首都高のシンデレラ   作:囃子とも

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六章 ダイングスター

 美世とプロデューサーは、ダイングスターグループの本社ビルへ、営業に来ていた。

 ダイングスターグループと言えば、関東を中心に50以上の店舗を構える、パチンコグループである。他にも、レジャー施設や観光会社の経営も行っているが、大黒柱はパチンコ店の経営になる。

 346プロダクションとの関わりは深く、所属アイドルを各業種のイメージガールに抜擢したり、テレビのCMに起用する等、その恩恵は計り知れない。

 また、346プロのメインスポンサーとして支援している事も付け加えておく。

 美世も、ダイングスターグループのイメージガールとして、起用されている一人。営業に訪れるのも当然だ。

「はい。今後とも、原田をよろしくお願いします」

 広報担当者へ頭を下げる、プロデューサーと美世。しかし、その打ち合わせも程々にして、次に二人が向かうのは社長室だ。

 本来、営業で社長と顔を会わせる事は無い。普通は広報を通じて行うのだが、美世だけは例外だったりする。

 

 最上階の社長室のドアを、二回ノックする。

「どうぞ」

 中から、秘書が返事をした。

「……失礼します」

 ドアを開けると、高級そうな革張りのソファーに座るスーツ姿の体格の良い男性は、立ち上がって出迎えた。

 立ち上がったその姿は、体格が良いと言うだけでは、言葉が少し足りない。

 なにせ、身長195センチ、体重140キロという巨大な体躯。オールバックに髪を整えるその姿は、どこその組の若頭か、プロレスラーとしか例えられない。

 ヘラクレスの如きこの男が、ダイングスターグループの社長である。

 魚住静太。若干35歳にして、総合レジャー事業の社長を務める実業家である。

(……相変わらず、すげえ威圧感。

 そういや、武内が『他の人を見上げるのは子供の時以来です』とか言ってたな……)

 プロデューサーは、そんなやり取りを思い出しながら、魚住の迫力に圧倒されてしまう。

「どうもです、魚住さん♪」

 しかし、美世は割と軽いノリだった。

「久しぶりだね。原田さんに、プロデューサーさん」

 魚住は、歓迎する様に強面な顔に笑みを作っていた。

「まー、座って楽にしてよ」

 社長と言う肩書を持つ割に、随分とフランクな態度を見せる。

「八月に、筑波で走って以来ですね。GTOの調子はどうですか?」

 美世は、我先にとばかりに、そう切り出した。

「ボチボチって所だね。冬には、Sタイヤで1分フラットに持ってきたい所だな」

 車の話題を振られて、魚住は楽しそうに答えた。

 実は、美世と魚住は、サーキット仲間なのである。

 

 魚住自身カーマニアであり、GTOを5台も乗り継いでいる、生粋のGTOマニア。

 三菱車の愛好家の中では、名前が知られている男だ。

「でも、魚住さんのベストは、1秒台ですよね? あたしは、まだSタイヤで3秒切った事無いですし」

「そりゃ、経験が違うからね。これでも、筑波は十年以上走り込んでるんだ。二十歳で3秒台まで出せるんなら、十分すぎるよ」

 美世は謙遜するが、魚住は美世のテクニックに太鼓判を押していた。

「どうだい? また、来週あたりにでも……」

「……社長。生憎ですが、暫くは予定を空ける事は出来ません」

 魚住に待ったをかけるのは、隣に立つ秘書だった。

「……ゴルフより、サーキット走った方が面白いんだけど?」

「なりません」

 願いもむなしく、秘書はバッサリと切り捨てた。

「……残念ですけど、持ち越しですね。でも、一緒に走る機会を楽しみにしてますよ」

 美世は、そうフォローを入れた。

 

 一旦咳払いして、魚住は別の話題を切り出した。

「それはそうとして……。

 所で、プロデューサーさん。和久井は元気にやってるか?」

「留美さんは、隣の落ちこぼれと違って、アイドルとして順調に成長してますね」

 プロデューサーの言葉に、美世は頬を膨らませる。

「そうか……。ま、彼女の能力はこっちとしても惜しかった。ただ、本人の意思を尊重すればこその結果だからな」

 魚住はそう語った。

「ええ。最近は料理と、野良猫を窓越しに餌付けする事がマイブームって、本人は言ってました」

 プロデューサーの言葉に、魚住は晴れた表情を見せていた。

「理由はさておき、彼女が元気なら何よりだ」

 346プロの所属アイドルの一人である、和久井留美。彼女は、一年前までは魚住の秘書だった。

 何故、秘書を辞めてアイドルに転身したかは、未だに本人の口からは語られていないようだ。

「……お、そろそろ昼時だな。良かったら、一緒に食事でもどうかな? 折角だから、御馳走するよ」

 魚住から、そう打診される。

「……良いんですか?」

 美世の目はキラキラと輝く。

「勿論。いい機会だからな。プロデューサーさんも、そう思うだろ?」

 魚住は、プロデューサーに同意を求める。

「いや~……なんかすいません」

 プロデューサーも、好意に甘える事となった。

 

 高層ビルの最上階に店舗を持つ、都内の高級焼き肉店。

 美世とプロデューサー、そして魚住と秘書。四人は、窓際から街を見下ろす、絶好の席に座ったが。

(……高っ!?)

 メニューを見ながら、美世は言葉を見失う。普段行く焼き肉店の、三倍以上の値段が書かれているだから、無理も無い。

「……」

 プロデューサーも、何を頼んで良いのか、戸惑うばかりだ。

「すいません。ウーロン茶四つと……黒毛和牛のタン塩と上カルビを五人前づつ。それと……」

 魚住は、惜しげも無く高いメニューを注文する。おまけに、一人で二人分食べるつもりだろうか。

「俺ってさ、車の燃費以上に人間の燃費が悪いんだよな」

「……そ、そうですか」

 美世は、乾いた笑いしか出てこなかった。

 

 談笑を入れつつ、ランチを満喫する。

 そして、話題は何時しか、ある話題に踏み込んでいく事になった。

「……そう言えば、魚住さんも首都高ランナーだったんですよね?」

 美世は、その話題を切り出した。

「……美世!!」

 プロデューサーは、制止するべく声を荒げた。

「…………」

 テーブルは、一瞬にして静まり返った。

「……すいません。変な話題を出して」

 プロデューサーは、そう断るが。

「いや……事実だから、仕方ないさ」

 魚住がそう答えた時、その目付きは鋭くなっていた。

「……」

 プロデューサーは、その迫力に圧倒され、何も言えなくなっていた。

 そして、魚住はゆっくりと、口を開いた。

「……何年か前。首都高速は、走り屋達で賑わっていた。今では、首都高全盛期って呼ばれた頃の話だ。当然、俺も毎晩の様に走ってた。

 首都高最速を目指して、GTOを仕上げて攻めてたよ」

「……首都高最強のGTO使い“ダイングスター”。その正体が魚住さんなんですよね?」

 美世の問いに、魚住の首は縦に動いた。

「ああ。その辺は、内藤に聞いた事あるんだろ?」

「……はい」

「話を続けるよ。

 チームを組んで、最速を狙った走り屋も居れば、徒党を組まない一匹狼の走り屋も居た。

 勿論、速い奴は必然と名前が売れてくる。そうなれば、その走り屋を倒して、自分の名前を売る。そんな理由で、毎週バトルが繰り返されてた。

 そんなある夏の日だ。

 それまで、首都高のトップランナーだった走り屋を、次々と撃墜していく蒼いR34が現れた。

 名だたる走り屋を、あっさりと置き去りにしていく。丸で、悪夢でも見てるかと思う位に速かった。俺も、他のトップランナーも、何度も挑んだ。だけど、追い付く事は一度も出来なかった。

 一部のフリークには、首都高の不敗神話って今でも語られる。そのGT-Rの走り屋は、何時からか“迅帝”と呼ばれるようになった……」

「…………」

「迅帝が姿を見せる様になってから、首都高の走り屋達のバトルは激しさを増して行った。

 そのバトルの中で、勝ち続けた走り屋達は、十三鬼将(サーティンデビルズ)と呼ばれるようになった……。

 もっとも、徒党を組んでいる訳でも無いし、他の連中と仲良くする気も無かった。十三鬼将の中で、交流が有ったとすれば、打倒迅帝の為の情報交換くらいしかない。

 その中で、迅帝撃墜にもっとも近い四人の走り屋は四天王と謳われた……」

「……ダイングスター、追撃のテイルガンナー、シャドウアイズ……そして夢見の生霊」

「その通り……。

 飛び抜けた速さを持ち、その上でキャリアも長い。そして、チューニングカーの王道であるGT-Rに負けない。だからこそ、俺達は四天王って言われたんだ」

 当時の記憶を回顧する、魚住の表情は凄みを増していく。

「だが……結局のところ、迅帝の前に出た走り屋はついに現れなかった。

 仮に、四天王が手を組んで居たとしたら、結果は違ってたかもしれない。だけど、当時の俺達にそんな事を考える余裕は無かった。

 自分が一番速い。自分が迅帝をぶち抜く。それしか頭に無かったからね……。

 そのまま、一年も経たない内に、迅帝の姿を見る事は無くなってた……。その尻尾は結局捕まえる事は出来なかった……」

 そこまで語ると、肉の乗っていない網がパチパチと音を立てていた。

 

「そして、迅帝が消えてしまった首都高にも、不穏な空気が漂い始めた……。

 王者の不在により、首都高は群雄割拠。元々首都高を走っていた連中は勿論。各地から遠征してくる走り屋も出てきた。

 首都高最速を目指して、走り屋達はヒートアップしていった。そうなれば……マナーの悪化、事故、派閥争い……そして抗争。エスカレートし続けた走り屋達は、もう誰も止められない所まで行きついてた。

 その頃には、うんざりしてたよ。名前を上げたい走り屋に、付き纏われるだけ。そいつらと走ってる時には、体が冷めていくのが解った……。

 迅帝を追ってる時や、他の十三鬼将とバトルしてる時は、体が芯から熱くなってたのにな……。熱くなれないバトルをする気は無い。だから、俺は首都高を降りたんだ……」

「…………」

「俺が降りる直前には、首都高は荒れ切ってた。

 走りの舞台が無法地帯となれば、警察の取り締まりも強化していく。走り屋が、首都高から締め出されるのも無理は無い。

 結局の所、自分達のステージを、自分達で壊してたのさ……俺を含めてね。

 これが、首都高全盛期の終焉さ……」

 

 魚住の口から聞いた過去の話。美世は神妙な面持ちで、何を思うのか。

「……ま、今となっては昔話だ。もうそこまで本気で走る奴は、殆ど居ないし、走る事も難しい。

 そもそも、今の俺にはそこまで時間を作る余裕も無い。

 もし、原田さんにまだ首都高を走るつもりがあるのなら……それ相応のリスクが有る事は肝に命じてほしい。

 命を失う事も、信頼を失う事も、簡単に起こり得る事だからね。少なくとも、君はまだ引き返せるんだ」

 魚住は、そう忠告をした。

 激戦を潜り抜け、繁栄と衰退を見てきた強者からの忠告。何も言い返せない美世は、うつむいていた。

 

「ま、しょうがない話もここまでだ。肉も残ってるし、焼いて食べよう」

 魚住は、少なくなった肉を、網に並べる。

「社長。マロンパフェを注文してよろしいでしょうか?」

「……構わないぞ」

 秘書に聞かれ、魚住はオーケーを出した。インターホンを押すと、すぐさま店員が駆け付けた。

「すいません。マロンパフェ五つ下さい」

 秘書の注文と、テーブルの人数は、またもかみ合っていなかった。

 

 数分もすると、残った肉は魚住が全て平らげていた。

「原田さん。

 もし、迅帝の正体が知りたいのなら、ファクトリーFUJIってショップに行ってみると良いかもしれない」

 魚住の助言に、美世はうつむいた顔を上げる。

「……そこの代表の藤巻さんは、俺達よりもベテランの首都高ランナーだった。もしかしたら迅帝の事で、何かを知ってるかもしれない」

 そう告げた時、美世の表情は引き締まっていた。

 結局、ランチは微妙な空気のまま終了してしまった。ちなみに、五つマロンパフェの内の三つは、秘書の胃袋に収まった。

 

 その日の夕方。

 自家用車を持っていないプロデューサーは、歩きで内藤自動車を訪れた。

「こんばんは……」

 半開きのシャッターを潜り、ガレージに入ると、内藤はワゴンRのクランク角センサーにタイミングライトを当て、点火タイミングを調整していた。

「はいよ。ちょっと待ってくれ……」

 調整を終わらせると、エンジンを止めて軍手を脱ぎ捨てた。

「歩きでうちに来るなんて、珍しいね。呑みのお誘いか?」

 内藤は笑いながらそう言ったが、プロデューサーの顔付きは固い。

「いえ……。ちょっと、美世の事で相談が有って……」

「……ほう」

 内藤の表情は、目の色は切り替わった。

 内藤は備え付けの自動販売機で、ホットコーヒーを二本買って、一本をプロデューサーに手渡す。

「……どうも」

 プロデューサーは礼を述べるが、声のトーンは低い。

「ま、大体言いたい事は解る。

 美世に首都高を走る事を止めさせたい……だろ?」

 内藤はズバリと言い当てた。

「……はい。

 本音を言うなら、車で走らせる事も控えさせたい位ですよ。だけど……美世は、車をかまってる時や、運転をしている時が、一番イキイキしてるんです。

 そこまで制限するのは、美世にとって酷でしょうし……」

 プロデューサーの言葉には、葛藤が垣間見えた。

「……だろうな。アイツ、初めての愛車を全損させた時とか酷かったもんな……。

 R32のタイプMだったけど、筑波の最終コーナーでひっくり返ってさ。子供みたいに泣いてたってのを、良く覚えてるよ」

 内藤は懐かしむ様に言った。

「……見習い期間が終わって、俺がプロデューサーとして一人立ちしてから、一番最初に見出したのは原田美世なんです。

 たまたま、立ち読みしたレース雑誌に、カートレースの記事があって。その中に、美世の事が掲載されてたんです。

 当時は、まだ中学生でしたけど……磨けば光るって気がしたっていうか。こう……ピンと来たんです」

「…………」

「彼女をスカウトして、アイドルになると言ってくれた時は、正直嬉しかったです。

 ……想像してた十倍はお転婆というか、じゃじゃ馬でしたけどね……」

 プロデューサーの口元は、少し笑みを作っていた。

「……そりゃ、プロデューサーさんの言い分も解らんでも無い。

 ただな……止めろって言われて止めれるなら、最初からやってねぇ。或いは、とっくに止めてる。

 そりゃ常識的に言えば、アイドルが公道で暴走行為をしてる時点で間違ってる。

 俺にも原因は有るけどな……」

 そう言って、内藤はコーヒーのプルタップを空けた。

 

「……例えばの話だ。仮にプロデューサーさん自身が、担当してるアイドルに。セックスを求められたとしよう。その時、あんた自身は我慢できるか?」

「……そりゃ。我慢するしかないでしょう」

 その問いに、プロデューサーはそう答えたが。

「……言い切ってやるよ。それは、無理だ」

 しかし、内藤は断言した。

「何故言い切れるんですか……?」

 プロデューサーは反論とばかりに、言葉を出す。

「あんたより十年は長く生きてる、アイドル好きのおっさんからの忠告だ。

 セックスって気持ちの良いもんだ。まして、アイドルとセックスするのなら、その背徳感がたまらなく病み付きになる。

 テレビで、愛想を振りまいてるアイドルが、自分の目の前で滅茶苦茶に乱れてる。やってはいけない事を、やってる時の気分は最高だろう。

 自分自身でも、ヤバいって思った事は、何回かあるだろ?」

「…………ええ。正直な所は、ありますよ」

「……もし、一歩でも堕ちれば最後。その快楽の虜になって、ズルズルと引きずって……もう一回、あともう一回。そんな事を繰り返すようになる。

 それが、どんなに悪い事だって解ってても、欲望には勝てねぇ。それこそ、泥沼だ」

「…………」

「美世も同じだ。スピードって麻薬にどっぷりと浸かってる。1kmでも速く。1メートルでも前に。終わりの無いゲームに、のめり込んじまってる。

 その快楽を体が覚えちまって、我慢が出来ない。

 だとしたら、だましだましその快楽と、上手く付き合っていくしかねぇ。それが、最善の方法だ」

 そこまで言うと、内藤は温くなったコーヒーを一口飲んだ。

「……元も子も無い考えですね」

「まぁな……。

 でもよ。首都高を走る事を正当化するよりは、自分がイカれてるって自覚が有った方が良い。美世自身は、自分が狂ってる事を理解して、その上で器用に立ち回ってる。

 アイドルとして売れてないって事も、逆に言えば意図的に抑えてるんじゃねぇの?

 下手に名前が売れて、自分のせいで事務所の顔に泥を塗る羽目になる。そうならない様に、予防線を張ってるんだろ」

 内藤の助言は的確だった。実際、プロデューサーの身に覚えの有る事も多い。

「世の中、上手く作られてるもんでな。体に悪い物ほど美味い物にして、教養に悪いこと程面白くしてある。

 だから、人は狂う。俺はそう思ってる」

 そう言うと、内藤はコーヒーを一気に飲み干した。

「内藤さん。一つだけ、教えてください。

 美世は、首都高に何を求めてるんですか?」

 プロデューサーに聞かれ、内藤は少し考える素振りを見せた。

 そして、タバコをくわえて、火を点ける。一口目の煙を吐き出してから、こう言った。

「……解らん。ただ、あいつは行きつく所まで行かなきゃ、気が済まないタイプだ。

 何かを求めてるとしたら、自分の限界を求めてるのかもな……」

 そう言い切って、内藤はタバコをもう一口吸い込んだ。

(……美世)

 コーヒーの蓋を開けないまま、その場に居合わせない担当アイドルの顔を思い浮かべる。

 プロデューサーの胸は、締め付けられるように痛くなっていた。

 

 ダイングスターグループ、本社ビル。

「……明日は、重役会議か。面倒だな」

 明日のスケジュールを確認し、魚住は憂鬱な面持ちを作っていた。

「仕方ありません。我慢してください」

 秘書は、淡々と言いのけた。

「……なあ、黒江。

 原田さんを見て、どう思った?」

「それは、秘書の黒江世津子として答えるべきですか?

 それとも、ユウウツな天使と呼ばれてた、走り屋としてですか?」

 秘書は、ポーカーフェイスを保ったまま聞き返す。

「それは、走り屋としてに決まってるさ」

 魚住の言葉に、ためらいは無かった。

「そうですね……。

 社長は、止めるべく助言をしたんでしょうけど、彼女は止まりませんよ。間違いなく、そういうタイプです。

 そもそも、彼女のすぐ身近に、未だに降りていない走り屋が居るんですから」

「……そうだよな」

 魚住は、何かを考えている様だった。

「少なくとも、何か切っ掛けが有れば、降りる事は出来るかも知れませんよ。私や社長と同じ様に……」

 秘書の言葉に、魚住は何も答えなかった。

 

 そして、秘書はある疑問を投げかけた。

「ところで、社長。何故、藤巻氏のショップの事を教えたのですか?」

「……恐らく、彼女は迅帝の事を追う気がした。

 だとしても、首都高を走った所で、迅帝を見つける事は出来る訳が無い。それだったら、首都高を一番長く走っていた、走り屋の元へ行かせるべきだと思っただけさ。

 藤巻の親父は、俺が首都高を走り始めた頃に、既にベテランの走り屋だった……」

「パープルメテオ……。

 首都高の歴史そのものを見てきた、最古参のGT-R使いですからね……」

「それに、原田さん自身もGT-Rに乗ってる。

 迅帝に繋がるヒントが無かったとしても、彼女にしてみればメリットは大きいさ」

 魚住は、そう締めくくった。

 

 美世は、自室でスマホをいじくっていた。

 検索するキーワードは、ファクトリーFUJI。魚住に教えられた、レーシングガレージの名前だ。

(……ファクトリーFUJI。92年から、レース屋としてマシンを制作してる。

 特に、R33で参戦していた、N1耐久車両には定評が有った。

それ以外にも、GT-Rのチューニングカーも手掛けてた……)

 画面に映るのは、紫のR32GT-R。各地のサーキットのタイムアタックで、名を馳せたファクトリーFUJIのデモカー、と書いてある。

(……仕事が落ち着いたら、一回行ってみよう)

 そう決めて、スマホをスリープ状態に。

 美世本人も、気が付いたらスリープ状態となっていた。

 

 

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