曹操──華琳──引継ぎ無し
その順番で引継ぎ欄が移行する事を嫁さんたちに説明する。
「皇一が言う真の状態が、今の私ということか」
「むう。たしかに今まで以上に華琳さまの力が高まっているようだ」
ああ、真・華琳ちゃんは無印華琳ちゃんよりも強かったんだっけ。春蘭ぐらいになると見ているだけでわかるもんなのかな?
俺にわかるのはどっちの華琳ちゃんも可愛いことぐらいだけどさ。
「まさに覇王の風格です、華琳さまぁ!」
桂花のはアテになるのか微妙な気もする。
「ボクたちは変わらないの?」
自分の衣装を見回す季衣ちゃん。
「残念ながら」
真で衣装が変わったのは華琳ちゃんのみ。
……そう思ってたけど、ロードしてみたら他にも大きく変わってる方たちがいました。
「ごっつい……」
今朝のデータをロードして陳留に再度到着。
モブ兵のみなさんがビルドアップしてる!
無印の時と違いすぎでしょ。あのスリムなボディはどこ行っちゃったのさ。
俺も兵卒やってたらごつくなれたのかしらん。
真・恋姫†無双の世界になっちゃったのかな?
今度は楽進たちといっしょに季衣ちゃんと典韋ちゃんがいた。迎えにきてくれたのだろう。
「お待たせ」
「おっちゃん、早く行こうよ」
ぐいぐい俺を引っ張る季衣ちゃん。
やっぱり俺を睨む典韋ちゃん。俺なんかしたっけ? 初対面ですよね?
あれかな? 俺に季衣ちゃんとられたからとか?
「皇一殿、この娘は?」
「ボクは許緒だよ、こっちは典韋」
星に自己紹介しながらも駆け足気味で俺を引っ張るの季衣ちゃん。ちょっと俺が大変。
「季衣ちゃん、ちょっといい?」
「にゃ?」
季衣ちゃんを肩車。これで俺のペースで歩くことができる。季衣ちゃんあんなに食べるのになんでこんなに軽いんだろ?
頬にあたる季衣ちゃんの太ももを堪能するのは当然だよね。うーんスベスベ。
「この娘は俺のお嫁さんの一人」
今度は迷いなく星に説明する。
「あとね、曹操ちゃん、夏侯惇、夏侯淵、荀彧も俺のお嫁さん」
「ええっ!?」
驚く楽進とビルドアップ兵。あ、星はまたフリーズしたか。
「星、星ってば。おーい」
「はっ、はは……ふははははははははははっ!」
いきなり大笑いする星。こうなることを知っていた俺以外のみんなが驚く。
「ど、どうしたの?」
心配そうな季衣ちゃん。
「いや失敬。私の誘いになかなか乗らなかったのはこういうことでしたか」
やっぱりしきりにうむうむって頷いている。
そして典韋ちゃんがますますきつく俺を睨んでるよう。
「き、季衣ちゃん。典韋ちゃんのことを紹介してくれないかな?」
「あのね、」
「季衣の親友の典韋です! 馴れ馴れしく典韋ちゃんなんて呼ばないで下さい!」
ええーっ!?
季衣ちゃんの言葉を遮って、あまりにも簡潔かつ冷たい自己紹介。妹にしたいキャラナンバーワンの優しい幼女はどこへいっちゃったの?
「な、なんか俺嫌われてる?」
「流琉、おっちゃんは悪いやつじゃないって何度も説明したじゃん」
「季衣は騙されてるのっ!」
ああ、なんとなく見えてきた。
「典韋ちゃ」
キッと睨まれたので言い直す。
「典韋は親友が悪い男に騙されて結婚したんじゃないかって心配してるんだね?」
「無理矢理に季衣を襲ったような人は悪い男に決まってます!」
うわっ、俺でもわかる程の殺気。
「そ、それは誤解……ほら、俺に季衣ちゃんを襲えるはずないでしょ?」
季衣ちゃん強いのよく知ってるでしょ。
知らないだろうけど、俺弱いのよ。
「言葉巧みに季衣を騙したに決まっています! バカ……純真な季衣を弄ぶなんて!」
今、言い直したよね。
「ボクは騙されてないってば!」
うん。季衣ちゃん肩車しててよかった。ここで二人に喧嘩されちゃったら俺には絶対に止められない。とういうか、巻添えで死ぬ。
「典韋、俺のことって誰に聞いたのかな? 季衣ちゃんだけじゃないよね?」
「桂花さんです! 桂花さんのことも襲ったって!」
ああやっぱりね。なんてことをしてくれるんだあの猫耳軍師は!
存在していることがわかって、「おじ様」と呼んでくれるはずって会えるのを楽しみにしていた幼女にいきなり敵視されてるなんて不幸すぎる……。
「だからおっちゃんは、……おっちゃん、また泣いてるの?」
俺の頭を撫でる季衣ちゃん。
「桂花さんの言ったとおり……泣き虫強姦魔!」
「流琉! ……もう、流琉がなんて言ったっておっちゃんはボクたちのお婿さんなんだから、簡単に泣いちゃ駄目なんだからねー」
「ありがとう。季衣ちゃんが俺のお嫁さんでいてくれてよかった」
季衣ちゃんの太ももにスリスリして気を落ち着ける。季衣ちゃんは俺の涙で太ももが濡れるのも気にせずに優しく撫で続けてくれた。
この一件で俺は『曹操の婿』の他に『幼女と修羅場』や『幼女に泣かされた男』、『幼女に慰められた男』とも呼ばれるようになる。……後に呉でも知れ渡るのは星の仕業。なんだろう、真魏ルート一刀君の『魏の種馬』が羨ましすぎる気がしてならない。
「ただいま」
「おかえりなさい」
今度は言ってくれた。嬉しいな。
華琳ちゃんを抱きしめようとすると春蘭たちに邪魔される。
「やっと帰ってきたか。ずいぶん遅いではないか!」
いろいろと大変だったんだってば。
……あれ? え?
「春蘭、左目どうしたのさ!」
前回殺された時や道場ではそれどころじゃなくて気付かなかったけど春蘭は眼帯をしていた。二周目になって春蘭の眼球は元に戻っているはずだ。
「ああ、これか」
くいっと眼帯を上に持ち上げると、そこには無事な左目が。
「ほう。あえて不利な片目にしてまで洒落っ気を貫くとは。いや、なかなか
お洒落、なのか?
「特にその意匠、蝶というのが実に素晴らしい」
蝶、サイコー! ね。後に華蝶仮面になる星から見たらそうなんだろうな。
「おっと、名乗りが遅れましたな。我が名は趙雲。字は子龍。仕えるべき主を見出さんと見聞を広めている」
うん。さすが星は自己紹介のタイミングを逃さない。これぐらい自己主張しないといけないのかな?
「この曹孟徳の器を見定めにきたのね」
「それもあるが今回は皇一殿の護衛でしてな」
「ほう、この私をついで扱いと」
あれ? 星の出方が前回と違う? ああ、そうやって華琳ちゃんの気を引くつもりか。
「皇一殿には世話になりましたからな。特に夜とか」
おや?
「どう世話したか詳しく聞かせてもらいたいわね」
「ふふ。それは野暮というもの」
なんでそういう方向に話がいくワケ? なんか本妻に浮気相手が挑戦状を叩きつけたみたいに見えなくもないじゃん。
「皇一」
うわ、なんか冷たい声。
「ずいぶんと気に入られてるようね?」
「な、なんでだろうね? あ、ほら何度か星の酒代とか立替えたし!」
「それは身体で返したはず」
ぶっ。いや、星の夜這い以降も何度かそんな理由でヤっちゃったけどね。後ろとス●タが同時にできるか試したくなって……うん。大きな収穫だった。
「ああも賊に襲われたら護衛料に色をつけてもらうのも当然でしょうな」
「む? 身体でというのは護衛のことか。紛らわしい言い方をしおって!」
あっさり騙される春蘭。そのおかげか、華琳ちゃんの態度が和らいだ。
「賊ねえ。まだこの近辺にいるとは許しがたい。黄巾党の残存かしら」
「おそらく」
「ふむ。いいわ趙雲、客将としてしばらく働きなさい。賊の討伐に使ってあげる」
「はっ」
今度は軽口を言わずに頭を下げる星。
「そうと決まったらさっそく行くぞ」
え? 春蘭もう討伐に行くつもりなの?
「夏侯惇、字は元譲。真名は春蘭だ」
「私に真名を?」
「なかなかの腕と見た。貴様にならいいだろう」
「ならば我が真名は星。よろしく頼む」
春蘭があっさりと真名交換。
「うむ。その腕がどれほどのものか試してやろう。練兵場へ行くぞ!」
いや春蘭、なんか言ってること変じゃない? 腕を認めて真名を教えておいて試すって。……ああ、前回俺を殺そうとした時に剣を受け止められたの気にしてるのね。
他のみんなの紹介もまだなのに春蘭ってば星連れて練兵場へ行っちゃった。
「よほど趙雲が気に入ったのね」
「ええ。眼帯を褒めてもらったのが嬉しかったのでしょう。単純な姉者らしい」
そんな理由もあったのか。
「あの眼帯ってさ」
「ああ。両目だと逆に慣れん、とな。どうせいずれは片目になるのだ、と姉者なりに前もって準備している節もある」
「今度こそ眼を守ろうとかないの?」
自分の左目を指差しながら聞く。
「それなら姉者は勝利を選ぶさ。華琳さまに捧げるために」
むう。
「……李典ってもういるんだよね?」
「ええ。彼女の才は貴重よ」
よし。真桜エモンもいる!
「うん。だからさ、李典に頑丈な眼帯とか作ってもらえないかな? 金属板入りのとか」
「なるほど。それならば姉者も……華琳さま」
「ええ。早速仕立てさせなさい」
秋蘭が足早に出て行った。李典の所へ行ったのだろう。
「さて、皇一」
「うん」
「あなたの目から見て私はどう変わった?」
相変わらず最高の美少女だけど。……聞きたいのはそうじゃない。真・華琳ちゃんになってどう変わったか、だろうな。
「見た目の変化はよくわからない。中身の方はやっと再会できたばかりでまだわからないとしか言いようがない」
「それもそうね」
「むしろ、変わったのはこの世界。これからは以前とは違う世界になっているって思ってほしい」
モブ兵ですらあんなに変わってるんだし。
「ほう。その変わった世界で皇一はこれからどうするつもり?」
「予定通り、人材を探そうと思う。水鏡塾ってどこにあるか知っている?」
「荊州よ」
「詳しい場所を教えてくれ。まずはそこに向かう」
「え? おっちゃんもう出かけちゃうの? やっと会えたのに!」
「ゴメン。早くしないと鳳雛が北郷軍に行っちゃうかもしれないからね」
それに二周目の俺、なんか迂闊すぎるから。みんなといるとすぐにボーナスばれちゃいそうで怖い。
「鳳雛?」
「伏竜と並び称される天才。まだ一刀君のとこにいなかったから誘おうかなって」
「軍師は私一人で十分よ!」
桂花が叫ぶ。
「俺が典韋に恨まれる原因の人の一人しか軍師がいないんじゃこれから先は大変だよ」
嫌味の一つくらいいいよね。まさかのツン典韋誕生させたんだから。
「ふむ」
「華琳さまぁ」
泣きそうな桂花は置いといて話を続ける。
「それに一刻も早く華佗を見つけて、夫の務めを果たしたい」
こっちの方が一番重要。早く華琳ちゃんたちとヤりたい!
「そうね。あなたの治療は最優先事項……。桂花、馬と路銀を用意なさい。護衛には典韋をつけましょう」
「え?」
「流琉の誤解を解かないといけないでしょう」
そりゃそうだけど、いきなり典韋と二人旅?
「いいの、典韋?」
「嫌ですけど、命令ですから」
「流琉っ! ……ボクたちのおっちゃんのこと、頼んだからね!!」
まあ結局、他の情報交換とか準備とかで出立は翌朝になったけど。
夕食は宴会っぽかった。星の歓迎会なのかな?
初めて典韋の料理を食べたけどとても美味い。華琳ちゃんもその腕を披露してくれて相変わらず絶品だったし。
「もう旅立たれるとか」
大皿山盛りのメンマと酒を堪能中の星が声をかけてくる。
「うん」
「久しぶりなのだから夫婦の営みをしなくてどうする?」
「なに言ってるのさ。俺の身体のこと知ってるだろ。それを治すために華佗って医者を探してるって前に説明したよね」
「気にしすぎでは?」
「華琳ちゃんにこんな気持ち悪いの見せたくない……」
切られるのももちろん嫌だけど、気味が悪いって嫌われたくない。
「ふむ。ならば私も華佗を見つけたら皇一殿の元へ赴くように促そう」
「あ、もし呉で華佗が見つかったら真っ先に周瑜を診てもらって」
「周瑜?」
「うん」
一周目の結婚式で孫権の花嫁衣裳を見て泣いていていたのが忘れられない。彼女にも生きていてほしい。けれど、真だと身体やばそうだもんなあ。一刀君は呉ルートじゃないけど、孫策はもう死んでてそのままらしいし。
どうやら孫策もいなければ袁術ちゃんもいないらしい。世界が変わっても死んだ人間が生き返ったり、大きな勢力がいきなり出てきたりはしないのかな?
驚いたのはその後。
「はーーいっ! みんな、元気してるーっ!?」
え? ええっ!?
宴会の場に現れたのは張三姉妹。歌い始める彼女たち。
ディナーショー?
その美しい歌声を聞きながら驚き続ける俺。
「数え役萬☆
「しすたーず?」
聞きなれない言葉に反応する華琳ちゃん。
「天の言葉で姉妹って意味なんだけど……」
「そう。今度からそう名乗らせるのもいいわね。彼女たちは元黄巾党よ」
やっぱり。あれ? でも黄巾党だったって隠してないってことは首領扱いされてなかったのかな。
「予想以上に順調かもしれない」
「皇一の身体以外はね」
うっ。それを言われると辛い。
「必ず! 絶対に治すから! 待ってて!!」
思わず力んで大声を出してしまう。酔ってるのかな。
シスターズの歌も止んで、何ごとかと注目されてしまった。うひー、恥ずかしー。
その注目の中、華琳ちゃんは俺の唇を奪う。
「待たせた分は期待するわよ」
「十倍返し。治ったら、十倍返しだから」
やばい。やっぱり酔ってるみたいだ。シチュエーションに流されて思わず死亡フラグを立ててしまった。迂闊すぎる!
「ふふっ。言うようになったじゃない」
まあ華琳ちゃんの機嫌がいいからよしとするか。どうせフラグ関係なく俺死にやすいしね。
「でも、そういうことを言う時は眼鏡を外しなさい」
もう慣れた手つきで俺の眼鏡を奪う華琳ちゃん。そして納得するまで俺の前髪をいじる。
「これで良し。はい、やり直して」
もうヤケだ。やってやろうじゃない! ……相当酔ってるな俺。
珍しく自分から華琳ちゃんの唇を奪う。キスはいまだに緊張しちゃって上手くできないことが多いんだけど、今回は上手くできたね。
「十倍返しだ。治ったら、十倍返しだ。覚えておけよ」
もうほとんどアレのまんまの台詞。この死亡フラグへし折るには字をオズマにするしかないな、うん。緑髪の義妹を探さないと。
「ん?」
そういえばみんなに注目されてたんだっけ。
酔いが回ったのか頬を染めてぼーっとしている華琳ちゃんから慌てて眼鏡を回収。
「でゅわっ!」
恥ずかしさを誤魔化すためにそう言いながら装着したのだった。
そうしてほとんど休む間もなく翌日旅立ち、荊州へ向かっている俺と典韋。
陳留を出て何日もたつけど未だに典韋はよそよそしい。このまま嫌われっぱなしなのかなあ。
「ばうばうばうっ!」
突然の鳴き声に俺は緊張する。
野犬?
典韋がいるから大丈夫だろうけど、群れだったら面倒だな。
「でかっ!」
犬は一頭だけみたいだった。トップクラスの大型犬だ。
「セントバーナード?」
「下がってください!」
馬から下りて巨大ヨーヨーを構える典韋。
「ん? あれ?」
なんか襲ってくる感じじゃない?
「典韋、この犬……」
「えっ、これ犬なんですか? こんなに大きい犬……味はどうなんでしょう?」
「そういや犬って食べるんだっけ。……じゃなくて、なんか変」
「え?」
「ばうばうばうっ!」
もう一度吠えて走り去る犬。かと思ったら、しばらく離れてからこちらを振り返り、じっとしている。
「ついてこいってこと?」
「そうでしょうか?」
一瞬、俺の方を向いてからすぐに視線をそらす典韋。ううっ、泣きたい。でも我慢。また泣き虫強姦魔って嫌われるの嫌だし。
「行ってみよう」
追ってみると、ゆっくりとまた歩き出す犬。追いついても逃げ出そうともせず歩き続ける。
「あれ!」
進行方向になにかを典韋が見つけた。
その指差した先には。
「嘘だろ……」
緑髪の幼女が倒れていたのだった。