とある傭兵の虚ノ物語   作:狼少年

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第二章
episode13『人口ビーチ』


1

 

 

八月十日。

夏。

 

 

そう、ただいま季節は夏である。太陽の光がサンサンと照りつけ、蝉の鳴き声が耳を刺す。まさしく、夏である。

 

 

「レイさーん!!いきますよぉ〜!!そーれっ」

 

 

そんな中、人口砂浜の上ではしゃぐ茶髪の少女がいた。

 

 

「……くだらん」

 

 

コートを挟んで自身へと向かってきたビーチボールを、灰色の髪の少年は足を使って少女のいるコートへ上手に返した。

 

 

「あー!!レイ!!足を使っちゃ反則なんだぞーー!!」

 

 

「……ふっ。バレーボールは足を使ってもいい競技なんだぞ?そんな事も知らないとは、やはりお前はまだまだ子供だな、クレハ」

 

 

「むきぃーーっ!!クレハは子供じゃないっ!!」

 

 

顔を膨らませる金髪少女の元へ今度はボールが飛んでくる。

 

 

「えぇぇええええいいっ!!!!」

 

 

ポン、と。クレハは頭の上に両手を構えるわけでもなく、腰を屈めて両腕を組むのでもなく、来たボールを……殴った。バレーボールを経験した人なら分かるであろう。ボールを殴るという行動が、どれだけ不安定な行動かを。ビーチバレーにしても、同じ事は言える。

 

 

殴られて宙を舞うボールはあらぬ方向へと飛んでいき、そのまま熱せられた砂浜へと落ちていった。

 

 

「あぁ〜落ちちゃった……」

 

 

「……お前、バレーボールしたことないだろ?」

 

 

「うるさいっ!『薔薇園』にいた時は鬼ごっことか色鬼とか高鬼とかやったもん!!」

 

 

「……全部鬼ごっこじゃねぇか」

 

 

『薔薇園』とは、クレハが少し前までいた孤児院の名前である。あの事件以来、あそこは取り壊され今では何も無い更地となってしまった。だから、その単語が出てくると二人はクレハの事を考えてしまう。今の現状をクレハが見たらと思うと、胸が痛くなる。

 

 

「やっぱり八歳の女の子にはちょーっと難しいスポーツでしたかねぇ……」

 

 

ははは、とお腹の当たりをさすりながら笑うナナシ。今日の彼女のスタイルはなんと、大人の色気漂わせる黒いビキニである。やはり、夏ということもあって奮発したのであろう。だが、胸部に凹凸が無いのがとても残念な所だ。

 

 

そんなナナシを見て、レイは思い出す。

詳しくは腹部を見て、思い出す。

 

 

三箇所の傷痕。クッキリと残ってしまっている。暗部『アクセル』のメンバー、音恋の最後の抵抗によって生まれてしまった銃弾の痕。

自分が油断しなければ。完全にヤツを仕留めていれば。あんな傷を残さずに済んだのに。

 

 

深く考えてしまったレイは、一度コートを出て近くに立てた人二人分は覆えるであろうパラソルの元へ行く。その中へ入り、砂の上に座り込む。

 

 

ちなみにレイ達は今、学園都市の中の一角にある人口ビーチに来ていた。外から見れば大きなドーム状となっているが、その中は人口浜に人口海、人口太陽などのまさに夏の海そのものを楽しめるようになっている。なんでも、わざわざ『学園都市の外』に出ずとも海を味わえるというのが売り文句らしく、とてつもなく人気のあるスポットである。その為、何ヶ月も前から入場券を日にち指定で予約しないとここには入れない。

 

 

そう、何度も説明したというのにも関わらず、聞き分けのない金髪の少女がおりまして……。

 

 

 

 

2

 

 

 

 

昨日。

 

 

「海に行きたい」

 

 

「……は?」

 

 

「クレハ、海に行きたい」

 

 

「……なぜそんな唐突に?」

 

 

「最近、暑い。あちゅい。だから、海に行きたい」

 

 

「……おいナナシー。こいつをプールに連れてってやってくれ」

 

 

「プールじゃ嫌なのぉっ!!!!海ぃぃ!!砂浜ぁぁぁぁ!!」

 

 

「……おいナナシー。こいつ五月蝿い。どうにかしてくれー」

 

 

「何でもかんでも私に投げないでくださいっ!!もうレイさんは!!あなたがこの子を護衛するんでしょ!?何で私にそゆこと頼むんですか!?」

 

 

「……アミューズメント系はお手上げ。しかも俺、学園都市の人間じゃないからそういうの分からないし」

 

 

「むむ、た、確かに。えぇ……いきなり海に行きたいと言われても……学園都市の外に出るわけにはいかないし……。そうなると、あの人口海しか思い浮かばない」

 

 

「そこそこ!!私そこに行きたい!!」

 

 

「いやでもあそこって、数ヶ月も前から予約しないと入れないとこだし……やっぱり海は厳しいかなぁ……」

 

 

「いけないの……?」

 

 

「やめてっ、そんな目をウルウルさせながらこっちを見ないでっ!!わ、私だって協力してあげたいけど……こればっかりはどーしても無理なの!!だから、だからお願いだからそんな目をしないでクレハちゃん!!」

 

 

「ひっぐ……ふぇ……」

 

 

「……おいナナシー。クレハ泣きそうになってんぞ。どうにかしてくれー」

 

 

「レイさん!!!!全くあなたって人はもぉぉ!!」

 

 

「ん?どしたのクレハ。泣きそうになってるじゃん」

 

 

「遊楽さぁーん!クレハがどうしても海に行きたいって言うんですよ〜」

 

 

「あぁそういうこと。なら、いいものあるんだ。じゃーん。人口海への入場券四人分」

 

 

「神様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!と、ミサカは心の底からの声を露わにします」

 

 

「友達からの貰い物でねぇ。これ、明日だからさ、早速明日四人で行こっか」

 

 

 

 

3

 

 

そんな木原遊楽のおかげで今はみんなで仲良く人口海を満喫している最中ということだ。

 

 

「最近どーお?なんか、変わった様子とかあった?」

 

 

パラソルの中で大の字になって寝そべる大の大人がいた。大の大人は黒いサングラスに髪型をオールバックにし、真っ黒な海パン姿な為、一見誰だか分からないが、レイにはすぐに分かった。

 

 

「……『アクセル』以来、何も無いな」

 

 

「そうかいそうかい。それはとても良かったよ。うん、今日はゆっくり夏を満喫しな。いつもピリピリしていちゃあ気が持たないでしょ」

 

 

「……あんたがクレハを護衛しろって言ったんだろうが。いつも気を巡らとかなきゃ何が起こるか分かったもんじゃないぞ、遊楽」

 

 

「ふふ、それもそうか」

 

 

白と青のグラデーションがかかった海パンを履いているレイは、そっと立ち上がり、パラソルから出た。

 

 

(……にしても喉が乾いたな)

 

 

パラソルから出て向かった先は、木の造りをした家……いわゆる海の家という場所だった。そこにはたくさんの看板が並んでおり、その中の『ラムネ』という単語にレイは目をつける。

お昼時だからか、海の家にはたくさんの学生がはびこっていた。列に並び、数分待った所で自分の番が来た。この数相手に数十人の人間を数分でさばけるとは、この店の回転率は素晴らしいな、と感心したレイであった。

 

 

「へい!いらっしゃい兄ちゃん!何にする!?」

 

 

会計をしていたのは、笑顔が素敵で筋肉質な大柄の男だった。身長は180cmぐらいであろうか。思わずレイは首を少し上に上げてしまった。

 

 

「……ラムネ一つ」

 

 

と言った時だった。

お兄さんの顔が一変した。素敵な笑顔から、驚愕の表情へと。まるで、この世のモノとは思えない何かを見てしまったかのような。そんな表情。

 

 

「お、おま。何でこんな所に!?」

 

 

「……え?あんた、俺と会ったことあったか……?」

 

 

記憶を張り巡らせる。筋肉質で大柄な男なんて今まで何人も会ってきた。だが、この顔は初めてだ。絶対に。会ったことは無い。

 

 

「ちょ、一回お前。表に出ろ!」

 

 

「……え。俺なんか悪いことした?なんでそんな不良の文句を食らわなきゃいけないんだ」

 

 

レイの頭の中はハテナマークでいっぱいだ。

 

 

「店長!!ちょっと店空ける!!」

 

 

「お前!!こんな時になんで!!!!」

 

 

「急用ができた!!すぐに帰ってくる!!」

 

 

肉や焼きそばを焼く音に負けないくらいの声で海の家の店長と大柄な男は会話をし、終わった後で店の外へ出ていった。

 

 

 

 

4

 

 

二人が向かった先は、人気の無い所だった。どうやら、人口砂浜の隅の方……立ち入り禁止エリアまで来たらしい。人なんて来るはずがない。

 

 

「お前に会いたかったんだよ俺は!!」

 

 

「……はぁ。俺のファンか何かですかねあなたは」

 

 

熱い砂浜の上で二人、海パン男が対峙していた。一方は、膝まで伸びた白と青のグラデーションが綺麗な海パン。もう一方は……真っ黒なブーメランパンツ……いや、黒い海パン。

 

 

そんな筋肉隆々なブーメラン野郎は真剣な顔でこう言った。

 

 

 

 

「そう。ファンではないが、会いたかったんだよ……『虚無の槍使い(ゼロランサー)』」

 

 

 

 

キッ、と。

その単語を耳にした瞬間、レイの目つきが明らかに変わった。それは、人を見る目から獣を見る目へと。絶対的に変わっていた。

 

 

「まぁそう戦闘態勢に入るなって。俺はお前の敵じゃない」

 

 

『虚無の槍使い』。

これは、裏世界で知れ渡っている名である。この名を知っているということは。レイ=テレストカを見て、その名を言えるということは。

 

 

つまり、『裏』の人間。

 

 

そういうことである。

 

 

「……証拠は?」

 

 

「んんー……」

 

 

すぐに答えられない時点で、レイの判断は決した。

 

 

刹那。

 

 

レイは一気に腰を屈め、右手を後ろへ引き、前へと向かって砂をかきあげた。すると、その手の中には何か大きな物体……いや、ブリューナク(武器)が握られていた。

 

 

「おうおうおう。やる気満々だなぁ……。いいだろう。じゃあちょっと腕試し程度に、やり合いますかぁっ!!!!」

 

 

気付くと、大柄な男の右手には自身の身長の二倍はあるであろうとてつもない質量の大剣が収まっている。つい、数秒前は無かったはずなのに。隠し持っていたわけでもない。どういう理屈かは分からないが、そこには今、確かに大剣がある。

 

 

 

 

「『新世紀の大剣使い(シュヴェールト)』だ。よろしくぅ」

 

 

 

 

人口太陽の真下、人口砂浜の上で、

 

 

二人は、激突した。

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