「裏」ポケモンバトル   作:星の海

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色んな意味で生々しいポケモンバトルに憧れて書いた作品です。


1話 トレーナー失格

煤けた外壁を持つ石造りの建物が乱立する間を縫う様に張り巡っている、最早原型を留めていない程に風化したガラクタや異臭を放つ生ゴミの入った袋が棄てられている薄汚れた裏道の一本を、二人の男が荒い息を吐きながら走っていた。

 

男達の格好はあちこちがほつれ、汚れの染み付いたジャンパーに色褪せたジーンズ。顔には無精髭が生え、長らく手入れがされていないのであろうボサボサの頭髪はフケが浮いている。垢地味て薄汚い、路地裏のチンピラといった風体である。

ただ一つ、細い道の右側を走る背の高い方の男が小脇に抱えている、重厚でいかにも頑丈そうなジュラルミンケースが、浮浪者一歩手前といった出で立ちの二人に対して余りにそぐわってなかった。

 

「…!、……糞、糞が!!追っ手が掛かるのがこんなに早いなんざ、聞いて無えぞ!?」

「じゃあ何に聞きゃあ解ったってんだぁ、ンなモンは!?もう()っちまってんだよ俺達は!、何が起きようが逃げるしか無えんだよグダグダ抜かすんじゃねえ!!」

 

足元のゴミを蹴散らし錆びた自転車を飛び越えながら、背の低い方の男が怒りの中に怯えの混ざった甲高い声音で悪態を吐き、ケースを抱えた背の高い男が苛立たし気に怒鳴り返す。

 

「大体ここらの裏通りは道が入組み過ぎていて空を飛ぶポケモンは役に立たねえ!此処らの地理を俺達以上に解っている奴なんざ居やしねえんだ、このまま()に逃げ込めばいいだけだろうが!?あんなガキ一人にビビってんじゃねえよ!!」

 

「ざぁ~んねん、その目論見は既に前提条件が間違ってるんだなぁチンピラ共」

 

男の言葉が終わった直後、まるでタイミングを伺っていたようにまだあどけなさを残した少年の声が響き渡り、二人の男は小さく身を震わせて身体を急制動し、慌てて背後を振り返る。

いつの間に現れたのか、細い路地の中央には齢15を越えるかどうかといった年齢の、どちらかといえば小柄な分類に入るであろう一人の少年が佇んでいた。暗緑色のカーゴパンツに黒いパーカーと、垢抜けはしないがしっかりとした造りの清潔な衣服を纏った何処にでも居そうな普通の少年らしいその風貌は、一見してうらぶれた路地裏でアンダーグラウンドに片足以上を踏み込んでいるであろう男達に相対するには不釣り合いに見える。

しかし、幼さを残した容貌(かお)に似合わずその少年はいっそ獰猛とすら言える好戦的な笑みを浮かべており、焦燥と微かな怯えを痩せた犬の様に歯を剥いて表す男達を半ば呑み込んでいた。

 

「っ!てめえ、どうやって……!?」

 

相棒(・・)にしがみついてだよ、お前等の勘違いがそれだ。人乗せて時速ウン百kmって速度で大空(そら)を舞う生粋の飛行タイプならお前等の考えは間違って無いんだろうけどな?生憎俺の相棒は飛ぶって言っても精密機動(・・・・)が売りだ。最大速度で鳥共に負けてもこんな狭っ苦しい裏道でお前等みたいな泥棒追いかけんのは十八番って訳だ」

 

吠える様に尋ねてくる男の片割れに軽い調子で少年は答えつつ、懐から赤と白の二色に染め分けられた掌程の球体ーーモンスターボールを取り出した。

 

「さてさて、このまま雑談重ねて応援と糞ったれの黒狗(・・)共待っても俺は全然構わねえんだけど、まあお前等はご免だわな?ってな訳で提案だ。……大人しく盗んだ金返して失せやがれ、店側も金さえ返ってくれば文句は無いだろうし、狗共の追跡も盗品(ブツ)さえ持ってなきゃ逃れられるかもしれねえぞ?どうせ逃げ切れやしねえんだし、今更投降しても犯罪者の扱いはこの糞ったれた街じゃあ変わらねえ。だったら俺は手間が掛からない、お前等ももしかしたら逃げられる、ってWinーWinな道を選ぼうぜ?」

 

ボールを手の中で弄びながら少年が放った言葉に、男達は引き攣った笑みを浮かべた。

それは正しく追い詰められた生物が行う自暴自棄にも似た最後の悪足掻き、猫に甚振られた窮鼠と同種の鬼気を窺わせる笑い顔である。

 

「…生憎だなガキ。俺達にとってはもっと美味い話があるぜ……?」

「……はぁ〜………そーかい」

 

背の低い方の男が後ろ手に手を回しながら唸る様に吐き出した言葉に、少年はその美味い話(・・・・)の答えを既に予期している様子でゲンナリと溜息を吐きながら気怠げに促した。

 

「どうせ取っ捕まっての扱いが変わらねえなら、てめえをぶちのめしてこのまま逃げた方が良いって事だわなぁぁぁっ‼」

 

背の高い方の男が剥き出しの殺気と共に吠え立てながら、背の低い方の男とほぼタイミングを同じくしてモンスターボールを投げ放った。

 

「そこのガキを半殺しにしろ、アイシー‼」

「潰しちまえメタゴ‼」

 

ボールから放たれるは人ならぬ姿形の異形のモノ。

この世界で人と共に生きる、超常的な力を振るう隣人にして脅威の存在ーーポケットモンスター、略してポケモンと呼称()ばれる生き物だ。

 

路上に現れたのは人間を卵状にデフォルメして白い体毛を生やした様な矮躰の雪男に、全身が金属の鎧で覆われた巨大な蜥蜴の如き鋼の四足竜。狭い路地裏の通路を完全に塞ぎ、唸り声と咆哮を上げる2匹を前に、少年は目を細めながらポツリと呟いた。

 

「…確かユキカブリに、コドラか。タイプは雪/草に鋼/岩、だったな………」

 

季節は4月の終わり、温暖湿潤なこの国では春先の麗らかな暖かい空気が先程まで辺りに充満していた。

しかし、男達のポケモンーー正確にはユキカブリが現れたその瞬間から周囲の気温は肌寒ささえ感じる程に低下し、挙句に雪の様な白いものが宙にチラつき始める。

一つ、二つと地面に降り注いだ小さな氷の礫ーーあられ(・・・)が黒い染みと変わったその時には、鈍重そうな外見に反して素早い動きにより、短い四肢で地面を蹴立てたコドラが猛然と脆い石畳を削りながら少年に向って突っ込んでいた。

 

「メタゴォ!メタルクローだ‼」

 

背の高い方の男の指示に怪獣の如き短い咆哮で答えたコドラは、その前脚に生え揃った鋭い金属の爪を一層鋭く伸長させて一息に少年へと飛び掛かる。

 

「……躊躇いもせずポケモンに人襲わせるかよ。チンピラ以下だなてめえ等は」

 

「粋ってんじゃねぇよ糞ガキがぁ!」

 

鋼の鉤爪という脅威が眼前に迫る中、少年は不自然な程に落ち着き払った様子でボールを軽く掲げながら開閉スイッチを押した。

 

「行け、穿(うがち)

 

ボールが開き、光が溢れた瞬間。

矢の様な勢いで残影しか視認出来ない何か(・・)が飛び出し、コドラの顔面に着弾した。

ガギン!という金属同士が擦過する様な甲高い音が路地裏に響き渡り、斜めに軌道のそれたコドラが少年の脇を掠めて石壁に衝突、小規模のクレーターを形成する。

コドラを弾いた影は尚も高速で路地裏を一直線に飛翔し、ユキカブリへと突き進んだ。

 

「っ!?アイシ…」

 

「遅え。穿……」

 

少年は片頬を歪めて笑みを作り、己がポケモンへ高らかに指示を送った。

 

ダブルニードル(・・・・・・・)!!」

 

「っ!?」

 

ユキカブリの身体が突進して来た影に突き上げられ、その影が腕の代わりに生やした一対の巨大な針に胴体を串刺しにされたまま路地裏の宙を舞う。ユキカブリはそのまま空中に壁から突き出していた空調の室外機に叩き付けられ、磔となった。

 

「イ、イョイョ……!」

 

一撃で瀕死に近いダメージを負ったらしく、弱々しい鳴き声を力無く藻搔きながら上げるユキカブリだったが、その胴体に両手の針を突き刺している巨大な()はその哀れみを誘う姿に対して欠片の躊躇も無く、少年の指示に従い(とど)めに入る。

 

「止め針」

 

その蜂は一息に両の針を引き抜き、衝撃で仰け反るユキカブリの喉元へ再度右手の針を突き立てた。

 

「おい、アイシー!?」

「……ィョ、ィョ…………!」

 

背の低い方の男の呼び掛けに消え入りそうな小さい鳴き声を1つ返して。

ユキカブリは針を引き抜かれ、地上へと落下して動かなくなった。

 

 

「お、おい、巫山戯んなよ!?何やられてんだよあんな虫ポケモンに!!」

「おいてめえ何やってんだよ!?さっさと片付けて逃げなきゃ糞狗共が来ちまうんだぞ!?」

「五月蠅え!!元はと言えばてめえのウスノロがスカされっからこっちにお鉢が回って来たんだろうが!?」

「ンだとてめえ!?」

 

「見苦しい聞き苦しい仲間割れは捕まったあと臭い牢屋ででもやってくれよチンピラ以下共」

 

ユキカブリの元へ跪き、乱暴にその身体を揺さぶりながら怒鳴る背の低い男に、早くも戦力の一体を無くした事で焦燥も露わに叫ぶ背の高い男。何時の間にか随分な距離を後退していた少年は、己の傍らに蜂を呼び寄せながら溜息混じりに男達へと告げる。

 

「伊達に1人であんたら追い掛けた挙げ句に取っ捕まえようなんて考えちゃいないんだ。今からでも大人しく捕まれば痛い目だけは見ないで済むぞ?」

 

降伏しろよ降伏。と、気怠そうに呼び掛けて来る少年へ、背の高い男は慌ててコドラを己の側へ呼び戻しつつ錯乱気味に言い放った。

 

「て、てめえ何だそいつは!?虫ポケモンじゃねえのか、俺等のポケモンは推定レベル30オーバーだぞ!?いくら相性が良いからって虫風情が一撃で、こんな……!!」

「あー流石にタイプ相性位は知ってるか。に、しても虫風情(・・)ねぇ………」

 

相も変わらず馬鹿にされてんなぁ、お前は。と、少年は傍らの穿と呼称()んだ蜂へと語り掛け、それに対して穿は頭を軽く左右に振ると共に両の針を軽く掲げた後に開くという、人であるならば肩を竦めたかの様な妙に人臭い仕草を見せる。

 

「こいつの種族名はスピアー(・・・・)。タイプは虫/毒、お前の言った通りありふれた虫タイプのポケモンだよ。推定レベルは最近見てもらって無いからはっきり解らないが大体60後半(・・・)って所だろ。瞬殺の理由に納得いったか?」

 

「……………は、ぁ………………!?」

 

少年の言葉に、男は凍り付いたかの如く動きを止めた。ややあって纏わり付く何かを振り払う様に腕を大きく振るい、ヒステリックな高い声音で喚く。

 

「は……!ハッタリならもう少し現実味のあるものにしやがれガキが!!レベル60代のポケモンなんざ、この国のトップリーグでもそうそう持っちゃいねえぞ!?」

 

「別に信じようが信じまいがどうでもいいけどな、俺はただ親切に教えてやっただけだ」

 

じゃ、まあ覚悟はいいか?と少年は傍らのスピアー、穿と共に前に出る。

背の高い方の男はよろける様に数歩後退り、血走った目で少年と己のポケモン(コドラ)へ視線を数度往復させた後、震える声で叫んだ。

 

「メ…メタゴォ!鉄壁だぁぁっ!!」

「ギャォアアアアァッ!!」

 

コドラは主の名に即座に応え、全身の板金鎧が如き金属を発達させると共に仄かな光を帯びる。

 

「……何の真似よ?」

 

「決まってんだろうが!!てめえ等をぶちのめす為の準備だよぉっ!!」

 

怒鳴り散らす背の高い方の男に、ユキカブリの傍らで跪いたまま呻いていた背の低い方の男が慌てた様子で呼び掛ける。

 

「お、おい!?そ、そのガキのポケモンはレベルがハッタリにしても俺のポケモンをほぼ一撃で瀕死に出来んのは確かなんだぞ!!殺り合ったって勝ち目は無え、さっさと逃げ……!」

「この状況で尻向けて逃げられる筈が無えだろボケが!!多少レベルが上だろうがあのガキのポケモンは虫タイプだ、俺のメタゴは鋼と岩の複合タイプだぞ!毒は効かねえし虫タイプのチンケな攻撃でダメージが通る訳が無え!!相性で勝ってんだ、このまま潰してやるからてめえは役立たずのそいつと転がってろ!!」

 

未だに引き攣った表情ながらも、男なりに状況を把握する事で余裕が生まれてきたのか、背の高い方の男は少年へと指を突き付け、嘲りを込めて言い放つ。

 

「どうやら多少はポケモン鍛えちゃいるみてえだがトレーナーとしちゃ半人前だなガキぃ!!バトルには相性ってもんがあるんだよ、てめえのチンケな蜂が俺のメタゴに敵うとでも思ってんのかぁ!?」

 

「…トレーナー……ねぇ…………」

 

少年は男の言葉を耳にして、それまでの気怠気な表情を僅かに険しいものへと変える。

 

「ベラベラ五月蠅えよチンピラ風情が。とりあえずあれだ、癇に障ったからお前等無傷じゃ捕まれねえぞ?」

 

「ほざいてんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 

背の高い男は腕を振りたくり、コドラを再度少年へと突っ込ませた。

 

「アイアンヘッドだメタゴォ!!」

「ギャォァァァッ!!」

 

男の指示に一声鳴いたコドラが突き進む軌道は、空中に浮く穿では無く少年のいる直線上。

 

「ゲスが」

 

少年は吐き捨てる様に呟くと、右手を軽く手前に振る。その言葉ならぬ指示を傍らの穿は正確に察して、滑る様な動きで少年の背後へと回り込み、両腕で少年の胴体を挟み込むと同時に羽根を最大駆動。コドラの剣角を靴先に掠めさせながら、少年は穿に抱えられ宙へと舞い上がった。

 

「っ!?……っな、」

 

「虫ポケモンでもメガヤンマなんかは大人を軽々抱えて飛ぶらしいぜ?なら俺の穿にガキの体重1人分支えられねえ訳が無えだろ」

 

穿は上昇を続け、建物の石壁の一部がくり抜かれて窓となっている位置まで移動すると、前触れ無く少年の身体を解放する。

少年は焦らず片手で窓の縁を掴んでぶら下がりながら、力強い声音で指示を出す。

 

「こいつらに遠慮は必要無え。穿……やっちまえ」

「……シュッ!」

 

空気を切る様に短く鳴いて穿は了解を示し、その場で軽く宙返りを見せてから逆落としに真下のコドラへと高速で落下した。

 

「……っ!…メ、メタゴ!!ちょろちょろ逃げられる前に一発で決めろ!!メタルクローだ!」

「ギャォアアァッ!!」

 

襲い来る穿を迎え討つ為、コドラは後足で立ち上がると鋭利な爪を伸長させて斬り掛かる。コドラの鉤爪は左右から穿の細い身体を捉えかけーー

 

「舐めんなボケ」

 

ーー穿は先に襲って来た右の鉤爪を、左に軌道を僅かにずらす事により紙一重で躱し、自分から飛び込む形になった左の鉤爪を左手の針で受け、円を描く様な柔らかい動きで己の後方へと受け流した。

 

瓦割り(・・・)!!」

 

響き渡る少年の声に従い、そのまま穿はコドラの鉤爪を払い除けると同時に頭を下へ振り、空中で前転を決めるかの様に縦に一回転。落下の速度に加えて回転による遠心力の加わった右手の針を全力で降り下ろした。

 

「ギャォ、アァッ!?」

 

バギン!という破砕音と共に針の叩き付けられたコドラの頭頂部から額に掛けての鎧に罅が走り、一部は爆ぜ割れて路地裏の湿った地面へと落下した。

 

「な…………!?」

 

鉄壁により大幅に防御が上がっている筈であるコドラの身体が一撃で砕かれた事実に、背の高い方の男は絶句して立ち竦む。

少年は冷たい目付きで男を一瞥した後、もんどりうって後方へ倒れかけているコドラの至近にて、既に左の針を振りかぶる穿にはっきりと止めを促した。

 

「毒突き!」

「シュッ」

 

針先から透明な毒液を滴らせた穿の刺突がコドラの砕けた鎧の隙間を正確に縫って突き刺さり、コドラの残る体力を削り取ると共に本来毒が通らぬ筈のその身体を毒で侵した。

 

「ギャオォォォォ…ァァッ…………!」

 

 

コドラは断末魔の鳴き声を徐々に小さく窄ませながら地面に倒れ伏し、急速に廻った毒に全身を痙攣させて力無く藻搔く。

瀕死の1歩手前であり、最早戦闘不能であるのは明白だった。

 

「…あ、あぁ……っ!?」

「お……俺のメタ、なん、なんで……えぇ、えぇぇっ!?」

 

あっさりと打ち倒されたコドラを見て、背の低い方の男は全身を瘧の様に震わせながら動かないユキカブリを再び引き起こそうとその身体を揺さぶり、背の高い方の男は錯乱気味に言葉をどもらせながら喚き散らしている。

 

栄養不足(・・・・)

 

窓から手を離し、軽やかに地面へと着地した少年は詰まらなそうに言い放った。

 

「……あ?…………」

「鋼タイプや岩タイプは鉱石や金属を餌や身体の構成要素として食らう奴がいるよな?確かお前のコドラもそうだ。鋼の外殻を維持する為に野生のコドラは鉱山を縄張りにするはずだからな」

 

少年は地面で痙攣するコドラを指差し、淡々と言葉を紡ぐ。

 

「見ただけでも解る位に所々鎧が薄い。特徴的な身体の突起も全体的に未発達だし、歳は幾つか知らないが粗方成長を終えているのは確か。にもかかわらず体長は俺の記憶にあるコドラのデータよりも一回り以上は小さい、明らかに個体差の域を越えている」

 

そいつもだ、と、次に少年はユキカブリへ視線を向ける。

 

「同じく体長が小さい上に今の季節は春先だ。本来身体から生えている筈の木の実が1つたりとも無い。……以上の事実から解るのは、その2匹は慢性的な栄養不足の環境で育ってしまったって事だな…………なあ、俺の言いたいことが理解(わか)るかチンピラ共?」

 

言葉と共に1歩、2歩と近寄って来る少年の得も知れぬ迫力に、男達は思わず後退る。

少年の双眸には、冷たい怒りによって静かに燃えていた。

 

「ポケモンはってのは善き隣人であり、人間にとってかけがえのないパートナーだ。多くがポケモンを体のいい労働力か危ない玩具の代わり位にしか思っちゃいない糞ったれたこの国でも、俺はそう考えてる。誰にどれだけ馬鹿にされてもな。…今、そいつらが俺の穿に及ばなかったのは10割中10割がお前等の所為だ」

 

穿を上空に舞い上がらせながら、少年は徐々に声を大きく、強い言葉へと変えていく。

 

「ポケモンに満足な餌もやらない、ポケモンのコンディションを整えも確認すらもせずに戦闘に出す、倒れた自分のポケモンを労いも心配もしない、相手との実力差を見抜けも考えも出来ない、満足な指示すらも出せない。……そうして躊躇い無く人を襲わせて挙げ句にテメエのツケを払わせる為に犯罪の片棒を担がせる!!」

 

言葉を切って少年が勢い良く上げた顔は、憤怒に染め上げられていた。

 

 

「テメエらみてえな屑共が、トレーナー(・・・・・)を名乗るんじゃねえよ!!」

 

 

「う、あ…………!!」

「ひぃぃぃっ!?」

 

男達は烈気にあてられてか顔を蒼く染め、縺れる足取りで路地裏の奥へと逃げ出そうとする。

その場に己のポケモンを放り出したままに。

 

「……処置無しだな。穿ぃ!!」

 

少年が吼え、宙に浮く穿は両手の針を逃げ出す男達に向ける。

 

「ミサイル針だ!!」

「シュッ!」

 

穿の針先から半透明な尖ったエネルギー状の夥しい()が放射状に放たれ、豪雨の如く男達の両足へと降り注いだ。

 

「ぎぃ、あっ!?」

「あ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

腿に、膝裏に、脹脛に無数の孔を穿たれ、凄絶な悲鳴を上げながら男達は倒れ伏す。

少年は情けない呻き声を上げながら蠢く男達に最早目もくれず、己の主人に見捨てられたユキカブリとコドラを悲し気に見下ろしながらポツリと呟いた。

 

「この腐った最果ての掃き溜めで、トレーナーなんざ居やしねえんだよ」

 

 

 

 

 

 

「……協力に感謝する、何でも屋(トラブルシューター)

 

「お気になさらず、俺は店側から緊急依頼を受けただけですので」

 

簡単な止血を施された男達が叩き込まれた黒塗りの護送車の前にて、少年と黒尽くめの制服を纏ったこの国の警察官達が向かい合っていた。

 

「ならば良い。代わりに犯罪者に対しての行き過ぎた暴力措置に関しては正当防衛で片を付けてやるとしよう」

 

「……それはそれは、どうも」

 

重厚で無機質な印象を与える出で立ちで、仮面の如き無表情を保ちながら一糸乱れぬ直立不動の体勢を取る男達の前に立つ隊長の上から目線な言葉に恭しく頭を下げながら、少年は気付かれない様に苦笑する。

 

……行き過ぎた暴力措置、ね。一体どの口が言ってくれているのやら………

 

ジョウト、ホウエンから大陸を挟んで遥か西にある小さな国、アニマール。

元々ポケモン(・・・・・・)の存在しなかった(・・・・・・・・)この国にて唯一、ポケモンで人を傷付ける事を法に認められた集団が少年の目の前に佇む『アニマール国家治安維持部隊』であり、その不吉な黒い衣装と罪を犯した者に対して行う情け容赦の無い制裁ぶりから『黒狗』と呼ばれる彼らの存在こそ、国が国民を抑え付ける為に使われる暴力装置(・・)に他ならないと、少年のみならず虐げられる民の全てが理解している。

少年はグレーゾーンながら職業として存在が黙認されている何でも屋(トラブルシューター)としてそれなりの実績を持っているからこそ黒狗達は何もしては来ないが、これで強盗の男達を捕らえたのがそこいらに屯している自称腕自慢等であった場合、質の悪い部隊ならば問答無用で逮捕、拘束してから取り返した現金入りのアタッシュケースを横領した挙げ句に罪を平気で擦り付けて来る、位の事は平気でやってのけるのが黒狗という存在である。

法の権威を傘に着る腐敗した暴力集団、というのが黒狗に対する共通の認識であり、捕らえられた犯罪者はどんなに軽い罪だろうと必ずしも命の保証は無い無法を旨とする法の集団が吐く台詞としては相応しく無い事この上ないのは確かな話だろう。

 

「……それでは治安維持部隊の皆様、しがない下働きの小僧はこれにて失礼させて頂きます。依頼主にお金を届けねばなりませんので」

 

「我々が預かっても良いが?責任を持って返却する事を約束しよう」

 

「いえいえ、これは私が受け持った仕事ですので、最後まで私自身が遂行させて頂きます。曲がりなりにもプロとして仕事を請け負った以上当然の心掛けかと」

 

そんな集団であるが故、少年は隊長の提案をやんわりと拒否して、その場を後にすべくそそくさと踵を返す。

 

何でも屋(トラブルシューター)

 

「……はい、何でしょうか?」

 

しかし通りを曲がり切る前に隊長格から再度声を掛けられ、少年は内心で舌打ちをしながら表面上はにこやかに振り返る。黒狗の隊長は巌の様な顔を僅かに笑んでいるかの如く歪めながら、少年へと問いを投げ掛けた。

 

「貴様の顔は何度か見たが名前を聞いた事は無かったな。言ってみろ」

 

「……アンバーです、姓はありませんので」

 

「そうか」

 

覚えておこう、と呟く隊長に今度こそ背を向けて少年ーーアンバーは足早に歩き去った。

 

 

 

「相も変わらずウザい連中だったな穿」

「…………」

「どの口がほざきやがる、ポケモンを凶器としか捉えてねえ暴力団擬きが」

「…シュッ」

「…………まあ、他人の事をどうこう言う資格は俺にも無えけどよ。お前を頼りに金稼いで、お前に人を傷付けさせてるのは同じことだから、な……」

「シュッ!」

「………そうか、ありがとうよ穿……」

 

 

アタッシュケースを片手に、アンバーは傍らに穿を連れ添いながら、ゆっくりとした足取りで被害のあった店へと向かう。

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます、星の海です。
ここの所このサイトで様々なポケモンの作品を良く見ます。読んでいる内に触発されて昔チマチマ書いていた作品を手直しして投稿させて頂きました。性懲りもなくまたやらかしております、申し訳ありません。
他に執筆している作品もありますのであまりこちらの更新は早くありませんが、気が向いた時の暇潰しにでもお読み頂ければ幸いです。
因みに作者はスピアーが大好きです。地味にポケモン小説でも最近人気がある様で嬉しい限りでございます。
それではまた次話にて、次もよろしくお願いします。
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