年が明けて、一週間。
原田美世は、346プロダクションの応接室へ呼び出された。
対面に座るのは、菊地真一。チームKSの今年の契約の話なのは、容易に想像できる。
右隣に座るプロデューサーは、恐る恐る話を切り出した。
「えっと、今年の契約の事ですよね?」
「勿論、そうですよ」
菊地は、間髪入れずそう答えた。
本来であれば、プロデューサーから、相手方へ出向くのが普通なのだが。美世も、プロデューサーも疑問を払拭出来ない。
「まずは、こちらの契約書類に目を通していただけますか?」
そう言いながら、菊地は書類を提示した。
「えっと……今季は、チームKSのテストドライバーとしての契約!?」
内容を読み上げ、美世は素っ頓狂な声を上げた。
「それって、レースクイーンじゃなくて、ドライバーとしての契約ですか!?」
プロデューサーも、予想外の内容に戸惑いを隠せない。
「その通り。スカウトと思って貰って構わない」
菊地の首は縦に動いた。
そして、言葉を続ける。
「最初に断っておくと、原田さんの事は色々聞いてる。普段乗っている、GT-Rを自ら手掛けた事も含めてね。
そこで、芸能活動と並行して、うちチームで一年間テストドライバーをやって貰いたいんだ。
まず、岩崎自身も他のカテゴリーのエントリーや、パーツメーカーのテストが増えてきた分、テストのスケジュールが取れなくなった。
俺自身でテストする事も出来るが、正直年齢的にも結構きつい」
菊地は、真っ直ぐに美世を見ている。
「何よりも、君の年齢は若い。その若さで、あれだけ車を仕上げて、尚且つ走りの方も中々の物だと思っている。
今後のチームの為にも、若手の育成は急務なんだ」
菊地の言葉に、美世もプロデューサーも呆然と固まる。
「……タレントとレーサーの兼業は、過去に例が幾つも存在する。近藤真彦さんをしかりね。
是非とも、検討していただきたい」
そう言って、頭を下げた菊地。
「……願っても無い話です。あたしなんかで良ければ、この場で契約書にサインをしても良いくらいです」
美世は、目をキラキラと輝かせる。
「……細かい内容の詰めもあります。ですが、是非とも前向きに考えさせて頂きます。
何せ、一般公道をぶっ飛ばすより、よっぽど健全ですから」
プロデューサーは、笑いながらそう言った。
「では、よろしくお願いします。
……それと、原田さん」
菊地は、最後にある人物からのメッセージを伝えた。
「岩崎が、サーキットで待ってるそうだ。それだけです」
少しの間を置いて、美世は満面の笑みを見せて答えた。
「……はい!!」
これにて完結です。
細かい小ネタは、そのうち投稿します。