吸血鬼始祖は真祖と踊る   作:後日

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第一話

 

 

 ――ユグドラシル。

 

 日本のとあるメーカーが満を持して発売した空前絶後の大ヒットを記録したDMMO―RPGである。

 

 数百の多種多様な種族、数千を超える職業、個人の好みによっていくらでもカスタマイズが出来る外装、北欧神話を下敷きにした九つの広大なマップ。それらの豊富な要素に加えて、同種のゲームとは比べものにならない程の圧倒的な自由度の高さは、多くのプレイヤーから爆発的な支持を得ていた。

 ユグドラシルがこれほどの人気を博したのは、これらプレイヤーが望むだろう全ての要素が揃っていたからに他ならないだろう。

 

 ――しかし、時代が変わるようにどんなゲームにも必ず、終わりの時が訪れる。

 

 

▲▽▲▽▲

 

 

 

 ――ナザリック地下大墳墓。

 

 かつて1500人という人数で構成された、サーバー始まって以来のギルド連合軍の大侵略をはね除けた伝説のダンジョン。

 ユグドラシルにおいて最高峰のギルドとしてその名を轟かせる、総勢四十一人からなる「アインズウールゴウン」の本拠地である。

 その内部は白亜の城を彷彿させ、部屋の一つ一つは最高級の調度品が置かれている。

 

 そんな豪華絢爛としたナザリック地下大墳墓の第九階層には円卓と呼ばれる部屋がある。

 

 部屋の中央に置かれた黒曜石の如き輝きを放つ巨大な円卓には四十一人分の豪奢な椅子が備え付けられていた。

 その席に座っているのはたった二つの影。

 豪奢なアカデミックガウンを羽織った、白い骨が剥き出しとなった骸骨。

 そして、もうひとつはコールタールを思わせるどろどろとした黒い塊。

 

 前者は魔法使いが究極の魔法を求めアンデッドとなった、リッチの中でも最上位者である死の支配者(オーバーロード)。

 後者はスライム種の中でほぼ最強の種族である古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)である。

 

 両者共に共通しているのは、最高難易度のダンジョンで時折見かけるモンスターであり、どちらもプレイヤーの間ではひどく嫌われていることだ。

 しかし、この二者はAIで動くプログラムによって構成されたモンスターという訳ではない。

 彼ら二人は紛れもなく、この広大な面積を誇るユグドラシルの世界の中でロールプレイを興じるプレイヤーなのだ。

 

 二人はその凶悪な外見とは裏腹にとても平凡で平坦な口調と声色で、共に思い思い現実での愚痴などを語らっていた。

 

 骸骨の外見をしたオーバーロード――モモンガは、友人である目の前の黒いスライム――ヘロヘロの会社での過酷な労働内容に対する愚痴を真摯な態度で聞いていた。

 

「それは大変ですね、ヘロヘロさん」

「そうでしょ、モモンガさん。本当にブラック企業ですよマジで」

 

 ヘロヘロが疲れたようにため息を吐く姿に、モモンガは大丈夫ですかと、労いの言葉を掛ける。

 ギルドの構成員は全員がモンスターの外見をした異形種であると同時に、リアルの世界で生活を持つ社会人である。

 モモンガはヘロヘロがリアルの世界で送っている私生活の日々の内容やその愚痴に相づちを打ちながら聞き続ける。

 

 しばらくして一通りの会話を終えて一段落ついたところで、ヘロヘロが思い出したかのように唐突に呟いた。

 

「それにしても、このアインズ・ウール・ゴウンがまだ残っていたことに驚きましたよ」

 

 不意にヘロヘロから漏れたその言葉に、モモンガは「えっ?」と衝撃を受けたように固まった。

 そんなモモンガの様子に気づいていないのか、ヘロヘロはなおも変わらず言葉を紡いでいく。

 

「このギルドを維持するのは楽じゃないのに、これもギルマスであるモモンガさんのおかげですかね」

 

 ナザリック地下大墳墓は広大な面積を誇る十階層にも分けられた巨大なダンジョンである。

 その運営維持は並み大抵のものではなく、そこに住まう多くのNPC達の管理も含めれば、とてつもない労力と時間を強いられるのは必至だ。

 中にはリアルマネーが発生する部分もあるというのに、それをたったの一人たけで采配しているモモンガの手腕に、ヘロヘロは純粋に賞賛の念を浮かべていた。

 そんなヘロヘロの心中を察したモモンガは苦笑い混じりに「大したことではないですよ」と答える。

 

「それに俺一人だけじゃなくて、“アカツキ”さんにも色々と手伝ってもらっているんですよ? トラップの配置やNPCの管理とか」

「……なるほど、そうだったんですか、あの人もナザリックに来ているんですね。最近会っていないですけど」

「一応メールは送ったんですけど、今日のところはまだ来ていないですね」

 

 モモンガはリアルでも面識があり、ギルド内で一番の深い友好関係にある友人の姿を思い浮かべる。

 毎日欠かさずナザリックに訪れているモモンガはギルドを維持するために様々な雑務を行っている。

 それはアインズ・ウール・ゴウンを去ってユグドラシルを引退していったかつての仲間達が、このナザリックにいつでも帰って来れるようにと配慮してのこと。

 

 それはモモンガが皆のことを想っての独りよがりな自己満足であった。

 皆が安心してこのナザリックという家に帰って来れるようにと、モモンガの身勝手な我が儘である。

 

 それを嫌な顔ひとつせず、「水臭いなぁ」と手伝ってくれる親友には感謝の念が絶えない。

 

 最近課長に昇進したと言っていた彼は忙しいだろうに、時間を無理やり作ってはモモンガを常に支えてくれていた。

 

「それではモモンガさん。色々とありがとうございました。またどこかでお会いしましょう」

 

 ヘロヘロは最後となる別れの言葉をモモンガへと送ったところで、その姿を消した。

 ログアウトしたのだ。

 今ごろ彼はリアルの世界で仕事で溜まった疲労を癒すために睡眠を取っていることだろう。

 

 モモンガは今しがたヘロヘロが座していた席を静かに見つめた後、周囲をぐるりと見回す。

 かつて全ての席が埋まっていたそこには、モモンガ一人を除いてもう誰もいない。

 

「またどこかでお会いしましょうか」

 

 寂しげに呟くモモンガは、隣の空席に視線を向ける。

 

「アカツキさん」

 

 モモンガはギルドメンバーの一人であり、自身の親友たる仲間の名前をポツリと呟く。

 静寂に包まれたナザリックの奥で淡々とギルド運営維持の作業をしているモモンガに協力してくれた親友。

 モモンガの傍にいつもいて、共にナザリックで過ごす時間を最も多く共有した大切な仲間。

 

 ギルド内で最も親しい友人の影は、そこにはなかった。

 

 それが、とてつもなく悲しかった。

 

 リアルの世界で唯一面識のある友人。

 両親も友人もいないモモンガの素顔を知るたった一人の親友と呼べる存在。

 モモンガがアインズ・ウール・ゴウンに入る切っ掛けとなった“異形種狩り”の時に、PKに合っていたモモンガを発見してそれを助けるためにたっち・みーを呼びに行った帳本人。

 

『なんでも一人で抱え込むな。みんなのアインズ・ウール・ゴウンだろ』

 

 ケラケラと笑いながら、閑散としたギルドを維持するために感情を押し殺して黙々と作業するモモンガを手伝ってくれた仲間。

 ナザリックから一人、また一人と去っていく仲間達の後ろ姿を寂しげに見つめるモモンガの肩を叩いて励ます親友。

 自分だって悲しいだろうにそれをおくびにも出さずに、モモンガを支えてくれた最愛の友人の温もり。

 

 それが今、なくなろうとしている。

 

 リアルでも会えることは会えるが、しかし――。

 

 このナザリックで出会うのは、これが最後の時である。

 

 せめてサービス終了の最後の日ぐらいは一緒に過ごしたかった。

 モモンガは胸中に湧き上がる寂寥感を振り払うように、椅子から立ち上がる。

 

 向かう先は壁に掛けられた一種の芸術品のごとき見事な造りの黄金の杖。

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

 ケーリュケイオンをモチーフに色とりどりの七つの宝石をそれぞれの口にくわえた蛇が複雑に絡み合って出来たスタッフ。

 ギルドメンバー全員が総出で、各チームに分かれて競い合うようにして作り上げた至高の結晶。

 この武器を作るに至って様々な口論が繰り広げられた。

 莫大な時間と労力を強いる上に、膨大な量のクリスタルデータや必要素材、資源、経費といった様々な問題が山のように積み上げられた。

 しかし、それら数多の難題を仲間と共にクリアしていった。

 素材集めにダンジョンをさ迷っているところへ凶悪なモンスターや敵対するギルドやプレイヤーと遭遇した。

 家族サービスやリアルでの生活時間を削ってまで製作に取り組んだ。

 数え切れない程の困難を乗り越えて、このスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは皆の手で一から作り上げられた。

 このスタッフが完成した時は全員で盛大なパーティーを開いて祝った。

 皆が苦労して完成させたスタッフのその性能は破格といっても良かった。

 その力はかのワールドアイテムにも匹敵する強大な能力を秘めている。

 

「最後の時ぐらい、いいよな?」

 

 少しの逡巡の後。

 

 モモンガはギルドの結晶たるスタッフを手にして歩き出す。

 スタッフから発せられる過剰といえる程のエフェクトオーラに「作り込みすぎ」と苦笑いを漏らしながら。

 

 部屋の入り口にある巨大な両開きの扉を開け放って、円卓の間を後にする瞬間。

 

 モモンガは背後を振り返る。

 

「……」

 

 視線の先にあるのは空席の椅子。

 

 最愛の親友が座っていた席。

 

「…はぁ……」

 

 落ち込んだように肩を落としたモモンガはそれを最後に、今度こそ部屋を後にした。

 アカツキさんと、寂しそうに友の名を呼びながら。

 

 

 

 

 ――そして、モモンガが部屋を去ってから数十分の時間が経った頃。

 

 四十一の豪奢な椅子のひとつに突如として姿を現す人影。

 

「遅れてすみません、皆さん。いやぁ、部屋にリアル恐怖公が出てきて妹と一緒に金属バット片手にバトッてましたわ」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるのは思わず息を呑むような端整な顔立ちをした男である。

 年齢はちょうど二十歳といったぐらいだろうか。

 少しクセのある肩に掛かる程度まで無造作に伸ばされた白い髪に、ルビーを彷彿させる紅い瞳。蝋燭じみた病的なまでに白い肌。身長は百八十センチを超える長身。引き締まった筋肉は無駄な肉を全て削ぎ落としたようにしなやかだ。四肢にはそれぞれ漆黒の籠手と具足を纏い、その上から身体全体を覆う豪奢な真紅の外套を羽織っている。

 

「あれ? 誰もいない? もしかして俺が最後だった?」

 

 おかしいなと、困惑げにキョロキョロと周りを見回す青年ーーアカツキは首を傾げる。

 

 彼こそアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターであるモモンガを補佐する立場にあるサブギルドマスター。

 その正体は全ての吸血鬼の起源である始祖(オリジン・ヴァンパイア)である。

 

 純粋な肉弾戦ならギルド内最強のプレイヤーであるたっち・みーにも引けを取らないほどの圧倒的な実力を有する。

 さらに近接戦闘のみならず魔法戦にも長けるアカツキのバランスの取れたアバターは、彼の独特の戦闘スタイルも合わさってギルド内だけに留まらず、ユグドラシルプレイヤー全体でもトップクラスの武力を誇る。

 また、吸血鬼の起源という特性上、彼は配下となる様々な種類の吸血鬼を生み出し、使役、強化することができる特殊能力を数多く保有している。

 経験値を消費すればレベル九〇台の吸血皇帝(ヴァンパイアエンペラー)や不死王(ノーライフキング)といった強力なアンデッドを生み出すことだって出来る。

 

 アカツキはメールの差出人であるモモンガがこの場にいないことに困惑を隠せずにいた。

 今日はサービス終了という大事な日。

 モモンガが最後まで仲間達をこの場で待つとばかり思っていたアカツキは怪訝げに空となっている席を眺める。

 

 そして、ふと視線がある場所で止まる。

 

 普段は壁に飾られているスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン――それがないことにアカツキは驚愕に目を見開く。

 

 ギルドマスターであるモモンガですら触れることがついぞなかった黄金の杖。

 それを一体誰が持ち出したのか。

 アインズ・ウール・ゴウンは多数決を重んじるギルドである。

 ギルドメンバーの誰か一人が勝手に物事を決めることを良しとせず、必ず皆で意見を交換して議論を通してから決定を下すのだ。

 ましてやスタッフはこのアインズ・ウール・ゴウンの象徴であり、ギルド武器であるそれが破壊されることはギルドの崩壊を意味する。

 それが誰かの手によって持ち出された事実に、アカツキは盛大な衝撃を受けたのだ。

 

(…一体誰が……、もしかしてモモンガさん?)

 

 アカツキはリアルでも面識があり、ギルド内で深い交遊関係にある友人の姿を思い浮かべる。

 ギルドマスターである彼ならば、ギルドの象徴であり皆の想いの結晶たるスタッフを持ち出しても不思議ではない。

 今日はユグドラシルのサービス終了の日。

 むしろ、スタッフを持ち歩きたくなるのは当然のこと。

 何故なら今日は最後の日だから。

 

 しかしこれは裏を返せば、スタッフが持ち出されたということは、モモンガがこのギルド内にまだいることの証明になる。

 

 どこへ行ったのか分からないモモンガに向けて、自分が今来たことをメッセージで連絡を入れるべきだ。

 

 しかし、その前にどうしても確認しておきたいことがあった。

 

 幸い決して多いわけではないが、それでも時間はまだ残っている。

 

 アカツキは心の中でモモンガに謝罪をしながら、籠手の下に隠れている六つある指輪の内のひとつを使う。

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

 ギルド内であれば何のリスクや制限もなく自由に好きな場所へ行けるマジックアイテムである。

 

 視界が変わる。

 

 部屋の約八割を締める円卓から、クリーム色の壁をした部屋へ。

 

 そこは第ニ階層にある、シャルティア・ブラッドフォールンと名付けられたNPCの自室のひとつだ。

 

 シャルティアは第一階層から第三階層までの階層守護者と呼ばれる役職に就き、ナザリック内にいる一部を除いた全てのアンデッドモンスターを統べる真祖(トゥルーヴァンパイア)である。

 

 彼女は同じギルドメンバーであるペロロンチーノが製作したNPCだが、実際は彼一人で作り出した訳ではない。

 シャルティアを生み出すのに必要なクリスタルデータや課金アイテムの類いなどの様々な素材はアカツキが持ち寄ったのだ。

 外装データや性格、その他の各詳細な設定はペロロンチーノが担当したが、そのための必要素材を提供したのはアカツキである。

 シャルティアはペロロンチーノとアカツキの二人が協力して生み出したNPCなのである。

 

 そして、シャルティアのある一部分の設定を変える切っ掛けを作ったのはアカツキであった。

 

 当時、完成間近に迫ったシャルティアに最後の仕上げをしようとするペロロンチーノに向けて、アカツキが唐突にある言葉を投げ掛けたのが始まりだった。

 

『ロリ巨乳ってどうよ?』

 

 ペロロンチーノに激震が走った。

 

 エロゲにありがちな無数の設定をふんだんに盛り込んだシャルティアはペロロンチーノの最高傑作といってもよかった。

 エロゲイズマイライフを豪語するペロロンチーノにとっては、まさにシャルティアの存在そのものこそ彼の在り方を具現化させた芸術と|男のロマン(エロス)の結晶だった。

 

 それだけにアカツキからポツリと呟かれたその言葉は、ペロロンチーノの中にあるエロスハートに火を付けた。

 人生をエロゲに掛けるペロロンチーノは、そのキーワードを胸に抱いて、天を仰ぎながら心の中で叫んだ。

 

 その発想はなかった、と。

 

 貧乳はステータスだとかまな板こそ男のロマンだとか、そんな数多のペッタンコ説を考えて製作に取り組んでいたペロロンチーノにとっては、まさに天啓が舞い降りた聖人のような気分であった。

 彼の姉であるぶくぶく茶釜から隠れてアカツキと熱烈なエロトークを繰り広げていたペロロンチーノは、彼を自分に匹敵する猛者だと認めていた。

 自分の性癖と彼の好みが何となく似ていることから親近感も抱いていた。

 そんな彼の言葉を素直に受け止めたペロロンチーノは、すぐさまシャルティアの外装の一部分を変更した。

 そして、自身に天啓を授けてくれた友人(とも)に深い感謝と厚い抱擁を交わしたのだった。

 

 どちらも徹夜で残業をやり遂げたサラリーマンのような達成感に満ちた顔だったのは言うまでもない。

 

「あの時はペロロンチーノさんとシャルティアについて色々と語ったよな」

 

 昔の記憶を思い出すように、アカツキはどこか遠い目をして染々と呟いた。

 アカツキは目の前で静かに佇んでいるシャルティアの姿を眺める。

 

 外見年齢は十四才ほど。アカツキと同じ蝋燭じみた白い肌とルビーを彷彿させる真紅の瞳。腰まで艶やかに伸びる銀髪は綺麗にひとつに纏められて後ろに流している。身体を包むのは漆黒のボールガウン。スカート部分は大きく膨らんでおり、フリルとリボンがふんだんにあしらわれたボレロカーディガンを羽織っている。さらには手にフィンガーレスグローブをつけている。そして、胸の部分のみはその年齢と身長に釣り合わないほど不自然に盛り上がっている。これは胸パットの類いではなく、ましてや詰め物を入れたニセ乳などでは断じてない。これは正真正銘、本物の実乳である。

 

 ロリ巨乳最強とか呟いている目の前の紳士(ヘンタイ)と、エロゲ最高と公言する駄目人間(ペロロンチーノ)によって生まれた男の夢が詰まった奇跡の結晶なのだ。

 

「……しまった。ついうっかりしてて時間を忘れてた」

 

 じっとシャルティアの姿――主に胸部――を凝視していたアカツキは慌てた様子で時計を確認する。

 

「……やっば…」

 

 時計の針はすでにサービス終了の三秒前を刻んでおり、どんなに急いでもモモンガに出会うどころかメッセージを送ることだって出来ないことをありありと物語っていた。

 まさかシャルティアの胸を見ていて遅れてしまったとは、なんともカッコ悪い失態だった。

 アカツキは心の中でナザリックのどこにいるかも分からない友人に謝罪の言葉を送った。

 

 すみませんモモンガさん。

 本当なら直ぐにあなたを探して一緒に最後の時までいようと思っていたのに。

 

 アカツキは激しい後悔に苛まれながら、時計の針がゼロを刻むのを見届けた。

 

「さらばユグドラシル。さようならナザリック地下大墳墓。本当にごめんなさいモモンガさん、許して下さい。そして、シャルティア」

 

 悲しみと後悔に曇った顔で、アカツキは天井を見上げて、そっと両目を瞑った。

 ナザリックの仲間達との楽しかった日々の光景が目蓋の裏に浮かび上がる。

 誰もが笑っていた懐かしい光景。

 未知と財宝を求めて強靭なモンスターが徘徊する広大なダンジョンに潜った時に発見した宝の山に歓喜した記憶。

 戦場の中で傷ついた仲間を庇いながら、怒濤のごとく押し寄せる敵と戦った日々。

 どの思い出も、アカツキのかけがえのない宝であり、アインズ・ウール・ゴウンが最も輝いていた黄金時代の記憶である。

 

 もう一度みんなと一緒にプレイしたかった。

 最後の日ぐらい皆で過ごしたかった。

 他にもまだまだやりたいこと、やり残したものがたくさんある。

 

 ――それから。

 

「マジすんませんモモンガさん。でも許して、おっぱいには勝てなかった。おっぱい最高。いやほんと」

 

 アカツキは強制的にログアウトされる瞬間をなんとも言えない気持ちで待った。

 

 ――しかし。

 

(あれ? どうした? まだログアウトしてない?)

 

 時が過ぎれど、何の変化も起こらない事態に気がつく。

 

 目蓋を持ち上げると、そこには先ほどと変わらない天井が見える。

 いつもの黒い染みだらけのボロアパートのそれではない。

 

「……なんで?」

 

 サービス終了の時間はとうに過ぎたというのに、未だに自分はゲームの中にいる。

 その事実に戸惑うアカツキの元に、鈴の音を転がしたようなソプラノボイスが響いた。

 

「アカツキさま」

 

悲しみに満ちた嗚咽混じりの声に、アカツキは弾かれたように正面を向く。

 

「それはどういう意味でありますか。さようならとは一体どういうことでしょうか」

 

 そこには涙で頬を濡らしたシャルティアの姿があった。

 

 

 

 




名前 アカツキ

種族レベル。
吸血鬼(ヴァンパイア)――10lv
真祖(トゥルーヴァンパイア)――10lv
始祖(オリジン・ヴァンパイア)――10lv

職業レベル
サムライ――10lv
ダイケンゴウ――15lv
ラセツ――10lv
ロードオブヴァンパイア――10lv
ソーサラー――10lv
ほか


お読みいただきありがとうございました。
処女作です。完結まで精一杯頑張らせていただきます。
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