シルヴィと   作:かのえ

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外から見た二人 1

 この町には医者が一人いる。若い男性で、面倒見が良くて誰もが先生のことを信用している。金に困っている人から治療費をとらず、余裕が出てきてからで良いと言うような人だ。

 そんな先生がある日から連れている少女がいる。綺麗な銀の髪、瞳を持っているとても小さな女の子だ。彼女はその目立つ髪の色ではなく別の部分で大いに注目を浴びていた。

 

 まず見るからに栄養の足りていない骨の浮き出た身体に、日に浴びていないだろう真っ白な肌。そこに浮かぶ赤く、見るからに一生綺麗に消えるようにはならないだろうという顔や肩、腕に大きく残った火傷のあと。細い手足から見える何かで叩かれたであろうミミズ腫れなど、生々しい傷跡が全身に走っていた。

 

 誰もが知る優しい先生がそのような女の子を連れている、誰もが思った。見るからに「まともじゃない」生活を送らされていた少女を保護したのだ、と。

 私は女の子が不安そうに町をきょろきょろと見回しながら先生の一歩後ろを付いて歩くのを見ていた。きちんとした食事をして傷さえなければ誰もが羨むような美しい姿だったろうに、今の彼女はどうだ。何かに怯え、身にまとっているのはただのボロ。傍目から見ても先生にすら警戒しているようだった。

 

 ふと、その少女が立ち止まった。私は窓から彼女が何に気を取られたのかが気になって覗く。先生は立ち止まった彼女に気が付き、何やら頷くと手を引いて彼女が気になっていた店へと入っていった。二人が入っていったのはおそらく喫茶店だ。甘い匂いにでも誘われたのだろうか、私も幾度か立ち止まった記憶がある。

 

 どうしてあんな姿に、どうして、という思いが頭をめぐる。私は少女が気になって仕方がなかった。

 次に彼女を見たのはなんとその翌日。しかも私の店でだった。女性用の洋服しか取り扱っていないこの店に偶然先生が足を運んだということはありえないだろう。十中八九、少女のための服を買いに来たに違いがない。

 私は先生に少女に見合った服を見繕うと言い、彼女の手を引いて店の奥へと入っていく。しかしこの手はなんだ。いくらなんでも細すぎる。そこら辺の木の方が頑丈に見えるようだった。

 

 全身を軽く触れ、サイズがどれくらいかを測る。彼女の全身の傷やなどから、もしかすると触れるだけでビクリと身体を震わせてしまうかもしれないと思ったのだが、事態はそれよりも深刻だった。

 そこまで人に怯えていないのだな、と思いつつ少し屈んだ時だった。彼女と視線が交差した。そして、全身にゾクリと鳥肌が立つのを感じた。

 

 なんなのだ、この目は。銀の瞳に光がなく、まるでなにも映していないようにも見えた。そこから伺えるのは絶望ですらなく何もかもへの拒絶、無関心。彼女は何かを感じることにも疲れてしまうような、想像を絶するような過去があったのだろう。

 身体に触れて反応が無かったのも、無関心。感じる心を止めることで辛いのから逃れようとしたのだろう。

 あまりにも残酷だった。10にも満たないような少女が、という憐れみの感情でいっぱいになる。

 

「下着をつけていないのね」

「……前のご主人様が与えてくださったのはこの服だけなので」

 

 彼女が持っているのはボロ一つだけだという。しかし、これを服というのには薄すぎたし、ただの布切れだ。

 

「女の子は下着にも気をつかうものなのよ。結婚ができるような年の女の子はみんな、私のお店に来るわ。……あなたは何歳か、わかるかしら」

「お前と同じ年で結婚しているやつもいる、と前のご主人様は……」

 

 驚きで目を見開く。なんと、すでに彼女は結婚可能な歳だというのだ。どう見てもそうには見えないのだが、長い過酷な生活の間、常に栄養が足りていなかったに違いない。だが、言われてよく見てみれば彼女の臀部は形の良い女性らしさが見て取れた。

 前のご主人様、と呼んでいるところからかつては奴隷だったのだろう。また、「前の」と呼んでいるところから察するに、今も自分が奴隷だと思っている。先生がどういう条件でこの少女を引き取ったのか知らないが、断言できる。奴隷のように扱ってはいないと。

 もし奴隷として扱っているのであればこの店に連れてくることなどまずあり得ない。

 

 私は彼女に紺の長袖を着せる。これで多少は火傷痕などが外から見られないだろうし、余計な注目を浴びないはずだ。私は先生のところへ戻る前に名前を聞いた。

 

「はい、これで見違えたわ。さて、先生のところへ戻りましょうか」

「……はい」

「そう言えばあなた。お名前は?」

 

 この後、日を追うごとに柔らかい表情を見せていくようになる彼女、シルヴィとは長い付き合いになるのだが、その時の私はなんとなくそれを予感していた。なぜならば、着飾ったシルヴィを見て先生が頬を緩めたのだから。彼のそんな様子がまるで子どもに対する親のように見えて、くすりと私も笑みを浮かべる。

 

 いつか、完全に彼女の傷が癒えますようにと、去っていく先生の背中に祈った。

 が、心の方はあっさりと先生に溶かされたようで、半年もたった頃にはまるで若夫婦のようだねと町で囁かれるほどになった。まったく、あの先生はどんな魔法を使ったのだろう。

 それはそうと、最近シルヴィからは妖しい色気を感じるようになった。あどけない少女の中に男を惑わすようなそれ、アンバランスさにクラリとやられる人が出てきそうだが……まさか、ね。

 

 不思議と若夫婦、という言葉がそのままのように思えてきた。今度二人がやってきた時に大人向けのアクセサリを出してみるのも良いかもしれない。




服屋のお姉さん√欲しい…欲しくない?

あ、シルヴィちゃんこれは冗談というかなんというかちょ
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