「お兄ちゃん、小町のこと好き?」
ぬくぬくこたつで暖まりながら聞いてみる。どうせお兄ちゃんの言う好きはライクだろうけど、好きって言われるだけでも嬉しくてて堪らない。
「そうだな、小町が妹じゃなかったら告白してるところだった」
向かい側で甘いコーヒーを飲みながら答えられた言葉に頭の奥がチリっと疼いた。……もし妹じゃない小町、そんな小町がいるとしたら少しだけ羨ましい。でもお兄ちゃんの妹は特権、手放すのは惜しいかも。
「……妹の小町には告白、してくれないの?」
「さあな」
直接は言わないけど答えはNo。変なところで察しが良くて変なところで鈍感なお兄ちゃんでも、きっと小町の感情には気づいている。だから妹という境界を張って侵入出来ないようにしてる。悲しい。
「ぶー……」
「ぶー、じゃありません」
「……めぇー」
「そうじゃねぇ」
呟いた言葉は無意味で、でも会話が戻ってくるまでの時間が昨日よりずっと長く感じ苦痛でしかない。でもお兄ちゃんと話していたくて、一緒にいたくて
「まだ本調子じゃないんだろ、家事は俺がするからゆっくりしてろ」
「……うん」
まるで小町との会話を避けるように行ってしまった、考えすぎかもしれないけど悲しい。やっぱり隠していたこの感情を出したから嫌われちゃったのかな……?
「好き……」
こんなに苦しいほどお兄ちゃんのことが好き。でも妹、それだけでこの感情が認められず拒絶されてしまう、世間にも周囲にもお兄ちゃんにも。寂しくて悲しくて苦しい。
「でも」
でも、小町を寂しがらせても、悲しませても、苦しませても、それがお兄ちゃんなら小町は受け入れる。だって家族は迷惑を掛けて掛けられて、でしょ?
「……だからね」
もしお兄ちゃんが小町のことが嫌いでも、小町は絶対にお兄ちゃんのことが好きだからね。小町は退かないし逃がさない、誰かにあげないし渡さない。絶対に。
***
数日後の夜、二つのホットミルクを持ってお兄ちゃんの部屋に押し掛ける。気持ちはふわふわと浮いていてなんかいい気分。
「お兄ちゃん、今いい……?」
「どした」
そろそろ寝るつもりだったのかな、スマホは充電器に繋がれ本は栞を挟んでベッドサイドの机に置かれていた。とりあえず手に持ったミルクを無断でそこに置く。
「人生相談」
「……わかった」
お兄ちゃんはベッドに、小町は椅子に座り自分のマグカップを手に取る。比企谷家では一人一つ自分専用のコップがある、小町のはタヌキ、お兄ちゃんのはキツネが印刷されていて中々かわいいセンスだと思う。
「…………」
「…………」
お兄ちゃんも小町も黙ってマグカップに口をつける、相談というのは何故か切り出しづらい。ふいんきかな、それとも自分で抑えてしまうのかな。小町的には自分で抑えちゃうんだと思う、簡単に吐き出せないのは小町も同じだから。
「……お兄ちゃんって、小町の気持ち気づいてる?」
やっと出せた言葉は今更な確認、でもいきなり本題よりは小町としては話しやすい。喋りやすさは兄妹でもだいぶ違うからお兄ちゃんがどうかはわからないけど。
「まあ、な。そこまで鈍感な奴もいないだろ」
お兄ちゃんは言いづらそうだった、やっぱり小町の感情に気付いて困ってる。ごめんねお兄ちゃん、でも小町はもう抑えたくないの、気付いてる? 小町は今凄くドキドキしてるよ。
「小町のこと好き?」
「家族として大好きだ」
悲しいぐらいの即答、でも家族としてでも小町の事を好きだと言ってくれるならいいよ。本当は一人の女として愛してるっていって欲しいけど。
「……小町の言いたいことはわかる?」
「俺に何か要求する、それぐらいなら」
「うん、正解」
お兄ちゃんの目に映るのは警戒、今までの暖かさは何処にもない。ああ、気持ちいい、お兄ちゃんがじっと小町を見てる。今はまだ邪魔なものがいっぱい見えてるけどすぐ小町だけになるからね。
「奉仕部との縁を切って」
「黙れよ」
腐った目に色濃く輝く敵意、怒り、小町が見たことのないお兄ちゃんがいる。……かっこいい。優しくて暖かいお兄ちゃんも素敵だけど、この刺々しくて冷たいお兄ちゃんも好き。
「ねぇ、何で? あの二人がそんなに好き?」
「人生相談は終わりだ。部屋に戻れ」
「それともあの二人とならわかりあえるとか思ってるの?」
「部屋に戻れ」
冷静に振る舞おうとしているお兄ちゃんはかわいい。そんなに怒るんだ、あの二人のために。ほんっとうに目障りな女達だ、でも明日からはどうでもいい存在だから最後の我慢。
「無理だよ、あの二人なんかじゃ絶対に」
「黙れ」
「お兄ちゃんの勘違い、小町が断言するよ」
「黙れ!」
ギロリと最大級の敵意を乗せて睨み付けられる。今、お兄ちゃんは小町だけを見てる。気持ちいい、煮えたぎる様な熱い視線が小町の身体を火照らせる。
「お兄ちゃんを一番解っているのは小町、あの二人じゃないの」
「黙れと言ってんだろ! ……っ」
お兄ちゃんはグラリと倒れこみそうになるのを手をついて防ぐ。それでも小町を睨むのをやめないお兄ちゃんが堪らなく愛しい、焦点も合わなくなっているというのに。
「何、入れやがった……!」
「お薬、お兄ちゃんがぐっすり眠れるようにね」
中身が半分ほど減ったキツネのマグカップを持ちながら答える。思っていたよりずっと簡単に飲ませられた、すぐに効くタイプと悩んだけどお兄ちゃんとゆっくり話せたしこっちの睡眠薬で正解だったよ。
「大丈夫だよ、小町が守ってあげるから」
「……何から」
視線も身体もぐらぐらと揺れているのに小町に話しかけてくれる。嬉しいな、小町もいっぱいお話をしたいけどそれはまた今度ね。これから準備しないといけないから。
「邪魔な女達から、悪意から。……ありゃ、寝ちゃった」
小町の声が届いたかはわからないけどお兄ちゃんはぐっすり寝ちゃった。薬は半分しか飲んでないけど長時間効くタイプらしいから大丈夫か、それじゃ準備を始めないとね。
「ふんふんふふーん♪」
小町の部屋からダンボール箱を一つ引きずって持ってくる。中にはベッドを補強するための資材とお兄ちゃんに着けるための首輪とか足枷、他にも部屋自体に鍵を付けるための道具もあるけど省略。
「えーと、こうかな?」
ベッドに一つ一つ取り付けていく、今は応急処置だけど明るくなってからもっとがっしりとした造りに変えていく。とりあえずはお兄ちゃんを鎖でつなぐことが大事、これであの邪魔者達にお兄ちゃんを晒さないで済む。
「似合ってる……」
お兄ちゃんを動かすのは少し骨が折れたけど無事に完成。少し疲れたし休もうかな、明日も学校だし夜更かしはお兄ちゃんに心配されちゃう。
「おやすみ、小町のお兄ちゃん」
ずっと夢だったおやすみのちゅーを唇にしてお部屋に戻る。えへへ、やっちゃった、えへへ。恥ずかしい、でも大好きで愛してるからそれ以上に嬉しい。これからはずっと小町の物、この世界で一番お兄ちゃんを愛してる小町の物。
誰にも絶対に見せてあげない、お兄ちゃんを見て触れていいのは小町だけだよ。