1
七月二十八日、朝。
酷い音が聴こえてきた。耳の穴を突き刺すような雑音。その音は工事現場を想像させた。
「グガガガガガガァ……グガガガガガガガァ……」
……。
人間だ。
これは人間が発している音だ。
いや、人間と決めつけるのはまだ早い。
もしかしたら、怪獣なのかもしれない。
少年はゆっくり目を開ける。
そこに写ったのは、朝の日差しに照らされ輝く金色の髪。自然とカールを描く長いまつ毛。雪のように透き通った白い肌。
この美少女を、少年は知っている。
名は、クレハ=トリオール。
少年の護衛対象だった。
「……ってお前かよ」
騒音の正体は明白だった。口を大きく開けてイビキをかく少女がソファに寝転んでいる。
周りを見渡すと、あたり一面本棚だらけ。テレビやパソコン、ソファにイスに机と、どれも綺麗に並べられていて、持ち主がどれだけ綺麗好きなのかが目に見えた。
「……そうか。あれから遊楽の研究所の一室で……」
燃えきった後の炭のような髪の色をした少年は、腰掛けていた座椅子から起き上がる。
前日、孤児院から去った後、真っ直ぐ研究所には帰った。帰ったまではいいが、クレハがなかなか寝付かず、ナナシとレイはその時が来るまで遊びに付き合わされたのだ。クレハが寝落ちた直後にナナシも即死。レイも慣れない子守りに疲弊仕切っていたが、すぐには寝ず、ブリューナクの手入れをした後、就寝した。
「……にしても、全く、とんでもないイビキだな……。相当疲れたのか」
未だに騒音を響かせるクレハ。
と、ここでレイは気付く。
……あれ。
確か、ナナシもここで一緒にいたはずだ。
ヤツはどこへ行ったんだ?
その時だった。
バンっ!!!!
と。
部屋の扉が勢いよく開いた。
「……ハァハァ」
噂をすればなんとやら。扉を開けたのは、焦った表情をしたナナシだった。
「……どうした。そんな顔して」
「た、大変です……!!クレハが……クレハが……!!」
「……クレハならそこに……」
「クレハの孤児院が襲撃されました……っ!!」
レイの顔が、わずかに歪んだ。
2
時はさかのぼり、七月二十八日、深夜。
廃校舎。
「あーあーあー。やっちゃったやっちゃった」
何個も積み上げられた使い古された机の上に座る暗部『アクセル』のリーダー、赤傘はニタニタしていた。
「関係ない人間巻き込んじゃったよぉ、これ上から絶対に怒られるってぇー」
言動の割には、どこか楽しんでいる雰囲気を醸し出す赤傘。
「あいつだって、関係の無い明島を殺した。あいつと同じ事をしてやっただけだ」
憎しみに歪む音恋の顔が赤傘の目にちらつく。
音恋は七月二十七日の丸一日、レイの事を監視していた。学園都市に存在するありとあらゆるカメラを暗部の力で利用して。モニター越しで監視し、レイにどう復讐を果たそうか思考錯誤
していた。
第一に考えたのは、あの茶髪の少女の排除。
見ている限りでは一番関わりが深そうだったから。
だが、あれは確か噂に聞く『
第二に、金髪少女の抹殺。
様子から察するに、今日初めて会ったのだろう。……どうやら孤児院から引き取るらしい。なら、ほぼ家族も同然。殺した時の悲しみは考えるまでもない。
嫌だがよく考えろ。今日会って、今日から家族になるのだ。……悲しみはあるはずだが、それは大きいものなのか?その程度の復讐でいいのか?
……結果、不採用。
そして、辿りついた先が。
孤児院襲撃。
あえて無関係の人間を殺すことによって、『自分と関わった者を巻き込んでしまった』という罪の意識を持たせる事が丁度いいと考えた。きっと今までもたくさんの人間を殺してきたのだろう。ここで一つ、自分の罪の重さを感じ取ってもらおう。
だが、それだけでは足りない。
そうだな。
あぁ、そうだな。そうだよな。
全部殺っちまえ。