先輩の第二ボタン   作:美宇宙

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後輩side

私には好きな人がいる

それも小学校の4年生の頃からずっと恋心を抱いています

毎日その人を見たいがために登校して、見れたら嬉しくなったり、逆に見れなかったらみんながわかるほど落ち込んだり

 

そんな私の好きな人はこの学校の人気者です

容姿端麗、成績は優秀、スポーツ万能、性格もいいし人望も厚いとモテる条件をすべて兼ね備えた人だ

これからでもわかる通り、彼は相当モテます、その中には当然私よりも魅力的な人もいるわけで

正直私なんかじゃ敵わないと思ってしまう時もあるけれど、それでも1%でもあるかもしれない可能性を信じていた

けれど私が入学した時には既に3年生、そして今の月は3月始め

 

先輩は、あと数日で卒業する

 

 

「咲夜は、先輩に貰うの?」

 

「へ?何を?」

 

「第二ボタンよ」

 

「ふぇっ!?」

 

突然おっかないことを言い出したのは親友で唯一私のこの想いを知っている榎原麻耶だ

 

第二ボタンって、あれだよね?好きな人が卒業する時に記念に貰うあの……

これの始まりは確か1960年の戦争をテーマにした映画の第二ボタンを女性に渡すシーンが起源で、卒業式に想いを込めて好きな女性に第二ボタンを贈る習慣が始まったらしい

それがいつの間にか女性が卒業する男性の第二ボタンを貰うという逆の習慣となって今に至るのだとか

 

「……私なんかじゃ無理だよ……」

 

「何言ってんの!もう最悪この年この身長で無駄にでかい胸で誘惑すればいいじゃないの!?」

 

「ひゃい!?」

 

咄嗟に自分の胸を両手で覆って摩耶を睨んだ

確かに私の胸は無駄に大きいけれど、それで反応するほど先輩は甘くない

それにそれで成功したとしても嬉しくない

やっぱり、正面からもらってこそのものだと思うし、その方が私も嬉しいし……

 

「あんた今さっき何か考えたでしょ?」

 

「え!?いや考えてないよ!?ただその……」

 

「やっぱり欲しいのね、第二ボタン」

 

彼女の言葉に数秒遅れてこくこくと頷いた

やっぱり、欲しいと思ってしまう

自分の願いが届かないものとはわかってはいるけれど、先輩との思い出としてそれはとても魅力的なものだ

私はこの学校に入ってもうすぐで一年だけど、先輩との思い出といえるものはない

そもそも先輩はとにかく人気者で、周りには常に人がいる

そこにいるのはほとんど美人で、とても私じゃ入り込めそうにない

更に私は引込み思案で自分から先輩に接触する勇気がなくて結局今の状況になるまでほとんどどころか一回も先輩と会話したことがない

時々目線があったりした気はするけれど、それも私の気のせいだろうし、たとえ本当だったとしても先輩にとってはそれは些細なことのはずで

 

「そんなあんたに大ニュース」

 

「?」

 

「今日の昼休み、校舎裏の木陰にあるベンチに行ってみなさい?」

 

その時の麻耶の笑顔は、恐怖を感じるくらいに綺麗な笑顔だった

 

 

言われた通り校舎裏にはきたものの、麻耶が言っていたベンチというのにはどうも見覚えがない

でも麻耶は嘘をつかないタイプだからどこかにはきっとあるのだろう

 

「えっと、確か木陰って言ってたよね」

 

麻耶の言っていた言葉を思い出しながら校舎裏に立つ一本の木へと足を向かわせる

ゆっくりとその足を進め、たどり着いた木の裏をみればそこには確かにベンチがあった

これが目的地でいいのだろうか?そうだとすればなんでこんなところに行かされたのだろうか

この学校の校舎裏はほぼ常にと言っていいほど人はいない、それはここにはある噂があるからだ

それはここで過ごせば好きな人と結ばれないというもので、今の歳だとそれを間に受ける人の方が多い、というか今の現状がそれを示している

噂話は所詮は噂であり私は信じてないのでこうして普通にいるのだが

 

そのベンチに腰をかける

今は春に近いとはいえまだ肌寒い時期が続いていたはずなのだが、今はやけに暖かい

日を遮る木の陰の下、頬を撫でる風が妙に涼しくて、それのせいか眠くなってきた

 

「少しだけならいいよね」

 

私は目をつぶって、ゆっくりと意識を落として眠っていった

 

 

最初に感じたのは唇に柔らかい何かが当たった感触

その後に草むらが揺れる音がして、何があったのかと目を開いた

しかし目に見える場所には特に何もなく、顔を動かして周囲を確認するもやはり何もない

残っているのは自分の唇にある違和感、私が目を開ける前に何かが触れた感触だけだ

 

「!?」

 

私は再度周囲を見渡したけれど、先ほどと同じく何もない

聞こえるのは草むらが揺れる音と、校舎で授業をしている先生の大声くらいで……大声?

 

「今って授業中!?」

 

慌てて自分の腕につけている腕時計に目線を落とした

14時20分、いつもなら椅子に座って黒板に書かれた事をノートに写している時間だ

つまり、今私は、授業をサボっている!?

 

「きゃああああああああ!」

 

ベンチから勢いよく立ち上がり、教室に向け走りだした

教室に着けば先生の怒鳴り声と生徒達の笑い声が私を迎え、散々な1日になったのだった

 

 

卒業式当日

私たち一年生と二年生はその式に立ち会い、彼らが卒業する様をずっと眺めていた

 

「卒業生代表、織村快」

 

「はい」

 

名前を呼ばれゆっくりと立ち上がった先輩はステージに上がり先生方へのお礼の言葉を代表者として述べる

その姿はとてもかっこよくて、つい見惚れてしまっている自分がいる

まだ諦めれてない自分に苦笑を零し、先輩に再び目線を戻した

 

「以上」

 

全てを言い終え、礼をした先輩に続くように拍手が送られた

先輩は自分の席に座り、卒業式は進み、卒業生退場を迎えた

卒業生達が一列ずつ立ち上がり、赤いカーペットの上を歩き退場していく

 

そして、先輩の列が立ち上がった

その列一同が頭を下げ、顔を上げ歩き始める

卒業を祝う拍手の中、彼らは先に行った先輩方同様に赤いカーペット上を歩き、この大きな式場を退場していく

 

先輩が、段々と近づいてくる

距離は徐々に迫り、とうとう憧れの先輩は私の横を通過する寸前にまで迫った

 

最初で最後の、プレゼントだったのかもしれない

ふと、先輩の顔を見上げれば、それに気づいた先輩は私に笑顔を向けたのだ

自分の顔が徐々に熱くなっていく、憧れの人から目を離し、視線を下に移した

 

「ありがとうございます……」

 

幸せな一瞬をくれた先輩に届かない感謝の言葉を送った

式は間も無く終了し、あとあの人と同じ場所に入れるのも少しとなった

 

 

今は数日前に麻耶から教えてもらった木陰のベンチに来ている

あの日からなぜかここが気に入って毎日のようにここに来ているのだ

 

「ふう」

 

一回息を吐いてからゆっくりと腰を下ろす

 

「……今日でお別れか」

 

長かった片想いも今日で終了だ

結局先輩とは喋れなかったな、せめて最後くらいは喋りたいけど先輩今は忙しいだろうし、何より私にはそんな勇気ないし

 

「はあ」

 

深いため息をついた時、数日前と同じように草むらが揺れた

揺れる音に続くように聞こえる早い足音、こんな時間にいったい誰だと思ってその方向を向けば

 

「しっー!!」

 

私の口を塞いでいる先輩の姿があった

周りをキョロキョロと見渡して誰もいないのを確認できてホッとしたのかため息を吐いてから先ほど同様に私に笑顔を向ける

 

「この場所知ってる人少ないんだけどよくわかったね」

 

いつもは遠い場所にいるはずの先輩がすぐそばに居る、その事実だけが私の中を幸福に満たしていた

今日は何かあるんじゃないだろうか、これは夢なんじゃないだろうか

善は急げ、私は自分の頬を指でつねった。うん、いたい、痛覚はちゃんと正常に機能している

つまりこれはまぎれもない現実、目の前にいる人は、本物の先輩!?

 

「あぅ〜」

 

先ほど以上に自分の顔が熱くなって、ボフン!と音を立てた気がする

 

「だ、大丈夫!?顔真っ赤だけど!?」

 

「だ、大丈夫です」

 

落ち着け、落ち着くんだ私

二度とない機会、これ以上ない幸せを手放してどうする、もっとこの幸福の中に浸かってもなんの罰もない

 

「は、初めまして、私は」

 

「神崎咲夜さん、だよね?」

 

「へ?」

 

なんで先輩は私の名前を知っているのだろうか

私と先輩の間には接点なんて何もない、唯の一度でさえ会話はなく、唯の一度でさえ顔をあわせることのなかった仲だ

完全な他人関係、顔見知り以下の関係のはずなのになんで知っているんだろうか

 

「ごめんね、追いかけ回されていたものだから。驚いた?」

 

「驚きましたけど、もう大丈夫です」

 

「よかった、横座るね」

 

そう言って先輩が横に座った

私と先輩の間には約10cmの空間がおかれ、なぜかその距離感が悔しくて

……最後くらいなら、別にいいよね

 

私はそっと腰を浮かせた

そのまま腰を動かして先輩に近づいて、そしてーーー距離は0になった

 

最初は驚いたような顔をしていたけれど、また笑顔を浮かべて彼は前を向いた

 

「そろそろ進級だね、おめでとう。といっても俺は進学してこの学校を去るんだけど」

 

「先輩も、おめでとうございます」

 

「ありがとう。なんかあっという間に感じたな。3年ってこんなに短かったかな」

 

なんてまるで年老いた人が言うような言葉を口にした

つい笑ってしまったけれど、先輩は別に何も言うわけでもなく、ずっと空を見ている

今日の空はやけに青い、いつもよりも青く感じるそれは少し幻想的に見えてしまうぐらいに

 

その蒼穹の中、輝く太陽があるものを照らし、日光を少し反射させた

先輩の、第二ボタン

塗装が外れてはいるが未だ金に輝いたそれは私の中に欲望を産んだ

 

「さて、短い間たったけれど、ありがとう」

 

先輩がベンチから腰をあげる

私の頭を優しく撫でて、最後になるもしれない笑顔を見せて、私に背中を向けた

 

行ってしまう

 

『このままでいいの?』

 

自分の中に何時も出している声が響く

 

『もう二度と会えないかもしれないのに』

 

「……いや」

 

『なら前進しなさい。自分の思いを、ぶつけなさい』

 

自問自答かもしれない

けれど確かにそこには誰かがいて、私の背中を強く押してくれた

 

「快先輩!」

 

強く叫んだ

まだ距離は遠くなくて、届いた声に反応してくれた先輩はこちらに振り向いた

何も言えないで後悔するなら、言って後悔する方がいい、誰かがそう言っていた気がする

同感だ、ここで言わないでどうする、言え私、自分の欲望を

 

吐け!

 

「彼方の第二ボタンを、私に下さい!」

 

渾身の言葉

告白と同じ意味を持つ、人生最大の叫び

顔から火が出るかと思うくらいの恥ずかしさに耐えて、私の口から吐き出された欲望の答えは

 

「……嬉しいな」

 

歓喜の声だった

 

「そういう事、でいいんだよね?」

 

私の方に歩みよって、止まった

自分のボタンを引きちぎって私に差し出し、彼は言葉を告げる

 

「俺は、君のことが好きです」

 

信じられなかった

じんわりと目に何か温かいものが溜まって、頬を伝って地に落下していく

涙が、私のこれまでの想いのこもった涙が、溢れ出て、止まらなくて

 

やっと、長年の想いを、言える

 

「私も、すきです。ずっと、ずっと」

 

先輩のボタンが、私の手の中に落ちてくる

続き、彼が私の涙を指先で拭ってくれた

薄い笑みを浮かべて、私をその体で包んで

 

「ありがとう」

 

彼の声を、私は聞き届け、抱きしめ返した

ーーENDーー

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