どうしてこうなったのだろうか。
今一色とカラオケに来ている。
正確には来させられたという感じだが……
あの後「カラオケに行きたいです♪それと先輩今日も名前呼びですからね♪」とか言ってくるんだもん。一種の脅しだよねこれ。
しょうがないじゃん、あれは不可抗力じゃん?
いろはす許して……
「探しに行くんだー♪そこへ〜♪」
と、いろはすこと総武高校生徒会長はご機嫌でノリノリなご様子。
葉山や雪ノ下達に当然のように色々突っ込まれた。特に雪ノ下と由比ヶ浜。
「なんでいきなりいろはと2人でどこか行くって言い出したんだ?」
「引き篭もり君、ついに犯罪を犯すのね、失望したわ」
「ヒッキーいろはちゃん襲うつもりなんだ!まじきも!私もそっち行く!」
何言ってんだこいつら。
由比ヶ浜は結構興奮状態にあるようでそれを三浦たちが宥めていた。
「いや、あのこれには深い訳があるんだ。てなわけで俺はそっちに合流できないからよろしく」
「お、おい、まて比企谷」
俺が電話している横では一色が笑顔でこちらを見ている。その笑顔はまるで女神のような悪魔のような…いろはす怖い、助けて小町。
「本物と呼べる〜場所を〜♪探しに行くのはきっと〜♪いーまなんだ!」
といろはは上機嫌で歌って満足したようだ。
「せんぱいー、この歌せんぱいの言ってたことみたいですね、本物が欲しいって♪」
「そういえば歌詞で出てきたな、つか、恥ずかしくなるからやめようね」
とは言え、八幡はこの雰囲気に悪い気はしていなかった。決して心地良いとは言えない。だが、何か温もりを感じている彼だった。
「せんぱいも歌いましょーよー」
「やだよ、俺にレパートリーは存在しない」
「じゃー今日の事雪ノ下先輩や結衣先輩にバラしますね」
「お前ってほんと俺をいじめるの好きなのな…」
「せんぱい、お前って誰ですかー?」
「……い……ろは(なんで名前で呼ばされてるの俺)」
「はい、せんぱい♪」
ピッピッと言っていろはは曲を入れた。
「えー、これかよ、お前よく知ってんな」
「まあなんか知ってました!」
「「陽の満ちるこの部屋ー、そっとトキを待つよ」」
「あー!いっぱい歌いましたねー!」
「俺は完全に無理矢理歌わされた感があるがな」
「いやいやノリノリじゃなかったですか?楽しかったですよねー!」
「んー、微妙」
「なんですかそれ!」
いろははそう言いながら八幡を軽く叩き始めた、
周りの人はそれを見て(リア充うるせえ……)と思っていた。
2人はカラオケを後にすると、駅まで歩き出した。
「なあ」
「せんぱい、名前」
照れ隠しのように目線を彼方此方に逸らす八幡。
「い、いろは、今日はもう遅いから送ってやる、駅までだがな」
「えーほんとうですかー?♪でも大丈夫ですよ」
「そうか?まあお前がそう言うならいいか、俺すぐ帰れるしな」
「せんぱい、普通は強引にも付いてくもんですよ……」
「ふっ、俺に男らしさを求めるだけ無駄だな。俺は最小限の事しかしないんだ、超エコ。地球に優しい人間まであるな」
「何言ってるかわからないですよ……」
そんなやり取りを続けていていろははとても楽しそうにしていた。無邪気に笑うその姿は八幡の瞳にどう映っているのか。駅の近くに行くといろはが立ち止まり、
「ここでいいですよ、今日はありがとうございました。せんぱいの美味しかったです♪
「おう、じゃーな」
「せんぱいなんか冷めてません?!」
「いやだって彼氏じゃないし」
(まあそうですけど少しくらい素直にお礼言ってくれたってー……せんぱいのバカ、鈍感、八幡)
「なんだよその何か言いたげな顔して、ほら早く行けよ」
「ふん!わかりましたよーだ!さようなら、せんぱい♪」
八幡はその場で振り返り、後ろ向きで手を振っていた。いろははその姿を見て微笑んでいた。
「さて、帰りますかー!」
と意気込んだところによく駅にいる不良ぶっている高校生がいた。
「マジパネーあの子かわいくねー、話しかけちゃおうぜー、つか、俺らが話しかければ落ちないわけないっしょー。パネー。」
(うわうっざ、話し方も誰かに似てるし、早くどっか行こ)
「ねーねー、これからどこいくのー?」
「いやー塾の帰りでこれから帰らなきゃなんですよー♪」
「俺らとカラオケ行かないー?まじちょーかわいいじゃん」
マジパネー、と後ろの1人は騒いでいる。
人数は全員で5人。
「いやーでもーお金ないってゆーかー早く帰らなきゃなんですよー♪親も心配しますしー」
(自分達がかっこいいと思ってるのかな、全然そうでもないんだけどなー、てか、こーゆー人達にマシな人いないし)
「いいじゃん、いこーよ!友達呼んでもいいからさー!」
いろははそこで黙り込んでしまった。
黙り込めば不良集団がどこか立ち去ってくれると思ったいろは。だがそうはいかなかったのだ。
「え、えっと……」
いろははそこで次の言葉に詰まってしまった。困惑してしまった。
(なんでだろう、こーゆーのには慣れてるのに少し怖い…)
「い、いやー友達もダメだと思うんですよーだから…今日はごめんなさい」
「えーいいじゃん、いこーよ」
一色いろはの心は強い。いや強く見せているのだろう。弱さを見せたらそこに付け入れられる。弱さを見せたら自分の今ままで作ってきたイメージを崩してしまう。嫌な事があっても笑顔で我慢してきたのだろう。顔に出すタイプでも愚痴も言うタイプでもない。だか本当は脆いのだ。少しの事でも気にしてしまう繊細な女の子だ。話しかけられても上手く躱すいろはだが何故か言葉が上手く出ずに涙ぐんでいる。
無理矢理連れて行かれるいろはの腕を何かが強く引き寄せた。
「お前こんなところにいたのか、探したぞ」
「え?お前だれ?」
「あ?か、彼氏だよ、文句あんのかよ」
その目つきはとても悪く、友達や知人すらいなそうな、人馴れしていない雰囲気を出しているその男が彼らに向かってそう言い放った。
「なんだよー彼氏待ちかよー行こうぜー」
「マジパネーー、それはやばいっしょ〜」
彼がそれを言うと男達は立ち去っていった。
「………っ!……せ…ん…ぱい………っ!」
涙ぐむいろはの目の前に比企谷八幡が現れたのだ。
「なんで絡まれちゃってるのお前、なんで俺が上条◯麻さんばりのヒーローっぷりを発揮してんの…俺はぼっちで目立ちたくないんだけど」
「あれだな、あざとかわいいってのも不幸なもん…」
八幡の声がここで途切れたのはいろはが彼に抱きついてきたのだ。
「おま!?一色さん?!あざとすぎませんか!」
「わぁぁぁぁぁん……!こわ…かったです…!いつもなら平気なのになんか…っ!なんか……」
そう言うといろはは八幡の胸で泣き始めた。
(こいつも1人の女の子だもんな、強い強いと思っていてもあの場では不安にもなるだろう。いやまあだからってこの状況すごいドキドキするし、泣いてるあざといろはすかわいいし色々とやばいかも、小町、お兄ちゃん死ぬかも)
「へっくし!ふぅ…寒いな…誰か噂でもしてるのかな、お兄ちゃん帰ってこないなら先にお風呂入っちゃお!」
とベストタイミングでくしゃみをする小町ちゃん。
いろはが泣き止むまで駅近くのベンチで座らせて落ち着かせた八幡。
「…せんぱい、すいません、ご迷惑をおかけしました。てゆーか、なんで私が絡まれてるのわかったんですか!!」
泣き終わった後のいろはの顔は赤かった。
と同時にその顔はいつもより可愛くなっていた。
「さーな、たまたま小町に買い物頼まれて駅の方行ったらお前が困ってそうだったから助けたとかでいいんじゃね」
「なんで曖昧なんですか!」
「曖昧とか言葉知ってるんだなお前は」
「せんぱい、馬鹿にしすぎです。
それよりさっきいきなり抱きついてごめんなさい、でもせんぱいの鼓動すごい早くなってましたよ♪」
「うるせーよ、あれだよ、人を助けるなんて事したことねーからドキドキしてたんだよ」
「こんなかわいい後輩に抱きつかれて嬉しくないんですねー?」
「はいはい、自分で言ってる時点であざといから減点。ほら、それよりもう9時過ぎてんぞ、送ってやるから早く行くぞ、あ、これ八幡的にポイント高いな」
「(せんぱいこそあざといよ…本当にこの人は…)なんですかそれ、今日はせんぱいの言うことを聞いてあげます♪」
その後、八幡はいろはを最寄りの駅まで送って行き、 いろはの自宅近くまで来ていた。
「もう泣き止んだか?」
「さすがに泣き止んでます!みっともない所をお見せしてすいませんでした」
「おう、早くもう帰れ」
「はい!ではでは!」
そう言うといろはと八幡は同時に後ろを向いて歩き出した。
「あ、せんぱい!」
「あ?なん……ん!!?」
八幡が振り向いた先にあったのは背伸びしていたいろはだ。そして唇と唇が重なった。
「今日のお礼です♪」
「ばっ!何してんだ!?」
「別に2回目なんだからいいじゃないですかー♪気にしない気にしない、ではでは!また明日学校で会いましょう」
八幡は何が起きたか状況を整理できずにいたが
いろはがそう言うと走って自宅まで帰るいろはの背中を彼は見つめていた。
しっかり玄関に入った事を確認し彼は歩き出した。
(さっきもそうだった、あいつの背中が消えるまであいつを見ていた。それが何故かはわからないが。俺も甘くなったもんだな、でもあいつの弱さが見れたのは意外だったかもな……平塚先生の言う通り俺は何か変わっているのかもしれない)
その気持ちを理解する日は来るのだろうか。
彼はマッ缶を買ってその場所を後にした。
更新遅れてすいません。
八幡が八幡らしくない事をさせてみました。かっこいいですねー、
上条◯麻=とある魔術の禁書目録の主人公。不幸体質のヒーロー。