とある傭兵の虚ノ物語   作:狼少年

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episode9『復讐』

1

 

 

七月二十八日、夕方。

木原遊楽の研究所の一室。

 

 

木原遊楽は、ソファの上に寝ている二人の少女を見つめていた。

 

 

「はぁ……全く全く。あいつはもっと冷静なヤツだと思ってたんだけどな」

 

 

手を顎に当て、溜息をつく。

 

 

「意識不明の少女を颯爽と置いていってアジトに突撃なんて、何をそんな焦っているんだか」

 

 

少女の一人は小さな体に無数のあざを残し、もう一人は三発の弾丸が腹部あたりに埋め込まれていた。

 

 

「一歩間違えばどっちも危険な状態……特にナナシ、この子はなかなかヤバかったね」

 

 

今はなんとか一命を取り留めたナナシ。そんな状態の二人を研究所に残し、彼は走った。レイ=テレストカは一目散に()()目をつけた。

 

 

「やっぱり君は、世界の裏側……『闇』ならぬ『裏』に相応しいよ」

 

 

ふらっ、と。

木原遊楽の側を一つの影がちらつく。

 

 

 

 

「そうは思わないかい、『新世紀の大剣使い(シュヴェールト)』君」

 

 

 

 

そう呼ばれた影の正体、『新世紀の大剣使い』はゆったりとした動作で遊楽の横を通り過ぎる。身長約180cm後半の屈強な肉体を持った男は、そのまま姿を消した。

 

 

「なんだいツれないなぁ。なんで『裏世界の七人(リバーシブルセブン)』ってのはどーしてこーしてみんな冷たいんだ……!?まぁそれもそうか。みんな『闇』を抱えて『(こっち)』に来たんだもんね」

 

 

これまたさっきとは別な意味で溜息をつく。

 

 

 

 

「今、学園都市に来ている『裏世界の七人』は君だけじゃあないんだよ、レイ君」

 

 

 

 

2

 

 

殺してやる。

コロシテヤル。

koroshiteyaru.

kill kill kill kill kill kill kill kill kill kill.

 

 

心の中は真っ黒け。

黒くて黒くて深くて深くて禍々しくて、まるで闇のよう。彼の心はどす黒い。染まっている。

黒色という色に。

black色という色に。

black colorというcolorに。

 

 

許せない。

友人を傷付けた。

護衛対象(大事な人)を傷付けた。

 

 

ならどーしよっか。

 

 

殺そっか。

 

 

何も考えない。

ただ、殺意を抱け。

それだけでいい。

それだけで心は救われる。

 

 

殺ってやる。

殺ってあげますよ。

 

 

破滅と後悔と死を。

 

 

あなたにプレゼント。

 

 

 

 

3

 

 

時刻は夜、場所は廃校舎。

いや、元明星高校校舎。

 

 

「今日は月が綺麗だねぇ」

 

 

割れた窓から見える丸くて大きな月を彼は眺めていた。何を考えるわけでもなく、暗部『アクセル』のリーダー、赤傘は黄昏ている。

 

 

赤傘は暗部のリーダーを務めているが、メンバーの中では一番年下だ。言動もふざけている事から、信用される機会は少ない。だが、どんな世界でも能力(ちから)がものを言う。強い能力の前では皆、跪くだけなのだ。

 

 

「そういえば……音恋……死んだか」

 

 

彼の耳に届く情報は早い。さすがはリーダーといったところか。

 

 

「はぁ。これで、『アクセル』の残りは僕と名織ちゃんだけ……ここ数日で急に寂しくなったものよねぇ」

 

 

眼科にでも行けば貰えそうな白くて四角い眼帯を付けた方の目を擦りながら、彼は呟いた。真っ赤なダボダボ長袖Tシャツを上に伸ばし、背伸びをする。夏真っ盛りであっても、夜の風は冷たく感じた。さすがに太股の上部までしかない黒短パンを履いているだけでは、風に当たる度スースーする。

 

 

「……より一層寒くなってきた。そろそろ……ってことかな?」

 

 

と、

次の瞬間。

 

 

一つの轟音。

何かを破壊し尽くすような、そんな響き。

 

 

気づくと、赤傘がいる教室の廊下側の壁全てが吹き飛んでいた。凄まじい爆風と共に、教室内の机椅子も飛び散り、窓ガラスも衝撃によって全部壊れ、元々荒れていたこの部屋はさらに荒れ果てた姿となった。

 

 

「なあんて派手な登場だっ!!感動したよっ!!」

 

 

迫り来るガラスの破片や机椅子をいとも簡単に避けた赤傘は、廊下に立つ襲撃者を一点に見つめる。

 

 

「よくもまぁ僕の仲間を二人もヤってくれたねぇ。……けっこー怒ってるよ、僕」

 

 

「……、」

 

 

炭が燃えきった後のような色をした髪を風になびかせる襲撃者。大きな槍を担いでいる彼からは、殺気という殺気しか感じられない。

 

 

「さぁ始めよう!!!!」

 

 

狂気の襲撃者が一歩踏み出そうとした時だった。

 

 

 

 

スッ!!!!

 

 

と。

 

 

騎士が使うであろう剣が、教室の床から無数に生えた。まるで、剣山のように。そしてそれは、一つの対象に向かって伸びている。

 

 

そう。

 

 

その対象は。

 

 

「……っぐ……はぁっ……!!??」

 

 

何本もの剣が、襲撃者の身体に突き刺さった。刺された箇所からダラダラと血が滴る。身体の中からも血が吹き出し、それを一気に外へ吐いた。

 

 

「ありがとう、名織ちゃん」

 

 

コツ、コツ、コツ。

廊下から、ゆっくりと歩くヒールの音が聞こえてくる。

 

 

 

 

「さよなら、『虚無の槍使い(ゼロランサー)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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