ゼロの使い魔《怪人の主は純血の姫》 作:Gesamtsieg
胃腸炎で入院して他にやることがないともいう。
レポート? 試験? 知らない子ですね。
《怪人》
結論から言うと罪人の首は飛ばなかった。どちらかというと処刑を見物に来た一般市民の近くに鎌が吹き飛んだという様子。
具体的には、サイトは爆発せずに済んだが、全く関係のない建物にルイズの魔法が作用して壁が壊れたという。
見事なノーコントロール。一歩間違えれば俺やアルルにも飛んでいたのか。サーヴァントの目をしてもどこに飛ぶかもわからんなんて、凶悪にもほどがある。
「どうしたアルル? 青い顔して。あそこに危険なものでもあるのか?」
隣を見れば我がご主人が気まずそうな顔をしていた。どうやら爆破してはまずい場所だったらしい。あの塔に一体何があるのやら。学院長の私室でもあったか?
「あそこ、宝物庫なんだよ。学院の・・・・・・」
「わあ・・・・・・」
そらまずい。学院長の私室が爆破されるよりも数段まずい。中の物品の状態もそうだが、あのままじゃ盗んでくださいと言っているようなもの。
そして、その推測は残念ながら的を得ていたようだ。
周囲の土や岩が集まり巨人が出来上がったと思えば、壁の穴を広げて行く。
間違いなく泥棒の類だろう。元から潜んでいたに違いない。突然の状況の変化に動じず即座に利点を見出して行動する辺り、相当に腕のいい盗賊だろう。いや全く、部下に欲しいくらいだ。いっそスカウトしてみるか?
なんにせよ追わなければ話にならん。
俺は軽くマスターの肩を叩いて必用最低限の言葉を選んで口を開いた。
「追ってくる」
目指すは不届き者の元。口にした時には足が動き、風さえもその場に置き去りにして走り出す。燃料はただ一つ。
頼んだ、とそう言われたサーヴァントの力を見せてやろう。
〈盗賊〉
私の名前はマチルダ。マチルダ・オブ・サウスゴータ。巷では『土くれ』のフーケなんて呼ばれて恐れられている貴族専門の盗賊をやっている。
盗みのターゲットがターゲットである以上腕の立つ傭兵やメイジなんかは散々相手にしてきた。当然だけど、金を持つ貴族ほどその財や命を必要以上に守りたがる。であれば強い護衛を雇うのは当然のこと。
だけど今回の相手は格が違った。
大体の追手は森などの視界が悪い場所に入った時点で撒けたものだけど、こいつは私を見失わないどころか時折道中に落ちている木の枝や石を投擲してくる。熟練の風のメイジのウィンドでさえ出せないような、もはや視覚では捉えられない速度で飛んでくる投擲物はどれもギリギリのところで躱せるように調整されていて、明らかに当てる意思を感じられない。その気になれば一瞬で私を仕留めることも可能だろうに。
舐められているね。良い度胸じゃないか。流石にカチンときたよ。
学院から随分離れた辺りで私は勢いよく振り返り、同時に適当な土の壁をいくつか周囲に作った。
まだついて来ているはずだ。余程隠形が上手いのか姿形こそ確認できないものの、気配はまるで見せびらかすようにわざと大きく感じさせられている。こっちに向けられた視線すらもわかりやすく肌にビシビシと理解させられていた。
品定めされてるのか? 闇に潜む者としても、恐らくは戦闘者としても数段上手なのはわかっている。それなりに場数を積んでるんだ。彼我の戦力差くらい理解できないわけがないだろ。
こういう手合いは直接姿を現して交渉するに限るよ。逃げられない相手ならなおさらね。
「出てきたらどうだい!? いるんだろ!? 交渉のテーブルに着いてやるって言ってるんだ!」
大声で私は怒鳴った。
逃がさずしかし捕まえずの状況を、わざとここまでキープしてるんだ。相手は間違いなく交渉を望んでいる。もしくは、そうする用意がある。そして何より、ここまで舐めくさりやがった捻くれ者の顔を見て一回文句を言ってやらない限り腹の虫がおさまらない。
果たして、数秒の後前方―――私からすれば背後の―――茂みが揺れた。
慌てず、しかし全速を持って振り向いたそこにいたのは、見慣れない意匠の服を着崩した可愛らしい少女だった。多分だけど美しさならうちのティファとタメ張れるレベルだね。まだ幼いことも含めてなおのこと、疑問が募る。
「ハッ。どんな屈強な追手が出てくるかと思ったら、随分と可愛らしいお嬢ちゃんが出てきたじゃないか」
半ば腹いせに、聞こえるようにぼやく。意外といえば意外だったけどそれで警戒を欠いたら『土くれ』の名が泣くってね。
しかし、その程度の挑発で揺らぐような相手でもないらしい。依然として少女の顔は楽しそうに笑っている。
「世の中見た目で判断できるものの方が少ないぜ? 俺もそうだし、あんたもそうだ。なぁ、ミス・ロングビル」
「・・・・・・ッ!」
見事にばれちまってるじゃないか! 顔を明かした覚えはないね。となると、
「ああ、変な誤魔化しはいらないぞ。俺と似たような系統の動き方するアンタならわかると思うが、この業界じゃあ動きの癖から敵を見分けるっていうのは定石中の定石だろう?」
やっぱりそれか。しくじったね。まさかそこまでの腕を持つ同類が学院内にいるなんて思いもよらなかった。
だったら隠しても無駄だ。盗賊に限らず鉄火場に身を置くような連中はその経歴が長ければ長いほど、癖ってもんがついてしまう。こいつは指紋みたいなもので人によって違うし、そう簡単に変えられるようなものでもない。だからこそ、正体を隠そうとするような輩を見分けるのに一役買っているわけなんだけどね。
第一、捕まってしまえば正体なんてすぐに割れることだ。
「チッ。・・・・・・それで、どうしたいんだい? 捕まえてあのセクハラジジイの前にでも連れだすのかい?」
「そうして欲しい?」
「欲しいわけがないだろ!」
この女はふざけているんだろうか。
絶対的な戦力差から来る余裕って奴なんだろうけど、されてみれば思ったより腹が立つもんだね。
ゴーレムで押しつぶしてみようか。確実に避けられるだろうが驚かすくらいはできるだろうし。
「取り引きしよう」
警戒を最大限に持ち上げ、精神力を練り始めたその時。目の前の化物は、小さく笑みを作ってそう言った。
あと一話くらい出したらしばらくまた投稿しなくなりますね(確信)