とある傭兵の虚ノ物語   作:狼少年

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episode7『太陽と少年』

1

 

 

廃工場。

 

 

「ふぅ。五月蝿いガキだよ全く」

 

 

暗部『アクセル』の構成員である音恋は、学園都市に無数に存在する廃工場の一角にいた。まだ昼だというのにも関わらず、中はジメジメと暗く、とても薄気味悪い。

そんな中、金髪の美少女は硬いコンクリートの上で寝そべっていた。手足を縛られ、口にはガムテープを貼られ、まるでミノムシの様な醜い姿に成り果てている。つい数分前までは口封じをしても暴れた為、音恋は何発か腹を殴り、意識不明の状態に陥らせた。

 

 

「にしても可愛いお嬢ちゃんだよな。壊すのがとても勿体ない」

 

 

髪を撫で、目を撫で、頬を撫で、顎を撫でる。しなやかな顔の曲線がとても美しい。少女幼女には興味は無いのだが、そんな類のものから彼女は逸脱している。本当に、大人の女性のそれに近かった。

 

 

「綺麗だから、壊す価値があるのかもね」

 

 

乾いた唇を舌で濡らす。

早く……手にかけたい。

だが、まだ早い。あの男の前でヤってやるんだ。あいつの絶望する姿が見たいんだ。目の前で……目の前で壊れていく姿をゆっくりと見せてやる。

 

 

「にしても。奴はやってくるのだろうか。奴にはここを探し出す手段があるのだろうか」

 

 

まだ、誘拐された事にすら気づいていないのでは?

そんな可能性が浮上してくるが、さして気にしてはいなかった。

夕日が沈むまでにここに来なかったら、普通にやってやろう。そして人間じゃなくなった肉塊はそこらに放置しよう。それはそれでダメージが大きいだろう。

 

 

間に合わなかった。

 

 

ってね。

そん時はそん時。

 

 

ニタリニタリと。

奇怪な笑みを浮かべいる時だった。

 

 

 

 

何かの……気配を感じた。

 

 

何か……来る!?

 

 

一瞬だった。

 

 

 

 

ギュゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

 

 

と。

凄まじい轟音が鳴り響く。それと共に、とてつもないスピードでレーザーの様な五つの光が飛び出す。

その光は廃工場の入口から音恋の体まで一直線に向かってきた。

 

 

間一髪。

音恋はその場にしゃがみ込むことによってそのレーザーを回避する。

 

 

「なんだ……今のは!?」

 

 

後ろの壁に五つの穴が空いているのが確認できた。

 

 

ギギギ……。

 

 

錆びた扉が嫌な音を出して開いていくと共に、薄暗い工場に外の光が差し込む。そこに現れる影が一つ。細い体と、大きな槍のシルエットが段々と浮かび上がる。

 

 

「ずいぶんと早かったな……」

 

 

灰色の髪を風になびかせながら、彼はやって来た。

 

 

 

 

2

 

 

 

 

「……、」

 

 

いつも通り、レイの顔からは感情が伺えない。だがこの場合は、『怒っている』と言っても間違いにはならないのだろう。

 

 

「よくここが分かったな。しかも、こんなにも早く」

 

 

「……魔術師をなめるなよ」

 

 

後光煌めく少年は、ブリューナクと呼ばれる槍の矛先を音恋に向ける。

 

 

そして。

 

 

「……ふき飛べ」

 

 

それが合図だった。

槍の五つの穂が突如として輝きだす。数秒後、光のレーザーが発射された。五つの穂から放たれる、五つのレーザー。ブリューナクの攻撃手段の一つである。

 

 

「さっきのはこれだったのね!!」

 

 

その攻撃を、横へとステップしてなんなく交わす音恋。着地後、そこから走り出し、レイとの距離を詰めていく。右手にはいつの間か、約30cm程のサバイバルナイフが握られていた。

対してレイも、太陽の光を利用して繰り出すレーザー攻撃を止め、槍術で立ち向かう。

 

 

レイと音恋が接触した。

 

 

軽いナイフを何回も何回も振り回す。それを槍で弾いて防ぐ。

 

 

(……こいつ隙がない)

 

 

どちらかというと、音恋の方が押しているように見えた。

 

 

「えぇーこんなもんなの?明島はこんなのに負けたの?嘘でしょ。もっと本気出してよ。ねぇ。ねぇ。ねぇっ!?」

 

 

一回一回が、重い。

想い。思い。重い。

 

 

このままじゃ手数で負かされる。

そう感じたレイは、一度後方へ飛び距離をあけた。

 

 

「あんた、魔術師……だっけ?確か、学園都市と相反する存在……?明島が何かとそっちには詳しかったな。でも、僕は興味無いから何にも話聞いてなかったけど。それでも、異質な存在だって認識はあるよ。それだけ。だからさ。見せてよ!もっと!科学で証明出来ない現象を!僕にっ!!」

 

 

「……、」

 

 

「うーんなるほど。睨みつけるだけ、か。じゃあ……」

 

 

スッ、と音恋の姿が視界から消える。

 

 

「ほーら。これならどう?」

 

 

再び彼が現れた時には、ナイフを手にしていない左手に何かを抱えていた。身体を紐で縛られ、口をテープで塞がれ、ぐったりとしている少女の姿がそこにはあった。

 

 

「さぁ。どうする?」

 

 

音恋はその少女の首元にナイフを押し付ける。

 

 

「……めろ」

 

 

「ん?聞こえna」

 

 

「やめろって言ってんだよォォッ!!」

 

 

まるでロケットの発射かのように勢いよく飛び出したレイ。ブリューナクを後ろへ振りかぶり、音恋に向かって思いっきり振り下ろした。今度も、それを横にステップする事で軽く回避する。

 

 

ドゴオオオオオオオオン!!

 

 

音恋のいた場所は槍が突き刺さった瞬間、丸い穴が開くように爆散した。

 

 

「おおー怖い怖い。……ふふ、予定変更だ。こいつは後でじっくりやろう。まずは……お前を殺る!!」

 

 

音恋の心は、高揚感に満ちていた。

そうだ。こんな面倒な事をしないで、初めから殺しにかかっていれば良かったんだ……ッ!!

 

 

レイには、別な意味で惹き付ける雰囲気でもあるのだろうか。

 

 

きっと、明島もそうだったんだろう。慎重に行動しようとしたのだろう。だが、こいつを見て、たぎってしまったんだ。

 

 

心の内の殺戮衝動が。

 

 

音恋は抱えていたクレハをまるでゴミでも捨てるかのように放り投げ、

 

 

「殺り合おうぜ、槍使いぃぃ!!」

 

 

バッと、音恋は自身の衣服である長袖長ズボンを脱ぎ捨てる。というよりか、破り捨てた。元々破けやすい素材で出来ていたのだろう。露出したのは地肌ではなく……ピッタリと肌に張り付いた全身真っ黒なライダースーツだった。全部が全部真っ黒なわけではなく、肩から脚にかけて細長い紫色の線が一つずつ入っているという、不気味さを感じさせるデザインである。

 

 

「あー。やっぱこっちの方が開放感があっていいね。さあて、ちょっと本気でいくよ」

 

 

ライダースーツ型身体能力強化駆動鎧(パワードスーツ)

彼の装着しているスーツの名前である。その名の通り、身体能力を飛躍的に向上させる駆動鎧の一種で、彼はこれを普段から装着していた。

 

 

「……さあさあこの姿を見せたからには、あんたも全力出してくれよ?」

 

 

気づいた時には、その声は耳元から囁くように聞こえた。

 

刹那。

 

レイの身体は宙を浮き、廃工場の壁に向かって吹き飛ばされる。

蹴り飛ばされたという事実だけを認識し、そのまま壁へと叩きつけられた。

 

 

「さぁらぁにぃ!?」

 

 

続けて、音恋のドロップキックが炸裂する。あまりの衝動に壁が突き破れ、二人は廃工場の外へ飛び出した。

コンクリートの地面に転げ落ちたレイは、ブリューナクを杖にして立ち上がる。

……いや、()()()()()()とした。

 

 

だが、

 

 

バアアアアアアン!!

 

 

脳天へのかかと落としによって、今度は地面に沈められた。

 

 

「あひゃ!あひゃひゃ!!おらおらおらおらおらぁっ!!」

 

 

ぐりぐりと顔を埋められるレイ。

これが駆動鎧。学園都市の技術力。()()()()()を、何度も死地を潜り抜けてきた傭兵以上の身体能力にまで引き上げることなど、造作もないことなのだろう。

 

 

 

 

「レイさんっ!!」

 

 

 

 

少女の声が耳に届いた。

最近よく聞く、少女の声が。

 

 

「なあんでこの場所すぐ分かっちゃうのかなあ……。あ、そういえば君は『妹達』とかいうやつだったっけ。そんでミサカネットワークだかなんだか……。まあいいや。君一人が来た所で状況は何一つ変わらないさ」

 

 

黒パーカーに身を包む茶髪の少女は、身を震わせながら音恋を捉える。

 

 

「私だって戦える……と、ミサカは虚勢を……っぐ!?」

 

 

思わず、自身の感情が吐露してしまう。

 

 

「ほーう。なんか君は邪魔してきそうだから先ni」

 

 

ギチっ、と。レイは音恋の足を掴み、

 

 

 

 

「それ以上手を出すな」

 

 

 

 

身体を薙ぎ払った。

 

 

「おおっと、やっと反撃開始かい?」

 

 

ブリューナクを杖に今度こそ立ち上がるレイ。

 

 

「……あぁ。俺はお前の事を侮っていたようだ」

 

 

真っ直ぐと己の敵を見つめ、槍の穂先を地面へ突き刺す。

 

 

「……ナナシ、そこで見てろ」

 

 

「レイさん……?」

 

 

「……お前を巻き込みたくはない」

 

 

「……、」

 

 

「……頼む」

 

 

「分かりました。でも、無茶だけはしないでくださいね」

 

 

ナナシに背を向け語っていたレイは、最後に振り返り、

 

 

 

 

「……ありがと」

 

 

 

 

優しい笑みを見せた。

それは、ナナシを安心させる為の作り笑いだったのかもしれない。例え作り笑いだとしても、こんなにも柔らかい表情をした彼は初めて見た。

そして、その笑顔は確かに少女の心を落ち着かせた。

 

 

「女の子との楽しい楽しいお話は終わったかい?」

 

 

「……まさか、学園都市(ここ)()()を使うとは思わなかった」

 

 

「なんだい?奥の手かなんかかい?。やっぱ持ってんじゃん。さあ早く僕に見せてくれよ!!」

 

 

レイは一度、空を見上げる。

雲一つ無い晴れ模様。

太陽の光がサンサンと降り注ぐ。

 

 

 

 

「『……よこせ。太陽(お前)能力(チカラ)』!!」

 

 

 

 

カッ!!!!と。

少年の姿が光り輝き始める。

眩い光が彼を覆いつくしていく。

 

 

そして。

 

 

「すごいな……!!」

 

 

メラメラと。

キラキラと。

レイの姿が変貌した。

今にも燃え上がりそうなその姿は、『太陽の化身』と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

 

「……いくぞ、下衆野郎」

 

 

 

 

太陽のように真っ赤。

光のように真っ白。

 

 

どちらとも捉えることが出来る()()()()は、地面に刺したブリューナクを抜き取り、動き出す。

 

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