ゼロの使い魔《怪人の主は純血の姫》 作:Gesamtsieg
このまま続けばいいなぁ。(希望的観測)
〈純血〉
「さぁ、かかって来いよ少年」
「どうなっても知らないからな!」
木々もありそれなりに広いヴェストリの広場。いつもは生徒たちの語らいや笑い声が響くこの空間を、今は未熟な雄たけびと風を切る音が占領していた。
青銅で造られた長剣を振るっている少年がルイズの使い魔・サイト君で、常人では反応することすら危うい速度の剣をひらりひらりと躱している少女のような少年が僕の使い魔であるアサシンだ。
攻めているのはサイト君の方なのに、余裕があるのは攻勢に出る気もなさそうなアサシン。
圧倒的なまでの斬撃の雨を、十代前半ほどの少女が全て危なげなく余裕を持って躱している光景は異様ですらあった。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・っ! 何で当たらないんだよ!?」
紙一重で躱すのではなく、余裕を持って躱すのは、それはつまり完全に見切られているという証であり、無駄な動きを取り入れてでも圧倒できるという確証だ。恐らくはまだ年若いサイト君でさえもそのことは感じているようで、額に浮かぶ大粒の汗と焦燥にかられた表情がそれを示していた。
「さぁてね。運がいいのかもなぁ俺」
おちょくってるなぁ。よっぽどストレスでも溜まってたのかな?
ていうか、何でこんな状況になってるんだっけ。ルイズにばれると絶対面倒になるよ。主にサイト君が。
彼の弁解の為にも、一応思い出してみよう。
ことの始まりは数日前だった。
ある日の午後、どういうわけか給仕を手伝っていたサイト君がとある生徒が落とした香水を拾い上げて持ち主に渡そうとしてしまったんだ。
その生徒というのがギーシュ・ド・グラモンっていう女生徒に人気があり、少し癖がある金髪と割と整っている顔立ちが特徴的な男子生徒で、どこがいいのか全くわからないけど付き合っている恋人も一人や二人じゃないらしい。本当にどこがいいのかわからないけど。
運悪くサイト君が拾った香水はギーシュ君の恋人の一人であるモンモランシーが調合したものらしくて、それを見てしまった別の恋人が彼を見事にふってしまう。さらには、件のモンモランシーにまでバレて、当然激怒されワインを頭から被せられる始末。
そこで終わっていれば笑い話だったんだけど、相変わらずのキザったらしいセリフで言い繕ったギーシュ君に、あろうことかサイト君は煽るような一言を口にしてしまった。「二股をかけていたお前が悪いんだろう」と。
流石にプライドがあるのか、かの色男もおかんむり。サイト君を罵り皮肉を浴びせるが、サイト君もそれに怒って、あれよあれよと決闘まで約束してしまう。男の子ってどうしてああなんだろうね。
通常なら考えるまでもなく剣を持った程度の平民がメイジに勝てるわけがない。それが一番ランクが低いドットメイジで、まだ学生のギーシュ君であろうとも。
もちろん僕もそう予想したけど、結果は違った。
なんとサイト君が勝利した。
最初はギーシュ君が操る青銅の女型ゴーレムに圧倒されていたサイト君だが、お情けに渡された青銅の剣を持った瞬間風向きが大きく変化した。
まるで体の一部であるかのように剣を振るい、風をも置いてけぼりにしそうな速さで動き、青銅をいとも簡単に切り裂いたのだ。彼は名のある剣士だったのか、と後にルイズに訊いたけど、そうでもないらしい。恐らくは使い魔のルーンの力だと。
何体ゴーレムを出そうとサイト君の剣は止まることがなく、やがて切っ先を突きつけられたギーシュ君には負けを認める以外の道が残されていなかった。
ルイズの心配を振り切り、知り合いのメイドに格好いいところを見せ、プライドを守り切ったサイト君。さぞ気分が良かったことだろう。このままハッピーエンドだと思ったに違いない。
だけど、そうはならなかった。
僕の使い魔兼サーヴァントが状況を眺める僕の横で、ニヤニヤと笑っていたのだ。
何を思ったかアサシンは、決闘で怪我をしたサイト君が運ばれた保健室へと駆けこみ、こう言い腐ったのである。
「なぁ少年。俺と一発やろうぜ」
当たり前だが、辺りは騒然とした。
僕は頭が真っ白になったし、治療を行っていた先生は稀に見る間抜け顔をさらした。ルイズに至っては意味がわからず呆然とするしかなかった。
言われた当人であるサイト君はポカーンと大口を開けて驚き、次の瞬間顔を真っ赤にした。どこか嬉しそうだったのには軽蔑の念を抱かずにはいられなかったけど。
「ああ、勘違いするなよ。性行のことじゃなくて戦闘な。少年の技量に興味が湧いた」
性行と聞きとたんにトマトのような顔色になる主と、明らかに残念そうな顔をする使い魔。ある意味対照的だった。
魔法で治せるとはいえ怪我を負ったこともあって、ルイズは反対した。
それでアサシンも引き下がったように見えたんだけど・・・・・・。
ヒュン、ヒュンと風を切る音が続く。
ギーシュ君を見事に打倒したサイト君でも、流石に疲労の色が顔に現れている。
見るからに滝のように流れる汗と、徐々に鈍ってきている剣を振るう速度がその目に見える兆候だろう。
多分だけど、体の疲れだけではないはずだ。
自分よりどう見ても年若い少女に翻弄され続けるというのは多少なりとも腕に覚えがある者にとって苦痛以外の何物でもないことは想像に難くないし、先日華々しい勝利を決めた彼の場合正しく自信も誇りも打ち砕かれる思いに違いない。
そういった精神的な疲労と、単純な肉体的疲労。その二つが同時にのしかかることによって、彼の体力は加速度的に消費されていっているのだ。
「くそ・・・・・・っ! くそ・・・・・・っ!」
袈裟懸けに斬る、空を切る。振り下ろす、地面に刺さる。突き刺す、風が鳴る。
素人の僕から見てもサイト君の剣は並ではない。あの日戦ったのがギーシュ君じゃなくても、例え優秀なトライアングルメイジで『微熱』の異名を持つかのキュルケでも苦戦は免れない。もしかすると負けてしまうなんてこともあるかもしれない。
それほどまでにサイト君の振るう剣は速く、苛烈だ。
ただ、アサシンの速度はそれを圧倒的なまでに上回ってしまっていただけで。
反応速度、体を動かす速度、戦闘に必要なそのどちらも少年剣士のそれは、少女のものにかすりもしない。
正しく怪物的な体捌き。だというのに、少女の動きは舞にも似て美しい。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」
「体力が尽きたか、少年。見た目の割にもつじゃないか」
ついに、ついにサイト君は膝をついた。
剣を地面に突き立て、荒い息を吐き続けている。誰が見ても余力は残っていないように見えるのに、目だけは挑戦的に勝者を睨んでいた。
呆れた負けず嫌いだね。
素直にそう思う。ルイズと言い、サイト君と言い、案外この主従は似ているのかもしれない。
アサシンが攻撃を避け続け、サイト君が動けなくなるまで疲労することで、一時間に届こうかという攻防は終わりを迎えた。勝者はアサシンで、敗者はサイト君。運や調子によってついた優劣ではなく、彼らの差は兎と獅子ほどに開ききっていた。
暗「アサシンさんのうだうだ解説コーナーはっじまっるよー」
僕「冒頭からすごく棒読みだけどはじまるよー」
暗「そして、終わるよー」
僕「ところで前回僕の夢を勝手に盗み見てたよね」
暗「ナンノコトカナ」
僕「勘違いしないで。君もわざとじゃないんだろうし怒らないから」
暗「主の寛大さに乾杯」
僕「まぁ、場合によっては刺すけど」
暗「どこを!?」
僕「というわけで今回僕が知りたいのはその夢のこと」
暗「なるほど。予防の為にも気になるってことか」
僕「そういうことだね。プライバシーの欠片もないもの」
暗「まぁ、プライバシー云々は置いといて、あれは予防できるものじゃないけどな」
僕「というと?」
暗「あれは、サーヴァントとマスター双方に起きる現象で、意識的に制御することはできない」
僕「つまり君との契約を切りでもしないと、防げないってことだね」
暗「そういうこと。まぁ、そう悩む事でもないさ。恥ずかしい妄想の類なんかはまず見ることはない。あれは心象風景や過去を映すだけのものだからな」
僕「それはそれで嫌だけどね」
暗「そう言われても仕方がないのだよ。とはいえ、今回のようなケースは珍しい。本来サーヴァントは霊体だから眠らない、故に夢は見ない。多分受肉したことが影響しているんだろうな」
暗「今回の解説コーナーはこれで終了だ」
僕「次回はサイト君視点で物語が進むよ。一部だけ」
暗「良かったな少年。夢にまで見た出番だ。謳歌するといい」
僕「それでは皆さんまた来週~」