episode0『プロローグ』
人口約230万人、その八割が学生で占められているここ、学園都市。日々を重ねるごとに技術が進歩していくこの場所では、進化出来ない者は簡単に切り捨てられていく。
甘くはない世界だ。
能力開発を受けても、能力が発言しない……level0と認定された学生に幸せは訪れない、と言っても過言ではないだろう。
厳しい世界だ。
*
第七学区、路地裏。
「いーから金出せって言ってんだろぉがよっ!!」
怒号と共に、少年の身体が蹴り上げられる。
七月二十五日、午後十一時を回った頃であろうか。真っ暗な空の下、どこにでもいるような一人の高校生は、典型的なカツアゲにあっていた。
「……な、無いってさっきから言ってるじゃないか……」
「あぁ??てめぇがぼっちゃんなのは調べがついてんだよぉ。んだからさっさと金出せよっ!!!!」
ゴガッ!!と。痛々しい音が路地裏に響く。少年一人に対して、カツアゲをしている不良の数は三人。さすがに武が悪い。
「level0のくせして良い学校通えてんのは、金持ちのお父さんのおかげなんだよなぁ??全く情けないねぇ。そうは思わないかいっ!!??」
今度は、顔面を思いっきり殴られた。勢いよく吹き飛んだ少年の身体は、壁に叩きつけられる。
それでも、抵抗はしない。
「……そういう君達だって……level0なんだろ……?ふっ。いいゴミ分だな……」
だが、毒を吐いた。
「あぁぁん??もう一回言ってみろこのボンボンがぁっ!!ぶっっ殺してやるよぉぉぉぉ!!」
「やれるもんならやってみろよ……。殺す勇気なんて、お前らにあるわけないだろ?」
不良三人衆の中のリーダー格が少年の言葉にカチンときた。勢いよく胸ぐらを掴み上げると、あいた方の手を首元に押し付ける。
その手には、直径15cm程の一般的なナイフが握られていた。
「……っ!!」
「俺はなぁ、こう見えても何人か殺った事があんだよ……。だから、人殺しなんて容易いんだよぉ」
「おいやめろって!また少年院に行きてーのかよ!」
不良の一人が、笑いながらそう言った。
「どんだけ少年院ぶちこまれても、ウゼェやつは殺す。これが俺のモットーだ。死ねぇぇぇぇっ!!!!」
少年は目を瞑る。
……終わった。
金持ちの子供として生まれてきたが、勉強がどうも出来なくて、大嫌いだった。親の期待にも答えられず、のうのうと生きてきた。
その点、弟はとても頭がいい。そりゃあ弟の方を可愛がるのは当たり前だ。仕方がない。出来の悪い自分が悪いんだ。
だからもう、死んだほうがいいんだ。
頭の悪い自分なんて、死ねばいいんだ。
level0に、生きる価値なんて無いんだ。
level4の弟を見てみろ。
とっても楽しそうだ。幸せそうだ。何なんだよあれは。何で自分はああなれなかった?いや、原因なんて明白だろ。
頭だよ。
脳みそだよ。
色々足んなかったんだよ。
足りないものだらけ。
運動神経も、成績も、友達の数も、器用さも。
何もかもが弟の方が上回っている。あいつに全部奪われた。
……いや。
その言い方は間違ってるかな。
自分の出来の悪さを、たまに弟のせいにしたくなる。そんな自分も大嫌いだ。何も出来ない自分が大嫌いだが、そんな自分が一番嫌いだ。
……弟は好きかって?
……。……。……。
……大好きだよ……。
あいつは……自分を侮辱することなんてなかった。比べることなんてなかった。いつも、いつも……。
兄さんは出来ないんじゃない。
まだ、自分の力に目覚めてないだけなんだよ。
って、励ましてくれる。
そんな弟が大好きだ。
あぁ。ちくしょう。
完全に死ぬ気だったのに。
弟のあの笑顔を思い出しちまった。
あの言葉を聞くだけで、どれだけ自分が救われたことか。
もう少しだけ頑張ってみよう、って。どれだけ思ったことか。
……っくしょう。
……っくしょう!!
ちくしょおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!
「……死にたいか?」
「……っ!!??」
どこからか、声が聞こえた。
「誰だっ!?」
リーダー格の男が後ろを振り向くと、そこには、2mはあるであろう大きなギターケースを担いだ白髪の少年(?)が立っていた。近くの地面に、先程までピンピンしていた不良二人が仰向けに倒れていた。
「お、お前……っ!!誰だか知らねぇけどよくも二人を!!!!」
不良の言葉を無視し、白髪は少年に問う。
「……もう一度聞く。死にたいか、少年?」
「僕は……僕は……っ!!」
胸ぐらを掴む不良の手を振りほどき、少年は叫ぶ。
「まだ死にたくないっ!!!!
「……、」
白髪の口角が少しだけ上に上がる。
「このヤロォぉぉぉぉ!!!!!!」
不良のリーダー格が白髪に向かってナイフを振りかざす。だが、その刃が彼に届くことはなく。
「……ふぇっ!?」
脇腹から大量の血が噴き出した。まるで、噴水のように。振りかざした勢いのまま、不良のリーダー格は倒れこんだ。
「今、何が……?」
少年は、白髪が何をしたのか全く分からなかった。見えなかった、と言った方が正しいだろうか。とにかく、目の前の男は一瞬で不良を戦闘不能に追い込んだ。
「助けてくれて……ありがとう」
「……その命、大事にしろよ」
そう言い残すと、彼は闇夜に消えようとする。
「あの!!」
「……、」
「名前を……名前を教えて下さい!!」
一度その場で立ち止まると、少年の方を振り返り、告げた。
「……レイ=テレストカ」
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