自宅のアパートに帰って、美世は布団に寝っころがった。
ぼんやりと宙を見ながら、緒方に言われた条件の内容を思い返していた。
(あたしの首都高の走りを見て、モデルの仕事をどうするか決めるって、緒方さんは言ってた。モデルの仕事と、首都高の走り……。絶対関係無いよね……)
美世は、何故そんな条件を付けたのか理解に、苦しんでいた。
単なる興味本位にしては、随分と遠回りになる方法である。仮に、自分の走りを見て駄目だとすれば、大きな仕事が消えてしまうのだ。
(……プレッシャーかかるなぁ。多分、プロデューサーさん達には、言ってないだろうし……)
美世の顔は、しかめっ面を作っている。
ウジウジして考えるだけでも無駄だと、自分に言い聞かせて、勢い良く飛び起きた。
(何処か、流しに行こ……)
リフレッシュするには、愛車で走るのが一番。美世はGT-Rのキーを引っ手繰り、右手に握りしめた。
国道246号線沿いのとある喫茶店。
駐車場に止まる真っ赤なFC3Sは、首都高の走り屋で知らなければモグリだ。
窓際に座っているのは、追撃のテイルガンナーの異名を持つ内藤健二。そして、緒方明子。
愛機を眺めながら、内藤はコーヒーに口を付けた。
「……久しぶりにここのコーヒー飲んだな」
この店には、何年ぶりかに訪れた様だ。
「そうね。あの頃は、コーヒー飲みながら深夜近くまで喋って。
誰かが首都高に向かうと、皆それに続いて首都高に向かった。……懐かしいわね」
緒方は、コーヒーをスプーンでかき混ぜながら、懐かしむ様にそう言った。
「所でよ……。なんでまた、美世に興味を持ったんだ?
そりゃ、電話で話した事もあるし、女の若い首都高ランナーは相当に珍しいのもわかっけどよ……」
内藤は、率直な疑問を緒方に投げかけた。
「それは、こっちの台詞よ。
大のGT-R嫌いの人間が経営する車屋に、GT-R乗ってる従業員が居るのが不思議で仕方ないわ」
緒方は、質問に対して質問で返した。
「……そりゃ、成り行きだよ」
そう言い放ち、内藤はタバコを一本吸い始めた。
「元々、346プロの部長さんが俺の常客だったんだよ。んで、その流れで、346の社用車は俺ん所で面倒見てたんだ。
そんで、美世が346に入って、メカニックの事も学びたいって事だったから、俺の下でバイトを始めたんだ。かれこれ、五年前の話だ」
「へぇ~……。ずっと一人でやってきたアンタが、他人の面倒みるなんてね……」
「ま、俺もいい年だしな。少しは若い連中を育てねぇと、って思っただけよ。
俺がアマさんやカワノさんに、色々教わったようにな」
内藤は、紫煙と共に言葉を吐き出した。
「……じゃ、彼女はお気に入りなの?」
緒方は、意地の悪い事を聞き出した。
「走り屋としちゃお気に入りだ。チューニングのセンスも高いが、走りのセンスもかなりの物だぜ。
アイツを、アイドルにしておくのは、はっきり言って勿体ねぇよ」
「フフ……。あんたにそこまで言わせる逸材なんだ」
「そりゃな……。ただ、女として見るには、年下過ぎる。姪っ子みたいなもんだよ」
内藤はそう付け加えた。ただし、中学生のアイドルの追っかけをやっているおじさんが言うには、説得力があまり無い。
「んで、お前は美世と走るつもりなんだろ?」
内藤は、緒方に改めて聞き返した
「そうよ。
最初は話をしてみるだけのつもりだったけど、直接見て気が変わったわ」
緒方は、不敵な微笑を見せていた。
「ほー……」
内藤の目付きは、少しだけ尖った。
「確かに、あなたの言う通りよ。彼女が乗って来たGT-Rの音を聞けば、どれくらいの仕上がりなのかは解るわ。
それに、あの子は……あの走り屋と同じオーラを纏ってる気がするの……」
「迅帝の事か……」
内藤の口から出たワードを聞き、緒方はコクリと頷いた。
「あの走り屋だけは、特別よ。
パープルメテオ、紅の悪魔、真夜中の銀狼……。首都高の名だたるGT-R使いの中でも、飛び抜けて速かった……。
だけど、その正体は解らないまま……」
「……ああ。アイツだけは、一度も抜けなかったし……勝てる気もしなかった」
「だからこそ、私は彼女と走りたいのよ。……ちょっと、意地悪な条件も付けたけどね」
「条件?」
内藤は、キョトンとした顔で緒方を見た。
「そうよ。これでも、ファッションデザイナーで名前が売れてるのよ?
今所属してるブランドは、欧州以外のマーケットにも進出を進めてる。そこで、日本向けのマーケットを私が担当する事になったのよ。
私のデザインした服のモデルを、346プロダクション所属の子にお願いしようと思ってるわ」
「……それを、美世の走りを見て決めるのか?」
「そうよ。と言っても、もう346プロに頼むつもりだけどね」
緒方の考えは、もう決まっていた。
「だったら、何でそんな条件出したんだよ……」
「あの子を焚き付ける、適当な理由が欲しかっただけよ♪」
意地の悪い条件を付けた緒方に、内藤はあきれ顔を見せた。
一本目のタバコを吸い終えて、内藤はコーヒーを半分飲み干した。
「一応言っとくけど、美世は明日から九州で仕事だから、三日間はこっちに居ねぇぞ?」
内藤も一応店主なので、従業員の予定は把握していた。
「そうなの……。だったら、好都合ね」
緒方はワンテンポ間を作ってから、内藤に告知した。
「私のスープラ、メンテナンスしといてね」
100万ドルの笑顔を作って、そう頼んだ。
(……やっぱな)
内藤の顔は引きつっていた。
翌日。金曜の夕方。
美世は仕事仲間である日野茜と共に、大分県日田市のビジネスホテルに到着した。
「ん~……九州は遠いや」
ホテルに到着し、茜は開口一番でそう言った。東京を出発し、電車と飛行機を乗り継いで、熊本到着。そこからレンタカーで県境を超えて阿蘇山のお膝元、オートポリスの近くまでに来たのだ。
本来は仕事なので、担当プロデューサーも着いてくるのが通例だ。
しかし、大手である346プロダクションは、レッスン生を含めて200人近くのアイドルが所属しているのに対し、プロデューサーの数が圧倒的に足りていないという問題を抱えている。
その為、社会人組やベテラン組は、各自で仕事に向かう事も多いのである。
「やっぱり、全部車で来た方がいいんだけどな。あたしは、その方が楽なんだけどね~」
美世の顔には、移動の疲れが見えていた。
「そうなの? だったら、プロデューサーに頼めばよかったんじゃないです?」
「いや~……頼んだんだけどね。経費が余計に掛かるし、危ないから止めろって言われたんだよね~……」
「それはそうですよ。東京からじゃ、丸一日位走りっぱなしじゃないですか?」
「自分の車なら、余裕なんだけどねー。ついでに阿蘇の温泉街で、もう一泊とか最高じゃない?」
「絶対それ最高ですよ!!」
美世は所属アイドルの中でも古株だけあって、手の抜き方も心得ている。
「……ま、あたしがそういう事を繰り返してたから、飛行機のチケットは往復で渡されるんだよね~」
「あはは……残念です」
しかし、その目論見はあっさりと破綻していた。茜も、苦笑いを見せる。
「それはそれとして、明日は頑張ろうね」
「わっかりましたー」
茜は、元気一杯でそう答えた。
美世が芸能活動で力を入れているのが、レースクイーンだ。車好きの美世にとって、一番適した仕事とも言える。
現在のチームに所属して、二年目になる。茜より一年先輩になるので、色々教えているようだ。
もっとも、事務所内では茜よりも相当先輩に当たる上に、年齢も美世の方が年上だ。何かと、頼られる事も多かったりする。
「そういえば、今日はチームの所に顔を出さないんですか? きっと、もうホテルに着いていると思うんですけど……」
茜はそう言って切り出した。
「う~ん、行きたいのは山々だけど、今日は顔を出さない方が良いよ。
今回は、天王山だから……ね?」
「えっと、チャンピオン争いでしたっけ?」
「そうそう。チームKSを結成してから、初めての事だって監督は言ってたんだ。
今回のレースを含めて、残り二戦……」
美世は、右手に二の数字を作ってから、更に言葉を続ける。
「このレースの結果次第で、チャンピオン争いに踏み止まれるか。それとも、争いから脱落するか……。
流石に、今回ばかりはチームの空気はピリピリしてると思うよ」
そう語った美世の表情は、自然と引き締まっていた。
「……そう言えば、美世さんってレースの経験があったんですよね?」
思い出した様に、茜はそう聞いた。
「まーね……。昔、カートレースに少し出てた程度だよ」
美世は少し照れた様子で答えた。
「どれ位してたんですか?」
「10歳の時から、五年間。結構いい所までは行ったんだけどね~」
(……全然、少しじゃない)
と、心の内で茜はツッコミを入れていた。
「こういうの聞くのも、ちょっとアレなんですけど……どうして辞めちゃったんですか?」
茜は恐る恐るといった感じで、切り出した。
「ん~……簡単に言っちゃえば、お金が続かなかっただけだよ」
美世の出した答えは、単純な物だった。
「……世知辛い世の中ですね」
「まーね……。
だけど、カートレースやってる女の子が居るってだけで、アイドルのスカウトに来る物好きが居るんだからさ。面白い話だよね」
「何だか、ドラマチックですね」
「ん~……。確かに、退屈はしてないよ」
美世は、笑いをみせてそう言った。
「……美世さん。改めて、明日は頑張りましょう!!」
346プロの元気印は、でっかい声でそう言った。
「うん。もちろんだよ!!」
美世も、負けじとでっかい声で答えた。
翌日、明朝。まだ、太陽は顔を出していない。
美世と茜は、レンタルしたヴィッツで、ホテルを出発。仕事の現場を目指して、県道の峠道をひた走る。
到着する頃には、太陽が少しだけ頭を出していた。
大分県日田市にある、オートポリス国際レーシングコース。1991年に開業した、九州唯一の国際サーキット。F1開催も視野に入れた大型サーキットだが、近年はGT終盤戦を開催する事で注目を集めている。
「おはようございます」
「おはよーございます!!」
朝から元気よく、美世と茜は所属チームのモーターホームに顔を見せた。
「おう。おはようさん」
チーム代表である、菊地真一が二人を出迎えた。
二人の所属する、チームKS。
元ホンダのワークスドライバーである、菊地真一が自ら立ち上げたレーシングチームで、スーパーGTの300クラスに参戦している。
かつては、ホンダのワークスチームでGT500やフォーミュラーニッポンを戦っていた菊地だが、御年四十路後半。現在は、プライベーターとしてレースを戦う。
自らオーナーと監督、そしてドライバーを兼任する、レース馬鹿一代。チーム名は、菊池自身の愛称、キクシンから頭文字を取っただけとの事。
余談だが、一人娘は美世達の同業者だったりする。
昨日美世の予想した通り、菊地の表情はかなり固い。
「……」
無言で、昨年のデータを見続ける。
(……気まずい)
チーム内が、ここまでナーバスな雰囲気になる事は全く無く、美世は少し狼狽えていたが。
「監督、今日も明日もがんばりましょう!!」
茜はそう言った。言ったのか叫んだのか、判断は難しい所だが。
「……」
菊地は無言のまま、茜に視線を向けた。
(ああ~……茜ちゃんのバカぁ!!)
心臓バクバクの美世は心の内で、空気を読まなかった茜を批判した。
「……そうだな。考えるだけ無駄だ」
菊地は、ニヤリと笑って見せ、データの記載してある資料を投げ捨てる。そのまま椅子から立ち上がって、一言。
「車見てくるから、二人ともゆっくりしてな」
そう言い残して、部屋から立ち去って行った。
「……?」
茜はキョトンとしたまま、キョロキョロと辺りを見回した。
「茜ちゃん……命拾いしたね」
美世はそう伝えたが、茜は何のことやら解らないままだった。
「おはようございます」
そして、菊地と入れ違いで、もう一人のレースドライバーが入って来た。
「おはようございます、岩崎さん」
「岩崎さん、おはようございます!!」
二人は、出迎える形で挨拶を交した。
チームKSのもう一人のドライバー、岩崎基矢。
昨年から、チームKSでGT300にデビューしたレーサー。先日28歳になったばかりで、近年のドライバーとしては遅咲きの部類に入る。しかし、実力派として注目を集めつつある。
また、イケメンレーサーとして女性人気も高く、菊地は“俺の若い頃とそっくり”と言い張っているそうだ。
「菊さんは?」
岩崎は、菊地とまだ顔を会わせていないようだ。
「さっき、出て行きましたよ。車見てくるって言ってました」
美世はそう伝えた。
「そうか……」
やはり、岩崎も表情は固い。なにせ、スーパーGT参戦二年目でシリーズチャンピオン争いに加わっているのだ。緊張するのも、無理はない。
「大丈夫ですよ!! きっと、勝てます!!」
茜は元気づける様に、岩崎に声をぶつける。
「そうだね……。勝つつもりで走らないとね」
岩崎は、ぎこちなく笑った。
AM8:10。
チームKSの参戦マシン。ポルシェ911GT3Rのフラット6に、火が入った。ピット内に、エンジン音が響き始める。暖気を開始し、八時半から始まるフリー走行に備える。
昨年のデータと照らし合わせ、メカニックたちが、迅速にセットアップに取りかかる。
監督兼任の菊地は、エンジニアやチーフメカニック、タイヤサービスの人間と打ち合わせを続けている。
岩崎は、既にレーシングスーツに着替えて、何時でもフリー走行に繰り出せる状態だ。
レーシングドライバーは、レースを速く走る事が求められる。
しかし、それを成立させるには、マシンのセットアップが大きなカギを握る。朝のフリー走行でマシンを仕上げて、予選で好タイムを叩き出せればベスト。
前列からスタート出来れば、勝てる確率も一層高くなる。
つまり、この朝のプラクティスから、勝負は始まっているのだ。
「……」
岩崎は、無言でGT3Rを見つめ、集中力を高める。
「岩崎さん」
まだ私服姿の美世は、声をかけた。
「どうしたんだい? まだ、出番は先のはずだよね?」
「少し、この子の音を聞きたかっただけですよ」
そう言った美世も、ポルシェの流麗なボディを見つめている。
「そう言えば、原田さんはメカニックの仕事もしてるんだよね?」
「はい。車の大体の調子は、音でわかります」
美世は、自信満々でそう言った。
「エキゾーストノートは、車の基本だからね。コンディションにしても、走りにしても」
岩崎はそう追従した。
「……あたしの師匠の受け売りですけどね」
と言いつつ、美世は舌をペロッと見せた。
「そうか……。原田さんから見て、今日のマシンの仕上がりはどう思う?」
「ん~……」
美世は、神経を聴覚に集中させる。フリッピングを続ける、ポルシェ特有のエキゾーストノートを聞き、一言。
「……良い音です。きっと、良い走りできますよ」
「……期待に応えられるように、頑張るよ」
岩崎はそう答えた。
「……岩崎さん。準備は出来ました」
メカニックが、出撃体制が整った事を伝えた。
「じゃあ、行って来るよ」
「はい。頑張ってください」
美世は、黙々と準備に取り掛かる岩崎の後ろ姿を、ジッと見いっていた。
「……わっ!!」
「おおう!?」
突然、後ろから大声を出されて、美世の肩がビクッと飛び跳ねる。
すぐそこには、茜が居た。
「も~……美世さんは、ちゃっかりしてるんだから~」
肘で突っつきながら、茜は美世をおちょくった。
「違うよ~。そんなんじゃ無いって」
美世は、即座に否定した。
「またまた~……。
だけど、解りますよ。岩崎さん、かっこいいし、運転も上手い。そりゃ、あれで結婚してないって話だから、お近づきになりたくなるのは、よ~くわかります」
茜は腕組みをしながら、ウンウンと頷く仕草を見せる。
「だからぁ……そうじゃないんだよ」
「ほほう。だったら、どういう理由なんですかぁ~?」
なおも否定する美世を問い詰める様に、茜は言葉を続ける。
「……波長が凄く合う気がするんだ」
そう呟いた美世の瞳は、鋭い眼光を見せていた。
「……どゆこと?」
何のことやら、茜には理解出来ない様だった。
スーパーGT第7戦 リザルト
エントラント:チームKS
マシン:KSポルシェGT3R
予選:7位
決勝:4位(+34.472)
夕暮れのオートポリス国際サーキット。チームクルー達は、ピットの片づけを始めて、撤収の段取りを開始した。
つい二時間前まで戦場であったサーキットは、帰宅に向かう観客達の声が少し聞こえる程度まで、静かになっていた。
「あ~……表彰台までもう少しでしたねぇ」
茜は残念そうに言った。
「惜しかったよね。だけど、8ポイント獲得だから、まだチャンピオンの可能性は残ってるよ」
そう答える美世も、どこか悔しそうだった。
「お疲れ、お二人さん」
菊地は、二人の後ろ姿を見つけた様で、声をかけてきた。
「監督、お疲れ様でした!!」
茜は、夕方でも元気満点だ。
「お疲れ様です。表彰台まで、もう少しでしたね。惜しかったです」
美世は、率直に感想を述べた。
「まあな。だけど、途中で黄旗が出てセーフティーカーが入っただろ?
あれのお蔭で、順位を上げる事が出来たからな。結果的には、4位に入れてむしろラッキーだったよ」
監督らしく、今回の結果をきっちり分析していた。
「そうだったんですか……。チャンピオンは取れそうですか?」
今度は、茜が質問をぶつける。
「さっき取材でも聞かれたけどな……。正直、難しい所だ。
ランキングトップとは、12点差のシリーズ3位。もでぎで2位以上がに入るのが最低条件だが、全チームノーハンデになる。
そうなると、最終戦に勝って初めてチャンピオン争いに加われるって所だ。
勿論、どのレースも勝ちには行ってるが……。最終戦は、本当に勝ちたいな」
しみじみと語る菊地の表情には、不安と心配が浮かんでいた。
「お疲れです」
今度は、岩崎が三人の元にやってきた。三人とも、岩崎へ視線を向ける。
「おう、お疲れ」
真っ先に、声をかけたのは菊地だ。
そして、次の瞬間
「……あー!!」
茜は、突然大声を張り上げた。
「どうしたの?」
美世は、反射的に茜にそう言った。
「あたし、監督に聞きたい事があったんだ!!
ちょっと、こっちに来てくださいよ!!」
茜は強引に菊地の腕を掴み取って、そのまま引っ張りだした。
「お、おい!? 何だよ!?」
何が何だかわからないまま、菊地は茜に引きずられていった。
二人はコントのような光景を見て、残された二人は呆然とした。
「……何なんだ?」
岩崎は、首を傾げてしまう。
「あたしも良く解りません……」
美世も、同じく途方に暮れたような様子だ。
「えっと……改めてお疲れ様です。岩崎さん」
「ありがと。中々、しんどいレースだったよ。結果だけ見れば悪くは無いけど、運に助けられた所は多いしね」
岩崎の表情は、安堵の色を浮かべていた。
「でも、最後の10週の追い上げは凄かったですよ。抜けなかったですけど、皆注目してましたもん。
きっと、最終戦も良い結果が出せます」
美世は満面の笑みを見せて、親指を立てるジェスチャーを作った。
「あんまり、プレッシャーかけないでくれよ。
だけど、もてぎとポルシェは相性がいいからね。チャンピオン争いも有るし、当然勝ちにいくさ」
岩崎も、親指を立ててそれに答えた。
「そう言えば。原田さんは、R33に乗ってるんだっけ?」
岩崎は、突如思い出した様に聞いた。
「はい。自慢の愛車です」
美世は、少し照れ臭そうに言った。
「……いいね。RB26は、俺も一番好きなエンジンだよ。あの直6のサウンドと、一気に吹け上がる感覚は、他のエンジンじゃ絶対に味わえないフィーリングだからね」
そう語る岩崎に、美世は少しピンと来るものがあった。
「岩崎さんも、GT-Rに乗ってたんですか?」
「……まあね。R34のGT-Rに乗ってた。
まだ、中学の頃かな。星野一義が乗る、青いGT-Rに憧れたからね。勢いだけで、買って乗ってた。
GT-Rに乗ってるだけで、自分が世界一速くなったんじゃないかって。そう思う位に舞い上がってたよ」
「R34……カッコイイですよね。今でも持ってるんですか?」
「……一応ね。だけど、乗る機会は暫く無いと思うよ」
岩崎が、少し複雑そうな顔を見せた事を、美世は見逃さなかった。
「そうですか……」
「……だけど、時が来ればまた乗る事になるだろうね」
そう呟いた時。岩崎の視線は、刀の様に鋭く尖っていた。
「…………」
その視線を浴びた時、美世は何も答えられなかった。
何故、2chに投稿した作品をこちらでも投稿するのか?
理由は簡単。小ネタに気が付いた人が皆無だったからです。