1
蛍光灯の灯りに照らされる中性的な顔立ちをした少年。頰に飛び散った赤黒い液体を手で拭い、彼はその場から歩き始める。
「……こんなものか」
感情の一切を感じない一言を告げ、
傭兵。
利害関係の無い戦争に金で雇われ参加する兵や、集団のことを指す。
レイもその一人である。
村や町同士の小さい争いから、国家レベルの争いまで、彼はありとあらゆる戦争に参加してきた。
それに彼は、ただの傭兵ではない。
魔術を駆使する傭兵である。まず、ただの人間では彼には勝てない。そして、なんといっても、年齢が若い。身体的にも魔術的にもまだ伸び代があるのだ。裏を返せば、経験が少ないと捉えられるかもしれないが、それを覆す程の戦争をこなし、生きて帰ってきている。
ただ者ではない。
『
2
とある研究所。
「やあやあやあよく来てくれました我が研究所に!ささ、今お茶を用意させるからお座りになさって」
あの戦闘から数分後、レイは目的である木原遊楽の研究所に着いた。
「……いやぁ!大変だったね!どうだった?学園都市の能力者は?」
目の前の男は、たった数分前に起こった出来事について少年に感想を聞いた。
「……情報が回るのが早すぎるだろ。さてはお前、見ていたな?」
部屋の休憩スペースにあるソファに腰をかけながらレイは遊楽を睨みつける。
「ノーコメントで」
彼の作り笑いは、故意に人をイラつかせるものだった。
「ま、あの様子だと楽々ー、って感じだったね。良かった良かった。せっかくこれから仕事が始まるというのにいきなり死なれちゃ困るからねぇ」
「……俺をそこらへんの雑魚と同じ扱いをするな」
「雑魚だなんて思ってないさぁ。そんなこと思ってたら初めから君に依頼なんかしてないさ」
「……あぁそうかい」
掴み所のないこの男の喋り方が、レイは苦手であった。
察しの通り、
ざっくりとこんな感じだが、やはり引っかかるのは『木原』という点である。
レイは学園都市を訪ずれる前に様々な調査を行った。その調査の中でも一番気になったのは『木原一族』の存在だ。『木原一族』の裏の文献には悍ましい悪行しか記されていなかった。
そして、今回の依頼人の名も『木原』。怪しい臭いは言うまでもなくしていたが、レイは一度受けた依頼は絶対に放棄しない。強い信念を持って仕事をこなすレイに、依頼を断念することなど出来るわけがなかった。
「だいぶ遅くなってしまったけど、今回の依頼内容を伝えよう」
遊楽は、片手に収まる程度のタブレット端末を白衣の裾から取り出すと、画面を指でピコピコとタッチし始める。そしてある画像が出てきた所で、タブレットをレイに手渡した。
そこに写っていたのは、
美しくなびく金色の髪を携え、
宝石のように輝くエメラルドの瞳を持った、
まるで絵本の中に出てくるお姫様のような、
一人の少女だった。
3
見た目は八歳前後であろうか。まだ幼いというのにも関わらず、どこか色っぽく、妖艶な雰囲気を醸し出す画像の中の少女。画像だけでここまで伝わってくるぐらいなのだから本物はどんなものなのか、と考えてしまうぐらいに。とにかく、一言で表すなら、
『美しい』
という言葉が相応しいだろう。
「……おい。まさかこの女の子を拐えとか言うんじゃないだろうな?」
あの『木原』ならやりかねない。
「まさか。そんな訳ないだろう。残念ながら、私はロリコンではない」
何が残念なのかサッパリ分からなかったが、レイは一先ず安心した。
「今回君に依頼したいのは、この少女の護衛だ」
「……はい?」
「少女の護衛、って言ったんだよ私は」
聞き間違いではなかったらしい。
「……何で俺なんだ。護衛任務ならもっと他に当てがあったはずだ。たくさんの能力者のいる学園都なら適任者の一人や二人、そういう企業や組織がわんさかあると思うんだが」
確かにそうかもしれないね、と言葉を吐くと白衣の研究者は、部屋の奥の大画面モニターが壁にいくつも並ぶ方へと向かい、無造作に置いてあった座椅子に座り込む。
「君も知っているかもしれないが、私はあの『木原一族』の一人だ。死んでも腐っても研究研究研究……の、研究大好き狂った連中の一員なんだ。……まぁ、今言ったことが関係ある訳じゃないんだけど!私は学園都市の奴等を信用していない。どこで情報が漏れるか分かったもんじゃない。だから、学園都市に直接的にも間接的にも関わっていない君に、白羽の矢をたてたわけだ!」
「……どこで俺のことを知ったんだ?」
「『裏世界の七人』。私の中では結構有名なんだぞ?」
その名を聞いて、レイは苦笑いをする。
「……まさか学園都市の奴にも知れ渡っていたとは。俺も有名になったもんだ」
「最強の傭兵『虚無の槍使い』さんよ、君が降りたいって言うのなら、今だったら依頼を取り消し可能だ」
「……、」
「さあ、どうする?」
今更聞かれたって、彼の中に答えは最初から一つしかない。
「……一度引き受けた依頼は取り消さない。あぁ、護ってやるよその少女」
そういうと思った、と言わんばかりの笑みを浮かべ、遊楽はレイの側へ行き、握手を求める。
「……よろしく頼むよ、傭兵さん」
差し伸べられた手を勢い良く掴み、彼は答える。
「……任せとけ」
それは、感情の一切を感じさせない声色だった。