恋姫†有双   作:生甘蕉

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十五話   義妹?

 荊州の水鏡塾へ向かっていた俺と典韋は謎の大型犬に導かれ、倒れている少女を発見した。

 

 どうやら少女は空腹で倒れてたらしい。いわゆる行き倒れだろう。

 この世界にきてすぐ何度も行き倒れて死んだ俺としては見過ごせない。

 ……幼女じゃなかったらほっておいたかもしれないけど。

 典韋に頼んで空っぽの胃にも優しいスープを作ってもらう。手際よくあっという間に手持ちの食料で用意してくれる典韋。

 その絶品スープを受け取るや否や、瞬く間に流し込んでいく少女。

 

「名前は?」

 知っているけど聞いておかないと呼べない。

 

「……」

 無言でこちらを見ている。用心しているのかな? ……もしかしてこれ?

 俺は手に持った自分の分の椀を差し出しながらもう一度聞く。

「はい。俺は天井皇一。君は?」

 少し迷った後に椀を受け取る少女。

「……姓は陳、名は宮。字は公台!」

 そう名乗ってからまたスープを口にする。人心地ついたのか今度はゆっくりと味わっているようだ。

 

「一人?」

「張々がいるのです」

 ああ、そんな名前だったっけ、あのセントバーナード。

「家族は?」

「張々がいるのですぞ!」

 なんか泣きそうかも?

「帰るとこは……そうか」

 俯いて無言の陳宮ちゃん。

 

 うーん、なんで陳宮ちゃんがこんな境遇に? ……アニメ版混じっちゃってるのかな?

 華琳ちゃんが真なのに、干吉がいるからとかなせい?

 あ、でも一刀君が存在するからアニメ版ってことはありえないか。

 ただ単純にスタート時が真の世界じゃなかったから、呂布たちに会ってなくて仕官できなかっただけかな。うん。

 

 

「仕方ないな。これもなにかの縁だ。拾った以上、俺が面倒みよう」

 せっかく陳宮ちゃんに会えたんだしね。

「なに言ってやがるです! ねねは犬猫ではないのですぞ!」

「犬猫のつもりはないって。うん。君は今から俺の義妹だ。俺のことはお兄ちゃんと呼びなさい」

「なに言ってやがるですか、この男は!?」

 いきなりおっさんをお兄ちゃんと呼べってのも無理があるか。

 じゃあ、俺が緑髪の義妹を欲っしてる理由を説明しないとね。

 

「天のフラグクラッシャーにね」

「ふらぐくらっしゃあ?」

「ああ、えっと……旗折りでいいのか?」

「機織り?」

 なんか勘違いしてそうだけど、まあいいか。

「うん。その中でもすごいやつがいてね。刺客に襲われて大怪我してるのに、武器も効かない化け物と戦って勝ったっていう」

 他にも死亡フラグ立てまくっていたよね、あの人。

「で、その上死ななかったんだ」

「すごいですね」

 ずっと無言で聞いていた典韋も感心してくれる。

 

「そいつがある街の護衛した時に失敗しちゃって、たった一人だけ生き残った女の子がいたんだけど。ひきとって義妹にしたんだ。その緑色の髪の少女を」

 ギャルゲだったら主人公ポジションだよね。義妹ももちろん攻略可能でさ。

「だから俺もそれにあやかって緑色の髪の子を義妹にしたら死ににくくなるんじゃないかって」

「無理矢理すぎますぞ! なんでねねがそんな理由でお前みたいな胡散臭いやつの義妹にならなければいけないのです!」

 

「胡散臭い? 確かにそうだろうけど。俺を信じろ、ってのも無理か。……君の犬が助けを求めた俺を信じろ」

「え?」

「その犬、人を見る目があるよ。助けを求めたのが俺たちじゃなかったらどうなってると思う?」

「むむむ。……張々を信じるのです。しばらくの間だけ、ねねの面倒を見せさせてあげるのです」

 おお、上手くいった!

 

 

 

「寝ちゃったか」

 大きな犬と寄り添うように眠る陳宮ちゃん。

「あの」

 典韋から話しかけてくるなんて珍しいな。

 ……やばい。今の陳宮ちゃんとのやり取りで、季衣ちゃんを言葉巧みに騙したって確信されたのかも。緑髪義妹(フラグクラッシャー)は効果無し?

 

「ごめんなさい!」

 え? あれ? 責められるんじゃないの?

「天井さんのことやっぱり誤解してました」

「あ、ありがとう。わかってもらえて嬉しいよ。でもどうしてそう思ったの?」

 

「陳宮ちゃんのこと、あんなでまかせを言ってまでひきとろうなんて……」

「いや、あれってでまかせじゃないんだけどなぁ」

「え?」

「俺も死にたくないし」

 いくらロードできるといっても死ぬの辛いし、生きてた方が先に進みやすい。

「じゃ、じゃあ……これからは兄様って呼びますね!」

「え? たしかに典韋ちゃんの髪も緑だけど、季衣ちゃんみたいにおっさんでいいんだよ」

 むしろ「おじ様」がベストなんだが。

「いえ、華琳さまや秋蘭さまたちのお婿さんですし、そんな呼び方はできません」

「そう……」

 嬉しいんだけどすごく残念だ。「おじ様」って呼んでくれたら、空を飛ぶことだって黄河の水を飲み干すことだって出来るのに。……いや無理だけど。

 

「わたしのことも真名で呼んでください。流琉です」

「ありがとう流琉ちゃん」 

「ねねは、ねねねなのです!」

 寝てたはずの陳宮が起き上がり、名乗りを上げる。

「え?」

「寝たふりをしてお前らが悪いやつじゃないか試したのですぞ!」

 ふふん、とかなり得意気なねねちゃん。

 けど、それならもう少し様子を見てから判断した方がいいんじゃない?

「少しは信用しても良さそうだから、ねねも真名を預けるです!」

「そうか。残念ながら異国生まれの俺には字だけじゃなくて、真名もないんだ。だからさっきも言ったようにお兄ちゃんと呼んでくれ」

「まだ言いやがりますか!」

「順番が逆になっちゃったけど、わたしは典韋。これからよろしくね」

「よろしくしてやるです」

 うん。可愛い緑髪幼女二人を義妹にできた。

 白装束を避けるため、洛陽に寄るのを避けたのにここでねねちゃん加入なんて有難すぎる!

 きっと華佗もすぐに見つかるに違いない!

 

 

 

 

 

 

 水鏡塾に着くも、華佗はいまだに見つからず。

 いったいどこにいるんだろう?

 義妹二人にボーナスがばれて気味悪がられないかと不安で仕方ないんですが。

 真の世界になっているから華佗もいるはずなのになあ。

 街についたら華佗の情報を集めてから次の街ってな旅なので、思ったよりも時間がかかってしまった。

 

 

 水鏡塾を前にして考える。

 いきなり水鏡塾にお邪魔してスカウトって無理があるか。

 菓子折りでも用意した方がいいのかな?

 それとも支度金?

 華琳ちゃんか桂花にそういう慣習とかを聞いておけばよかったか。

 路上でそんなことを悩んでいたら、鳳統ちゃんと遭遇してしまった。

 

「え? 鳳統ちゃん?」

「この人が?」

「これは幸先がいいのです!」

 見れば、悩んでいた俺以上に戸惑っている鳳統ちゃん。

 

「あわわ……」

「あ!」

 そうか。たしか男性が苦手だったんだっけ。急に知らないおっさんに声かけられたら怖いよね?

「……ゴメン、怖がらせちゃったみたいだね。流琉、ねね、行こう」

 二人を引っ張って、宿へと向かった。

 ちなみに二人のことは妹なんだからちゃん付けはしないでいいと、呼び捨てを命じられている。ちゃん付けで呼ぶ方が小さい子って感じがしていいのに。

 

 

「どうしたんです兄様?」

「敵前逃亡ですぞ!」

 いや敵じゃないでしょ。

「えっと、俺がいきなりいっても人攫いと勘違いされるんじゃないかなって思って」

「ああ、それはありそうなのです」

 納得されるとヘコむなぁ。

「だ、だから明日、流琉とねねの二人で鳳統ちゃんを説得して」

「わたしがですかぁ?」

「うん。二人なら歳も近そうだし、きっと鳳統ちゃんもそんなに緊張しないはず。たしか鳳統ちゃんはお菓子作りもやってたから流琉と話も合うかもしれない」

「料理人じゃなくて軍師を迎えたいのではないのですか!」

 そうなんだけどね。

 

「まずは仲良くなってそれから誘った方がいいと思う。華琳ちゃんって結構誤解されてるからね」

「面倒なのですぞ」

 こんな事言うなんてねねはまだ軍師じゃないのかな? 後でしっかり勉強してもらおう。

「ごめんね。茶屋かなんかに誘ってゆっくり話をして。流琉が華琳ちゃんをどう思ってるのか、素直な気持ちで説明してあげて」

「曹操をべた褒めすればいいのです」

「それは駄目だ。嘘は見抜かれると思ってね。それぐらいの子だからこそ味方にほしいんだよ」

 うん。流琉ならうまく勧誘してくれるはず。

 

 

 

 翌日、落ち込んだ顔で二人は帰ってきた。俺の方も華佗の情報が集まらず、同じように落ち込んだ顔をしているに違いない。

「駄目だったか……」

「はい。でもなにか迷っているような感じでした」

 なら脈はあるのかな?

「ですから、明日は兄様もいっしょに説得して下さい!」

「いや、俺がいっしょだと余計に無理っぽくない?」

「たしかに鳳統は男性は緊張してしまうって言ってたです」

 もうそこまで話す仲なの? なら俺が行かない方が上手くいくでしょ。

 

「でも、昨日兄様を傷つけてしまったんじゃないかって気にしてました」

「え? ……もしかして俺が人攫いと勘違いされるの気にしたとか、言っちゃった?」

「はい。鳳統さん兄様に謝りたいって」

 ううっ、男が苦手なのに、なんて優しい子だ。

「まかせて下さい。わたしにいい考えがあるんです!」

 

 

 

 さらに翌日。

 これで一応、三顧の礼? これで駄目だったら諦めた方がいいのかな?

「なあ流琉、やっぱりさ」

「駄目です」

 俺の言葉を最後まで聞いてくれずに拒否された。

「季衣から聞いてるんです。兄様は眼鏡を外すともの凄く格好いいって」

 流琉のいい考えというのは、俺に眼鏡を外して鳳統ちゃんに会えというもの。

「気のせいじゃない?」

「ねねもそう思うのです!」

「いえ、わたしも見てます。兄様と初めて会った日の晩に」

 あの宴会の時か!

 

 

 宿で厨房を借りて流琉が作った菓子を手土産に水鏡塾を訪ねた俺たち。

「うわ、なんかみんな見てるって。外で話した方がよかったんじゃない?」

 塾生たちなのか、少女たちが遠巻きに俺を見てひそひそ話している。

「兄様が格好いいから気になってるんですよ」

「そうなのです! これからはたぶんお兄ちゃんと呼んでやるのですぞ!」

 なんか嬉しそうな二人。

 

「典韋さん!」

 案内された部屋で鳳統ちゃんと対面する。

「今日は曹操さまがどれほどあなたを買ってるかの証明を連れてきました。曹操さまのお婿さんです」

「なにその紹介!? え、ええと、俺は天井皇一。字はない。君を迎えるためにきました」

「あ、あわわわわ……わ、私を迎えに?」

 鳳統ちゃんの顔が紅潮している。そんなに緊張しなくてもいいのに。いや、異性を前に緊張するってのはすごくよくわかるけどね。

「いっ!」

 急に隣の流琉に抓られた。痛いってば。

「曹操様の軍師として迎えに、です!」

 ああ、言葉が足りなかったのか。

 

「曹操ちゃんに君の力を貸してほしい。お願いします!」

 頭を下げる俺。

「あわわ……ど、どうしてしょんなにまで私を?」

「天の御遣いって知ってるかな?」

「!」

 そりゃ知ってるよね。

 

「そ、その方は知っています。管輅さんの占いに出てきた乱世を鎮める方だと」

「うん。俺はその人と同郷でね。ちょっとは天の知識を持ってるんだ。だから鳳統ちゃんがスゴイってこともよく知っている」

「天の?」

 そりゃ胡散臭いよね。そんなこと言われてもさ。

「そう。鳳雛ちゃんが、伏竜朱里ちゃんと並ぶ天才だってね」

 朱里ちゃんの真名を呼んだのは今回ばかりは迂闊ではない。真名を預かるほどの仲なんだよって、アピール。

 

「朱里ちゃんを知ってるんですか?」

「うん。天の御遣い君のとこで会ったんだ。ちょっとの間だけだったけどね」

 朱里ちゃんがきてくれたおかげで、俺が一刀君のとこから逃げ出せたんだよね。

 今頃どうしてるかな?

 

「これからさ、この大陸は揺れるよ。予想できてるよね」

 無言で頷く鳳統ちゃん。

「だから君が必要なんだ」

 勢いで言っちゃったよ。なにが、だからなんだろう?

「あわわっ……」

 また真っ赤になっちゃってるけど、いろいろ考えているんだろうな。

 頼むから俺の言ったことの深い意味とか思いついてくれないかな。すんごい壮大な理由でこっちについた方がいいっての。

 

「お願いします!」

「お願いするのです!」

 今度は流琉とねねが深く頭を下げる。

 ずるいよね。自分と同じくらいの、しかも仲良くなった子たちにこんなことされたら断りにくいよね。

 鳳統ちゃんはそんなの見抜いてるだろうけどさ。

 頭では見抜いていても、感情の方で見捨てにくいんじゃないかな。

 

 

「わ、わかりました」

 えっ!? なんか上手くいったのかな?

「じゃあ」

「んと、姓は鳳で名は統で字は士元で真名は雛里って言います! あの、宜しくお願いします!」

「俺は真名はないんだ。皇一って呼んでね、雛里ちゃん」

 雛里ちゃんと握手する俺。その上に流琉が手を重ねてくる。

「私は流琉です」

「ねねはねねねなのです」

 結局、ねねまでもが手を重ねて真名交換が終わった。

 

 

「あ、あの、こないだの男の人に謝っておいて下さい。私、酷い事をしてしまいました」

 手を離すと雛里ちゃんがそう言ってきた。流琉の言うように気にしていたみたい。

「ありがとう。雛里ちゃんは優しいんだね。大丈夫、気にしてないから」

「でも……」

「本人が言うんだからそんなに気にしないで」

 うん。緊張しちゃうのは人事じゃないから。

 

「え?」

「でゅわっ!」

「あ、あわわ……」

 眼鏡を装着した俺に吃驚してる雛里ちゃん。

「これからよろしくね」

「あわわわわわわ……」

 

 




 ここまでオズマネタ引っ張るつもりはなかったんですが、FB7観てきたらオズマ主役だったんで、つい思わず。

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