くっちゃくっちゃ、ぺっ。
噛んでいたガムを屑カゴへ吐き捨てる。
包み紙は使わない。綺麗に伸ばして後で売る。
意外と高く売れる。隠れ家用意する資金になるぐらいに。
そして寝台に横たわる曹操ちゃんを脱がし始める。
曹操ちゃんの処女と引換えに魔法使いからクラスチェンジ!
……じゃなかった、術を解く作業にチャレンジするために。
全裸にされても目を覚まさない曹操ちゃん。
知ってる限りの知識を導入して下準備。
処女もらう。
すごく気持ち良かった~。
曹操ちゃん目覚める。
首折られる。
死ぬ。
すごく辛かった~。
目の前には寝台に横たわる曹操ちゃん。
ガムを噛みながら考える。
やはり魔法使いから初心者にクラスチェンジしたばかりの身では術は解けないのか、と。
「絶頂させなきゃ駄目なのか?」
目の前が真っ暗になった気分だ。
「……処女を絶頂させるなんて、ち●こ君でもなきゃ無理だろ」
ぺっ、とくずかごにガミングアウトして前回以上に入念に下準備。
処女もらう。
やっぱりすごく気持ち良かった~。
曹操ちゃん目覚める。
殺される。
やっぱりすごく辛かった~。
目の前には寝台に横たわる曹操ちゃん(処女)。
ガムを噛みながら考える。
曹操ちゃんに殺された俺がこうして巻き戻った状況でくっちゃくっちゃガミングできるのは、俺の
その名もセーブ&ロード!
やっぱちょっと待って。
格好悪いよなぁ……とりあえず
昔あったゲームブックみたいだから(仮)ってことで。
この能力のおかげでここまで進んでこれたけど、長く苦しく厳しい道のりだった。
だっていくらセーブ&ロードできたってスペランカーがスーパーマリオの世界をクリアできると思う?
そして、痒い所に手が届かない能力でもある。
王様や坊さんに頼まなくても好きな場所、好きな時にセーブできるのはありがたい。
ステートセーブ、どこでもセーブってやつだ。
だが、ロードは好きに選べない。
つづきからを選べるのは死んだ時だけ。それも死んだ後に自動発動。
便利っちゃあ便利だが、俺的には死にそうな時にロードできる方が良かった。
痛いの回避できるし、辛くないし。
けれども発動するのは死んだ時。
死ぬほど痛いぞ。
いやマジで。
もう辛いし飽きたから諦めるという選択肢が選べない。
ロードできるタイミングが選べればロードしないでそのまま死んでゲームオーバーだろうにそれがない。
死んだら選択肢を選ばされる。
つづきから
はじめから
この二つの選択肢。『おわる』はないらしい。
つづきからを選ぶとどのセーブを使うかの選択肢。
選べるのは三つのセーブデータ。
そう!
セーブスロットが三つしかない。
不便である!!
一つで充分?
詰んだセーブデータんなったら最初からやり直しだよ。
現在のセーブはこんな感じ。
セーブ1 毎朝のセーブ用
セーブ2 曹操ちゃん救出後の隠れ家
セーブ3 最初からの後のはじめての人里
ほら、全然足りてないでしょ。
このまま曹操ちゃんの術が解けなくて俺の死亡が避けられない場合、セーブ2は詰みだろうなあ……。
俺は気付いたらこの恋姫†無双の世界にいた。
現状を説明してくれる神様になんて会わなかったから、恋姫†無双の世界だと
全部野垂れ死に。
なにしろスタート地点が悪すぎる。
人里離れた荒野のど真ん中。
とりあえず動き回って空腹と疲れで体力なくなって倒れて意識がなくなって死亡。
気付くとまたなんにもないスタート地点からやり直し。
そんなことになってるとも知らず再びさ迷う。
死ぬ。
面倒くさくなってスタート地点から動かずに寝続ける。
死ぬ。
死んだ後の選択肢で気付くだろって?
やる気なくてぼーっとしてたら時間切れで自動的に『さいしょから』を選んだことになってたらしい。
おかしいと気付いたのは荷物を確認した時だった。
何度目かのはじめからの時、ガムの本数がおかしいことに気付いた。
愛用のデイバックにいつも何本かのガムを補充しているのだが、それが減ってない。
空腹を誤魔化すためにいつも以上に大量消費して噛み尽くしたはずなのに。
なぜ?
――まあ再スタートなんで、装備もスタート時の状態になってるからなんだけど。
そんなことに気付かない俺は、腕時計で日付を確認する。
おかしい。
「まだ一日目だ」
ちなみに一日目とは、この世界に来てからの日数ではない。
コミケの方である。
俺はコミケに向かったはずが、気付くとこの世界にいた。
電池が切れたはずの携帯も確認。電池は切れてなどおらず、日付も同じ。
おかしい。
本命の三日目も過ぎてしまってるはずだ。
以来、悲しくなりすぎるので日付を確認しなくなったんだ。
「え? え?」
とりあえずガムを噛みながら考える。
俺はおかしくなったんだ。とか、死に掛けた俺が見ている夢とか幻。
みたいなことしか浮かばなかったが。
結局この時も死んだ。
しかしその後、異変があった!
意識が戻った場所は荒野ではなかった。
そこは一言で言えば『道場』だった。
そして何日ぶりだろうかの自分以外の人間がそこにいた。
「いい加減先に進みなさい!」
褐色巨乳の美女に会っていきなりそう怒鳴られた。
「あ、あの」
言いかけた俺の視界に選択肢が現れる。
その時は『はじめから』しか表示されなかったので選択ではなく一択だった。
「なにこれ?」
空中に浮かんだその文に、思わず出した指先が触れる。
奇妙なクリック感。
自分が選択したということがなんとなくわかった。
そして再び荒野。
「どうなってんの? てかさっきのってどっかで見た!」
思い出すように指先を見つめ、振ってみたら選択肢が出てきた。
なんばんにきろくしますか?
1
2
3
「ファミコンか!」
空中に浮かぶ平仮名だけの文を見て思わずツッコんだ。
その後、人里に辿り着くまでに
……つまりはまた死んだ。
死ぬと道場に行くことになるらしい。
「もう死んだの」
ため息とともに褐色美女が迎えてくれる。
「ここは?」
聞いてから、先に名前を聞いた方が、いやまず自分が名乗るのが先か、などと悩む。
「小覇王道場。死亡終了時の救済所」
「タイガー道場のパクリ?」
「いいのよ、私が継承する前は江東の虎道場だったんだから!」
「はあ」
よくわからん理屈で言いわけされ、その意味を考えてると目の前の褐色美女のことを思い出した。
「そのチャイナっぽい服、もしかして?」
「あら、知ってるの?」
「恋姫で呉の死ぬ人!」
「なに、その覚え方」
彼女は笑顔だったけど剣の柄に手を持ってかれました。とても怖いです。
「だって、死んじゃう娘狙ってるとショックでかいんだよ! 避けなきゃ大ダメージなんだよ!」
ギャルゲープレイ時の注意点を叫ぶ。
感情移入しまくる俺としては死んじゃう娘、寝取られる娘は攻略対象外なのだ!
「な、泣くほどのこと?」
ひかれた。
距離をとられた。
「えと、しぇ……孫策さん?」
真名を言いかけたら、また剣に手がのびたので咄嗟に言いなおした。
「ええ。孫策よ。ああ、名乗る必要はないわ。あなたの事はわかってるから」
「わかってる?」
「ええ。だって道場主は弟子のことを知ってるものよ」
「え!」
弟子と言われて即座に自分の格好を確認。
よかった、ブルマじゃなかった。
「っと、そろそろ時間のようね、ちゃんと記録しておくのよ」
時間切れでまた俺は『はじめから』スタートした。
後で知った……その後死んだ時に教えてもらったのだが、冒険の書に記録しておけば時間切れでも自動選択はないそうだ。
孫策に言いたかった。
「救済所ならまず、人里の方向を教えてくれよ!」
結局、また死んだ時にそう言ったら教えてくれた。
で、なんとか小さな街に辿り着いた俺。
その前に賊に襲われてまた死んだりもしたけど……。
人里近くなると賊もいるのね。さすが恋姫世界。
村についてまず真っ先にセーブしたね。それが今でも上書きしてないセーブ3てワケ。
その後は栄養補給と情報収集。
街中の機嫌が良かったので、ちょっとだけどただでメシを貰えた。
俺がよっぽどやつれているせいもあったが、一番の理由は『天の御遣い様』のおかげらしい。
うん。ちょっとは期待してたよ。でも自分がそれじゃないとわかって正直ホッとしたり。
天の御遣い様の一行が、近くを荒らしまわっていた賊を退治したとのこと。それでお祭り騒ぎらしい。
で、俺は悩む。
天の御遣い様に合流するか、とかね。
他のメンバーの様子を聞くに蜀ルートっぽい。
苦労しそうだよなあ。
それにロリなら魏の方がいい!
BBAもいないし!
あまり悩まずに行き先を決断する。
この時は無印恋姫の世界だって気付いてなかった。
ちょうど陳留へ向かう商隊がいたので同行させてもらう。
ああ、代金は蜀ルートの北郷一刀の真似して、ボールペンを売って金を手に入れていた。
よく持っていたなって?
もちろん持っていたよ。コミケカタログチェック用の赤いボールペンを。
それから色々がんばってどうにか魏軍の兵士になった。
無印だから俺みたいな細身のやつでもなんとかなれた。真だったら無理だろうな。
うん。曹操ちゃんの姿を見て無印だって気付いたよ。
で、兵士になれたとこでセーブ2を使用。
セーブ3はあれ以来、上書きしていない。またあの苦労はしたくないのである。
なんとか馬にも乗れるようになった。
ロードした時、筋力などの能力値はセーブした時のままだが、記憶やスキルは死亡時のものが引き継がれていた。
これに気付いた時はやっと光明が見えた気分だった。
兵士である以上、さらに俺が弱い以上、戦場ではすぐ死ぬ。
普段はセーブ1からロードして死亡を回避。
配置された部隊の全滅が避けられないなどの時はセーブ2からロード。
最初は給金のほとんどは同僚に食事を奢るのに使った。
馬の乗り方特訓してもらったり、読み書き教えてもらったり。そのお礼。
人付き合いがちょっと苦手な俺はそういうので釣るしかなかった。
そのうち、本を読めるようになると金の使い道は本に変わった。
高いけど生きてる内に急いで覚えて、死んだら別の本を購入の繰り返し。
アイテムや所持金も引継ぎできないので必死で覚えた。
そんななんで隊からは浮いていた。乗馬も字も覚えたんでもうメシ奢ってなかったし。
……本ばっかり読んでいるおっさんが、血の気の多い若い奴らの気に食わなかったんだろう。
軍隊内のイジメは洒落んならんことを思い知ったのは何度目かの出陣前。装備品隠された時は泣きそうになった。物隠すなんて小学生か!
その時、俺は天使に会った。
許緒ちゃん将軍に声をかけられたのだ!
「なに泣いてるの、おっちゃん?」
泣きそうに、ではなくマジ泣きしてたらしい。
ワケを話すと装備品を手配してくれた。
「春蘭さまにはナイショにしといてあげるね」
うん。きっと夏侯惇将軍なら「武器を忘れるとは何事か!」ってこっちの言い分も聞かずに殴られるね。下手したら殺されるね!
で、その戦闘ではなんとか死ななかったんでそれのお礼しに行ったら、溜まった書類に苦労していた許緒ちゃん将軍。
できる限りでなんとか手伝ったら、礼を言いにきたはずなのに逆に感謝されてしまった。
それ以来、書類の手伝いを度々続けていたら季衣ちゃんって真名もくれた。
イジメの方は季衣ちゃんが「おっちゃんいなくなったらボクが困るんだからね!」と止めてくれた。
季衣ちゃん将軍は軍内での人気も高い。そんな彼女に真名をもらったということで俺は一目おかれるようになった。
で、かわりに「幼女の被保護者」とか「変態野郎」とか陰口も言われてたみたいだけど本当の事なんで気にならなかった。
ロリ万歳!
ビバ幼女!!
そんな感じで、どうにかこうにか先へ進んできた。
目標は主人公である北郷一刀がゲームクリアするまで生き残ること。そうすればきっと元の世界に戻れるか、この「やり直し、再提出!」なループを終わらせられるはず。
……町人にクラスチェンジした方が楽かもしれない。俺に稼ぐ手段があればだけど。
兵士も悪くないよ、季衣ちゃんいるし。と自分にいいわけして、まったく向いていないこの仕事を続けると決める。
だが、ここは無印恋姫世界。
北郷軍が立ち塞がり、さらにこのままでは曹操ちゃんは干吉の術にかかってしまう。
魏軍兵士の死亡率が跳ね上がる。先に進めなくなる。
なんとか助けねば!
フラグ立つかも知れないし!
季衣ちゃんに曹操ちゃんのピンチとか側を離れないように教えたが、口下手な俺は上手く説明できなかった。なんで無印だと季衣ちゃんは親衛隊隊長じゃないんだよう。
けれど何度も何度もしつこくしつこくしつっこく説得したら俺の配置を城の守備隊に変えてくれた。ド忘れしてたらしい書類の束の手伝いと引き換えに。
そこからは入念に準備。
手伝い終わった書類を届けに行く時に迷ったフリして夏侯惇将軍の部屋を確認。……不審者と間違えられて夏侯惇に殺される。
記憶を頼りに変装用の白装束を手配。出来悪かったんで本番ではドキドキだったけど。
売れるもん売って得た資金で隠れ家を用意。
夏侯惇将軍の部屋に忍び込んで家捜し。なんとか曹操ちゃんそっくりの人形を発見。
曹操ちゃん人形ネタは真の方だったハズだから心配してたんだけど、あって良かった。
……うわ、すごい。こんなとこまで作ってある!
出来を確認してたらムラムラしてきた。うん、これならバレナイ。
ついてしまった汚れを拭取ったら脱がした下着を付け直して運ぶ。
衣装は都合良く今の曹操ちゃんと同じものが見つかったのでそれを着せておいた。
他の下着も貰っておこうか悩んだけど止める。曹操ちゃんが着けた可能性が低い物になど興味はないし。
曹操ちゃんの救出に成功したらセーブ2に記録。これでもう曹操軍兵士になった直後からはやり直せない。
一話冒頭へ。
……一話ってなんだ?