とある傭兵の虚ノ物語   作:狼少年

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episode5『二人の考え』

1

 

 

今に戻り、

場所は前日訪れた孤児院。

 

 

そこにはたくさんの野次馬と、それを抑える為の警備員(アンチスキル)がはびこっていた。

 

 

「はーいはいはい!中は現場検証の為封鎖していまーす!」

 

 

孤児院の門に立つ警備員が、何だ何だと駆けつけてきた学生をせき止める。そんな学生達の山をかき分け、レイとナナシは警備員の元へ進む。

 

 

「なになに君達?こっから先は立ち入り禁sh」

 

 

「……っ」

 

 

ギリッ、と。レイの鋭い眼光がまだ若い警備員の眼を貫く。あまりの迫力に一歩引き下がる警備員。そこへ、門にいたもう一人の警備員がこちらへとやってくる。レイ達を一瞬だけ目に捉え、若い警備員に耳元で囁く。

 

 

「被害者は二名。どちらもここで働く女性らしい。検定結果、どちらも即死らしいぞ」

 

 

こそこそと言った

 

 

『つもり』だった。

 

 

後ろにいたナナシには聞こえていない。

だが、レイにはハッキリと聞こえた。

彼等の話している内容が。

 

 

スッと警備員に背中を向け、その場から去る。その背中を追うようにしてナナシも動き出す。

 

 

「どうしたんですか!?何か聞こえたんですか!?」

 

 

レイの腕を掴む。

ピタリと止まる。

 

 

「……昨日いた二人、どちらも死んだとさ」

 

 

想定はしていた。だが、口で改めて言われるとまた何か来るものがある。

 

 

「酷い……っ!!どうして!?どうしてあの人達が死ななきゃいけないんですかっっ!!??」

 

 

ナナシはその場で崩れ落ちた。その頬には、自然と雫が流れ落ちている。

 

 

「……、」

 

 

こんな経験、慣れている。

慣れているが、辛くない訳ではない。

いつもは感情を見せないが、彼だって人間だ。

押し殺しても、殺しきれない思いだってある。

 

 

(……俺が関わった事で、死んだやつなんて山ほどいた。また……被害者を出してしまった)

 

 

仕事柄上、恨みはとても買いやすい。

だが、その恨みは新たな恨みを産む。

こうやって連鎖は止まらなくなる。

一度その輪に入ってしまうと、死ぬまで抜けられないのが運命だ。

だから、誰かが断ち切らなくてはいけない。

彼だってそうしたい。

そうしたい。

 

 

それでも。

許せるものか。

この連鎖の仕組みを彼は分かっている。

誰かが止めればそこで終わる。

自分が仕事を辞めれば、もしくは死ねば、この輪は終わる。

 

 

分かっているが、許さない。

 

 

レイは善人ではない。

彼は傭兵。

結局、自分がすべての男だ。

 

 

だから、彼は拳を握り締める。

 

 

「……覚悟しとけ、暗部とやら」

 

 

ナナシは見つめる、そんな彼の姿を。

 

 

「……傭兵を怒らせるとどうなるのか教えてやる」

 

 

2

 

 

時は経ち、七月二十八日、昼。

木原遊楽の研究室。

 

 

「おかえりぃぃぃいいい!!二人共どこ行ってたのーー??」

 

 

レイとナナシが研究所に帰ると、暖かいお迎えが待っていた。だが、蔓延の笑みでやってきた

クレハに対して、ナナシは引きつった苦い笑顔しか返せない。

 

 

「ちょっとお散歩に行ってたの」

 

 

正直に言えなかった。

隣にいるレイは、いつも通りの無表情。しかし、どこかいつもとは雰囲気が違う。毎日笑顔で聞く「ただいま!」が、突然として感情の無い「ただいま」に変わるような、そんな違い。

 

 

「ねぇー!どこにお散歩行ってたの!二人だけでずるい!」

 

 

「だってクレハ寝てるんだもん」

 

 

「ぶぅー!」

 

 

顔を膨らませると、二人に背中を向けて研究所の奥へと走っていってしまった。一度は手を伸ばすも、追いかける気分にはなれず、その手はゆっくりと、地面へと向かい下がる。

 

 

「奥には遊楽さんがいるはずです……」

 

 

「……、」

 

 

レイは、一言も言葉を紡がなかった。

 

 

3

 

 

レイが寝泊まりした部屋に戻ってからも、レイは喋らなかった。大きいソファに腰をかけ、腕を組みながら、いつもの通り無表情で、部屋にある四角い窓を見つめていた。

ただごとではない様子のレイを、少し離れた所でナナシは気にかけている。

 

 

(レイさんは何を考えているのだろう……。それとクレハになんて伝えれば……)

 

 

それだけがナナシの頭をグルグル回っていた。彼がこれからする行動はあらかた予測できる。

 

 

きっと、復讐するに違いない。

 

そうに決まっている。

 

 

多分、これが初めてじゃない。

彼は何度もこういった経験をしてきているのだろう。

だから、あんなにも冷静でいられるんだ。

本当は何考えているのかなんて分からない。

人間、自分以外の人間の真の感情なんてわかりっこない。

あんな顔して、実は「今日の晩御飯何食べようかな」ぐらいの事しか考えていないのかもしれない。

 

 

知りたい。

彼の事をもっと知りたい。

 

 

初めて会った時から、彼から惹き付けられるものがあった。

あの独特な、不思議な、雰囲気。

 

 

あの人に……触れたい。

 

 

自分の手が、あと数センチで彼に触れる。

気づいたら、その位置にまで移動していた。

彼は気づいていない。

その灰色の髪に。

その透き通った肌に。

指が。

 

 

バンッ!!

 

 

唐突に。

部屋のドアが開いた。

 

 

「あらナナシ。お邪魔しちゃった?」

 

 

足で蹴ってドアを開けたのは、白衣に身を包んだ体の細い研究者だった。そんな彼の目に映るのは、四つん這いになったナナシがレイの身体に手を伸ばそうとしているという、何かが始まりそうなキュンキュンシーン。

ナナシのやっちまった感が半端ではない顔も、とても笑える。

 

 

「ま、いいや」

 

 

(あ……いいのね)

 

 

「そんなことより、クレハ知らない?」

 

 

「え?クレハ、遊楽さんのとこに居たんじゃ……」

 

 

「私が最後に見たのは、君達のお出迎えに行った所だよ」

 

 

「……え」

 

 

「研究所のどこ探してもいないんだよ。だからここならいると思ったんだけど……どこ行ったんだ」

 

 

ひんやりとした汗が背中を伝うのが分かった。

もしや……これは。

 

 

「脱走……した!?」

 

 

レイは軽く舌打ちをすると、すぐ横に置いてある約2mの真っ黒なギターケースを担ぎ研究室を颯爽と飛び出した。

 

 

「待ってくださいレイさん!私も行きます!」

 

 

ナナシも後に続いて研究所を出ていった。

 

 

 

「……頑張ってくれよ、傭兵さん」

 

 

 

 

フフフ、と。

研究者の顔に、嫌な笑みが浮かんだ。

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