とある傭兵の虚ノ物語   作:狼少年

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episode1『レイ=テレストカ』

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七月二十六日。

 

 

学園都市に住まう学生達が夏休みに入ってから数日が経った。昼下がりの街中では、大人から子供までたくさんの人で溢れかえっている。それぞれがそれぞれの休日を謳歌していた。

 

 

「……、」

 

 

だが、公園のベンチで寝そべる彼は、そんな風には見えなかった。そもそも、この少年は学園都市の学生ではない。炭が燃え切った後のような灰色の髪を一つ結びにした、いわゆるポニーテールの髪型。雪のように真っ白な肌、藍色に輝く瞳、明らかに日本人ではないことが分かる整った顔立ちが特徴的である。そして、一本だけ縦に黒い線の入った白いTシャツにボロボロのジーンズという服装の彼は、非常につまらなそうな顔をしていた。

 

 

この少年の名はレイ=テレストカ。現在、十九歳にして様々な戦争に関わってきたフリーの傭兵である。魔術サイドの人間だが、結社などには所属していない。

 

 

今回、レイはこの街に住まうある男からの依頼を受けて三日前に学園都市にやってきた。だが、到着したのは良いものの、仕事がすぐに始まるわけではなかった。

 

 

下見がてら、この科学に満ち溢れた街を満喫してきていいよ。

 

 

と言われ、やむ負えなく辺りを回っていた。

 

 

「……飽きたぞ」

 

 

しかし、それから二日が経った。時刻は午前十◯時を過ぎようとしている。未だ依頼主からの連絡が来ない。レイはさすがに飽きたのか、ベンチに体を預けながらぼーっと空を眺めていた。すると、

 

 

「何をしているんですか?」

 

 

ひょこっ、と。レイの顔を少女が覗き込んだ。肩までかかった茶色の髪を携え、ダボダボの黒パーカーに赤色のミニスカートを身に纏う少女は、つんつんとレイの頬をつつく。

 

 

「……またお前か」

 

 

「まぁ、私はあなたの監視役兼案内役ですので、とミサ……っとっと」

 

 

この少女の名は、通称ナナシ。いや、第一〇七七四号機と呼んだ方が良いだろうか。それはともかく、ナナシは依頼人がレイのもとに送り込んだ妹達(シスターズ)の一人だ。彼女は依頼人によっていじられており、ミサカネットワークから切り離された独自のモノとして動いている。しかし、切り離されたといってもいつでもミサカネットワークには干渉出来る為、他の個体よりも突出した存在である。

 

 

「ほら。そんなところで寝そべってないで、今日も元気よく街を回りますよ。まだまだ紹介していない楽しい場所がたくさんあるのですから」

 

 

「……もう飽きたよ。疲れた。十分満喫した。もういい」

 

 

「ええー。もう飽きてしまったのですか?ミサカはとても悲しいです。今日はグルメ観光を予定していたのに。残念です」

 

 

はぁ、と寂しそうにため息をつくナナシ。パーカーのポケットから地図らしき紙を取り出すと、こことこことここはとてもオススメなんですけどねぇ、と小さく呟く。

 

 

「今日も私とデートする気はありませんかチラチラ」

 

 

「……ねぇよ」

 

 

あっけなくフラれてしまった。顔をぷくーっと膨らませると、ナナシはそっぽを向く。

 

 

「今日が最後の休暇だというのに……」

 

 

「……それは本当か?」

 

 

「ええ。遊楽(ゆうら)さんから伝言を預かっていますよ」

 

 

「……それを先に言えよ」

 

 

遊楽とは、依頼人の名前である。それを聞いたレイは、体を起こし首をゴキリと鳴らす。

 

 

「本日午後十一時に()()研究所へ来てくれ、とのことです」

 

 

「……ああ。()()()か。了解した」

 

 

「しっかり伝えましたからね。後はよろしくお願いします」

 

 

そう言い残し、ナナシは公園を去っていった。

 

 

「……ようやく仕事だ」

 

 

普段、無表情なレイが少しだけ口角を上げる。側に置いてある2mをゆうに超える黒いギターケースを担ごうとした時だった。

 

 

スタスタスタ、とさっきまでレイの顔を覗き込んでいた少女が凄い勢いで戻ってきた。

 

 

「言い忘れていました。……街の様子が少々妙です。そろそろ学園都市の『闇』が動き出しそうです。殺られないようにくれぐれも気を付けて下さい」

 

 

とても物騒なことを忠告し、今度こそ去って行った。

 

 

「……誰が殺されるかよ」

 

 

 

 

 

 

時は変わり。

辺りはすっかり暗くなり、空は黒一色に染まり、月が昇っていた。

 

 

廃校舎。

最近、能力者の暴走によって滅茶苦茶に破壊され、授業を受ける環境ではなくなってしまったために放置された元高校。何故、撤去されずに今もこうして残っているのか理由は分からないが、学園都市の上層部が関わっているということは確からしい。そんな校舎に、怪しい影が四つ。どうやら、ここを寝床にしている集団がいるらしかった。

 

 

「新しい隠れ家は雰囲気があっていいねぇ。廃校だってよ。学校だってよ!夜だからかテンションも上がるねぇ!」

 

 

薄暗い教室の中で、影の一人がケケケと笑う。

 

 

集団の名は『アクセル』。学園都市の『闇』。暗部の一つ。主に、学園都市の不穏分子や侵入者の相手をしている暗部である。平均年齢十七歳で、構成員は四名。皆が皆、殺気溢れる雰囲気を漏らしていた。

 

 

「おやっさんから仕事の依頼が入ったよん。()()もどーやら外部の人間が入り込んだらしい。だーれが行く??」

 

 

眼帯をした少年がウキウキとした声で他の三人に問う。

 

 

「なら、俺が行こう」

 

 

真っ先に手を挙げたのは、身長190cmを超える男だった。

 

 

「お! 明島(あけしま)かぁ!さて、異論はあるかーい?」

 

 

残った二人は首を横に降る。

 

 

「うん!僕も異論はないよん。んじゃ、明島!よろしくぅ!」

 

 

明島と呼ばれる男は、そのまま教室を後にした。明島が消えたのを確認すると、眼帯の少年が意気揚々と声あげる。

 

 

「さぁ、残った皆さん。またまたこの時間がやってまいりましたっ!!明島は生きて帰ってくるか!?それとも、死体として帰ってくるか!?仲間の生き死にを賭けた、たっ、のしっ、いっ、ゲーーーームッ!!!!」

 

 

「……いつも思うが、趣味悪すぎ」

 

 

「私も同感」

 

 

「いーじゃんいーじゃん!なんとね、今回は結構賭ける価値のあるゲームだよん……っ!!」

 

 

嫌な笑みを浮かべる眼帯の少年。

 

 

「どういう意味?」

 

 

「あの明島が……負けるかもしれないってこと」

 

 

「まさか。こっち側にいるくせして()()()()も詳しいあいつが負けるとは思えないけど?」

 

 

 

「こっち側とか、あっち側の話うんぬんじゃなくて……もっと……ね」

 

 

 

 

3

 

 

午後十◯時頃。

 

 

「……、」

 

 

レイはナナシの伝言通り、とある研究所へと向かって歩いていた。まだ完全に学園都市内を把握出来ていないため、自分が今どの学区にいて研究所がどの学区にあるのかさえ分かっていない。ただ、二日前に訪れた時に魔術的な目印を付けてきた為、それを目安に今は研究所へと歩を進めている。

 

 

「……ここは施設ばかりだな」

 

 

見渡す限り、大きな建造物が立て続けに並んでいる。そして、人気が全くといって感じられない。このことから、ここが工業区であるということは何となく察しがついた。

 

 

刹那。

 

 

レイはその場で勢いよく跳躍する。 次の瞬間、

 

 

ドゴンッッ!!!!

 

 

と、さっきまでいた場所のコンクリートが大きく削り取られ、半円球の穴があいた。レイは着地と同時に走り出す。それを追うようにして穴がベコベコとあいていく。

 

 

「……ちっ」

 

 

舌を鳴らすと、施設と施設のわずかな隙間に入り込み、壁と壁とを蹴って伝い、屋上まで飛び上がる。まるで、忍者のように。

 

 

「よくもまぁ。衝撃波(ショックウェーブ)をかわせたもんだ」

 

 

「……能力者か」

 

 

ナナシの嫌な予感が見事に的中してしまった。忠告されたその日に、早速暗部が動き出した。

身長190cmを超える男は、暗闇の中からのっそりと姿を現わす。全身黒い作業着に、目が隠れるほどに伸びた髪。『黒』という字がよく似合う男は、レイの眼をじーっと見つめる。

 

 

「お前、()()()側だな?」

 

 

「……言いたいことは分かる。魔術サイドか、科学サイドか、の話だろ」

 

 

「そういうことだ。俺らは学園都市に侵入したネズミを始末する集団。だが、ただのネズミを狩るのではない。基本的には科学とは違うサイドの人間を相手にするのが、暗部『アクセル』。その中でも俺が一番秀でている」

 

 

「……なるほど。なら話が早い」

 

 

レイは背負っていた2mはあるであろう黒いギターケースを下ろすと、端からチャックをジジジと開けていく。

 

 

そこから出てきたのは、全長1.5mほどの大きな槍だった。

 

 

「……ウズウズしてた。戦いはまだか、ってな」

 

 

その槍を軽々しく手に取ると、それを肩に担ぐ。

 

 

「……始めようぜ、能力者」

 

 

4

 

 

聖槍ブリューナク。

1mにも及ぶ長い柄で、穂は五つに分かれており、切っ先は矢印の形をしている。全体的に黄色をベースにしているが、使い古されているのか、所々の塗装が取れかかっているのが見えた。

 

 

『貫くもの』、そういう意味あいを持った太陽神ルーが使用したとされる伝説の槍。それは、『必ず勝利をもたらす』とも『投げれば必ず相手に当たる』などとも言われている槍であった。

 

 

「……ッッ!!」

 

 

真っ直ぐに敵を見据えて、レイは走り出す。対する明島は軽く手を払う。すると、一瞬だけ空気が震え、次の瞬間には足場が削り取られていた。

 

 

それをなんなくかわし、ブリューナクの攻撃範囲に明島を捉えた所で、横薙ぎに槍を振るう。

 

 

矛先が身体に触れる寸前で、槍の動きが止まった。

 

 

静動操作(ヴィブロスキル)はこういうことにも使える」

 

 

カタカタカタカタと。ブリューナクが振動していた。

 

 

「……勢いを殺したか」

 

 

レイはバッ、と後方へ飛び着地すると、槍を持つ右腕を大きく引き、全身を使って明島の方へ投げる。

 

 

「無駄だ」

 

 

案の定、彼の身体を貫く前に槍は弾き飛ばされ、七階建て施設の屋上から落ちていった。

それに見向きもせず、また明島に向かって突撃していく。

 

 

「武器を捨てて肉弾戦か。いいだろう。受けて立つ」

 

 

レイは拳を握り締め、顔面へと腕を伸ばす。だが、風船にも似た破裂音と共に弾かれ、腹部に蹴りをかまされる。しかし、レイは倒れずすかさず体勢を立て直し、足払いをかけた。

 

 

「なにっ!?」

 

 

思わず尻餅をついた明島に、すねを蹴り飛ばして追撃をする。彼は痛みの衝撃か、地面をのたうち回る。

 

 

「っぐがぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

「……能力頼りのヤンキースタイルか。体術の『た』の字もない」

 

 

感情の一切のこもらない声で言った。

 

 

「侮辱しやがって……!!てめぇには武器はないが、俺には能力っていう武器があんだよっ!!!!これがある限り()()()人間に負けるわけがねぇんだよぉ!!」

 

 

……ふっ、と。鼻で笑う。

 

 

 

 

「……俺を()()()人間と認識した時点で、お前の敗北は確定した」

 

 

 

 

グジュリッ!!!!

肉が抉られる凄まじい音が耳に届く。そして、赤黒い何かが飛び散った。

 

 

「……へ?」

 

 

バタン。明島はバランスを崩し、その場で倒れこむ。下半身の、右足の感覚が無かった。いや、痛みが遅れてやってきた。

 

 

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!??????」

 

 

無かった。そこにあるべき部位が、無くなっていた。少し先に、さっきまで自分の物だった肉塊が無残に散らばっていた。

 

 

「……武器がない?へぇ。じゃあ今俺の手に収まっている物は何だろうな」

 

 

視界の先に立つ少年の手には、つい先ほど下へ落としたはずの槍が握られていた。ここは七階建て施設の屋上だ。この一瞬で取って戻ってきたとは考えにくい。

 

 

「……その能力が働くのは上半身のみ。下半身は無防備なんだろ?」

 

 

驚愕した。こんな短時間で弱点を見破られたのは初めてだった。

 

 

 

 

「……貫かせてもらった」

 

 

 

 

ゆっくりと、レイが明島に近づいていく。目の前に来たところで、歩みを止め、ブリューナクを心臓の位置に向ける。

 

 

「まだだ……っ!!まだ……殺れる……ぅっ!!」

 

 

「……残念だ能力者。学園都市での初陣は……あっけなく終わってしまった」

 

 

ぶぢゅり、と。真っ赤な液体とともに、長身の男の命は散っていった。

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