭と鈴女は知らないんだったな。まあいい。とにかく行くぞ」

 

「ああ、お腹いっぱい」

 蘭は目の前に出された料理を全て平らげた。

「大陸の料理っておいしいのね。名前がちょっと変だけど」

「ふむ、へんでろぱというのは、こかとりすとほららの切り身と金魚を煮込んだものでござったか。なかなかの美味でござるな」

「そうだろう。俺様はシィルの作ったこれが大好物なのだ」

(ランス様……)

 その言葉を聞いてシィルが喜んだ。

(そうか……、シィルちゃんはこれでランスの胃袋を掴んでるのね。私も頑張らないと)

 蘭がやる気を出した。

 食堂の中はランプの火で照らされ、薄明るくなっていた。壁の木目が微かに見える程度だ。ロウソクの火は性的興奮を呼び起こすというけど、確かにランスの顔も昼間より魅力的に見えた。私もいつもより魅力的に見えてるのかな、と蘭は思った。

 4人は小さな円形のテーブルを囲んで、何気ない会話を楽しんだ。JAPANで誰がどうしてるだとか、大陸のあいつはどんな奴だとか。その中に、早雲の話も出てきた。「あいつのことはいいのか?」とも聞かれた。「ランスは彼の格好悪いところしか見てないけど、いつもはすごい人なんだよ」と言っておいた。でも、ランスの方がもっとすごいけど……。

 早雲を褒めた時のランスは、つまらなそうな顔をしていた。こいつもちょっとは嫉妬したかしら。

「はぁ……。早雲のこと忘れたいわ。あんたのせいで駄目になっちゃったし……」

 ランスはポリポリと頬をかいた。

(ほら、男だったらこんなこと言われたら放っておけないんじゃない?)

 蘭は、今日はランスが二部屋とっていたことを知っていた。普通に考えれば、ランスが一人部屋で、女の子3人が相部屋になるんだろうが、ランスのことだから誰かを部屋に呼ぶかもしれない。もしそうなら、自分が呼ばれたい。と蘭は考えていた。

 時間はいつの間にか9時を回っていた。もうすぐ消灯の時間だ。

「そろそろ部屋に戻るか」

 ランスたちは部屋に戻ることにした。去り際に、ランスが蘭を捕まえて言った。

「お前、あとで俺の部屋に来いよ。あいつのこと忘れさせてやる」

 蘭は、やった! と思った。

 その夜、鈴女とシィルの間にこんな会話があった。

「蘭さんが呼ばれましたね」

「にんにん。さすがは蘭でござる。交渉力7は伊達じゃないでござるなあ」

「私はもう慣れっこですけど……」

「鈴女は交渉力1でござるからなあ」

(ひーん、私なんて交渉力自体が無いですよ)

 そして、街は静寂に包まれた。

 

 ポルトガルを出発してから一時間ほど歩くと、そこはもう馬車のための街道しか人工的なものの無い、見渡す限りの荒野になった。空は快晴で、時折吹くそよ風が肌に心地良かった。ランスはグループの先頭をずんずんと歩いてゆく。振り返りもせず、前だけを見て。

「……」

 シィルも、鈴女も無言だった。

 シィルはランスとの冒険歴が長い。彼の冒険の仕方がよく分かっているはずだ。鈴女は、忍者の里で厳しい訓練を受けているから、多少の苦労や理不尽はものともしないだろう。しかし、蘭には、どうしても理解し難いことがあった。何か理由があるんだろうと、ここまで何も言わずに付いて来たが、どうしてもこれだけは聞いておきたい。大事なことだから。

蘭は、すうっと深呼吸をして、きっと真剣な表情をすると、意を決してランスに声をかけた。

「ねえ、ランス」

「ん?」

 ランスは首だけをちょっとひねって、こちらを見た。歩みは止めないままだ。

「あの……、どうして馬車を使わないの? お金はあるんだし、馬車で行った方が早いし楽だと思うんだけど……」

 そう言うと、ランスは哀れな者でも見るような目をした。そして、フッと馬鹿にしたように笑った。

「分かってないな、お前は」

「な……、なによ?」

 蘭は一瞬、自分がおかしなことでも言ったのかと思って、恥ずかしくなった。

「馬車ってのはな、太った商人とか、半裸の踊り子とか、役に立たない戦力外のキャラが乗るものなんだよ。どう考えても俺様が乗るものではない」

 その答えを聞いて、蘭は面食らった。

「あ……、あんた一体いつの時代の話をしているのよ……」

「そうだな。俺様がリーザスで大活躍をしていた頃の話だ」

 ランスは気障っぽくポーズを取って言った。

「……とても話についていけないわ」

 

キャアアアア!!!

 

 その時、耳をつんざくような悲鳴がどこからか聞こえた。

「何!?」

 その悲鳴の出処を、鈴女が一番に見つけた。荒野の向こうに、高級そうな馬車と荒くれたちの集団が見えたのである。

「大変! 助けないと!」

 蘭が、ランスの方を向いて叫んだ。

「鈴女が先に行って来るでござる! にんにん!」

 鈴女は疾風のような速さで目標に向かって行った。

「ランス様!」

 シィルもランスに鈴女を追うように促す。

 ランスはニヤリと笑って言った。

「おう、分かっている。あの悲鳴は可愛い子ちゃんに違いないぞ。イッヒッヒ……」

「あんたって……」

 蘭が呆れて言った。

「とにかく、鈴女だけでは心許ない。早く追うぞ」

「はい!」

 ランスと蘭とシィルも鈴女を追っていった。

 

 馬車は無残にも横転させられてしまい、中の者が逃げられないようにされてしまっていた。その馬車の中を、モヒカンの荒くれがナイフをチラつかせながら覗き込んでいる。中にいたのは、美しいドレスを身にまとった一見して高貴の出と分かる貴族の女性だった。モヒカンとは別のギョロ目の荒くれが彼女に言う。

「ケッケッケッケ、大人しくしてれば痛いことはしないよん?」

「クッ……」

 ドレスの女性は、悔しさのあまり歯噛みをした。

「あら、可愛い顔。その顔が苦痛に歪むところが見てみたいわん」

 語尾にハートが付きそうなオネエ言葉で荒くれは言う。

「私を……、どうするつもりだ……!?」

 恐怖に耐えながら、声を振り絞って聞く。

「そうねえ……。別に殺す気は無いわ。貴族を殺すと大変だから。でも、ちょっと私たちのアジトに来て裸踊りぐらいはしてもらおうかしら。そのあと、ついでにちょっとだけ可愛がってあげる」

 そう言ってギョロ目の荒くれは、クククと楽しそうに笑った。

「貴様……!」

 腹の底から怒りの声を絞り出した。しかし、それ以外の物は何も出せない。彼女は丸腰だった。

「ククク……、反抗しても無駄よ。大人しく付いて来なさい。痛いことはしないから。本当よ。ちょっとだけ監禁されていて欲しいだけ……」

「クッ……」

 荒くれは、彼女を捕まえようと馬車の中に手を伸ばした。そこへ……。

「何をしているでござるか?」

 鈴女が横からひょいと現れた。

「ひっ……!」

 ギョロ目の荒くれは驚いて反射的に手を引っ込めた。

「もしかして、悪いことをしているのでござるか?」

 鈴女はなおも無邪気に聞く。

「な……、何よあんた? 何者?」

「悪者に名乗る名は無いでござる。そっちこそ何者でござるか?」

「わ……私たちは……、そうね……、え~っと……」

 ギョロ目の荒くれは返答に詰まった。

「な……、何なのよこの子。この状況がよく飲み込めていないのかしら……」

 そして、部下にこう命じた。

「いいわ、あなたたち、この馬鹿をやっておしまい!」

「へい!!」

 部下たちは喜んで掛け声を上げた。いずれも筋骨隆々の数十人の荒くれたちに殺気が漲る。中には舌なめずりしている者もいる。確かに、状況を見れば、丸腰の貴族の娘に、おかしな娘が増えただけのことである。驚異になるどころか、獲物が増えたようなものだ。しかも、頭が弱いとはいえ、中々の上玉だ。犯してやる。その場にいた荒くれの誰もがそう考えたことだろう。しかし、次の瞬間彼らは自分の考えが甘かったことを知る。

「おう、悪者でござるな。それなら遠慮はしないでござる」

 鈴女がそう言って足を踏み出した瞬間に、一番大きくて強そうな荒くれの首が飛んだ。

 ぼとり。嫌な音を立てて地面に落ちる首。

「ひ……、ひいっ……」

 荒くれの集団は一瞬にして怯んだ。無理もない、彼らの誰ひとりとして、さっきの鈴女の動きが見えなかったのである。

「お……お頭!!」

 彼らは浮き足立った。そして、頭であるギョロ目に縋った。

「な……何なのよ、この子! 想定外にも程があるわ……!」

 その時、ランスたち3人が、鈴女に追いついて来た。ランスが大声で言う。

「おい、鈴女、あんまりむやみに殺すなよ。そいつらにはたっぷり情報を話してもらわないとならんからな」

「承知したでござる」

 そう言って、鈴女が小刀を構える。すると、荒くれたちには少女であったものが鬼のように見えた。

「あ……、あんたたち! 逃げるわよ! 早く!」

 頭がそう指示すると、荒くれたちは全速力で駆け出して逃げていった。

「追うでござるか?」

 鈴女がランスに指示を仰いだ。

「いや、いい。俺たちには関係のないことだ」

 ランスはそう言って、赤いドレスの女性がいる馬車の中を覗き込んだ。

「大丈夫だったか?」

「は……はい。ありがとうございます」

(ほう、なかなかの美人だ。少しカールのかかった黒髪に小麦色の肌。長い睫毛に大きな褐色の瞳。エキゾチック美人というやつだな)

 女性は、胸を抑えて、戸惑っている。まだ恐怖で心臓の鼓動が収まらないようだ。

「それでお礼の件だがな……」

(また始まった……)

 蘭は思った。

「は……、はい、命を助けられたのですから、どのようなことでも致します」

 それを聞いてランスはニヤリと笑った。

「そうか、それではここで裸踊りをしてもらおうか。そのあと、ついでにちょっとだけ可愛がってやる」

 女性は立ちくらみがしたのか、倒れてそのまま気を失ってしまった。

「……」

 ランスは意表を突かれて黙った。

「どうするでござるか? これ?」

 鈴女がランスに聞いた。

「そうだな。ここに置いていくわけにはいかないからな。とりあえず、ポルトガルまで運んでくぞ。その後のことはそれから考えよう」

「了解でござる」

 ランス達一行は、謎の女を連れてポルトガルまで引き返すことにした。

 

 今朝まで宿泊していた宿に戻り、事情を話して部屋を貸してもらうことにした。宿主は、「客室はもうベッドメイキングが終わっているのでお使い頂くことが出来ませんが、従業員専用の間なら使って頂いて構いませんよ」と言った。

「おう。十分だ」

 ランスはそう言って、案内された部屋に入ると、彼女をベッドの上に下ろした。彼女の身体は力なくベッドの上に横たわった。

「貴族の娘さんですな」

 宿主は一見して言った。

「往来を盗賊に襲われるとは、運が悪い。いや、お客さん方にとっては運が良い事になるのかな。家に送り返せばたんまりと謝礼がもらえますよ」

 宿主はそう言って部屋を出て行った。

「……フン、金が欲しいならはっきりとそう言えばいいのだ」

 ランスは先程宿主が出て行ったドアを睨みつけて独りごちた。

「それにしても、どうしたんでしょうね? この人……」

 シィルが言った。

「知らん。それに、俺様たちには関係の無い話だ……」

「でも、いいの? 綺麗な人だけど……」

 蘭が、これだけの美人を前にして冷たい態度を取るランスに違和感を覚えてそう言った。

「お礼はしてもらう。だが、俺様たちが関わるのはそこまでだ。正直、俺様だってこれだけの美人を一度だけで放流(リリース)するのは惜しい。だが、今はそれどころじゃないんでな。一刻も早く先を急ぎたい」

「ねえ、ずっと気になってたんだけど、私たちって今どこに……」

 蘭が疑問を口にしようとした時、鈴女が人差し指を口に当てて、それを遮った。

「しぃっ、静かに。どうも起きたようでござるよ」

 鈴女はそう言うが、蘭が彼女を見ると、どう見ても寝ているようにしか見えない。

「起きているでござるな。盗み聞きでこちらの情報を探ろうとするのは良くないでござるよ」

 そう言うと、彼女は観念したように目を開けた。

「ごめんなさい。ただ、あなた達のことが知りたくて。他意はないの」

「……」

 彼女はしばらく黙って考え込んだあと、自己紹介を始めた。

「助けてくれて本当にありがとう。私の名前はベラドンナ。ポルトガル貴族です」

「……」

 そして彼女は申し訳なさそうにランスの方を見て言った。

「あなたには特にごめんなさい。最初、あなたの冗談が分からなくて、怖くて気を失っちゃったわ」

「冗談じゃないぞ」

「そう、本当に冗談じゃないわよね。私ったら、お馬鹿さん。あなたのような良い人があんなこと本気で言うわけないじゃない」

「俺様は至って本気だ」

「……」

 彼女はコホンと一つ咳払いをして、シィルたち女性陣の方を見た。そして言った。

「あの……、このお方は、何かの病気の療養中なのかしら?」

 シィルは引きつった笑顔で、「あの……、あの……」と後に続く言葉を探している。蘭は顔を隠して笑いを堪えていた。

「そうですわよね。言いにくいことでしたら別に言わなくても構いませんのよ」

「おい」

 名をベラドンナといった女性はランスを無視して話を続ける。

「私は一度家に帰ります。あなた方にもお礼を差し上げなくては。ここまでお世話になっておいて恐縮ですけど、ご一緒に来ていただけませんか?」

「おい、そんなことより……」

 蘭がランスを右手で制止しながら言葉を挟んだ。

「もちろんです。あんなことがあった後で、一人で家に帰るのは危険です。ご自宅までは私たちがしっかりとお守りします」

 蘭の力強い言葉を聞いて、ベラドンナは嬉しそうに微笑んだ。

 

「あなた方はお優しいんですのね。それに、お強いわ」

 ベラドンナは帰りしなにそう言った。

 ポルトガルの街路は、石畳で綺麗に整備されていた。言うまでもなく、馬車が走るためだ。だが、彼女の馬車は荒野に置き去りになっている。そのため、ランス達は歩いて彼女を家まで送って行く。

「すみません。遠いですわよね。もうすぐですから、あと少しだけご辛抱くださいな」

 彼女はそう言って、どんどん街の外れの方に進んでいく。商業都市ポルトガルはこの世界屈指の大都市であるが、中心からこれだけ離れると、自然に囲まれた閑静な住宅街も増えてくる。予想はしていたが、豪華な邸宅が立ち並ぶ高級住宅街の中心に彼女の家はあった。

「今、人を呼びますわ」

 彼女は門の呼び鈴を鳴らした。門の向こうには馬を存分に走らせることが出来そうな大きな庭が広がっていた。使用人が毎日手入れをしているのだろう。花壇に植えられた色とりどりの花が来客の目を楽しませていた。しばらくすると、中から執事服を着た初老の男が出てきた。鍵を使って門を開け、背筋をしっかりと伸ばして、主人と来客を迎え入れる。

「ありがとう。父はいるかしら?」

 執事服の男は、「はい」と短く返事をした。

 邸宅の玄関をくぐると、場違いなほど豪華な光景が広がっていた。赤い絨毯にシャンデリアに、ゴシック調の重厚な調度品だ。しかし、そんなことはランスたちにとってはどうでも良かった。

「よし、ちゃんと家まで送り届けたな」

 ランスがそう言ってベラドンナに確認した。

「はい、本当にありがとうございました。今、お礼を……」

「そんなものはいい。それより、一発やらせろ」

「はあ……」

 ベラドンナは力なく返事をした。

「そんなに、なさりたいんですの?」

「おう、俺様は既に戦闘準備万端だ」

 ランスはそう言って下半身を突き出す。

(うっ……、何て奴……)

 蘭が眉をしかめた。ベラドンナが言う。

「そこまでおっしゃるなら、いたしましょう。でも、その前にひとつお願いを聞いてくださらない?」

「ふむ、なんだ?」

「私の頼んでいた護衛たちが、さっきの事件で皆いなくなってしまったの。あなたたちが代わりに、私をリーザスまで送り届けて下さらない?」

「ほう? リーザスのどこだ?」

「リーザス城までです」

 それを聞いてランスは驚いた。リーザス城と言えば、あのリア女王の居城だ。

「なんだ。リーザス城に行くところだったのか」

「はい」

「リアとは知り合いなのか?」

 ランスがリアと呼び捨てにしたのを聞いて、ベラドンナは少し驚いた顔をした。

「はい、リア女王様とは十年来のお友達でございます」

「なんだ、そうだったのか」

「……送って、いただけますか?」

 ランスは首を振って、「いや、ダメだ」と言った。「今はそんな余裕はない」

「あら、そう……」

 ベラドンナは残念そうな顔をした。

「悪いが一つ頼みたいことがある」

「何かしら?」

 ランスは胸のポケットから紙を一枚取り出して、ペンを使ってすらすらと文字を書いた。そして、彼女に手渡した。

「これをリアに渡してくれ。ランスからだと言えば分かる」

 ランス、という名を聞いて、彼女は目を見開いた。

「ランス……、あなた様があのランス様でしたの?」

「なんだ? 知ってるのか?」

「リア様からよくお話で伺っております。素晴らしいお方だと……」

「ほう。リアの奴もよく分かってるじゃないか。ガハハハハ!」

 ランスから渡された紙は封筒に入っているわけでもなく、見ると汚い字で「かえってきたぞ ランス」と書かれてあった。

「これをリア様にお渡しすればよろしいのですね」

「そうだ。頼んだぞ。ガハハハハ」

「はい。確かに承りました」

 ランスは話を終えると、マントを翻して出口の方を向いた。

「お待ちください。助けて頂いたお礼をまだしておりません。せめてお金だけはお持ちになって」

 

 ランス達はベラドンナから謝礼としてのお金を受け取り、再びポルトガルを出発した。心地よい陽気の中、今度は何事もなく、次の目的地であるMランドに向けて、順調に歩みを進めていった。途中、蘭がランスに聞いた。

「あの人のことは、あれで良かったの? 珍しいわね。あんたがお金だけ受け取って出てくるなんて」

 ランスはこう答えた。

「ああ。リアの友達なら、リーザスに行った時にでもリアに言って呼び出させればいいだけだからな。これでベラドンナちゃんとはいつでも出来るぞ。ガハハハハ!」

「呆れた……」

 蘭は肩を竦めて言った。

 Mランドは、初代園長・運河優太が設立した娯楽都市だ。この国全体が遊園地になっている。巨大なジェットコースターや観覧車が都市外からも見ることが出来、それらを見ていると大人でもワクワクしてきてしまう。財政危機であった折にコパンドンに買収され、現在はコパンドンがこの国のオーナーになっている。

「ねえ、ランス?」

 蘭がランスに呼びかけた。

「何だ?」

「あれ……、何?」

 すぐ先に見える巨大な観覧車を指差して言う。

「ああ、お前は知らないのか」

「知らないわよ。あんなのJAPANに無いもの。ね、鈴女ちゃん?」

「ういうい、鈴女も知らないでござる」

「そうか、それではこの俺様がお前たちに教えてやる」

 ランスは腕を組んで誇らしげに言った

「あれは観覧車というものだ。あれに乗って高いところからの眺めを見るととても気持ちがいいのだ。あれはジェットコースターだ。あれに乗って高いところから落ちたり、グルグル回ると、とても怖いのだ」

「へえ……」

 蘭と、鈴女は感心している。シィルはその様子を見て笑っている。

「ねぇ……ランス? あれ乗っていい?」

 蘭が甘えるような声でランスにそう言う。上目遣いで。

「お……、おう、いいぞ……」

 ランスは照れた。

 

 観覧車には待たずに乗れた。4人一緒に車両に乗り込む。ランスはシィルと隣り合って座り、向かいの座席に蘭と鈴女が並んで座った。座るといっても、子供がやるように座席に膝をついて、窓から外を眺めているのであるが。

「楽しいですね。ランス様」

 シィルが隣りのランスにそう言った。

「ふむ、たまには観覧車もいいものだ。何より、蘭のパンツが見えそうだ。ふとももがむっちりしていてとても良い」

「ス……、スケベっ!」

 蘭はスカートの裾を押さえた。

「お、上がっていくでござるよ」

 観覧車はゆっくりと高いところに上がっていく。

 地平線の位置がずりずりと下がって行き、荒野の中に周囲の都市の姿が浮かんでくる。まず見えたのは、北にあるジオの街だ。そして、反対側にはランスが聖魔教団の遺跡を落として出来た都市、闘神都市がある。

「わあ、きれ~い……」

「観覧車とはいいものでござるな。にんにん」

「ランス様……」

 シィルはランスの腕に絡みついた。

 こうして、楽しいひと時は一瞬にして終わり、観覧車は地面に戻ってきた。

「あ、今度はあれ乗ってみたい」

「鈴女も行くでござる」

 蘭と鈴女は、ジェットコースターに向けて駆け出して行った。

「ランス様……、楽しいですね」

 シィルはランスとの楽しい時間を満喫している。 

 ……。

 やはり大陸はいい。こうしていると、JAPANで命をかけて激しい戦争を戦っていたのが嘘のようだ。ただ、蘭と鈴女がここにいるという事実だけが、あれが現実だったということを証明している。蘭と鈴女……、俺様に惚れてJAPANから付いてきてしまった二人の女だ。正直、俺様に惚れてる女を3人も連れて歩くというのは未知の経験だった。今のところは仲良くやっているようだが……。

 しばらくすると、蘭と鈴女がジェットコースターを乗り終えて戻ってきた。

「うう……、気持ち悪い……」

「にょほほほ。楽しかったでござる」

 蘭はフラフラになっているが、鈴女は上機嫌の様子だ。

「そろそろ、宿を探しに行くか」

 宿は遊園地の中にあるようだが、どこにあるか分からない。そう思っていたら、「こっちでござる」と鈴女が案内してきた。こういうところはさすが忍者だ。目ざとい。すぐさま部屋を確保して、食堂に向かう。

「ねえランス? 今日は何を食べるの?」

 蘭が聞いてきた。

「ふむ、今日は山田くんだ」

「や、山田くん?」

 聞いて、蘭が一瞬固まる。無理もない。JAPANの人間にとって「山田くん」といえば人名以外に考えられない。

「うむ、こんがり山田くんだ」

「ひ……人?」

 蘭が続けて聞く。

「人じゃないぞ。俺様もよくは知らんが、どうやら人ではないようだ。うまいぞ」

 それを聞いて、蘭がホッとした様子で胸を撫で下ろした。 

「ホッ……、良かった、人じゃないのね……」

 食堂でこんがり山田くんを食べた。こんがり山田くんは美味かった。それにしても、山田くんとは何なのだろうか。モンスターだろうか。ここでは深く考えないでおく。

 そんなことよりも、ランスには大きな問題があった。

(ふむ、今日は誰と寝るか……)

 という問題である。今夜も昨日と同じように二部屋取った。正直、もう4Pは勘弁願いたい。最初は俺様のことが大好きな3人の可愛い女の子とハーレムプレイでガハハ、グッドだー! だと思っていたのだが、実際するとこれが意外ときつい。やはりエッチは一人づつするのがいい感じだ。だが、そうなると誰を部屋に呼ぶかという問題が生じてくる。昨日は蘭ちゃんとやったが、今日も蘭ちゃんとやってもいい感じだ。でも、鈴女も捨てがたいし、シィルも良い。これは困ってしまったぞ。ガハハ、もてる男はつらい。

 ランスがそんなことを考えていたら、蘭と鈴女が「じゃあ今日は疲れたから部屋に戻るね、おやすみ」と言って、さっさと部屋に帰って行ってしまった。そして、シィルとランスが二人、食堂に残された。

「ランス様……」

 そう言って、シィルは頬を紅潮させて、上目遣いにランスを見てきた。なんだか遊園地にいる時から、今日のシィルは異常に可愛い。なんだ、女の子同士で談合でもしているのか。とランスは思った。よし、今日はシィルとするぞ。ガハハ、グッドだー!

 お馴染みの音楽が鳴りながら、夜が更けていった。

 

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