先輩の第二ボタン   作:美宇宙

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先輩side

俺には好きな子がいる

小学生5年生ぐらいだろうか、目の端でよく彼女の綺麗な銀の髪が映るようになった

学年が違うということもあって喋ったことはないけれど不思議なくらい俺は彼女のことを目で追うようになった

 

彼女はその姿から学年問わず人気が高かった

発育期が早くきすぎたのかその年にしては大きな胸は男子たちの目を釘つけにし、その小動物のような仕草がまた人気を高めていた

当然彼女に恋心を持つ人は多くって、よく邪魔もしたものだ

 

でも、それがまだ恋心だということは知らなくて

 

はっきりと自覚したのは小6の時だったか

学校を走り回る羽目になった俺はどこかでこけてしまって

その時に俺に絆創膏をくれたのが偶然か、それとも運命だったのか、彼女だったのだ

慌ててハンカチを水で浸してくれたり、それだと傷口に少し響いちゃうからってわざわざ教室に戻って絆創膏を持ってきてくれたり

当の本人は俺だと気づいていなかったと思うけれど、それでも俺はあの時から既に彼女を対象に恋に落ちていた

 

それからだ、俺に欲望が芽生えたのも

 

彼女に触れたい、喋りたい、あわよくば、そういう関係になりたい

様々な欲望が今にも俺を潰しそうだった

 

自分で言うのもなんだが俺は基本的なことならばなんでもできてしまって

先生や友達は賞賛してくれたし、親はこんな俺を誇りと思ってくれた

けれども、それはどれも心に響かないものった

どれも当たり前になってしまって、たいした出来事ではなくなってしまって

 

そんな俺を動かす唯一の存在は、今や彼女ーーー神崎咲夜さんただひとりになってしまった

 

 

彼女がこの中学に入学してから何かあると信じて約1年

特に何か起きるわけではなく、普通の生活を送っていた

彼女と目が合うと彼女はすぐに顔をそらしてしまったり、話し掛けようにも彼女はなぜか逃げてしまって話すチャンスはなかった

彼女はもしかすれば話すのが苦手なのかと思いきや普通に喋っているし、男子と喋るのが苦手なのかと思いきやこちらもまた遠慮がちとはいえ普通に喋っていた

年上としゃべるのが苦手なのかと思うも、別にそういうわけでもなさそうで、何故俺だけがと日々悩まされたものだ

 

「お前はどうするんだ?」

 

「どうするって?」

 

「惚けるな、神崎さんのことだ」

 

そう問いただすのは親友と言える存在である宮下恭一だ

俺の恋心を知っている数少ないどころかただ一人の相談相手だ

 

「どうするって、聞く?」

 

「そりゃもうすぐ卒業だからな。卒業したらもう会えないかもしれないんだぞ?」

 

「……そうだけど」

 

そう言われても、俺にそんな根性はないわけで

俺たち3年生は残り数日でこの学校を卒業して、高校生になる

俺はそれなりに名前が広まっている進学校に行くことになっている、しかも割と遠めの所だ

それに全寮制ということもあり、彼女が同じ高校に来ない限りほぼ会えなくなることだろう

だからこの数日が正真正銘のラストチャンスというわけになるのだが、それでも俺には自分の思いを打ち明けるほどの勇気はない

情けないとは思うけれど、俺には何も出来ないのだ

 

「こんなので卒業生代表が務まるのか?」

 

「俺が決めたわけじゃないだろ?そんなこと言うなら恭一がやってくれよ」

 

「やだ」

 

「即答しなくても」

 

「今はそんなことどうでもいいんだよ。結局どうするんだ?」

 

親友が再度問いかけてくる

彼から目線を離して、俺は運動場を見る

そうすれば、綺麗な銀の髪が俺の視線に入ってきた

神崎さんだ、そう思うだけで顔の熱が上がった気がする

体育の帰りだろうか、体操服で校舎に入って行く姿をずっと見ていれば横からクスクスと笑い声か聞こえてきた

 

「やっぱり、諦めてはないんだな」

 

「……うるさいよ」

 

 

昼休みになって俺はいつもの場所に向かう

この学校の校舎裏にある秘密のベンチ、ここにあるせいでほとんどの生徒が知らないベンチにて俺はお昼をいただいているのだ

ここにいれば基本的には誰にも見つからないし、たとえ先客がいたとしてもその人は大抵が俺に興味のない人でよく親しくなることも多い

少しの楽しみになっている中学校最大の思い出の詰まった場所に赴けば

 

そこには、目を閉じて寝息を立てている少女がいた

 

「!?」

 

信じられなかった

木陰のベンチの下で気持ちよさそうに寝ている少女は、俺から見れば女神様みたいに綺麗で

「ど、どうする?」

 

何時もなら誰がいようと平気で食ってるんだけど、今回は無理そうだ

好きな子の横でお昼食べるとか少し無理がある、いや無理だ

引き返す?でも今教室に帰ったら面倒くさそうだしパス

 

「……いいよな」

 

神様なんてもっぱら信じてないけれど、神に感謝をしつつ

俺は彼女の横に座った

けれど少女は起きず、未だ寝たままだ

 

こんなに近くで見るのは初めてだけれど、やはり綺麗だ

整った顔、暖かな風に揺らされている銀の髪がとても綺麗でつい見惚れてしまった

 

そうやってじっと見ていると、彼女に変化が見られた

彼女の体が、こちらに来たのだ

そのまま俺の肩に顔が乗せられ、そのショックにも耐え抜いて睡眠を続行する彼女とは裏腹に、俺の心臓はバクバクとうるさく鼓動する

大丈夫だろうか、俺の心拍音で起きたりしないよな?

そんな俺の心の問いに答えるかのように、彼女の唇が少し緩んだ

 

俺の目はその唇に惹かれた

白い肌の中でぷっくりとした形のいい赤い唇

 

「……ごめんね」

 

君は俺のことが嫌いかもしれない、けれど許してほしい

こんなわがままな俺を、こんなことをする愚かな俺を

俺は、この思い出をずっと大切にするから

 

自分の唇が、彼女の唇に導かれるように動いて

優しく触れるだけの一瞬の口づけを交わす

 

すぐに放して恥ずかしくなった俺は彼女を元に戻してその場から走って逃げていった

実は彼女の事を昼休みを通り越して授業時間の間も見ていたようでクラスに入れば先生に静かな説教を食らった

その中、俺の親友がなぜ満面の笑みを浮かべていたかは、俺は知らない

 

 

卒業式当日

その日は会場が既に満員で、静かに見守られながらも順調に進んでいる

 

「卒業生代表、織村快」

 

「はい」

 

静かに立ち上がり、ゆっくりとステージの上に上がる

深呼吸を一つ、大丈夫、大丈夫

自分に言い聞かせ、俺は口を開いた

 

「ーーー以上」

 

言い終えて、溜まった何かを誰にもばれないように息と一緒に吐いた

自分の席まで遅い足取りで向かって、一度礼をしてから座った

それに続いた拍手、けれどその拍手にはなんの嬉しさもなくて

 

そして式の終盤、俺たち三年が退場し始める

前から徐々にこの会場を去って行き、俺たちの番が回ってきた

一斉に立ち上がり、一礼、頭を上げて内側から外に向け歩き出す

赤いカーペットを踏み進み、外に向かう途中、彼女が目に入った

 

そして、奇跡が起きる

彼女が顔を上げ、こちらを見たのだ

心臓が一瞬にして音を上げた

彼女には平常心を装って笑顔を向けるが、隠しきれそうにないくらい心臓の音はうるさくて

 

「ありがとう……」

 

誰にも聞こえないような小さな声で、感謝の言葉を、届くはずのない彼女に送った

 

 

全員が会場を出て、記念撮影やらなんやらを撮る時間がやってきた。その瞬間見事なまでに女子が俺に迫ってきたのだ

 

「なんで!?」

 

声を上げつつ学校中を走り回り、俺はある場所に向かった

学校の校舎裏のベンチ、彼女との数少ない思い出の地に逃げ込んだのだ

校舎裏に行けばあのベンチに誰かが座っていて、確かめる前にその人の口を自分の手で塞いだ

 

「しっー!!」

 

だがそこでまた俺の心臓の音は跳ね上がる

俺が口を押さえている少女は、紛れも無い彼女だったからだ

すぐに手を離して先ほど同様に平常心を装って彼女に話しかけた

 

「この場所知ってる人少ないんだけどよくわかったね」

 

いつもは遠い場所にいる彼女が驚いたような顔でこちらを見ている

まあいきなりあんなことをされれば当然といえば当然なのだが

何て思っていると彼女は急に自分のほっぺを抓ったのち

 

「あぅ〜」

 

ボフン!と音がなった気がするほど顔を真っ赤にさせた

 

「だ、大丈夫!?顔真っ赤だけど!?」

 

えーと、顔を冷やすためにハンカチを冷やしに行く!?でもそんなことしたら誰かに見つかっちゃうし、でも一体どうしたら!?

 

「だ、大丈夫です」

 

まだ顔は真っ赤だけど、先ほどよりは少し白さが戻った顔を向け言われる

少し心配だけど、そっかと安心して俺は安堵の息を漏らす

 

「は、初めまして、私は」

 

「神崎咲夜さん、だよね?」

 

「へ?」

 

間抜けた声を上げる神崎さん

君の名前を知らないわけがない

ずっと見てたから、君の仕草なんかもよく知っている

見すぎて恭一に心配されるぐらい、俺は君のことを見ていたから

 

「ごめんね、追いかけ回されていたものだから。驚いた?」

 

「驚きましたけど、もう大丈夫です」

 

今もさりげなく聞こえる声は、俺を探し学校中に響く

まったく、こういうのはアニメや小説の中だけにして欲しいものだ

 

「よかった、横座るね」

 

そう言って俺は彼女の横に空間を置きながら座る

数日前と同じ状況、あの時の記憶が頭をよぎって嬉しさ混じりの罪悪感が俺の中で生まれた

だが彼女の次の行動ですぐに吹き飛んでしまった

なんと彼女自らが、距離を詰めたのだ

手が触れそうなくらいの距離、すぐ近くに彼女がいるというだけで俺の心臓はより高らかに音をあげていく

それを紛らわすように、俺は口を開いて、彼女に話しかける

 

「そろそろ進級だね、おめでとう。といっても俺は進学してこの学校を去るんだけど」

 

「先輩も、おめでとうございます」

 

「ありがとう。なんかあっという間に感じたな。3年ってこんなに短かったかな」

 

勿論短く感じたのは最後の1年だけ、2年間は早くこないか待ち遠しいくて遅く感じた

それを口にすれば彼女は俺の横で笑って、俺はそれから逸らすように視線を空に移した

綺麗な青、どこまでも透き通った壮大な空が俺の視界を占領した

その一点に輝く太陽は、眩しくて今度はそれから目線を外した

 

結局、最後まで彼女とは何もなかった

これが最初で最後の会話だと思うと悲しいけれど、それでも会話できたことは嬉しかった

 

「さて、短い間だったけれど、ありがとう」

 

ベンチから腰を上げて、彼女の頭を撫で、笑顔を作り上げて、彼女に向けて、俺は背中を向けた

 

『それでいいのか?』

 

どこからともなく聞こえてくる自分の声が俺に聞いてくる

 

『何も言わないで、いいのか?』

 

『進めよ、俺』

 

「っ!」

 

「快先輩!」

 

彼女が俺の名前を口にする

すぐに振り返って、彼女を見た

顔を真っ赤にして、それでも精一杯の声を上げて、彼女は叫ぶ

 

「彼方の第二ボタンを、私に下さい!」

 

それは、あまりにも嬉しすぎて

 

「……嬉しいな」

 

第二ボタン

卒業式に送るそれは、好きな人に送るもの

その逆も然り、それは好きな人にもらうもの

これが出す答えはひとつ

 

「そういう事、でいいんだよね?」

 

彼女の前まで足を動かし、停止

自分のボタンを引き千切って彼女に差し出して、長年の想いを込めた言葉を彼女に告げた

 

「俺は、君のことが好きです」

 

やっと、言えた

 

彼女の瞳に雫がたまって、溢れたそれが彼女の頬を伝って落ちていく

 

「私も、すきです。ずっと、ずっと」

 

彼女の手のひらに、第二ボタンが落下する

止まることを知らない涙をそっと指で拭って、彼女を抱きしめる

小さな体から伝わる鼓動と同じように音を刻む俺の鼓動が重なった

 

こんな臆病な人間の代わりに、勇気を出してくれたことに

なによりもこんな男を好きになってくれたことへの思いを込めて

 

君に、言葉を送ろう

 

「ありがとう」

 

それに答えた彼女は、俺を優しく包み返した

ーーENDーー

 

 

 

 

 

 

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