真っ直ぐで歪んで赤くて黒い恋愛感情   作:最下

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前編

 

今日の小町もとっても不機嫌、理由は単純でお兄ちゃんが余所見ばっかりするから。小中高一の間いつも早く帰ってきてくれて小町に構ってくれたお兄ちゃんは高校二年生になったときに変わってしまった。平塚先生に奉仕部って言う酷い部活に入れられたせい、でもお兄ちゃんならすぐ辞めて小町といてくれると思ったのに……。

 

 

「たでーまー」

「おかえりー! ご飯にする? 小町にする?それとも……」

「何で風呂より先にお前が出ちゃうんだよ」

 

 

アホって続けながら小町の頭に当てるだけのチョップを落とす、ただそれだけのスキンシップでも小町は十分嬉しい。さっきまでの不機嫌がふっとんじゃったみたい。

 

 

「今日は遅かったね」

「ああ、戸塚と少し遊んだきた。いいだろ」

「はいはい、そうですねー」

 

 

飛んでった不機嫌が戻って来ちゃった。戸塚さんもお兄ちゃんを盗る人、もしかしたら小町より愛されてるかも、ズルい。確かにかわいい人だけど、小町は絶対に認めない。

 

 

「三年生になったら奉仕部って無くなっちゃうの?」

「どうだろうな、受け身な部活だし引退とかはないだろ、多分」

 

 

素直になれない自分がもどかしい、さっさと無くなってほしいのに、まるで気遣っているみたいにいっちゃう。奉仕部なんて無くなればいいのに。

 

 

「そっか、よかったね」

「そうだな」

 

 

違う、違うのに。小町は奉仕部が残って良いことなんて何も無いのに、お兄ちゃんがそんな嬉しそうな顔してたら否定なんて出来ないよ……。

 

 

「どうした? 顔色悪いぞ?」

「っ! 小町お部屋戻る! ご飯はできてるから!」

「あっ、おい!」

 

 

これ以上一緒にいたら表にしちゃいけない感情が出てきちゃいそう、これが出てきたらお兄ちゃんに嫌われるかもしれない、だからずっとずっと隠してきた、自制して押し込めて脅して閉じ込めて。嫌われたくないから怖いから見られたくないから。ずっとずっと。

 

 

「……嫌だ」

 

 

お兄ちゃんが小町以外のものになるのは絶対嫌だ、例えお兄ちゃんが望んでいることでも嫌だ、お兄ちゃんの幸せを素直に祈れない自分が嫌だ、自分の思いを押し込め続ける自分が嫌だ。

 

 

「……嫌い」

 

 

小町を見てくれないお兄ちゃんが、お兄ちゃんを変えた奉仕部が、お兄ちゃんに近づくあの二人が、お兄ちゃんに愛でられる戸塚さんが、嫌い、嫌い嫌い、

 

皆 大嫌い。

 

 

  *  *  *

 

 

空が明るくなってきて目を覚ます、昨日はお兄ちゃんから逃げるように自分の部屋に駆け込んで寝てしまった。眠りにつく前になにか考えてたと思うんだけど、思い出そうとすると気だるさが襲ってくる。

 

 

「……ご飯の準備しなきゃ」

 

 

ふらふらとした足を無理矢理進ませる、小町も中学三年生の後半、一日の遅れが後々に響いてしまう。お兄ちゃんと少しでも一緒にいるには同じ学校に行くべきで、そのためならいくらでも頑張れる。

 

 

「お、小町か、はよー」

「お兄ちゃん」

 

 

リビングに行くとお兄ちゃんが朝ごはんを作っていた、多分昨日逃げたせいで気を遣わせてしまったのかもしれない。でもお兄ちゃんの朝ご飯を食べるのは久しぶりかも、少し嬉しい。

 

 

「えっと、……昨日はごめんなさい」

「気にしてない。それと悩みがあるならいつでも聞くし、俺に言いづらいなら雪ノ下とかでもいいからな」

「うん、ありがと」

 

 

お兄ちゃんの気持ちは嬉しい、でもお兄ちゃんには絶対に言えない、雪乃さん達にも言えない。小町が隠してる感情は解消できない、解決もきっとできない、だってそれは世間が認めてくれないから。

 

 

「……今日は早く帰ってきてほしいな」

「なんかあんのか?」

「あ、えっと、その……」

 

 

思わず口に出しちゃったけど、たまにはわがままを言っても許されるよね? 小町は良い子にしてたよね? いっぱい甘えてもいいよね?

 

 

「最近、少し寂しいかなって……」

「何かわいいこと言ってんだ」

 

 

今巷で流行りの「頭ぽん」をされる、昨日はチョップを受けたけどこっちも好きかも。これを狙ってやってるんなら女の敵だよお兄ちゃん。

 

 

「わかった、今日は早く帰る」

「本当に?」

「ああ、かわいい妹の頼みを断るわけないだろ」

 

 

かわいい妹! えへへ、嬉しい、嬉しいな。これで明日からもあの感情を隠せていけそう、よかった……。

 

 

「ほれ、ちゃっちゃと食っちゃえ」

「はーい、いただきます♪」

 

 

自然と語尾が上がってしまう、だけど仕方ない、こんなにルンルン気分は久しぶりだもん。お兄ちゃんの手料理を食べて頭をぽんっとされて早く帰ってきてくれる、今日の小町はとってもご機嫌!

 

 

  *  *  *

 

 

ふわふわ、ぐらぐら、気分の悪さから目を開けると見慣れない風景が視界に広がった、カーテンに仕切られてわかりづらいけど多分保健室。

 

 

「……こほ」

 

 

少し落ち着いて自分がここにいる理由が思い当たる、確か体育の授業を見学にしてて、やっぱり体調悪いから保健室に友達と行って、……寝ちゃった。

 

 

「ああ、起きたのね。調子は……、風邪だし聞くまでもないわね」

 

 

物音に気付いたのか保健室の先生が声をかけてくる、美人さんだし男子から人気だけど結婚済み。とりあえずどのくらい寝てたのか知りたくて時計を探す。

 

 

「今は四時くらいね、放課後よ」

 

 

長い間寝ていたらしい、そんなに疲れていたのかな? それとも体調不良のせい?

 

 

「まだ良くないしお兄さん呼んでおくわね、一緒に帰って」

「はい……」

 

 

この先生は気が利く人、ちょっとぶっきらぼうだけど体調悪い時に声を出すのは辛いときがあるから助かる。小町もこのくらいお兄ちゃんを楽にさせられたら良いな。

 

 

「今学校出たって。荷物もお友達が纏めてくれたし、ごゆっくり」

「ありがとうございます……、けほっ」

 

 

お兄ちゃんが迎えに来てくれる、少し風邪になってよかったって思っちゃった。でも心配もかけちゃうからやっぱり風邪はダメ。

 

 

「……お兄ちゃん、何か言っていましたか?」

「今すぐいきます、としか言ってないわ。いいお兄さんね」

「自慢の兄ですから。……自慢?」

 

 

かっこよくて優しいお兄ちゃんだけど自慢するのは何か違う気がする、自慢は出来ない兄だけど大好きなのは変わらない。

 

 

「ま、好きなように使ってあげなさい。家族なんて迷惑掛けて掛けられてよ」

 

 

既婚者が言うと説得力がある気がする、もしこれが平塚先生だったら……、結果的にお兄ちゃんが犠牲になっちゃうと思う。酷いこと言うお兄ちゃんが悪いけど手が出る平塚先生は嫌い。

 

 

「失礼します比企谷です」

「あ、お兄ちゃん」

 

 

総武高校の制服を来たお兄ちゃん、もしお兄ちゃんが総武高校に行かなかったら雪乃さん達とも出会わなかったのかな。……ううん、お兄ちゃんは新しい環境を望んでたから今のが正しい。嬉しくないけど。

 

 

「お疲れ様、比企谷さんは軽い風邪だから栄養とって休めばすぐ治るわ」

「どうも、お世話になりました。帰るぞ小町」

「はーい、先生ありがとうございました」

「お大事に」

 

 

受験が近くなってきた頃の廊下はもしかしたら外より冷えていて、身体を震わしてしまう。

 

 

「これ来てろ」

「コート……、でもお兄ちゃんは?」

「チャリ漕いでて暑い」

 

 

そっか、それなら遠慮なく着ちゃおう。……ぶっかぶか、でもお兄ちゃんに包まれているみたいで安心する、本当はお兄ちゃんに包まれたいけど、言ったらどうせ困らせちゃう。

 

 

「歩きかチャリ、どっちがいい」

「後ろに乗る」

「即答かよ」

 

 

だって、たくさんの幸せを感じられる時間なんだもん。嬉しくて幸せでずっとずっとああしていたくなる時間だもん。

 

 

「ちゃんと掴まってろよ」

「うんっ」

 

 

自転車の荷台に腰をおろして背中に抱きつく。お兄ちゃんの背中は大きくて暖かくて伝わってくる心音がこの匂いが小町を落ち着かせてくれる。……しあわせ。

 

 

「……おにーちゃん、大好き」

「奇遇だな、俺も大好きだ」

 

 

お兄ちゃんの言葉に嘘はない、だけど小町の大好きとお兄ちゃんの大好きは全然違う。わかっていたけど少し苦しい、小町がこんなに好きなのに愛しているのに、お兄ちゃんは

 

 

「大好き、大好き」

「…………」

 

 

風に流されてもおかしくないほど小さな声で思いを吐き出す、密着してる訳だから聞こえているだろうけど構わない。どうせ認められないから。

 

 

「着いたぞ」

「……うん」

 

 

幸せな時間も夢見る時間も終わってしまう。もう嫌だ、ずっと好きなのに大好きなのに愛しているのに、我慢してこの思いを抑えないといけないなんて嫌だ。でも世間が周りが認めてくれない。だったら

 

 

「入れ、悪化するぞ」

「……うん」

 

 

だったら認められなくてもいい。だってお兄ちゃんは小町のものだもん、そうだよねお兄ちゃん? 小町はお兄ちゃんのことずっとずーっと愛してきたんだから。

 

 

 

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