それからと言うもの、ごく普通に勉強合宿が終わり、3月も終わろうしている。
一色、雪ノ下、由比ヶ浜の3人の仲は深まったようで、3人で買い物に出掛けたりしている。
その一方でこの男はというと…
「ねみー、明日から4月とか早すぎ、受験生無理ーやだー」
ソファーでゴロゴロしながら子供っぽく言う八幡に小町が
「なーに言ってんのお兄ちゃん、小町も受験頑張ったんだからお兄ちゃんも頑張らなくてどうするの?」
「小町がそう言うなら俺も頑張るしかないか…」
俺のマイシスターは何故こんなにも愛おしく、天使なのか。俺が兄貴じゃなかったら惚れてるまである。
「じゃーお兄ちゃん暇なら夕飯の食材買ってきて」
メモと財布を持ってきて八幡にお願いする小町。
「へーいへい」
外に出て自転車に乗ると風が少し冷たい。
だが、ほんのり暖かみを帯びているこの風は正に今の彼等を示している様であった。
「じゃがいも、人参、玉葱…こんなもんか、
あ、マッ缶を入れるの忘れてた」
そう言い野菜のエリアから離れようとした時、
後ろから強い力で引っ張られた。
「せーんぱい♪」
笑顔で八幡に話しかけるのはみんな大好き一色いろは。
「…だれ?」
「ひどいじゃないですかー!4日前くらいまで一緒にいましたよ!」
叩く仕草を見せている彼女を八幡が
「はいはい、あざといからその仕草。なんでここにいるのお前」
買い物籠に夕飯の用意だと思われる物が沢山積んである。それを見た八幡は手を出した。
「なんですか、手を繋ごうとしてるんですか2人きりでいるからって恋人気取りですか、私先輩の事好きですけど先輩から気持ち伝えてくれなきゃ無理ですごめんなさい」
「ちげーよ、何で一々俺を振るの?嫌いなの?
…その籠持ってやるって」
「……先輩こそあざといじゃないですか」
一色は頬を染め、籠を差し出す。
「重いな、お前1人か?」
「いやお母さんと来たんですけどタイムセールだからってどこか行っちゃって、それでウロウロしてたらせんぱいを見つけちゃったんです♪」
敬礼をしてウィンクをして八幡を魅了する一色。
(可愛いんだけどあざといんだよなあ…何だろう俺の中でこいつに対する感情変わったのか?そ、そんな事ねーし、べ、別に一万年と二千年前から愛してねーし)
「そういえばせんぱい…」
一色が背伸びをして八幡の耳元に囁いた。
「あの時私の裸を見た事についての誠意が示されてないんですけど?」
(ま、待て、声かわいいし、いい匂いするし、何こいつ俺をメロメロにさせる気?)
何かを思い出した様に、企みを露わにした様に、八幡に笑顔で、そして目で何かを訴える様に言った。
「いや…あれは不慮の事故だ。(エンカウンターかな?違うね)」
彼の耳元から離れ、泣き目になり少し大きな声を出す一色。
「せんぱいはあれだけの事をしておいて私を見捨てるんですか……?」
周りがガヤガヤとし出している。
なんだなんだ?喧嘩か?
(え、何このよくあるあるのラブコメの展開。しかも演技で泣けるとかあいつ本当にあざといな!策士か!)
八幡はそれを見かね、一色の手を握り場所を移動した。移動したと言ったと言っても数メートル先の食品コーナーだが。
「お前何やってんだよ…俺の買い物籠置いてきちゃったじゃんかよ」
「てへ☆やっちゃいました♪」
頭にコツンと拳骨を自分でやる一色。
「んで、何をさせたいんだお前は」
「明日私とデートしてください!」
「嫌です勉強します」
うぅ…裸…うぅ…本物が…頭が…と言って先程の様に泣き出す真似を見せる彼女は八幡が困るのを見て心で高揚していた。
「こいつ…わかったよ」
「やったー♪じゃー幕張のイオンで私の買い物に付き合ってください♪」
八幡の腕を取ってぎゅーっと抱きついてくる。
(待っていろはす、当たってる当たってるから!やばいから!俺はそんな耐性ついてないのよ!)
彼女を引き離し、冷静さを取り戻す。
「わかった、詳しい事は夜メールしてくれ、早く買い物済ませてゴロゴロうだうだしたいんだ俺は」
「何言ってるんですか…て、てゆーかせんぱい、いつまで手を握ってるんですか…?」
一色がそう言うと漸く気付いたのか、すぐに手を離した。
「いや違う、これはさっき焦ってたからそのままでというか」
すると背後から知らない声が聞こえてきた。
「いろはー、何してるの?」
「あ、ママ〜」
(ママ……だと…?こ、これはマズいんじゃないか)
「こんばんは、いろはが迷惑かけてしまってごめんなさいね」
「こ、こんばんは」
そこで八幡が怖かったのはニヤリと笑って彼を見る一色だ。
「ママ〜この人は私のかれ「同じ高校の1つ上の先輩です」
一色が良からぬ発言をすると同時に彼がその言葉を遮った。
「あらーそうなの!いろはがいつもお世話になってます」
一色は顔を膨らませて八幡を見ていた。
(馬鹿かお前、俺がお前の恋人って設定にしたら完全にお母さんに幻滅されちゃうだろ、顔膨らませるのは可愛いのはわかったからやめようね)
「お世話なんて、では俺はこれで失礼します」
一色の表情を見て何かを悟ったのか彼女の母親は
「これからもいろはをよろしくね、うちにいつでもいらして」
「マ、ママ!?」
困惑する娘を見て笑う母親。
「せ、せんぱい?」
何にも動揺を見せない八幡に話しかけた。
「い、いやいろはさんとは何もないですよ、ただの後輩と先輩の関係です」
「いいのよ、いろはが珍しく気に入ってる男の人っぽいしね」
「ママー!余計なこと言わない!」
親子のやり取りを苦笑いしながら見ていた。
「じゃ、じゃー機会があったら伺わせていただきます」
「ふぇ!??」
(大体返す言葉はこれだなうん。機会がないから行く事もないだろうし。しかも一色のふぇ!?ってこれ素なんだろうな…。一色が20年くらい経ったらこうなるんだろうな…と思うくらい彼女と母親は似ていた、しかも発言がやばいって、うちにいらしてとかなに?結婚候補にされてるのかな俺?勘違いしちゃうよ!)
一色の母親に会釈すると彼はすぐにレジに向かった。そして今買い物を済ませ自転車を漕いでいる。
「お兄ちゃんどーしたの」
帰って来て早々にソファーにへたり込んでる兄を思い心配している小町。
「お兄ちゃん精神的に疲れた、あざとい後輩のせいで」
(しかもメールのやり取りも、
『せんぱい!本当にうちに来るんですか?本当に?』と頑なにその話題ばかり振って明日の外出については12時に駅と言われて帰って30分くらいうちに来るんですか!?やり取りしかしてない、これ未読無視していい?苛めにならない?先生に怒られない?)
「いろはさん?だっけ?でもお兄ちゃんにそこまで好意向けてくれる人は珍しいと思うよ?ゴミいちゃんだよ?ゴミいちゃん」
顔を抓り、引っ張りながら小町は話しかける。
「いふぁい(痛い)、はわせないばろーば(話せないだろうが)」
「お兄ちゃんの気持ちはどーなの?」
「は?そんなの小町一筋だし」
はぁ…と溜息をつく妹。どうしたらこの様な答えが返ってくるのか。
「そうじゃなくて一色さんの気持ちだよ、
もう受験なんだし、会う事も少なくなっていくんだよ?よく考えてあげなよ!お兄ちゃん!」
「………平塚先生みたいこと言うなよ」
「まあいいよ、ご飯作っちゃうから待ってて」
ご飯を食べ終わり、彼は自室でベットで小町に言われたことを考えていた。
(さあ、自問自答だあ。
俺の中でのあいつはの気持ちは「本物」なのか、だが人の関係など薬物と一緒だ。依存し合い、馴れ合い結局最後には裏切る。経験して来た事だからわかる…分かるが、あいつの想いは「本物」なのではないか、本当に俺と居たいと想ってる…んだろうな。俺が恋愛で悩む日が来たなんて神様、面倒臭い悩みをくれるぜ。
俺が本当に…欲しいの…は…)
余程疲れたのかそれとも普通に眠かったのか定かではないが、彼の意識は闇の中に沈んでいった。
今回も見てくださった方々ありがとうございます!
いつも長くてすいません!
八幡本当に素直じゃないですね〜、素直にならないところもまたいいんですがw
いろはがすごいかわいいからいろはにはこれからも頑張って欲しいですね!