首都高のシンデレラ   作:囃子とも

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九章 オーバーホール

 年の瀬が迫る十二月。

 346プロのアイドル達は、年末年始のイベントや、特番の出演に向けたレッスンに力が入る。それは、このユニットも同じ事だ。

 マッシブライダーズは、向井拓海、木村夏樹、藤本里奈の三名で構成されるユニットである。

 その名の通り、バイク趣味の三人で構成されるのが大きな特徴である。

 余談だが、三人ともバイク絡みの事で、内藤自動車にしょっちゅうお世話になっている。

 

 レッスン合間の談笑。その話題は、原田美世の事だった。

「……最近、美世っつぁん見ないね~」

 藤本里奈は、スポーツドリンクを飲みながら呟いた。

「あたしが聞いた話だけど、車の方の仕事がどうしても抜けられねーって事らしいぞ。だから、年内はうちの仕事は全部キャンセルしたってよ」

 拓海は、一応の事情は聞いていたらしい。

「へぇ~。ま、美世さんらしいと言えばらしいけど」

 木村夏樹は、納得した様にそう言った。

「ねぇねぇ。今日のレッスン終わったら、とっつぁん所いかね?」

 里奈は、内藤自動車に顔を出すという提案をした。

「そうだな。折角だから、差し入れでも持って行こうぜ」

 夏樹は、その案に乗り気だ。

「いいねぇ。最近、忙しくて行ってなかったしな」

 拓海も、それに追従した。

 

 レッスンも終了し、日が暮れた午後七時過ぎ。寒波到来の中、マッシブライダーズの面々は、わざわざバイクで通勤してきている。

「……うぉっ!? ちょーさみーしー……」

 外に出た瞬間、その冷え込みに里奈は戸惑う。

「こりゃ……冷えるな」

 夏樹の奥歯が、ガチガチと鳴る。

「……仕方ねー。気合で突っ走るか!!」

 自らの頬を叩いて、気合を入れる拓海。しかし、下半身はぶるぶると震えている。

 それぞれエンジンをスタートさせて、暖気をする。5分程温めて、各自愛機に跨った。

「おっし!!」

「っしゃぁ!!」

「行くぽよ!!」

 外気温5度の寒さの中、三人とも根性で走る事に決めた。

 10分間の耐久ツーリングが始まった。

 

 ちなみに、バイクで走る場合、風の影響で体感温度は約10度下がる。現在の外気温は5度。つまり、体感はマイナス5度になる。

 どうにか内藤自動車に辿り着いた頃には、三人とも指先の感覚が無くなっていた。気合と根性だけでは、寒さに勝てなかった。

 

 ガレージ前にバイクを停車させると、一目散にガレージの中に駆けこんだ。

 整備中のヴィッツの近くには、古めかしい石油ストーブに火が灯っている。

「だーっ!! 着いたー!!」

 我先にと、夏樹は石油ストーブの前に陣取る。

「死ぬ!! 死ぬ!! なつきちどいて!!」

 里奈の視界には、暖を取る為の炎しか見えて居ない。

「あたしにも場所よこせ!!」

 拓海も、レッスンですら見せないくらい、素早い動きでストーブの元へ。

 突然ドタドタと駆けこんでくる三人を見て、内藤は事務室から出てきた。

「……お前ら、このクソ寒い中単車で来たのか?」

 内藤の言葉を聞き、三人は首を縦に振った。もう、喋る気力も無いらしい。

「……大体、もう店じまいだぞ?」

 そう、バッサリと切り捨てた。

「……しょ、しょれはないっしょ、とっつぁん」

 里奈はそう反論したが、寒さで呂律が回っていない。

「しぇ、しぇっかくだから、み、美世の事見に来ちゃってのに……」

 拓海も、ガチガチと歯を鳴らしながら、そう言った。

「あ……しゃし入れ買っちぇねぇ……」

 当初の目的の一つを忘れていた事を思い出し、夏樹は我に返った。たった一言でも、言葉はかみかみだ。

 

「……そういう事な」

 三人の行動に納得したのか、内藤は自動販売機でホットコーヒーを三本買った。

「ほれよ」

 内藤は一本づつ、コーヒーを手渡していく。

「あ、あざーす」

 ホットコーヒーの温もりが、三人の冷え切った手に染み渡る。

「美世の奴なら、隣に籠ってるぞ」

 そう伝え、内藤は隣の板金専用のガレージを指差した。扉の隙間から、電灯の光が見えるので、まだ仕事をしているようだ。

「……美世の奴、この寒いのにまだ作業してんの?」

 拓海は、内藤にそう聞いた。

「ま、見りゃ解るさ……。俺は、まだ事務が終わってねぇから、中に戻るぞ」

 そう言い放って、内藤は事務室に戻って行った。

「……どゆこと?」

 里奈は、変な言い回しに、奇妙な印象を持った。

「……忙しいって話の割には、内藤さんは手を貸さないもんな」

 夏樹の頭の中にも、疑問が浮かび上がる。

「どうせ、ここまで来てんだ。美世の所に、ちょっかいかけに行ってやろうぜ」

 拓海は、ニヤリと笑った。

 

 買い忘れた差し入れの変わりに、ホットコーヒーを買ってから、美世の籠っている奥のガレージに入り込む。

「おーっす。美世ー。居るかー?」

 リジットジャックに乗せられた、蒼いスカイライン。

 それに加えて、その側にしゃがみ込んで作業を黙々と続ける、美世の後ろ姿が目に入った。

「……?」

 美世がゆっくりと振り返ると、三人と視線が交わる。その瞬間、拓海も、里奈も、夏樹も、言葉を失っていた。

「あ~……随分、久しぶり、だね……」

 美世は、そう告げる。しかし、余りにも変わり果てた姿は、とても同一人物とは思えなかった。

「……美世、だよな……?」

 拓海は恐る恐る聞いた。

「……そう、だよ?」

 そう答えた美世は、明らかに正気では無かった。顔色は青白くなり、遠目でも解るくらい、はっきりとした目の隈。ほこりと油にまみれた頬に、ドロドロに汚れたつなぎ。

 それでも、美世はうっすらと笑っている。

「だ、大丈夫なん……?」

「……全然平気、だよ?」

 心配そうな里奈を余所に、美世は平然と答えた。

「……美世さん。これ、差し入れだけど……」

「ん? ありがと……」

 夏樹の差し出した缶コーヒーを貰おうとして、美世は立ち上がった。

 しかし、足元がふらついて、倒れ込む様に三人に寄りかかってしまう。

「ちょっ!?」

 里奈と夏樹の二人がかりで、倒れかかった美世を支える。

「おいおい……どうしちまったんだよ……」

 拓海は、美世に聞きただす。

「……フフ」

 それでも、美世は笑っている。

 

 缶コーヒーを手に取ると、そのまま元の位置に座り込んだ。美世の周囲には、ばらしたであろうエンジンの部品が、綺麗に鎮座している。

「だって……これすっごいんだよ?

 ベースはN1用のRB26だね。これなら、普通のRB26よりもブロックの肉厚があるから、耐久性も優れてるよ。

 87パイの鍛造ピストンに、コンロッドはH断面だね。クランクは、ノーマルをWPC加工して、高回転高出力に耐えられる様にしてる。あえてノーマルストロークのままで、高回転の伸びだけを追求してるんだ。

 カムは280の282で、リフト量もかなり大きく取ってあるし、バルブもバルブスプリングも強化品。ポートの加工も絶妙だよ。

 タービンは、T51Rのビッグシングル。ウエイストゲートも大型にして、安定したブースト圧をかけられるようにしてるの。

 エキマニはワンオフ。等長のステンレスだから、良い音を奏でるよ。インテークパイプから、サージタンクまでのパイピングは全てワンオフ品で、エアフロレス。当然サージタンクも大容量品にしてるよ。インジェクターは1000ccまで、容量を上げてるね。

 ラジエーターもアルミ3層に、オイルクーラーも32段の大型だね。オイルクーラーの搭載位置も、冷却効率を優先してるし、導風板も付けてる。如何にして風を導くかを、最優先に考えたんだね。

 これだったら、900馬力以上を狙える……。

 パワーと耐久性。相反する要素を、高次元で両立させてるんだね。

 

 勿論、エンジンだけが凄いんじゃないよ?

 クラッチもAPのトリプルで、ミッションはホリンジャーの6速シーケンシャルに載せ替えてる。デフも、前後共に強化して、トラクションを稼いでる。このパワーだったら、アテーサET-Sでも、4輪でホイールスピンを起こすんだ。

 トラクションの要の足回りだって、オーリンズのショックだし、ブッシュもフルピロ化してる。メンバーも溶接止めで補強してる上に、メンバーの位置をかさ上げして、ロールセンターを適正化してるんだ。むやみに車高を下げれば、足回りの動きを抑制しちゃうからね。それじゃ、首都高のギャップに対応できない。

 ブレーキなんか、アルコンの6ポットだよ。ローターも大きくしてるし、ホースもステンメッシュ。パッドも、 相当に良い物組みつけてる。当然、ブレーキダクトも付いてる。

 ボディだって、フルスポット増しと溶接止めのロールケージで剛性を高めてるんだ。補強の仕方も、N1マシンを超えてるよ。軽量化も極限まで突き詰めてる。

 エアロも空気抵抗の低減と、冷却効率を上げる様にしてる。元々R34のVspecには、前後にディフューザーが付いてるけど、それに加えて車体の底面をフラットボトム化してる。空力面も抜かりないんだ。

 本当に、レーシングマシンを……いいや。それ以上だね。

 最強のマシンを組み上げたかったに違いないんだ。凄いよ……本当に」

 美世の口から、次々と飛び出る言葉。三人には、何の呪文なのか解らない。

 

 今の美世は、亡霊に取り憑かれたとしか、形容出来ない。それ程、狂っていた。

「美世……本当に、大丈夫なのか?」

 拓海は改めて、聞きただした。

「……大丈夫だよ。今のあたしには……この子しか見えて居ないんだ」

 美世は、含みのある笑みを見せて、そう答えた。

 

 その気迫に圧倒され、三人は作業場から立ち去るしかなかった。

 何も言えないまま、事務室に入る。室内は暖房が効いており、ガレージ内と比べれば天国かと思えるくらいに暖かい。

 内藤は、伝票の山を慣れた手付きでさばいていた。

「……とっつぁん。美世っつぁんは、どうしちゃったの?」

 不安な面持ちで、里奈は聞いた。

 伝票整理を止めて、内藤は胸ポケットからタバコを取り出した。

「……アイツが今いじくってるスカイラインは、俺達が探してたマシンなんだ」

 そう告げて、くわえたタバコに火を点ける。

「探してた……って、どういう事ですか?」

 夏樹は食い入るように、内藤を見つめる。

 

「……十年くらい前の話だな。首都高が、走り屋で賑わってた頃だ。

 正体不明だが、誰も追いつけなかった走り屋が居た。蒼いR34に乗って、あっという間に首都高最速の座を奪った。何時からか、迅帝って異名で呼ばれる様になった。

 ただ、迅帝は何時の間にか、その姿をくらましていた。一説には、死んだって噂まで流れたけど、真相は俺達も解らなかった」

 そこで、一旦区切って、内藤は吸い込んだ煙を吐き出した。

「迅帝が消えた後。当時走ってた奴の、殆どは首都高を降りたよ。ま、それぞれ事情があるから、仕方ねぇ事だ。

 だけど、俺は降りれなかった。いつか、迅帝は俺の前に現れる。次に現れた時こそ、迅帝をぶち抜ける。

 そんな期待を、ずっと持ってたからな……」

 内藤の言葉に、一同は何を思うのか。

「……つまり。おっちゃんが探してた走り屋を、美世が見つけてきたって事?」

 拓海の解釈を聞き、内藤は無言で頷く。肯定のサインだ。

「へぇ……。すると……美世さんが、その走り屋の車を復活させてるんだ」

「……そういう事だ」

 夏樹の意見に、内藤はそう答えた。

「でもさ。何で、美世っつぁん一人で車直してんの? 内藤のとっつぁんも、直せるっしょ?」

 里奈は、次に湧き出た疑問をぶつけた。

「まぁな。ただ、あの車の持ち主直々に、美世を指名したらしい。だから、一人でやらせてくれって言われたよ。

 美世の奴は、ああ見えてメチャメチャ頑固だからな。一度決めたら、意地でも曲げねぇんだ。だったら、気が済むまでやらせてやるよ……」

 そう言いつつも、内藤は少し心配そうな表情だった。

「…………」

 三人とも押し黙ったまま、何も喋れなかった。

「……悪いが、今日の所は引き上げてくれ。こうなったら、あいつはテコでもジャッキでもレッカーでも動かねぇからな」

 内藤の言葉に、三人はうなずいた。あえて言うなら、従うしかなかった。

 

 それから、数日間。

 美世は、泊まり込みで、GT-Rを仕上げ続けた。

 深夜まで作業し、シャワー室で体を洗う。寝具は、事務室の古びた安物のソファーと、自宅から持ってきた煎餅布団と毛布だけ。食事はコンビニで買えば済む。

 たとえ一秒でも時間が惜しい。寝る時間も、食事の時間さえも。

 蒼いモンスターマシンを完成させる為に、美世は作業を続けた。

 

 R34のフルオーバーホールが完了する頃には、12月も半ばに入っていた。

 外が薄暗くなった頃に、R34は地面に降り立った。

(……出来た)

 エンジン、ミッション、デフ、サスペンション、ブレーキ、タイヤ……。全てを組み付け、伝説のマシンは蘇った。

 その瞬間。

 美世は、足元から崩れ落ち、地面にへたり込んだ。

(あれ……?)

 視界はグニャリと揺れ、平衡感覚が無くなって行く。辛うじて意識はあるが、体のどこにも力が入らない。

(……疲れてるのかな?)

 そう思った時、美世の意識はどこかへ飛んでいた。

 

「……?」

 次に美世が見えたのは、白い天井だった。

 鉛が付けられてる様に体は重く、頭が朦朧として揺れている様だった。

(……ここは?)

 周囲を見渡すが、見た事の無い部屋だ。薬品の様な匂いが、鼻にツンとくる。腕に、チクリと痛みが走る。

「……気が付いたか?」

 その声を聞き、美世は目でそれの主を追う。

「……プロデューサー?」

 ベッドの横で、プロデューサーは椅子に座ったまま、美世を見下ろしていた。

「ここは近くの病院だよ。美世はガレージで倒れて、救急車で運ばれたんだ。丸一日眠ってたんだぞ?」

「……そうだったんですか。ご迷惑おかけしました……」

 美世は、力の無い声でそう言った。

 一度起きようとするが、プロデューサーは肩を押さえて、寝かせるようにした。

「起きなくて良い。今はゆっくり寝てろ……」

「でも……」

「いいから。仕上げは、内藤さんがやるって言ってたから……」

 プロデューサーは、何が何でも寝かしつけるつもりだ。

「……」

 美世は、不服そうにプロデューサーをジッと見つめる。

「医者に聞いたけど、倒れた理由は過労だそうだ。相当切羽詰って、作業してたって事も皆から聞いてる」

 プロデューサーが美世を見つめるその目は、嘆きや憂いの感情が出ていた。

「……確かに、お前が車好きなのは承知してる。ぶっ倒れるまで車を触り続ける程の、クルマバカだ。

 だけど、体を壊すまで無理をする意味は無いんだ。車の仕事も、アイドルの仕事も、体が資本なんだ。だから、これ以上無理はしないでくれ」

 プロデューサーの言葉を聞き、美世は何を思うか。そっと目を閉じて、その口がゆっくりと開いていく。

 

「ねぇ……プロデューサー。アイドルのプロデュースって、楽しい?」

 美世の口から飛び出た唐突な質問に、プロデューサーは少し戸惑った。

 数秒だけ考えた後、こう答えた。

「……楽しいな。

 そりゃ、苦労する事も多いし、失敗する事も有る。

 だけど、ステージの上だったり、スタジオでモデルになってる時に、皆が生き生きしてる表情を見ると、やってて良かったなって。本当に、そう思うよ」

 プロデューサーは、笑みを見せていた。

「……似てるね。あたし達」

 美世は、そう言った。そして、言葉を続ける。

「……シンデレラに魔法をかける魔女が居なかったら、シンデレラは舞踏会に行く事は無かった。あの家の中で、ずっといじめられるだけだった。

 シンデレラの運命を変えるのは、魔女の気まぐれ。あたし達の運命を変えたのは、魔女の役目を持つプロデューサーなんだよ?」

「…………」

「あたしは、車と言うシンデレラに魔法をかける、魔女でありたいの。

 車が好きだからさ。イジるのが好きで、走るのが好き。子供の時から、何も変わってないんだ」

「美世……」

 不安そうに見つめるプロデューサーだが、美世には見えて居ない。

「大丈夫。これで最後にするから……。

 これが終わったら、あたしに区切りがつく気がするんだ。そうしたら、心置きなく降りる事が出来るよ……」

 そう語った美世は、青白い顔に笑みを浮かべていた。

「……お前は、何も変わって無いな。15歳でこの事務所に入った頃から、何一つ変わって無い。

 あたしのハンドルを握ってて何て言う割に、ハンドルが全く効かない。じゃじゃ馬で扱える代物じゃない。

 今更、何言ったって原田美世が止まらない事は解ってる」

 プロデューサーは、吹っ切れた様子だ。そう言って、封の閉じたスタミナドリンクを二本置いた。

「ちひろさんに無理言って仕入れて貰った、とびっきりのスタドリだ。

 ……これで最後にするのなら、好きなだけ……思う存分やってこい。気が済むまでな。

 だけど、絶対に無事に帰ってくる事だけは約束しろ。それだけはな……」

「プロデューサー……ちがうね。

 Pさん……あたしのわがまま聞いてくれて、ありがと」

 美世の言葉に、プロデューサーはフッと笑みを作っていた。

 

 翌朝。

 内藤は、朝早くから仕事に取り掛かった。美世を病院に送り込んだのは、内藤なのだから、入院している事は承知の上。

 R34の仕上げを、早い段階から取り掛かる寸断で、わざわざ早めに店を開けたのだ。

 菓子パンをかじって、缶コーヒーで流し込む。事務室のテレビに、情報番組の占いコーナーが流れている。

『今日一番ラッキーなのは……さそり座のあなた。どんなこともパワフルにこなせる一日です♪』

 テレビをBGMにして、段取りを考えていた。

(……とりあえず、アライメントからだな)

 そんな時。

 

 店の前に、タクシーが止まった。

「……?」

 店舗に、タクシーで乗り付ける人間は皆無。近所の誰かが、飲み屋からの朝帰りしたのかと。内藤はそう思っていたが。

「おはようございます」

 入院していた筈の原田美世が、タクシーを使ってまで出勤してきたのだ。きっちりとつなぎを着て、何時でも作業を再開できる格好だ。

「お前……病院はどうしたんだよ」

「……朝一で退院してきました」

 得意顔で、美世はそう言った。とはいえ、美世の顔色は、明らかに悪い。

「それ、脱走っていうぞ?」

 内藤は呆れ返った。

「良いんです。あたしの役目は、終わって無いんです。まだ仕上げが残ってますから」

 そう断言した。

「……どうしようもねぇバカだな。死ぬ気か?」

「今更ですよ」

 原田美世は、何を言われても止まらない。フルスロットルになったら、何があっても突っ走り続けるのだ。

「しゃーねぇな。二人掛かりで、一気に仕上げるぞ。

 まずはアライメントだ」

「はい!!」

 内藤の指示に、美世は元気よく答えた。

 

 

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