ゼロの使い魔《怪人の主は純血の姫》 作:Gesamtsieg
どんな条件を吹っ掛けられるかわかったもんじゃない。そうわかっていても、私に交渉の座につく以外の選択肢はなかった。
せめて少しでも有利に取引を進める為に、場所は事前に調べておいた森の中の廃屋にしてある。それだけでもまずは進歩と思わなければやっていけない。
「俺から行こうか。こっちの要求は至極単純。盗んだ物を返して、後は少々個人的な『お願い』を聞いて欲しい」
そら来た。
私を捕らえず交渉なんかに持ち込むってことは、利用したい意思があると相場は決まっているってもんさ。服従か隷属か。あのクソジジイと同類ならそういう方向も覚悟しなきゃならない。
「盗賊に宝を置いて帰れっていうのかい? ふざけるんじゃあないよ」
「へぇ、何もわかってないのか」
面白いものを見るように、くつくつと笑う少女。腹も立つがそれ以上に危険を感じるね。強気に行き過ぎたか・・・・・・?
思わず身構えてしまう私だったけど、次の瞬間耳に届いた言葉に仰天することになる。
「あんたが盗んだ物だがな、ありゃあ宝物でも杖でも何でもない。重いだけの無用の長物さ。少なくとも値打ちがするもんじゃあないよ」
「は?」
いや、だってあれだけ厳重に保管されていたものがガラクタなわけないじゃないか。『破壊の杖』なんて呼ばれている代物だよ? 恐ろしく強力な魔法具のはずさ。
「逆に訊くが、それに魔法の類がかかっているか確かめたか? 俺が見る限り魔力も精神力も感じないんだがね」
そういえばそうだった。噂だけを信じて私はロクにこの杖に触っていない。本当に破壊の力を持つなら触ることすら危険だと思ったからね。
ここが交渉の場だということも忘れて、私は慌てて持っている包みにディテクト・マジックをかけた。これが本当に魔法具なら反応を示すはずだよ。
「・・・・・・・・・・・・」
「で、どうだった?」
「・・・・・・固定化以外一切の魔法がかかっていない」
有り得ない! じゃあ私はガラクタを掴まされたってのかい!? じゃあなんで魔法学院の宝物庫なんかにあったっていうのさ!?
「そういうわけだ。そんなガラクタ、持っていたって何の得にもならんだろう? どうせ学院長の思い出の品だとかそんなんだぞ」
「あのクソジジイ・・・・・・。紛らわしいことしやがって!」
人の尻は触るわ、ネズミを使って下着を覗こうとするわ、いらんことはするわ、本当に嫌なジジイだね! 次会うことがあったらあの髭引き抜いてやる!
こんなものとばかりに私が放り投げた包みを軽い調子で受け止めた少女は、満足そうにそれを自分の背後に置くと、こう切り出した。
「そこでだ。あんたはこのままじゃ腹の虫がおさまらない上に手ぶらじゃ帰れない。俺はちょっとしたアシスタントを雇いたい。当然、報酬も込みでな。悪い話じゃないだろう?」
「それが『お願い』かい?」
「そうとも。何ならこのまま学院で働いてくれれば、秘書としての給料は入るし俺から報酬も手に入る。いつ捕まるとも知れない盗賊業を続けるよりは危険が少なく、かつ安定して金が得られるんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・・・」
確かに悪い話じゃない。実際今回のように腕利きの同業者が敵に回ったらその危険度は計り知れなくなる。金も今より安定してあの子達に送ることができるだろう。
「別に報酬は金銭だけに限定されないぞ。あんたが望むなら俺の武力なんかも報酬にしてもいい。例えば、誰かの護衛やたまの盗みの補助なんか、な」
「何だって?」
「手を貸そうと言ってるんだ。本業こそ俺の部下ということになるが、別に盗みをやめろと言っているわけじゃない。副業としてやるというのなら手伝おう」
戦闘力も・・・・・・おそらくは盗賊としての実力も私より数段高いこいつの協力を得られるならどれだけ仕事が楽になるだろうか。いや、今まで手を出せなかったヤバそうな線まで踏み込めるんじゃないか? そうすればあの子達への仕送りも・・・・・・。
でも話が美味すぎやしないか? これじゃああまりにもこいつのリスクとリターンが釣り合っていない。
「本業を俺の部下にしてもらう以上盗賊業の回数は大きく減るだろう。本業に関しても各地に飛んでもらうこともあるかもしれない。これは君の腕を見込んでのことだ。俺は学院を長く離れることができないからな。案外釣り合いが取れているんだよ」
まるでこちらの心を読んだような説明だ。恐ろしいほどにこういった交渉ごと(一方的)に慣れていると見える。
「さて、答えを聞かせて欲しい」
はぁ・・・・・・。どうやら新しい上司はずいぶんと厄介な奴らしいね・・・・・・。