恋姫†有双   作:生甘蕉

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第二章    二周目
十一話   二周目?


 意識が白一色から解放された時、そこはもう神殿内じゃなかった。

「道場、か」

 もう見慣れた場所に戻ってきてしまった。

 ……真エンド計画、失敗したのか。

 

「貴様、こんな局面でまた死んだのか?」

 春蘭の言葉に首を横振り。それに秋蘭が頷く。

「いきなり光ったかと思ったら道場にいた。世界が終わったということなのだろう」

「たった一瞬。意外と味気ない終わりね」

 パニック映画なみの天変地異とか期待してたの華琳ちゃん?

 

 

 死ぬ時のあの言い様のない感覚が無かった。つまり俺は死んでないはず。

「死んでない……なのにここってことは、バッドエンドなのか?」

 いい加減、道場(ここ)から解放されたい。

 まあ、元の世界に戻れても華琳ちゃんたちといっしょじゃなかったら嫌だけど。

 華琳ちゃんたちといっしょにいられるなら、恋姫†無双世界だろうが元の世界だろうがどっちでもいい。

 残してきた両親は頼りになる弟が面倒見てくれてるだろうし。

 

「なにか条件を満たしてないということなのか?」

 体育座りして悩む。某新人類みたいに親指の爪でも噛んだらいい考えが浮かぶだろうか。

「条件?」

 華琳ちゃんたちも俺の側に座った。

「干吉たちの儀式が完成してしまったのか、それとも逆で儀式を完成させなければいけないのか?」

「北郷一刀が失敗したということはないの?」

「一刀君が一人だけを連れて新しい世界へ行ったとは考えたくない……」

 みんなと結婚式まであげておいて一人しか連れてかないなんて、連れてかれた方も困るだろう。一刀君はそんな男じゃない!

 

「道場主を名乗るあなたなら、何か知ってるのではなくて?」

 華琳ちゃんが孫策に問う。

「いろいろ試してみれば? まだやっと一周目終了でしょ」

 アドバイスは『いろいろやろうぜ』か。ってそんな作戦はちょっとなあ。相変わらずアバウトすぎる救済所だ。

 

「ふむ。ならばもっと前から始めましょう。儀式前に銅鏡を確保、もしくは破壊する」

「もっと前?」

「ええ。どうせだから私が干吉に操られるよりも以前。覇業を諦めず、大陸を制覇してみるのも悪くないわ」

 蜀や呉にも勝つってことか。真・恋姫の魏ルートっぽいな。

 たしかに無印恋姫を大筋でなぞってこの終わりなんだから、もう大きく展開を変えてしまうのもいいかもしれない。

 

「チートじゃない俺じゃあ無理だけど、今の華琳ちゃんならそれが可能、か」

 ……俺だって無双とはいわないまでも少しぐらいチートな能力がほしいなあ。『冒険の書』なんて使いづらいのじゃなくて。

 せめてセーブスロットがもう少しほしい。

 セーブ3、初夜の前に上書きしちゃったから『はじめから』を選ばないといけないんだよなあ。またあの荒野を彷徨うのか……。

 

「けど、はじめからを選んでも一刀君はもう、関羽と張飛ちゃんを仲間にしている」

「そう。できれば愛紗はこちらにほしかったのだけど……屈服させてから手に入れるのもいいわね」

「一刀君から寝取るのは無理そうだよ」

「ふん。私はあなたと違って膜の有無は気にしないもの」

「わかってもらえなくて残念です」

 俺にとっては重大チェック項目なの!

 

「まあでも、人材を増やすってのは必要かもしれない」

「なっ! 貴様、我らでは不足だというのか!」

 隻眼で俺を睨む春蘭。そうだ、どうせやり直すなら彼女の目も守りたいな。

 

「だって、一刀君のとこ武将の数多いから」

「ええ。嫁の数で負けてるのはいまだに許せないわね」

 嫁じゃなくて、武将の話なんですけど。

 

「皇一、北郷の嫁を寝取りなさい」

「嫌。というか無理!」

「北郷が手を出す前なら処女でしょう?」

 たしかに結婚したことは無かったことになってるだろうけど、あんなに仲よさそうな夫婦を引き裂くなんて人としてどうかと思う。というか、手を出す前なら寝取りじゃないよね?

 

「だから俺が女の子とそんなこと簡単にできるワケないでしょって」

「そうかしら?」

 つい、と華琳ちゃんの白くて小さい、でも強力な細腕が俺の眼鏡を奪う。

「か、返せ!」

「えー、あんたってそんな顔してたんだー!」

 孫策の驚いた声。

 あれ? 俺の素顔知らなかったの?

 

「これなら、たとえばそうね、小蓮なんかはすぐに落ちるんじゃないかしら?」

「シャオねえ。落とせたら褒めてあげる」

 二人で牽制してないで早く眼鏡返して。取り返そうとする眼鏡は華琳ちゃんと孫策の手を行き来して、俺の手が届かない。お前らイジメっ子か!

 

「信条に反するのは嫌だ。俺は華琳ちゃんたちがいればいい」

「……どう?」

「む。やるわね」

 えっと、俺の話聞いてますかー?

 俺の髪弄るの止めて下さいー。

 

「人材は一刀君の嫁じゃないのを引っ張ればいいでしょ」

「ほう?」

「公孫賛に華雄、この二人が死ぬ前に引き入れる」

「ふむ」

 俺の答に考えるものがあるのかやっと眼鏡を返してくれた。すぐに装着。「でゅわっ!」とでも言った方がいいのかな?

 

「他に北郷の嫁でないとなると……」

「袁家、かな?」

「アレはいらない」

 真・恋姫だったら袁術ちゃんいるのになー。袁術ちゃん可愛いのになー。

 

「顔良は使えます」

「いっちーも!」

 秋蘭と季衣ちゃんが仲のいい二人を薦める。

「そうね。麗羽抜きでその二人が手に入るのならば考えましょう」

 あくまで袁紹はいらないのね。わからないでもないけど。

 

「なあ、北郷の嫁でないのなら周瑜がいるではないか」

 孫策を気にしてないのかそんなことを言う春蘭。

「軍師は私一人で十分よ!」

 その案に桂花が怒鳴った。

 

「冥琳? 無理」

 でしょうねえ。

「無理かどうかは皇一が証明してくれるわ」

 無理だって。

 って、まだ俺が寝取るとかってなってるの?

 

「方針もまとまったことだし、始めなさい」

 え、今のでもうまとまっちゃったの?

 言われるままに選ぼうとすると、また違う文が増えていた。

「あれ?」

 

 つづきから

 はじめから

 2しゅうめ

 ひきつぎ

 

「二周目?」

 バッドエンドでも一周目クリア扱いになってるのか。選んでみるとさらに選択肢が現れる。

 

 ボーナスは?

 かね×2

 けいけん×2

 ???×2

 

 周回ボーナスがあるのか。でもなんだかよくわからないボーナスだな。

 まあ、周回ボーナス定番の『引継ぎ』がすでに実装済みだからこうなるのかな?

 

 お金が二倍か。……これって、所持金が二倍になるのとこれから入ってくるお金が二倍になるのの、どっちだろ? スタート時の所持金だったら日本円が二倍になってもなあ。

 経験も同じ。今のとこれからのどっちなんだろ? てか、経験値なんてあったの?

 なによりも意味不明な『???×2』ってなに?

 ……ランダムで能力値が二倍とか? 俺の低い性能が二倍になってもたいしたことなさそうだけど。

 

「どうしたの?」

 ああ、華琳ちゃんたちには空中の文が見えないんだっけ。

「なんか選択肢増えてるみたいだから、ちょっと試してみる」

 金は意味なさそうだから経験と???の二択か。

 ちょっとだけ悩んで『???×2』を選んだ。

 

 

 

 

 気づくと荒野にいた。

 しばらくみんなに会えないか。

 左手を見ると薬指の指輪はもちろんない。なんか寂しくなってくる。

 

 泣きそうになるのを堪えてボーナスの効果を確認しよう。

 軽く身体を動かしてみる。

 重い。兵士として鍛えられる以前のままっぽい。

 所持品を確認。やっぱり数は同じ。

 むぅ。

 

 じゃあなにが二倍になってるんだろう?

 セーブスロット?

「増えてない、な」

 セーブを呼び出してとりあえずセーブしてみたけど、どうやら違うようだ。

 

 クリアまでの期間が二倍とか?

 人里を目指しながら考えを巡らせる。

 引継ぎできる人数が倍……一周目だって伏せられてた名前全部オープンできなかったしなあ。確認できそうにないなあ。

 だいたい一刀君がいる以上、俺が女の子を攻略できる可能性なんて無いに等しい。

 いや、一刀君がいなくても限りなく低いか。

 

 

 うーん。

 スッキリしてから考え直そう。

 先程から我慢してる尿意を振り払おうと、辺りを見回して人がいないのを確認してから立ち小。

 ふぃーーー。

 ん?

 ふと違和感を感じ、下を見る。

 

「W0?」

 

 え?

 もう一度股間を見る。

 

「XX?」

 

 

 

 いや、バスターやサテライトってのは言いすぎだけどさ。

 一刀君でいうところの本体が二倍。

 ???って、ランダムじゃなくてただの伏字かよ!

 ここは杜(オー)町か?

 落ち着け。落ち着くんだ俺。

 玉が倍じゃなくて、棒が倍なだけだ。

 うん。俺にスタンドは使えない。

 

 

 

 

 頭はスッキリしないが膀胱はスッキリしたのでチャックを閉める。くっ、増えてるせいかしまい難い。

 ポケットからガムを取り出す。手を洗うことなどもちろんできないから、ガムに直接触れないようにして口に放り込む。

 噛みながら考える。

 事態は深刻だ。

 

 なにが二倍だ! ナニが二倍になるなんてボーナスじゃなくてペナルティだろう!!

 はっきりいって気持ち悪い。

 使う時もやりにくいだろうしなぁ。一周目でやっと使えるようになったのに。

 

「邪魔なら斬ればいいでしょう?」

 

 華琳ちゃんの声が聞こえた気がした。なんか今の幻聴がマジになりそうで怖い。

 桂花が嬉々として切断の準備をするのが浮かぶ。あいつのことだから、二本とも切られてしまうかもしれない。

 そんなの絶対に嫌だ。

 たとえ邪魔でも切られたくない。

 ボーナス解除できないかな。

 死んだら試そう。

 できなかったらどうしよう?

 

 そうだ! 華佗を探そう。もしかしたらなんとかしてくれるかもしれない。

 それまでは華琳ちゃんたちに会わないようにすればいい。

 ……会いたいなぁ華琳ちゃん。

 今頃なにしてるんだろう。

 

 

 あ、無印じゃ華佗出てこなかったんだっけ?

 一周目でも真キャラ見つからなかったみたいだし。

 

 

「つんだ……」

 絶望しながらもトボトボと人里を目指すしかないのだった……。

 

 


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