明日もハレの日、諏訪の夏 ~カミサマのあだなさけ   作:花市 匁

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この度はこの小説に少しでも興味を持って下さり、ありがとうございます。

この小説は東方project様の二次創作です。原作と異なる所が多々あります。


気に入らない点もあるとは思いますが、しばしのあいだお付き合いくださいm(­_)m

すこしでもお楽しみいただけたら幸いです。



第一話 「夕焼け小焼けの夏の晩」

夏の光がぎらぎらと降り、(なわて)横にひろがる青い大地をみずみずしく、まぶしく照らす。

 

麦の世界は秋をむかえて、青い天井に黄金色の境目を描く。

一片の雲すらない碧空を見わたすと、入道雲がどっしりと浮かんでいた。ほかの雲たちはみんな一つにあつまって、この大きな雲になったのだろう。

 

―――長野の田舎に今年も「夏」がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あづいぃぃぃ………」

 

むんむんとした空気のなか、東風谷早苗(こちやさなえ)は思わすそう呟いた。

容赦なく照りつける日差しが、首筋を焼き焦がそうとばかりに襲いかかる。

手に持つ箒がたいまつと化しそうだ。

 

「神奈子さまぁ、アイスー」

 

この暑さに耐えかねて、搾りだすように助けを求める。

 

「ほらほら、私はアイスじゃないわよ。アイスください、でしょ。暑いのは分かるけど あんた、もう十二才になるんでしょ。小学生みたいになっちゃだめ。ほら、諏訪子も 独り じめしてしてないで早苗にもわけてあげなさい」

 

すると、どこからともなく女性があらわれてきてそんなことをたしなめた。

背後にしめ縄を背負っている。胸元の鏡もえらく独特で派手だ。

 

「えー。メロン味以外ね」

 

いかにも不満げな顔をしながら、ピンク色のアイスを差しだす少女。かえるのようなくりくりとした目がついた帽子をかぶり、壺装束のような服にはかえるが描かれている。

差しだされた氷菓子を見るが否や、それに飛びつく。

心地よい冷たさがいちごの風味とともに口に広がる。湧きたつ寸前だった頭がひやされ、より味が鮮明に引き立つ。早苗は天にも昇るような気持ちで目を輝かせて、しばらくアイスなるものの素晴らしさを噛み締めていた。

 

―――ここは守矢神社。

 

この地のとある森にある神社だ。

先ほどの奇抜なファッションの二人はこの神社に住む神様なのだ。

 

しめ縄の方、早苗の言葉づかいをたしなめていた神奈子と呼ばれた女性。

山坂と湖の権化、八坂神奈子(やさかかなこ)である。夏の日差しによって今は整った顔に汗をうかべ、オレンジ色のアイスを口にくわえている。

 

もう一方、かえる帽子の方、年端も行かない少女に見えるが、土着神の頂点、洩矢諏訪子(もりやすわこ)である。れっきとした八百万の神である。ところどころにかえるをあしらったパーツを持つ彼女の一番のなかで、もっとも異彩を放つかえる帽子の目が死んでいる。

 

そして、箒で境内の道を掃いていた少女、東風谷早苗。

若草色の髪をのばし、かえるの髪飾りとヘビのピンをつけている。見たところ中学一年生ぐらいか。

前者とちがって彼女は人間である。普通とちがうとこといえば、この神社の巫女であること、風祝(かざはふり)という神職を受け継ぐ現人神(あらひとがみ)であることぐらいか。

 

 

ここは森のなかなのだが、上がちょうどあいており、日光がぎんぎんと降りかかってくる。もう三人はすっかりダウンしていた。

 

「ねー、もう帰ろー。神社でせんぷうきつけて寝たいー」

 

諏訪子がそうせがむ。

 

「そうですね……私もそろそろやばいです……」

 

「あら、わたしはこの氷菓さえあればまだセーフだけど?」

 

なにを思ってか自慢げにそんなことを空かす神奈子。

 

三人の神様は目の前の家、もとい守矢神社に吸い込まれるようにして入っていた。

 

 

 

 

―気づけば時計は五時を指している。

 

部屋のなかで早苗のめんこ遊びをしていた諏訪子は、いったん遊びをきりあげて神社の外に出た。

 

「夕焼け………きれいなもんね」

 

それからしばらくそこに立っていた。夕飯まではもう少しある。

 

「ねーねー。神奈子、早苗、私ちょっと出かけてくる。おそくなるかも」

 

「どこにー?」

 

縁から見える居間から間延びしたもうひとりの神様の声が聞こえてきた。

 

「別に。ちょっとした散歩よ散歩。夕飯前には帰ってくるから」

 

わかったわー、と神奈子が言ったのを確認すると、諏訪子は神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

夕暮れの田舎道を歩いていくこと数分。ようやく目的地に着いた。

 

見わたす限りの田んぼ、そしてそのわきに広がる大きな川。

 

「さあて、いつもの場所はどこだっけ~」

 

ここが、彼女、洩矢諏訪子のお気に入りの場所だった。

川岸に腰をおろしてふう、と息をつく。

 

西の空には、茜色に染まっていた。

朱色の綿雲から、金の光がうすくもれて、ひときわ金に輝く日の丸が地平線からのぞいている。

 

薄暗くも、まぶしく。燃えるようで、穏やかな、夕暮れを諏訪子は一人だまって見ていた。

オレンジという色は明るい色なのに、この夕日というものオレンジは人の心に切なさを生む。

 

そんな景色をながめながら、ふいに諏訪子はふと思った。

 

―――私たち神様は、これからどうなってしまうのか。

洩矢神社に限らず、この世界で神社というものは窮境に立たされている。

 

結局今日も参拝客は来なかった。早苗がせっかく炎天下のなか掃除してくれたもを思うと、なぜだか申し訳なく思ってしまう。

そんな状況になってしまっているのには、科学の発展が挙げられる。

もちろん、彼女だってテレビは好きだしゲームで遊んだりもする。一概に科学が悪いとは思っていない。それどころか、人間という儚く貧弱な生き物がここまでのモノを築きあげたのは褒めたいと思うし、誇るべきことだと思う。

 

しかし、だからといって自分たち神々は下だと決めつめるのはどうなのか。

 

彼女の目から見れば、科学が完全なもので最も素晴らしいものとは思えない。

たとえばこの夕焼け。もしもこれを神様たちが戦ったときに流した血だといったところで平和賞すらもらえない。けれどもこれを光の屈折をもちいで説明した昔の人はたいそう褒められたのだろう。

 

――科学は大地を操れないけど、神は大地を操れるのに。

 

だが、そんな神様のもたらす奇跡は頼りにされなくなりつつあるのが現状だ。

それがひきおこすのが信仰の衰えだ。

諏訪子は純粋な信仰で成り立っている八百万の神だ。信仰がなくなって一番困るのは土着神の諏訪子だ。

 

自分の存在はいつ消えてしまうのか。明日かもしれない。

そんなことへの不安がつのって、ここに来ようと思ったのかも。

 

そんなことを諏訪子が考えているときだった。

 

 

 

「やめろ!!」

 

 

川岸の上から、叫び声が聞こえてきた。

 

「ちっ。うるっせーな。いいから金だせやこのガキ」

 

「怪我したくねーんだったら、出せよ!ポッケに札入ってるんだろぉ?」

 

それとともに、そんな声も聞こえてきた。下品で汚らしい声だった。

 

「この金はおばあちゃんからもらった大切なお年玉なんだ!おまえらに渡すか!」

 

自分の近くでなにが起こっているかは大体想像がついた。せっかくの夕焼けだったのに、と思いながらその声の元を覗いてみた。

 

案の定、ポッケに手をあてて必死に抵抗する少年を、中学、高校ぐらいのガラの悪そうな少年が五人、とりかこんでいた。

 

はあ、と諏訪子はため息をついた。そして、口を開く。

 

 

「………あのさー。お兄さんたち、お子様相手にどんだけ苦労してんの?せっかくの夕 焼け壊しやがってさあ。お兄さんたち、ただでさえ動物園のお猿さんなのに、もう老 いぼれニワトリにしか見えなくなっちゃうよ」

 

 

……しばしの間沈黙があった。むなしい暑さが間をめぐる。

うしろを見ると、幼い少女が自分たちをののしってきたのだから。

 

「ああん?お嬢さんよお、いま、なんつった?」

 

「オンナノコ、襲いたくねえからよお、どきな。さもないと……」

 

前の二人がやっと口を開いた。こめかみに青筋が浮かびそうだ。そうとう腹が立ったのだろう。目の前の少女を十分におどし、仲間のほうを向こうとする。

しかし、諏訪子はそんなものに動じたりなどはしなかった。

 

「やだ」

 

少年たちが目を見開く。間髪いれずにまた言葉をつむぐ。

 

「だーかーら。なーんかその間延びした口調。すっごくうざい。馬鹿が見えるからやめ なよ、だんごむしさん」

 

邪気のない声色で、おだやかな言葉の暴力が彼らを襲う。

そして、一番体格の良さそうな、彼らのリーダと思わしき少年が、足を動かした。

 

その瞬間、彼女は胸ぐらをつかまれていた。

 

「………………」

 

「さあっきからぁ、ぉジョーちゃん。調子のりすぎてねえか?」

 

その言葉とともに、他の少年たちも首を鳴らしたり、手首を鳴らしたりと、彼女を徹底的に痛めつける体勢をととのえる。

 

囲まれていた、幼い少年がなにかを訴えようと身じろぎするが、足を痛めてうごけないようだった。

 

「なんか言えよ!!殴られてえのか!」

 

そして、黙ったままの諏訪子の顔面に、その拳が勢いよく襲い掛かろうとしたとき

 

その少年は、二メートル後ろへ吹っ飛んだ。

いきなりのことにおどろく仲間だが、すぐに彼らは黙ってしまった。

 

まだ、年端もいかない少女が向ける眼差し。

黒くて、冷たい。自分たちに対しての嘲笑、そして失望がその瞳からあふれ出ている。機械のように無機質で、凄みのきいた眼光に足がすくむ。

そして、まるでこの大地の神だといわんばかりに、手を水平に広げる。

仁王立ちで田んぼに君臨する彼女は、もはや「お嬢さん」ではなかった。

なぜ自分たちのリーダーが地に転がっているのかは、彼女の姿を見るだけで、さすがの彼らでも予想がつく。

 

「殴られたいのはそっちの方なんじゃない?それとも穴という穴からトマトジュース を、肉という肉をハンバーグの材料にしてほしい?」

 

起き上がったリーダー格の少年が、もう一度襲いかかろうと、地を蹴った。

諏訪子がパチン、と指を鳴らす。

諏訪子と少年の間にピシッ、という音がした。

地面にほどの亀裂が走り、そして大きく地割れした。

 

「まだ殴られたい?」

 

裂けるような、笑みを浮かべる諏訪子。

 

「ひいッ!?」

 

小さく悲鳴をあげた彼らは、一目散に逃げていった。

 

しばらく、諏訪子は自分の造った地の亀裂を眺めていた。

そして、なにかに気がついたように後ろを振り向く。

 

そこには、諏訪子を見上げる一人の少年がいた。しりもちをついたまま。

 

「立てる?」

 

諏訪子が少年に手を差しのべる。

支えられながらたった少年の足は、小刻みにふるえていた。

諏訪子とだいたい同じくらい、それよりもちょっと高いぐらいの背丈だった。

 

「あいつらもこの時期、あれちゃうところもあるんだよ。だいじょうぶだって」

 

そう相好を崩す諏訪子。さっきの笑みとはまるでちがう、邪気のない笑顔。表情の機転の良さが、あのときの下衆な彼女を隠そうとしてもさらけだしていた。

自分の最低さに気づいてか、自嘲するような笑みをうかべる。

目の前の少年は呆然として、諏訪子を見ていた。

 

そりゃそうだ。

―いきなり中高生に罵倒をあびせてぶっ飛ばした同じくらいの年の変な帽子かぶった少女が助けてくれました。

……明らかに怪しい人物である。

 

「……じゃ、私は行くわ。帰り道に気をつけて」

そういって背中を向けようとしたときだった。

 

 

 

「……………………す」

 

 

 

 

 

「すっげええええええええ!!」

 

見るとそこには諏訪子を羨望のまなざしで見る少年がいた。

 

「すげえ!めっちゃカッコいいよ!!マンガみたい!」

 

「ふ、ふぇ!?」

 

ガシッ、と少年に手をにぎられる諏訪子。あまりの出来事に目を白黒させている。

 

「ってうおあ!ご、ごめん。つい興奮しちゃって……」

 

今度はきまり悪そうに諏訪子から視線をそらす。

 

「ほんっとうに、ありがとうな!!一万円なくなるとおもった……」

 

「べ、別に感謝される筋合いはないよ……ともかく、いきなりなんなのさ」

 

「いやあ、なんかすっごくカッコよかったからさ。なあ、お前、名前なに?」

 

「………洩矢諏訪子」

 

「諏訪子?あそこの湖じゃん。おもしろい名前」

 

はは、と笑う少年を見て、諏訪子が身を乗り出す。

 

「湖の『こ』じゃない!花子の『子』だよ!そういうあんたはどうなのさ!」

 

「俺?俺は石櫃衛(いしびつまもる)さ!!」

 

しばらく諏訪子は黙っていた。

そして、

 

「あーはっはは!!いしびつ、きずくって古っ!『衛』はいいとして『石櫃』とか聞い たことないし!つーかすっごくザ・男って感じ!ぷくくっ」

 

腹をかかえて笑う諏訪子。それに衛はむっとした表情になった。

 

「はあー!?お前の方が変だろ!じゃあお前、いしびつの『櫃』書いてみろよ!」

 

「きへんにはこがまえ、そのなかに貴族の貴。でしょ?ひつまぶしの漢字じゃん」

 

傍から見ると、幼稚園年中さんぐらいの子供に見えるようなやりとりをする二人。

衛の問いかけにいとも簡単に答える諏訪子を見て、なんとか敗北を言い開かなくてはならなくなった。

 

「ぐぬぬ……ま、まあ、妖怪にはそれぐらい分かんないとアウトだろ」

 

「え?」

 

諏訪子は耳を疑った。いまこの築という少年は自分を「妖怪」と言った。

 

 

「………あんた、私が人間じゃないって気づいてた……?」

 

諏訪子の首を冷や汗がつたう。

 

「え?いや、だってお前人間じゃないだろ」

 

そうか、と思った。初めから私は人間扱いされていなかったのだ。

呵呵大笑して笑い転げていた諏訪子の顔は、すげなくなっていた。

 

「………そっか。ご名答、私は人間じゃない。でも、妖怪でもない。ここ諏訪に住みつ づけている、神様よ」

 

「神様」の部分を強調して言った。

 

「人外ってバレなきゃ仲よくしてあげようかな、って思ってたけど分かっちゃった  か。神様なんて不気味なモノ、あんたもいやだろうし、私もあんたが煩わしくなるだ け。だから、今日、私と会ったことは忘れて。もう、あんたの前には現れないから」

 

そう言って諏訪子は自分が姿を見えるようにしていたことを思い出した。神様である彼女は早苗以外の普通の人間には見えない。しかし、ふとした気まぐれで姿が分かるようにしておいたのだ。

後悔した。

姿が見えないままで、事を済ませて何も言わずにその場を立ち去ればよかったのに。

 

(まもる)は、あっけにとられた顔で諏訪子を見ていた。そしてうつむく。

なぜか、やり場のないうしろめたさで胸が締めつけられそうになる。それを無視して、この場を去ろうとしたときだった。

 

「待ってくれ!」

 

後ろから聞こえたその声が、諏訪子の足をとめた。

 

「…………………………なに?」

 

衛は諏訪子のその瞳をまっすぐ見つめた。

 

 

「神様だろうが、関係ないよ!諏訪子がなんであろうと僕は怖がったりしな………」

 

でも、口から出た言葉は途切れてしまった。

―神様だろうが、関係ないよ

それを聞いたとたん、気色ばんだ。本当にうざい、といった面持ちでにらみつけられた。

悪いことをいったつもりはなかった。きっと諏訪子がよろこんでくれるだろうと、用意した言葉はいともかんたんに崩れてしまった。

 

そのまま、またうつむく。言葉が出ない。

 

「は?なにが言いたいのだか。…………意味わかんない」

 

『……諏訪子なんであろうと僕はこわがったりしない!』

 

なんでこの言葉が諏訪子の気に障ったのか。理由が分かった気がした。

 

はじめから、諏訪子は衛に気に入られたい、とは思っていないのだ。

けれど自分はまるで、衛が避けてしまうのではないかと不安になる、女の子をなぐさめているようなことを言って。

 

何をかんちがいしているのか。まるで自分が少女を救うヒーロー気取りではないか。

そう思うと、とたんに自分がすごく愚かで恥ずかしく思えた。

いきなり知りもしない人間が、上から目線でそんなこといったら誰だってドン引きする。そしてむかつく。

 

諏訪子が本当に立ち去ろうとした。

 

「待って」

 

けれど、もう後戻りはできなかった。

 

なんとしてでも、この少女を引き止めたかった。

 

「僕は…………」

 

口ごもりそうになっ。しかし、深呼吸する。

そして、顔いっぱいに笑って言う。引きつるほおをなんとか持ち上げ笑顔をつくる。

 

 

「お前ほどに変なやつ、僕ははじめて見たんだ!変なかえる帽子に名前。けど、人外と でも関係ない。すっごくかっこよくて面白かった!それに……」

 

諏訪子の顔は依然として険しいが、言葉はとめたくない。

 

「………それで?」

 

少し口ごもる。

 

「……………………かわいかったから」

 

言った瞬間猛烈に恥ずかしくなった。面映くて、目をそらす。

 

ひどくめちゃくちゃなセリフだった。この場取り繕うにはこれしかない。

 

衛も十一才をもうすぐ過ぎる。そのうえ利発な彼の頭にはいくつものきれいな言い訳がうかんだのだが、こんな子供みたいな言葉のほうがずっと伝わる。

 

これでもだめなら、もういい。諦めよう。あとは諏訪子の反応を待つのみ。

いっこうにしゃべらない諏訪子を見て、冷や汗がながれる。

 

「…………………くすっ」

 

かえるの帽子がかすかにゆれた。

 

「あーはっはは!ちょ、ちょ、ぷくく、あはっはは!」

 

見ると、腹をかかえて笑顔で笑う楽しそうな諏訪子がいた。

 

「な、なにがおかしんだよっ」

 

「だってえ、かわいいって、ぷくくっ。そんなふうに私を見てくれてるんだ~?」

 

言いながら、こちらへよってくる諏訪子。衛の目の前にくると、下目づかいで、ぐい、と顔をよせた。

 

「にしし、かわいい、ね。人間からそんなふうに言われたことはなかったわ」

 

いたずらっこのような目が衛の前で笑う。でも、覗きこむその瞳はどこか遠くの世界からやってきたような、重みのようなものがある。お納戸色の宝石のような瞳だった。

心臓が高鳴る。

 

お互い匂いがわかるほど、二人の距離は近い。

改めて諏訪子が美少女だということに気づかされる。

衛も年頃の男子だ。下心の一つや二つや十つもある。こんな少女に近寄られたら、やましい気持ちが抑えきれなくなるかもしれない。

 

茜色の風が、諏訪子の生糸のような髪をなびかせる。風とともにはこばれたいい匂いに、体が反応しそうになるが、なんとか平生を装う。

 

諏訪子が離れた。

 

「ちょっとムカついたこともあったかど、あんた気に入ったよ」

 

「明日もここにくるわ、じゃあね、衛」

 

名前で呼んでくれた。

 

「ああ、じゃ、また!諏訪子」

 

二人は各々の帰りみちへと、体を向ける。

なぜ、あそこまで、神様を名乗る見知らぬ少女に必死になったのか、分からない。

 

 

 

――けれども、衛はあの少女の何かに心を惹かれた。

 

 

 

夏のあぜ道をひとり、諏訪子は歩いていた。

 

夕焼けの光は、彼女の服を橙に染める。

 

 

 

――でも、彼女のほおは、心なしかほんのり赤かった。

 




この作品に最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
お楽しみいただければ嬉しいです。

主人公、諏訪子と衛ですが、どちらも小五という設定!
書くのにそれはもう頭を抱えました。
二人ともまだ子供ということなのでその恋心もきっと健気でわりかし真っ直ぐで純粋(?)なものだと思います。

―果たしてそんなものを私が書けるのでしょうか。
ピュアとは正反対の世界に生きているようなこの私が……

そんなこったで、書き方の参考にしようと文学作品を本棚から探したのですが、その本棚がまた異常で、ラノベと純文学と参考書とマンガがごっちゃ混ぜという体たらく。
しかも何故か、小学校の頃に読んでいた『しろばんば』がいまも健在しているという……。自分の部屋の異常さをひしひしと実感しました。

くだらない話が長々としてしまったことをお詫びするとともに、改めて読んでくださった方に感謝を申し上げます。

ご意見、ご評価、ご感想のほど、頂けたらうれしいです。






それでは、拙い文章にここまでお付き合いくださった皆様に、あらためて感謝申しあげます。
ご評価、ご感想のほど、いただけたら嬉しいです。
どうか、よろしくおねがいいたします。

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